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木造でも超高層ビルは可能!? なぜ木造ビルが増えているのか?

住友林業が2018年に発表したW350のイメージ図。W350は、創業350周年あたる2041年に高さ350m・70階の木造超高層建築物を実現するための研究技術開発構想(画像提供:日建設計・住友林業)

従来、木造といえば2階建ての戸建住宅のイメージが強くありましたが、昨今は3階建ての木造住宅も珍しくなくなっています。住友林業は、それらをはるかに超える高さ350m・70階建ての木造建築を目指す「W350計画」という研究・技術開発構想を、2018年に発表しています。それから5年以上が経過して商業施設やオフィスビルなどでも少しずつ大規模・高層の木造建築が増えてきました。

なぜ、木造の商業施設やオフィスビルが増えているのでしょうか? 木造が注目される理由について、木に関する研究・技術開発のパイオニアでもある住友林業筑波研究所の磯田信賢さんに話を聞きました。

木造の進化について説明する住友林業筑波研究所の磯田信賢さん

建築部材として使っている間も木材は炭素を固定し続ける

――今、木造がとても注目されています。これまでは戸建住宅などで木造が多かったと思いますが、なぜ最近になって大型商業施設や高層オフィスビルが木造でも建てられるようになったのでしょうか?

磯田:木造が注目されている理由をお話しする前に、木造が置かれている環境を説明しなければなりません。今、質問がありました戸建住宅に木造というイメージが定着するのは、実は戦後からです。

戦前には、学校の校舎や大規模な旅館は木造で造られていました。古い温泉旅館なら、今でも木造4階建ては残っていると思います。なぜ木造で造っていたかと言いますと、戦前は木材が建築材料で一番身近だったからです。そのため、木材を使うことが自然であり、使いやすかったのです。

日本では建築物を木造で建てる文化が続きましたが、先の戦争で焼失したことなどから、戦後は鉄筋コンクリート造・鉄骨造に注目が集まります。鉄筋コンクリート造や鉄骨造で大規模な建築を建てることを想定した法律が制定され、それらの構法が後押しされていきます。こうして住宅以外で木造を見なくなり、木造は戸建住宅というイメージが広まっていきます。

そうした木造不遇の時代が長らく続きましたが、最近になってようやく木造建築が注目、再評価されるようになってきました。その一番大きな理由として考えられるのが脱炭素という観点です。

気候変動の影響から全世界的に異常気象が続いています。日本でも2023年と2024年の夏は異常ともいえる暑さを記録しました。ゲリラ豪雨や記録的な大雨もあちこちで頻発しています。

こうした気候変動にもっとも大きな影響を与えていると考えられているのが、温室効果ガスです。気候変動に起因する異常気象を抑制するためにも、温室効果ガスの排出を減らしていかなければいけないという認識が強まっています。温室効果ガスの排出削減に寄与しその効果を得られる木の可能性、木造建築が注目されているのです。

住友林業の研究拠点となっている筑波研究所も木をふんだんに使った建物になっている(写真提供:住友林業)
筑波研究所の内観。壁・柱・梁など、全体的に木を使った空間になっている(写真提供:住友林業)

――木造建築は、たくさんの木を使います。森林を伐採することが気候変動の是正につながるのはどうしてなのでしょうか?

磯田:木には生長する過程で光合成によりCO2を吸収する働きがあり、空気中のCO2を炭素として固定します。カーボンニュートラルへの目標を立てるときに森林のCO2吸収量をきちんと数値化して扱えるようになってきたことでCO2削減量などの目標を立てやすくなりました。

伐採後に加工し、建築部材として使っている間も木材は炭素を固定し続けます。その固定し続けている量を算出できるようにもなりました。

さらに森林を伐採した後は、再植林をすることで木の循環が生まれます。森林から伐採した木材を使って建築物として長く使う。植えて、育てて、伐って使って、また植える。そうしたサイクルが大事であるとの認識が少しずつ広まり、木造が再注目されているのです。再植林することで木々は生長過程でCO2を吸収し続け、温室効果ガス削減の一翼を担うのです。

住友林業は愛媛県新居浜市が発祥地。そのため、四国に約1.5万ヘクタールの社有林がある(写真提供:住友林業)

天然林と人工林の違いは?

――最近はカーボンニュートラルという言葉をよく耳にします。この言葉もしくは概念はいつごろから日本で提唱されるようになったのでしょうか?

磯田:カーボンニュートラルが意識されるようになるのは、1997年に採択された京都議定書が大きなターニングポイントになったと思います。温室効果ガス削減の重要性が国際的に認識され、各国が具体的な削減目標を設定するきっかけとなりました。

カーボンニュートラルを目指す動きが加速し、森林がCO2を吸収し炭素として固定し続けるという機能に注目が高まります。その後、木材は炭素を固定しているのでカウントしていこうという認識が進みます。

日本は石油などの化石燃料資源はありませんが、森林資源が非常に豊富な国ですので活用しない手はありません。使わないことは資源としてもったいないということもありますが、山林、特に人工林は手入れをせず放置してしまうと日当たり、風通し、木々の根の張り方などに問題が生じ土砂災害等が発生する危険性が高まります。

日本の豊かな森林資源を適切に使い、森林を管理していくといった考え方から2010年に菅直人内閣が「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(公共建築物等木材利用促進法)を制定しました。

同法は2021年に菅義偉内閣が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(都市の木造化推進法)へと発展的に改正しています。菅義偉首相もカーボンニュートラルを注力する政策として掲げていました。同法を発展的に改正することで非住宅分野や中高層建築物に木造を増やし積極的に木を活用していく意図が感じられます。

――天然林と人工林では、管理に違いがあるのでしょうか?

磯田:天然林だから災害が起きないということはありませんが、天然林は長い年月をかけて土地に合わせた植生が形成されています。そのため、土壌・地形に適した樹木が生長して自然な森林になっています。

一方、人工林は木を活用することを目的に単一樹種を植えていることが多いのです。例えば、今は針葉樹が植えられている人工林が多いのですが、針葉樹は植林の際に密に植えてそれを間伐しながら生長させます。生長の過程で密な状態のままにしておくと、日当たりや風通しが悪くなり一本一本の木が育ちにくくなります。

そうなると、根の張り方にも問題が出て、土砂崩れ等が起きやすくなると言われています。山林が持つ水源涵養という役割も薄くなってしまいます。人工林は下刈り、枝打ち、間伐等を適切に管理し育てていくことが肝要です。

――森林の管理という話が出ましたが、管理=木を切るという認識でいいのでしょうか?

磯田:適切な間伐は森林を維持・管理するうえで非常に大事な作業で、樹木を太らせて、建材として使いやすいサイズにしていくためにも重要です。山を健康な状態に保つためにも欠かせません。合わせて、木々周辺の雑草・雑木をと取り除く下刈り、余分な枝葉を切り落とし良質な木材に育てる枝打ちも林業では重要な管理です。

国内に多く植えられている木は、スギとヒノキとカラマツです。スギは比較的に早く生長しますので、伐採のタイミングは30年から50年と言われます。ヒノキだともう少し長く50年から60年。その間には間伐もします。

今は製材技術も向上し間伐した木は合板にすることが多くなっています。また、ラミナという小角材にして接着剤で接着し強固な集成材に加工し無駄なく活用しています。

住友林業は国内に総面積約4.8万ヘクタールの社有林を所有している(写真提供:住友林業)

高層の木造建築のために必要となる技術

――カーボンニュートラルが謳われるようになり、木造建築が見直されるようになりました。超高層とまではいかなくても、高層の木造建築が一気に増えてきています。木造で高層建築ができるようになった背景は技術が向上したからなのでしょうか?

磯田:木造の高層建築で、よく言及されるのはCLT(直交集成材)という技術が普及したことですが、CLTに限らずエンジニアリングウッドと呼ばれる集成材により木材の加工技術が向上し、木材の機能が向上したことも木造の高層建築にとって大きなターニングポイントになったと思います。

CLTのほかには、単板積層材(LVL)のような木材と接着剤で大きな断面の建材がつくれるようになり、それも大規模木造・高層木造の普及・拡大に一役買っています。

――話を聞いていますと、建築技術の発達によって木造の可能性が広がったというよりも、製材技術が向上したことが大きな要因のように感じます。

磯田:そうした面もありますが、大きな断面の木材があれば大きな建物が造れるのか? といえば、そんなことはありません。大きな断面の柱と梁をどうつなぎ合わせるのか? 地震などの力にどのような形で耐えるか? といった構造の研究開発、建築技術の発展も大規模木造・高層木造には重要な要素です。

耐火技術も重要です。どうしたら火に対して強くできるのか? 建築技術も製材技術と同時に向上してきたので、大規模木造・高層木造の建築が可能になりました。

これまでは、住宅を専門に建築していた大工さんが現場で角材をいろいろと加工してから組み立てていました。現在は戸建住宅でも工場で加工した木材を使うことが圧倒的に増えています。工場で加工する建材・工法をプレカットといいますが、そのプレカット技術の発展も重要な要素です。

木造で日本一高いビルを建てることは可能か?

――大規模木造・高層木造が増えている背景には、法律面で規制緩和はあったのでしょうか?

磯田:大規模木造・高層木造を想定していなかった耐火基準、大きな地震を経験するたびに強化されてきた耐震基準は、木造には大変ハードルが高かったのですが、少しずつ規制が緩和されている部分はあります。特にほかの構造に比べて木造が不利となっていた防耐火の基準は、木造の火災への安全性に関する研究が進むにつれて緩和されています。

例えば、これまで階数でいうと4階建てまでは1時間、14階建てまでは2時間、15階建て以上で3時間耐火の性能が必要でしたが、1.5時間、2.5時間と30分単位で細かく区分することで、9階建てまでは1.5時間、19階建てまでは2.5時間耐火でも建てられるようになりました。

海外では火災安全上、木造建築の高さを制限している国がありますが、日本では木造だからという理由だけで建物の高さや用途を制限する規制はありません。木造だから、ここまでの高さしか建てられませんという縛りはないのです。

ただ、木造では高層化するときに求められる2時間耐火、3時間耐火といった耐火基準を満たすことが難しいのです。そこで、1.5時間や2.5時間耐火で建てられる範囲ができたことは、木造建築で9階建てや19階建ての建物を建てやすくなるので、事実上、規制緩和と言えると思います。

――法律的には木造で高さ制限がないということでした。ということは、理論上は木造で日本一高いビルを建てることも可能なのですか?

磯田:住友林業は、2018年に「W350計画」という研究・技術開発構想を対外発表しています。木造の350mのビルを含め都市を木造化・木質化することを目指し、研究、技術開発しようというコンセプトです。

「W350計画」を実現するには建築技術の開発も重要になりますが、強度の高い木材が大量に必要になります。つまり、建築技術の向上だけではなく、木材にも改良や工夫が必要ですし、製材・加工の技術向上も欠かせません。さらには、強度の高い丸太になる樹木の開発も必要です。

「W350計画」を発表した時点で、高さ350mの木造ビルを建てることは技術的に不可能ではありませんでした。ただし日本には3時間耐火という厳しい基準があります。「W350計画」を発表した当時、それをクリアできる部材を住友林業も含めてどこの会社も持っていなかったので実現可能性に疑問が残っていましたが、耐震性能等の技術シミュレーションの結果は建設可能でした。

現在、住友林業も含め数社が3時間耐火の基準を満たした部材開発に成功し、理論上350mの建物を建築することは可能です。

実際に「W350計画」で350mの建物を建てるとすると、戸建住宅8,000棟分の木材が必要です。建築部材を一挙に集めること、それらを保管する倉庫や人材の確保も必要です。

本計画は2041年に350mの木造ビルを実際に建てるという事業化計画ではなく、建てられる技術を確立するという研究・技術開発構想です。シンボリックな超高層を建て、木造建築の高さを追い求めるのではなく、現在、5階建てや6階建てが一般的になるような木造技術の開発に取り組んでいます。

CO2を吸収、固定する脱炭素の観点で木が注目され、木造で建てるという機運が高まり、ようやく木造の技術開発も盛んになっています。

2022年に完成した上智大学四谷キャンパス15号館は、住友林業が設計・施工。木造3階建ての建物は外装の格子に多摩産材が使われ、大通り沿いからも目を引く

――磯田さんが「これは、すごい木造だ!」と思われる大規模木造もしくは高層木造はありますか?

磯田:技術的な観点で言うと大林組が2022年に神奈川県横浜市に施工した自社ビルの「Port Plus」です。Port Plusは地上11階、地下1階建てのビルで、日本初の高層純木造耐火建築物として柱・梁・壁といった躯体の大部分に木を使用しています。自社ビルでもありチャレンジングなことができた建物ではないかと思います。

木造推進における課題

――木造を推進するには、林業の活性化も欠かせないと思います。日本の林業は人手不足と高齢化という問題に直面しています。農業や漁業など、同じ第一次産業では機械化・自動化は取り組まれていますが、林業はどうなのでしょうか?

磯田:機械化や自動化は林業業界全体で少しずつ取り組んでいますが、一筋縄ではいかない部分が多々あります。日本は急峻な山が多いので、大型機械を入れて伐採をすることが難しいという事情があるからです。また、山林が山奥にあり、そこまでの林道整備も進んでいません。それが機械化・自動化を阻んでいる大きな要因です。

さらに、日本は個人所有の山が多いということです。しかも山の所有者の高齢化や相続による所有者不明のケース等も散見されます。また、一人が所有している山林の面積は小さく、すべての所有者から同意を得るのに時間がかかるという阻害要因もあります。こうした事情が複雑に絡み合って林業の大規模化を阻み、大型機械の導入を難しくしています。

――国産材と外材をコスト面で比べると外材が安いです。中大規模建築の木造化が進んでも国産材の使用量を増やさなければ、国内の林業振興は進まないのではないでしょうか?

磯田:木造建築には国産材、できれば建物の近くで伐採し、近くで加工した木を使う方が輸送にかかるエネルギーも、CO2の排出量も少なくて済みます。脱炭素を考えて都市木造を推進するなら、国産材を推奨していく方がいいでしょう。そもそも木造が推進されるようになったきっかけは脱炭素ですから、そういう意味で国産材を積極的に使用していくことが重要になりますし、そのためには国内林業の振興も重要です。

一方で海外には強度が高い木材が多く、大規模木造・高層木造をつくる際に好まれています。住宅でも横架材、つまり梁は外材率が高いのです。強度のある横架材を国産材でつくれるようになると、国産材の使用率が高まり国産材の用途拡大は脱炭素を加速させることにつながります。

――そのほかに、都市木造を推進するにあたって障壁になっている部分はありますか?

磯田:これまで中高層ビルは鉄筋コンクリート造や鉄骨造ばかりでしたので、木造を設計できる建築士や施工できる事業者がまだ少ないという点はあるかと思います。木造には木造なりの専門性が必要です。鉄筋コンクリート造や鉄骨造とは違った、木造に適した設計・施工があります。

大規模木造や高層木造の実例が少ないこともあって、保険関係の整備も進んでいません。耐用年数が短く設定されているので、資産評価や固定資産税に関する議論も活発化していません。木造が増えることで大規模木造を取り巻く環境も変わっていくのではないかと思います。

今、2階建て、3階建ての戸建住宅だと同じぐらいのコストで建てられていますので、鉄筋コンクリート造や鉄骨造と比べてもコスト面で十分に戦えています。戸建住宅はずっと木造が続いてきた市場ですので、木造で建てることに対して不安感はないようで、むしろ木造を好まれる施主が多いのです。

ところが中規模の建物になると、鉄筋コンクリート造・鉄骨造が圧倒的に多くなります。都市木造を推進するには、5階建てクラスの中規模木造ビルをつくることが一般化していくことが第一段階だと考えています。

都市木造の大きな障壁になっているのは、なによりもコストです。コストが高いのはサプライチェーンがきちんと整備されていないことが大きな理由です。今、建材として使われている木材は基本的に住宅で使われています。そのため、サプライチェーンも住宅に特化しているのです。

住宅よりも大きなサイズの建物を木造でつくろうとすると、特注になってしまいます。それがコストを押し上げています。都市木造のサプライチェーン構築は少しずつ進んでいますが、木材を供給する側もさらに大断面の加工ができるようになっていかなければなりません。それによって木造のコストダウンが進み、コストダウンが進むことで中規模木造が増え、それが大規模木造・高層木造の増加につながり、都市木造が実現できます。

木造のメリットは脱炭素だけじゃない 快適性や身体にも好影響

――大規模木造や高層木造が増えると、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか?

磯田:これは人によって受け止め方が違うと思いますが、もともと木造を増やそうとか大規模・高層を木造で建てていこうといった話が出たきっかけが脱炭素です。脱炭素は、私たちの生活に直接的に影響を及ぼすことはないかもしれません。

しかし、昨年も今年も夏は場所によっては40℃を記録するような酷暑になっています。ゲリラ豪雨や大雨による被害も発生しています。気候変動によって異常気象が引き起こされ、水害や山林火災といった災害の原因にもなります。木を軸にカーボンニュートラルに取り組むことで地球温暖化の抑制に大きく貢献できるのではないかと考えます。

もうひとつ大きな軸で言うと、木は自然素材なので人に優しい素材です。例えば、木には調湿性があるので木質空間は湿度が安定します。そうした理由もあり、木の居住空間は人が生活しやすいのです。

調湿性のほかにも、木のメリットはあります。学校などの体育館の床は多くが木になっていると思いますが、木の表面は硬くて掃除が容易です。さらに、ある程度は床がしなるので、それが足腰の負担を軽減することも判明しています。そうしたことを踏まえると、木造は身体的にも精神的にも負担が少ない建物ということになるのです。

住友林業筑波研究所でも木の効果、効用、人に及ぼす影響について多方面から研究を進めていて、人の心や身体に与える影響を科学的に検証し快適な空間づくりに活かしています。木造建築の構法開発にも取り組んでいて、戸建住宅から中大規模建築まで木の価値を最大限に引き出し暮らしに提供したいと考えます。

小川 裕夫

1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスに転身。専門分野は、地方自治・都市計画・鉄道など。主な著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『都電跡を歩く』(祥伝社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)など。