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イオンと京成、提携の狙いは何か? ヨーカドー津田沼跡だけではない勝算
2024年11月8日 08:20
流通・小売最大手の「イオン」と、私鉄大手「京成電鉄」(以下、京成)が、資本業務提携を行なうことで合意した。
イオンは総合スーパー・商業施設開発など8つの事業を展開し、京成は鉄道・バスなどの運輸事業をメインに、不動産事業など約90社をグループ内に抱える。両社は営業エリアである千葉県、東京都などで不動産情報を共有し、系列スーパーの出店や商業ビルの再開発などで協力体制をとるとしている。
また両社が相互に出資することで、資本面でも関係を持つことになる。今後は京成がイオンの株式を0.46%(150億円分)保有し、イオンは京成の株式の2.33%程度(150億円分)を市場買付などで取得するという。
小売業がメインのイオン、鉄道を祖業とする京成。一見するとまったくの異業種同士にも見えるが、実は、双方にそれなりのメリットがある“win-win”提携のようだ。なぜ両社は提携に至ったのか? 両社のいまの経営環境を分析してみよう。
提携のきっかけは津田沼「ヨーカドー後継テナント問題」か?
イオンのニュースリリースによると、提携による取り組みとして「新津田沼駅周辺の再整備による新たなランドマーク化」を計画しているという。9月に「イトーヨーカドー津田沼店」が撤退、空テナントとなっていたビルにイオンが入居し、ライブ会場を備えたイベントホール、映画館などを併設した施設を整備するようだ。
新京成電鉄・新津田沼駅を挟んだ北側にも「イオンモール津田沼」があり、イオンは津田沼エリアで2館体制・一体運営を行なうという。
イトーヨーカドーが入居していたビルを所有する新京成電鉄(以下、新京成)にとって、半世紀近くも安定して得られていたテナント収入の消滅は、重大な問題であった。2025年4月には新京成・京成の合併が決定しており、このままでは老朽化した空ビルが“負の遺産”として、そのまま京成に引き継がれてしまう。この状況の中で決定した提携成立、イオンのテナント入居内定に、京成・新京成の関係者は胸をなでおろしていることだろう。
一方でイオンにとっても、提携やテナント入居のメリットはあった。「イオンモール津田沼」の競争力強化のために、新たな施策を必要としていたのだ。
イオンモール津田沼があるJR津田沼駅、新京成・津田沼駅エリアは、昭和から平成初期にかけてパルコ・ダイエー・高島屋・丸井・西友・長崎屋・イトーヨーカドーなどが競って店舗を構え、「津田沼戦争」とも呼ばれるほどの激しい顧客争奪戦を繰り広げていた。
しかし現在、当時の屋号で津田沼に残るのはダイエー(モリシア津田沼)のみ。かつ、ダイエーはイオングループとなっている。
広域で見ると「ららぽーと TOKYO-BAY」など、3kmほど離れた湾岸エリア(JR京葉線沿い)にある巨大ショッピングモールと競合している。小売店同士の「津田沼戦争」が終結したかわりに、エリア同士の「津田沼vs湾岸戦争」が生じているのだ。イオンとしても湾岸エリアに大型の「イオンモール幕張新都心」を構えている。
湾岸エリアのららぽーとやイオンはいずれも年間2,000万人以上が訪れており、ファミリー層向けの「イオンモール津田沼」が取り込めない10代、20代の若年層向けの店舗も多い。だからこそ、イオンが津田沼に構える「新しいランドマーク」は、イベントスペースや映画館の整備によって、若年層を津田沼に呼び込もうとしているのだ。
提携発表の資料によると、イオンは新津田沼駅を中心に、各棟の役割を明確にしたうえで「10代から30代のMZ世代からファミリー層、シニア層まで幅広くご支持いただける商業施設とする予定」としている。イオンは敵であったイトーヨーカドーが去った跡地を、実質的な増床のスペースとして活用したといえるだろう。
もっとも、渋滞が激しく駐車場も少ない津田沼に、今から若年層を呼び込めるかは疑問だ。それでもイオン・京成の提携の試金石として、新津田沼の「ランドマーク施設」がどこまで顧客に受け入れられるか、注目したい。
京成の弱点は小売部門 イオンのノウハウで強化できるか?
京成はスーパー・商業施設として「リブレ京成(京成ストア)」「京成百貨店」などを展開しているものの、2023年3月期の小売部門の営業収益は56億円と、グループ全体の収益(2,965億円)の2%程度。流通・小売で年間1,600億円以上(グループ全体の1/4)を稼ぐ東武など大手私鉄と比べると、京成の小売部門は見劣り感が否めない。
京成はイオンとの提携で、グループの弱点であった「流通・小売事業の強化」を見込めそうだ。その背景には、京成だけに限らない「鉄道会社の独自ブランド店舗の限界」がある。
これまで鉄道会社は、沿線のデベロッパー(開発業者)として、自社ブランドでの店舗展開を行なってきた。「東急=東急百貨店・東急ストア」「阪急=阪急百貨店・阪食グループ(阪急オアシス)」などが代表事例だろう。
しかし各社の「駅ナカ・駅チカ」小売店は、郊外のロードサイド型店舗、とりわけイオンとの競争で疲弊しており、立地の強みだけで対抗できなくなっている。私鉄系スーパーは連携して「八社会」(リブレ京成・京急ストア・相鉄ローゼンなど)を結成、PB商品の開発などを行なっているものの、近年は離脱が目立つ。チェーンストアとして小規模・独自ブランドな小売店では、成長を描けなくなっているのだ。
ここは、小売店のトップブランドとしてノウハウを持つイオンと組んだ方が収益力も上がり、京成グループの弱点であった流通・小売部門も強化できるだろう。異業種同士の提携という経営判断は、そう考えると合理的だ。
イオンが発表した提携内容には「京成ストアとの協業」「金融事業」なども入っている。京成グループの小売店舗はイオンの販促ノウハウを生かしつつ、サプライチェーン(物流網)や仕入れ、ポイントなどの一元化で、経営の効率化を図れるだろう。もちろん、京成の駅ナカ・駅チカ物件に「イオンスタイル」「まいばすけっと」などがテナント入居するという手もある。
イオンにとっても、京成との提携で「駅ナカ・駅チカ」店舗の成功事例を作れば、各地の鉄道会社との提携で新たな商圏を拓ける。イオンが「駅ナカ・駅チカ業態の開発&出店強化」、京成が「流通・小売部門の再構築」「不動産の活用、テナント料の獲得」といったメリットを得られる“win-win”な提携と言えるだろう。
提携は「京成のアクティビスト対策」にも有効?
今回の提携は、もうひとつメリットがある。それは「京成のアクティビスト対策」だ。
イギリスの大手投資会社「パリサー・キャピタル」(以下、パリサー)は、2021年に京成電鉄株を取得。2024年3月の時点で全体の1.98%、324万株を保有している。パリサーは「東京ディズニーリゾート」を運営する京成電鉄の子会社「オリエンタルランド」(以下、OLC)の株式売却や沿線への投資を株主総会に提案するなど、「物言う株主」として活発な動きを見せていた。
パリサーは企業価値の向上を目的として株主提案を行なってきたものの、京成は「株主共同の利益の最大化に資するものではない」「大変遺憾」と、にべもない対応を取っている。一見して冷たい対応に見えるが、パリサーの提案は「本当に企業研究したのか?」と考えざるを得ない内容も多く、京成としては「あまり相手をしたくない」のが本音だろう。内容は、以下のようなものだ。
- 「北総線の運賃値下げ(600億円)」→近郊輸送・学生にターゲットを絞って値下げ実施済
- 「京成高砂駅の路線拡張(400億円)」→連続立体交差化が先。京成単独で動ける話ではない
- 「観光列車の開発(120億円)」→例えば「ななつ星in九州」は30億円。費用が高すぎる+京成沿線にそんな観光資源はない
業務提携が成立すれば、イオンのノウハウによる駅ナカ店舗の活性化、出店の場合はテナント収入などで、「沿線駅の商業開発に450億円を投資」といったパリサーの提案に乗らずとも、各方面に恩恵がある。また京成は2030年以降に進展するであろう「成田空港の拡張、ワンターミナル化」を見据えており、現時点でのOLC株売却・資金調達には否定的だ。
今回の提携によって、イオンは京成の株式の2.33%程度を取得し、保有の比率はパリサーを上回る見込みだ。イオンとの提携が経営上の施策として有効なら、パリサーの提案を受け入れる必要もない。この提携は、「アクティビスト(パリサー)対策」としても有効だろう。
イオン・京成の提携発表は大きく報じられたものの、発表翌日(11月1日)の市場の反応は評価が分かれ、株価は「京成が上昇、イオンが小幅減」であった。2社のタッグは「津田沼再開発」に続く相乗効果を提示し、成長を描けるのか。また、パリサーは対案の提示、京成株式買い増しなどの対抗策に出るのか。2025年末に予定されている株式の買付完了まで、各方面の動きに目が離せない。