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5年ぶりの複合機買い換え キヤノン「GX1030」が想像以上に快適&進化していた

プリンターとスキャナーの1台2役な複合機を、5年ぶりに買い換えました。購入したのはキヤノンの「GX」シリーズのうち、一番下位のモデルである「GX1030」(実売価格3万円余り)。ちょうど1年前、2023年秋発売の比較的新しい製品です。

これまでずっと他のメーカーのプリンターや複合機を使い続けてきたのですが、4~5年分の世代差なのか、キヤノン製品が元からそうなのか、大きな進化を感じたところもあったので紹介したいと思います。

電子化の時代になぜ複合機を更新したのか

電子化が進んでいる世の中でも、まだ紙を扱う機会はたびたびあるのではないかと思います。写真を印刷して手元に飾っておきたいとか、絶対に忘れてはいけない資料をバックアップとして紙にプリントしておくとか、いろいろ。

紙資料をスキャンして電子化したくなることもあれば、受け取ったPDFデータをプリントして、そこに手書きしたものをスキャンしてメールで送る、みたいな謎の儀式を行なう場面も時々あったり。

ただ、使う頻度が少ない、または特殊な印刷用途でないのなら、今の時代はコンビニのマルチコピー機でプリントもスキャンもできるので、それで事足ります。わざわざ自宅や事務所に複合機を設置しておくほどではない、という人の方が多いかもしれません。

実のところ、筆者もプリントやスキャンをする頻度は、あまり多くはありません。が、主な用途がちょっと特殊で、9割方がヤマト運輸の伝票の印刷です。法人向けの「ヤマトビジネスメンバーズ」というサービスでは専用の伝票シール用紙を扱うことができ、これに印字するためにプリンターが必要になります。

ヤマト運輸の専用伝票シール用紙

コンビニのマルチコピー機は用紙の差し替えができないので、こういった専用用紙を使うには自前のプリンターが欠かせません。多くないとは言っても、筆者の場合は月に10個くらいは荷物をやり取りするので、手書き伝票に戻すのも厳しいところ。

あとは時々紙書類をスキャンしなければならない作業も発生するので、スキャナーもあった方がいい。というわけで、複合機は常に手元に置いておきたいのです。

キヤノン「GX1030」を選んだ4つのポイント

複合機を買い替えようと思ったきっかけとして一番大きかったのは、機器の不具合とランニングコストの問題があったからでした。

5年前に購入した複合機は、経年劣化のためか、通常のコピー用紙よりやや厚めのシール用紙の紙送りが失敗するようになってしまいました。クリーニングしても改善せず、手差しトレイでなんとかだましだまし使っていたような状態。しかし、それ以前からカートリッジ式インクのランニングコストが高く感じてもいたので、そろそろ買い替えてしまおうと。

ところが、複合機を新調しようと決めたはいいものの、製品選びは意外と難しいことに気付かされました。カラー印刷は必須だけれど本体価格を抑えたい、となるとレーザー方式ではなく必然的にインクジェット方式になるわけですが、これだけ電子化が進んだ世の中でもいまだ無数に選択肢があります。

メーカー各社はさまざまな視点から商品提案していますが、種類が多く自分にぴったり合う機種を探すのは時間がかかる

インクの色数が多いものもあれば、少ないものもある。用紙トレイが1つのものもあれば、2つ以上のものもあり、手差しのみのモデルもある。ビジネス向けになるとADF(オートドキュメントフィーダ)付きやFAX付きもありますが、なぜかそれがない下位モデルとの実売価格差がなかったり逆転していたりする……。

2週間ほど悩みましたが、主用途がシール印刷であることを肝に銘じて余計なスペックを求めないようにし、結果的に下記のポイントに絞ってキヤノンの「GX1030」を選びました。

  • ランニングコストの安さ
  • カートリッジ式ではない
  • 用紙トレイ付きでコンパクト
  • タッチディスプレイ&クラウド対応
キヤノン「GX1030」を選択

4500ページ印刷可能なランニングコスト

やはり重要なのは、ランニングコストを抑えられるかどうか。といっても、1枚プリントするたびに「これで○○円かー、もっと節約したいなー」などとケチくさいことを思ったりするわけではありません(ちなみにヤマトのシール用紙はタダでもらえるので、用紙代はゼロです)。

1枚1枚の印刷時には何も思わなくても、それほど枚数を刷っていない感覚なのにあっという間にインクがなくなり、注文しようと思ったら1色1,000~2,000円かかることにがく然とする、みたいなパターンを繰り返していて、それがとにかくつらい。

交換時にそれと同等以上の金額を出すことになったとしても、「これだけ長く使ったなら交換にン千円かかってもしょうがないかー」と思えるくらいの満足感が欲しいのです。「実質コスト」より「コスト感」がどうか、という気持ち的なところが大きいかもしれません。

「ギガタンク」対応機用の大容量インクボトル(奥)とプリンタヘッド(手前)

その意味で、GX1030が採用している、一度のインク交換でA4用紙を最大約4,500ページ分印刷できるという「ギガタンク」は良さげでした。ちなみに1枚あたりのコストとしては、以前の機種がA4モノクロ印刷で2.7円/枚、カラー印刷で8.4円/枚だったのに対し、ギガタンクのGX1030はモノクロ0.9円/枚、カラー3.0円/枚とほぼ3分の1になります。

カートリッジではなく大容量インクボトルの詰め替え式

カートリッジ交換式ではなく、インクボトルで中身を詰め替える方式なのもGX1030のいいところでした。カートリッジは差し替えるだけなので交換は容易ですが、インクの容量は大きくしにくいため、どうしても交換頻度は高めになります。

また、交換後の空カートリッジは廃棄するのが少し面倒です。リサイクルが推奨されているものの、そのための回収箱が設置されているスポットは自治体施設や家電量販店など限られています。電子回路が含まれているため、燃やせないゴミの日に出すのも忍びない。結局、回収箱まで持っていくのが面倒で、いつまでも手元にゴミとして残ったままでした。

しかしインクボトルであれば、交換後に残るのは空のプラボトルだけなので、気兼ねなくゴミの日に出せます。交換作業はこぼしたりしないかと緊張するものの、そのあたりはきちんと対策されているのか、よほど手荒に扱ったりしない限り周囲を汚したりすることもなさそうです。実際、想像より安全かつ簡単に交換(充填)できました。

最初にプリンタヘッドを取り付ける
インクを注入する場所をオープン
ボトル先端の形状を色ごとに変え、注入ミスを防止
所定の場所に差し込んで注入
インクが充填された

フロント用紙トレイで筐体サイズがコンパクト

用紙トレイとサイズの関係は、製品選びにおいては最も難しい部分でした。理想的には通常のコピー用紙とシール用紙を同時にセットして、印刷時に切り替えて使えるタイプにしたかったのですが、フロントトレイが2段のものはたいてい筐体サイズが大きく、筆者宅の設置場所(高さが約34cmしかない)を考えると選べません。

フロント1段トレイ+背面トレイ(または手差し)のタイプもありますが、これも設置場所(奥行き約40cmで奥に壁がある)の関係から使い勝手が損なわれるので避けたい。となると、2種類の用紙の同時セットは諦めるしかありません。結果、アクセスのしやすいフロント1段トレイで、用紙交換しながら使うことにしました。

そのような条件で選んだGX1030は、筐体の高さ約186mm、奥行き約380mm(幅約374mm)ということで、狭い設置場所にもきっちり収まります。フロントトレイなのはもちろんですが、トレイに覗き窓がついていて、そこから用紙の残量が(ある程度は用紙の種類も)わかるのもグッド。インクの残量確認やインク交換も前方から行なえる仕組みで、メンテナンスはかなりしやすいと感じます。

GX1030はフロント1段トレイ
セットしている用紙の残量や種類が覗き窓からわかる

ちなみに上位モデルのGX2030とは価格がほとんど変わらないのですが、そちらはADF付きの分高さが増し、筆者の設置環境ではスキャナーのカバーをほとんど開けない可能性があります。GX1030でもカバーを全開できない問題はありますが、スキャン作業に支障をきたすほどではありません。

フラッドベッドタイプのスキャナー。連続的にスキャンするニーズはほぼないので、GX2030が装備するADFは不要と判断
筆者宅での設置場所。高さも奥行きもない狭いところにぴったり収まった

タッチ対応ディスプレイでクラウドにも対応

ほぼヤマトの伝票印字専用機として考えていたわけですが、まれに家族がプリントしたりスキャンしたりすることもあります。そういうときはわかりやすく操作できることが大事。なので、タッチディスプレイであることは必須条件でした。

タッチディスプレイで操作可能

コンビニのマルチコピー機と同じように指先で直感的に操作できる、というのがメリットの1つ。そしてもう1つ重要なのは、このタッチディスプレイ上でスキャン操作し、そのままクラウド上の任意のフォルダに保存できること。仕事書類や家族間のデータを他の人・デバイスと共有するにあたっては、直接クラウドストレージにアップロードできるかどうかで作業効率が大きく違ってきます。

キヤノンの製品公式ページではなぜかはっきりと言及していないので、クラウドストレージにスキャンデータをアップロードできるかどうか、というのはわかりにくいのですが、キヤノンのGXシリーズはGoogle ドライブ、Dropbox、OneDrive、Boxなど代表的なクラウドストレージへの直接アップロードに対応しています。

「スキャン」に対応する保存先
スキャン画像の直接アップロードに対応するクラウドストレージ

しかしながら、このあたりの機能には不満もあります。まず、スキャンしようとするたびにクラウドサービスや保存先ディレクトリを指定し直さなければならないこと。他メーカーの複合機では、個人向けであっても、保存先を含めたスキャン設定をショートカットキーに登録して一発で実行できるものがあるので、キヤノンとしてあまり力を入れていない部分なのかな、と感じざるを得ません。

また、タッチディスプレイの角度は真上向きだけでなく、斜め向きや正面向きに切り替えて視認性を高めることもできますが、斜めか正面の向きにしているときは、構造上、電源ボタン(またはストップボタン)を押すと真上向きに戻ってしまいやすい問題があります。ディスプレイをつまむように押さえつつボタン操作しなければならないのはフラストレーションが溜まるかもしれません。

タッチディスプレイは起こして斜め向きにすることも
正面に向けることもできる
裏から支えながら電源ボタンを押さないとディスプレイが元に戻ってしまうのが難点

使ってみてわかった静音性の高さ

実際に使ってみると、一部に多少の不満はありながらも、インクのもちやサイズ感、シンプルなUIなど、筆者が求める条件にほぼマッチしていたGX1030。さらには、スペックシートからは伺えない進化点も感じられました。

それは、ものすごく静かなこと。以前使っていた機種とは比べものにならないほどの静音動作です。たとえばプリントする場合、印刷前の準備動作から、用紙を送り、ヘッドが動いて印字し、最後に排紙するまで、ずっと静かなまま。「スーッ」という紙を指先でなでたような音しか聞こえてきません。

スキャンも、最初は「何も音がしていないのに画像が読み込まれた! すげえ!」と思ってしまったほど。実際にはスキャン終了時に若干のノイズは出るのですが、スキャンしている最中は耳を近づけないとヘッドが動いているかどうかすらわからないくらいです。

Wi-Fi接続が5GHz帯に対応しているのも魅力というか、やっと対応してくれたか、という感慨があります。以前だとこういったパソコン周辺機器は2.4GHz帯のみの対応となっていることがほとんどでしたが、5GHz帯対応となったことでより高速にデータ転送できる可能性があります。

5GHz帯(Wi-Fi 5)に対応。他に有線LAN接続にも対応する

とはいえ、ここは良し悪し。最近は5GHz帯に対応する機器もだんだん増えてきて、2.4GHz帯と同じように混雑しがちな状況になりつつあるからです。もしかすると、あと数年もすれば「せめてWi-Fi 6Eに対応して!」みたいな声が上がってくるのかも?

そんなわけで、悩み抜いて選んだおかげで想像以上に快適に使えている今回の複合機。使用頻度はそこまで多くはないのですが、2024年に購入したアイテムのなかで最も満足度の高いものになりそうな予感です。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。