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千葉・JR久留里線で鉄道廃止・バス転換提案 なぜ乗客1日64人まで衰退した?
2024年12月6日 08:20
千葉県内を走るJR久留里線の一部区間について、JR東日本から「バス等を中心とした新たな交通体系へのモードチェンジ」、つまり廃止・バス転換の方針が発表された。このエリアは東京から100km圏内という立地にもかかわらず、全国有数の赤字ローカル線として、著しい不採算が続いていた。
東京から近いのに「民営化後に乗客9割減、乗客1日64人」
鉄道廃止が濃厚となった久留里駅~上総亀山駅間(9.6km)は、東京への列車が発着するJR内房線・木更津駅まで、1時間ほどで到着できる。沿線3市(木更津市・袖ヶ浦市・君津市)は合計で定住人口・昼間人口(労働者の数)ともに30万人弱を擁する工業地帯であり、木更津市内では人口が増加しているエリアもあるほどだ。
しかしJR東日本の資料によると、久留里駅~上総亀山駅間の営業係数は「13,580」(100円稼ぐのに13,580円かかる状態)。100円を稼ぐために東京~新大阪間の新幹線並みのコストがかかるという、想像もつかない不採算ぶり。このレベルの不採算路線は関東はおろか、JR東日本の管内にもない。
かつ、1両当たり110人が乗車できる車両で1日8.5往復の列車が運行(平日・通常時)しているにもかかわらず、利用者は1日64人。国鉄民営化があった1987年前と比較しても、9割以上減少している。実際に乗車してみても、朝に学生がパラパラと乗車しているのを見るくらいで、昼間は本当に人がいない。
なお久留里線のうち、廃止検討の対象外である木更津駅~久留里駅間も営業係数は「1,107」と不振にあえいでいる。なぜ、久留里線・久留里駅~上総亀山駅間はここまで不採算にあえぎ、利用者も少ないのか。まずは、鉄道として本当に使えるのか、「生活の足」としての役割を果たしているか、という、基本的な事項を考えていきたい。
久留里線が交通機関として「使えない」3つの要素
久留里駅~上総亀山駅間の乗客が少なく、不採算となった理由は様々で、一概には言えない。その中から、久留里線が交通機関として「使いづらい」「使われなくなった」「使えなくはないが……」という、3つの要因を探っていこう。
1つ目として、とにかく駅が遠く、デマンドバスより生活移動に「使いづらい」ことがある。
このエリアの平地は狭く、久留里線は山あいのわずかな土地を縫って走り抜けている。そして人家はさらに先の山奥、駅から5kmほど離れた谷筋にまで広がっている。途中駅も2カ所しかなく、ほとんどの住民にとって、鉄道利用は「駅までの移動手段」が必要となる。しかし、駅に向かうバス路線や、鉄道利用者用の駐車場があるわけでもない。
一方で、このエリアには予約制のデマンドバス「きみぴょん号」があり、わざわざ1日8.5往復の久留里線を利用せずとも、自宅からダイレクトに市民センター(市役所の支所)や、駅から離れたスーパー「吉田屋」「おどや」などに行ける。このエリアは目的地が広く点在しているため、ある程度自由にルートを描けるデマンドバスでないと、カバーできないのだ。
沿線にある亀山地区の自治会がアンケートをとったところ、500件近い回答のうち98件が「3年以内に免許を返納する」という。何らかの交通手段が必要なことは確かだが、久留里線は、あまりにも使いづらい。
「久留里駅~上総亀山駅間の利用者は1日67人」(きみぴょん号は1日30人程度が利用)という利用状況を見る限り、本当に鉄道が「地域の必需品」「生活の足」なのか、年間2.3億円の赤字を出して維持するものなのか(きみぴょん号は年間赤字3,600万円程度)、どうしても考えてしまう。
2つ目として、列車が通学に「使われなくなった」ことがある。
久留里線の始発駅である木更津市には、公立の木更津高校・木更津東高校、私立の木更津総合高校、拓殖大学紅陵高校などがあり、かつては4両編成の列車がぎゅうぎゅう詰めで生徒を運んでいたという。さらに久留里には君津青葉高校(旧・君津農林高校)もあり、久留里線はこういった通学需要に支えられてきた。
しかし現在、この通学需要がじわじわと削られている。公立高校の生徒はまだまだ久留里線を利用しているものの、私立高校の生徒は、学校が自前で運行を開始したスクールバス利用に転換している。各高校は通学費用の安さ(JRの定期を買わなくてもよい)と、駅まで行かなくても乗れるというスクールバスの利便性を、生徒勧誘・確保の武器にしているのだ。
特に木更津総合高校の「亀山・久留里線」は、久留里駅~上総亀山駅間に並行。全校生徒2,000人弱を擁する同校の数系統のスクールバスの中でも、それなりに利用されているようだ。一方で久留里線は朝晩の通学利用減少もあって、2023年3月のダイヤ改正には朝晩の4両編成を1両減車し、3両でも十分に対応できているという。
ほか、上総地区(上総亀山駅~久留里駅間の沿線。旧・上総町エリア)は地域の学校再編によって、20年には中学校が小櫃地区に、21年には小学校が久留里地区に集約された。しかし駅チカの家庭は限られており、登下校はほとんど専用スクールバスが担っている。
木更津市内への通学需要は昔ほどでなく、数キロメートルの遠距離通学が生じる「上総の小中学校の統合」というチャンスでも、久留里線を積極的に利用しようという動きはなかった。久留里線のなかでも、今回バス転換が提案された久留里駅~上総亀山駅間は「ジリジリと使われなくなった」という表現が相応しい。
3つ目として、観光には「使えなくはないが……」、他の交通手段が利用されがちということがある。
久留里線は、観光シーズンには交通手段として実力を発揮する。終点・上総亀山駅の前にある人造湖「亀山ダム」周辺は、年間40万人が訪れる観光名所として知られており、特に紅葉のシーズンには、列車も駅も人が絶えない。
ただ観光需要も、千葉市内から亀山ダムの前を抜けて館山市に抜ける高速バス「カピーナ号」に食われている。かつ、ビュースポットであるダムの築堤から上流は列車から見えず、上流にある人気観光施設「君津ふるさと物産館」などへは、カピーナ号やクルマなどで直接向かう人も多い……というより、駅周辺に観光施設がほとんどなく、鉄道だと行動範囲が限られる。
さらに、ツアーや貸切観光バスで訪れる一団もよく見かける。もともと、周辺の劣悪な道路事情もあって鉄道が重宝されていたものの、いまは国道410号のバイパス道路「久留里馬来田バイパス」が全面開通し、クルマでの到達は簡単となった。
鉄道廃止・バス転換が濃厚な久留里駅~上総亀山駅間を取り巻く状況は、生活移動に「使いづらい」、通学に「使われなくなった」、観光には「使えなくはないが……」など。他の交通手段と比べて久留里線は、乗り物として機能・利便性に欠けている。
だからこそ久留里駅~上総亀山駅は、「利用者数92%減少(1987年比)」という乗客激減に見舞われているのだ。今後も存続を願う声は上がるにせよ、重視すべきポイントは「鉄道を守れ」一辺倒ではなく「長く維持できる移動手段・交通機関を残すか」であろう。
全国で頻出する赤字ローカル線の「自前出資・頑張って存続」
それでも、観光手段や象徴として鉄道を存続させるための方法はまだある。JR只見線(福島県)のような「上下分離」(線路などの設備を保有、鉄道会社は運行だけを行なう)や、地域出資の第三セクター鉄道化などだ。負担すべき部分を自治体・地元が負担すれば、国もJR東日本も、高確率で存続の議論に応じてくれるだろう。
ただ、これまで自治体側からは「負担増でも久留里線存続」といった声は聞こえておらず、ずっと「JRは黒字を出しているから補填すべき」ばかり。状況は手遅れだ。
一方で、JR津軽線・蟹田駅~三厩駅間のように、豪雨による被害からの復旧を諦めるケースも出てきた。
6億円という復旧費用自体はJR東日本が負担を明言したものの、もとより年間赤字額が7億円も出ていたため「上下分離方式で存続」「バス+デマンド交通に転換」の2択が提案され、運休期間中はいったん「バス+デマンド交通に転換」状態となった。しかし、導入したデマンドバス「わんタク」が、そこそこ安いうえに本数は多く、かなりの地点で自由に乗降できるとあって好評。鉄道復旧を求める声が少なくなるきっかけとなっている。
久留里線・久留里駅~上総亀山駅間でも、定時運行のバスに加えて、こういった「わんタク」導⼊などの提案が、ひょっとしてJR東⽇本からあるのかもしれない(ただし現在のところ、JR東日本が転換後に経営関与するかは不明)。いずれにせよ、JR東日本が「できるだけ早い時期」としているバス転換へ向けて、どのような協議がなされるのか、注目される。