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消えたアマゾンデバイス Fire Phoneやダッシュボタンなど失敗ハードウェアの歴史
2024年11月30日 09:15
今ではすっかり当たり前すぎて話題になりませんが、本やCDを中心としたECサイトだったかつてのAmazonが、自社製のハードウェアである読書端末「Kindle」を発表した時(2007年)は、大きな話題になったものです。それから十数年、KindleやFire、EchoといったAmazon製のハードウェアは多くの人が知るところとなり、ラインナップも充実するなど、大成功と言っていい成長ぶりを見せています。
もっとも同社のハードウェアにはチャレンジングな製品も少なくなく、華々しく登場しながらあっという間に消えていった製品も多数存在します。12月6日まで開催の「Amazonブラックフライデー」にあわせて、それらの中から「そうそう、こんな製品あったね」と、当時を懐かしく感じられたり、あるいはそれとは逆に「こんな製品あったんだ」と驚かされる、5つの製品をピックアップしてみました。
Amazon失敗ハードウェアの象徴? 「Fire Phone」(2014)
Fire Phoneは、Amazon自社開発のスマートフォンです。その名前からも分かるようにFireタブレットから派生した製品で、米国を中心に2014年に発売されました。FireOSを搭載したこの製品、前面に搭載した4つのカメラで画面をタップせずに操作できたりと、エッジの立った特徴を備えていましたが、そのUIは直感的な操作には程遠く、さらにやたらとAmazonでのショッピングに誘導しようとする点も不評で、生産は早々に打ち切られ、後継モデルを出すこともなく翌年には終息してしまいました。
もともと実験的な意味合いが強い製品だったとはいえ、当時のKindleやFireの成功を考えると大失敗と言っていい惨状で、現在ではAmazonの失敗ハードウェアの筆頭に挙げられる存在となってしまっています。たったひとつの致命的な理由があるわけではなく、バッテリーの持ちやアプリの数、さらには価格戦略など、さまざまな方面からイマイチだった理由が挙げられることからも、全体的に未成熟な、完成度の低い製品だったことが伺えます。
ちなみに本製品は生産終了後、大手のECストアで投げ売りされていましたが、将来的に伝説のハードウェアとなることが明らかだったためか、市場から姿を消す直前にはそこそこのプレミア価格が付いていたのも、面白い現象だったといえます。日本では発売されないまま終わってしまった本製品ですが、一度は触れてみたかったという人も多いのではないでしょうか。
あんなにバリエーションがあったのに……「Amazonダッシュボタン」(2016)
Amazon製のハードウェアと言えば、KindleやFire、さらにはEchoがすぐに思い浮かびますが、ガジェット好きなユーザとは違った層をターゲットに発売され、一時期は抜群に認知度が高かった製品といえば、ダッシュボタンが挙げられます。
これは本体の物理ボタンを押すだけで、紐づけられた食品や飲料、洗剤などの消耗品を、PCやスマホを使うことなくダイレクトに注文できるという製品でした。製品代金に1回分のお試し注文が含まれているため、実質初期投資ゼロで導入できるメリットもあり、それならば試してみようと注文したユーザも多かったようです。当時の宣伝量はかなりのもので、筆者もそれに乗せられる形で3種類ほど購入した記憶があります。
もっとも定期おトク便など、よりリーズナブルに注文できる方法が複数登場したことや、ボタンと製品が1対1で紐づいていて別の製品に切り替えられない、複数の製品を注文できないという事情もあってか、このボタンを効果的に活用しているという人は、少なくとも筆者の周りでは見聞きすることはありませんでした。かくいう筆者も、初回以外は注文をしたことがなかったように思います。
そうこうしているうちに発売4年目にあたる2019年には、その他の販売ツールが充実してきたことを理由に、ボタンの販売だけでなくボタンを使った注文そのものの終了が発表され、ユーザの手元に残されたボタンはそのまま放置されることになりました。SDGsが叫ばれる昨今であれば、廃棄物を大量に発生させるのはけしからんと、ちょっとした問題になっているかもしれません。
バッテリー分離合体式はやりすぎ? 初代「Kindle Oasis」(2016)
比較的ハードウェアとしては無難な設計で、大ハズレといっていい製品があまりないKindleの中で、ビミョーな評価に終わった製品といえば、最上位モデル「Kindle Oasis」の、2016年に発売された初代バージョンがそれに当たるかもしれません。
Kindle Oasisはページめくりボタンを搭載したKindleシリーズの最上位モデルで、つい最近終息するまでユーザの間でも根強い人気がありました。もっとも今回紹介する初代モデルは、保護カバーと一体化した拡張バッテリーを本体から取り外せる構造になっており、その結果として単体での薄型軽量化は実現したものの、単体で使っているとバッテリーが1週間前後しか持たず、一方でカバーと合体させた状態では250gを超えるヘビー級だったりと、かなりどっちつかずな、Kindleの中ではクセのある製品でした。
また実売価格も3万円台後半と非常に高価で、なおかつ当時はタッチセンサー式のページめくりボタンを採用する「Kindle Voyage」が2万円台前半で販売されていたこともあり、1年ちょっとでバッテリー内蔵式の第2世代のモデルにバトンタッチし、姿を消しました。分離合体式のガジェットというのはその響きこそ魅力的ながら、実際に使ってみるとさまざまな課題が見えてくる、そうした点を思い知らされるモデルでした。
ちなみに筆者の手元にあった個体は、終息から数年後にバッテリーが膨張し廃棄に至りました。過去の(ほぼ)すべてのKindleを所有している筆者ですが、バッテリーの膨張が原因で手放したのは、後にも先にもこの製品のみです。
モジュール交換式も選択肢に乏しく 「Echo Flex」(2019)
先に紹介した初代Kindle Oasisとはまた違った目的で分離合体式のギミックを採用しているのが、スマートスピーカーEchoシリーズのひとつ「Echo Flex」です。これはコンセント直付けのスマートスピーカーで、本体下部のモジュールを差し替えることで、夜間に足元を照らすライトとして使えたり、さらには人の動きを検知するモーションセンサーの機能を追加できたりと、さまざまなプラスアルファの機能が使えるのが特徴でした。
もっとも同時に使えるモジュールはひとつだけで、使いたい機能が2つあれば本体を2つ用意しなくてはならなかった上、続々登場するかと思われたモジュールも初回に発表された2種類のみで終わってしまい、本製品自体もいつの間にか取り扱いが終了してしまいました。モノ自体はまったく悪くなく、実売価格も2,980円と安価だったこともあり、本気で育てる意気込みがあればもっと延命できたはずですが、前述のモジュールの問題に加え、音楽を聴く用途に使えなかったことが、致命傷だったのかもしれません。
余談ですが、日本の住宅事情を考えると、本製品を接続できる空きコンセントがあるのは、特に集合住宅ではせいぜい廊下くらいのはずで、結果的に使い道が限定されてしまったのも、非常にもったいないように思います。今であればRingのドアベルの拡張チャイム「Chime Pro」など、スマートホームに寄せたモジュールがあれば、同じニッチな用途でも、特定のユーザからは注目されていたかもしれません。
なぜそのデザイン……「Echo Wall Clock」(2020)
スマートスピーカー「Echo」シリーズは、もともと新しいカテゴリの製品ということもあり、挑戦的なコンセプトを掲げて登場し、結果的に鳴かず飛ばずに終わった製品も山のように存在します。最後にその中から、Echoバブルといっていいイケイケの時期に登場した「Echoウォールクロック」を紹介します。「えっ、そんな製品あったの」と、初めて知る人もいるのではないでしょうか。
この製品、外観は一般的な壁掛け時計そのものですが、Echoにセットしたタイマーを可視化できるという機能を売りにしていました。時計盤面の外周部にLEDが埋め込まれており、タイマーをセットするとそれが全点灯。仮に1分のタイマーをセットしたならば、タイマーが残り45秒になると目盛りの残量が4分の3に、残り30秒になると残量が2分の1になるといった具合に、タイマーの残り時間を視覚的に表示してくれるというものです。
もっとも、壁掛け時計としての本来の機能を除けば、特徴と言える機能は実質これだけ。名前に反してAlexaは内蔵されておらず、すでに設置してあるEchoの周辺機器としてのみ動作するというニッチな製品で、訴求力に欠けていたことは否めません。実売価格は5,980円と、Echo本体が1万円程度で買えることを考えるとかなり割高感があります。
そして何よりも驚かされたのはデザインで、日本国内で投入されたのは、ディズニーのキャラクターがあしらわれた1モデルのみ。海外で販売されていたモノトーン調のモデルは日本に投入されることはなく、気づいた時には販売が終了していました。最近のEchoがずいぶんと無難なラインナップなのは、本製品をはじめ2019~2020年頃に登場したチャレンジングな製品群が揃って大コケした反省があってのものと言えるかもしれません。
なお、12月6日まで大規模セール「Amazonブラックフライデー」が開催中です。KindleやEcho、Fire TV、RingなどほとんどのAmazonデバイスがセール価格になっています。価格はリーズナブルで、便利なAmazonデバイスデバイスですが、10数年の「歴史」を振り返りながら選ぶのも楽しいかもしれません(編集部)。