トピック

東京都の補助金で太陽光発電を導入した 実際の補助額とシステムはどんなもの?

昨今、値上がりを続けている電気代は多くの人にとって悩みの種だと思います。できるだけ電気を使わないようにする努力も必要かもしれませんが、今夏のような猛暑が毎年のように繰り返されれば、節電するのにも限界があるでしょう。

こうしたなか、各自治体では太陽光発電システムなどの導入にかかる費用を軽減する施策(補助事業)を展開しています。一般的に高額なソーラーパネルや蓄電池の導入を補助金によって支援し、電気代(電力使用量)の抑制や災害対策につなげようという取り組みです。

とりわけ大きな補助を設けているのが、東京都。「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」として、令和6年度~9年度(2024~2027年度)は約683億円という巨額の予算を計上しています。同様の事業は令和4年度からスタートしていますが、そこから補助の範囲や額は大幅に拡充してきました。

筆者宅は都内にあり、月々の電気代は少なくとも1万数千円、ときには2万円、3万円を超えることもあります。電子機器ばかり扱う仕事柄、頑張れば頑張るほど電気使用量がどんどん増えてしまうというジレンマ……。なので、補助が拡充されたこのタイミングを機に、思い切って太陽光発電システムを導入してみることにしました。

果たして導入コストはどれくらいかかり、実際の効果はどれくらいあるのでしょうか。今回は東京都の補助金の概要や選定したシステムを紹介し、次回は導入後しばらくしてからの節電効果(発電量)をお見せできればと思います。

なお、ここで紹介するのは都内の筆者宅のケースであり、地域、設備、工事内容、住宅の構造、施工業者などによって補助額や費用は大きく異なります。あくまでも導入の一例として捉えていただければ幸いです。

場合によっては数百万円にも! 東京都で受けられる各種補助金

2024年度、東京都における太陽光発電システム導入に関わる補助事業としては、都が行なっている「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」(長いので以降は「東京都の補助事業」とします)と、それとは別に市区町村独自に行なっているものがあり、条件が合えばその両方の補助金を受け取ることができます。

また、2024年8月現在、国として支援している補助事業もあります。1つは資源エネルギー庁が外部事業者に委託する形で運営している「令和5年度補正 家庭・業務産業用蓄電システム導入支援事業」で、蓄電池製品を導入することに関して補助金を受け取れるものです。さらに国土交通省も「子育てエコホーム支援事業」で、蓄電池などに対する補助金を設けています(いずれも特定の施工業者や製品等を利用することが条件となっています)。

これらのなかで最も大きな補助となる可能性があるのは、最初に挙げた東京都の補助事業です。ざっくりと補助対象となる条件をまとめると下記になります。

東京都の補助事業の対象

住宅:戸建および集合住宅
設備:太陽光発電設備(ソーラーパネル、パワーコンディショナ等)
   蓄電池
   断熱改修(窓、ドア、断熱材等)
   V2H
   太陽熱・地中熱利用システム
   エコキュート・ハイブリッド給湯器

これらのうち、今回筆者宅(戸建)で導入するのは「太陽光発電設備」と「蓄電池」ですので、この2種類に絞って話を進めていきます。

どの設備も基本的には販売業者や施工業者などを通じて購入し、工事してもらうことになるかと思います。最近は大手から中小まで、多くの事業者がこぞって参入し激しい顧客獲得競争を繰り広げていますので、信頼のおける事業者を見つけて相談してみると良いでしょう。各種補助金の申請を代行してくれるところもあります。

さて、気になる補助額ですが、太陽光発電設備分と蓄電池分とで異なり、それぞれの発電・蓄電性能に応じた金額が設定されています。ポイントとしては、新築住宅よりも既存住宅の方が補助額の面で有利になっていること。導入設備が一定の性能以下であれば補助の割合はやや大きく、一定以上の性能であれば補助の割合は少し小さくなります。それらを表にまとめたのが下記です。

太陽光発電設備の補助基準
設置場所出力補助額備考
既存住宅3.75kW以下15万円/kW上限45万円
3.75kW超12万円/kW50kW未満
新築住宅3.6kW以下12万円/kW上限36万円
3.6kW超10万円/kW50kW未満
蓄電池
蓄電池容量補助額補助率備考
6.34kWh未満19万円/kWh4分の3上限95万円
6.34kWh以上15万円/kWh4分の3100kWh未満

※太陽光発電システムがない場合は最大120万円/戸
※デマンドレスポンス実証事業(ピーク時に売電を優先するなど電力需給バランス改善の取り組み)への参加で10万円の上乗せ補助

太陽光発電設備、つまりソーラーパネルは、通常は複数枚を組み合わせて設置することになりますので、そのトータルの公称最大出力(発電性能)で計算します。仮に合計4kWだとすれば、既存住宅の場合は「12×4=48万円」が補助額となります。

また、蓄電池の容量が6kWhであれば「19×6=114万円」ですが、上限が決まっているので「95万円」となり、そのうえで実際の購入費用の4分の3と95万円のどちらか低い方が最終的な補助額となります。この2つを合計すると、とりあえずは「143万円」というまとまった額がもらえるわけです。

ただし、補助金は導入前にもらえたり、導入時に費用総額から差し引かれたりするわけではない、ということに注意が必要です。所定の申請手続きが必要で、下記に示すように工事が完了してから、電力会社や自治体による確認が行なわれて条件に適合していることが確認された後、ようやく指定口座への振込となるからです。

太陽光発電システムの検討、導入から補助金受け取りまでの大まかな流れ

現在、申請が殺到しているためか補助金が振り込まれるまで6カ月以上かかることもあるようです。とにかく、導入時には全額をいったん支払わなければなりません。一括支払いではなくローンを利用できる場合もありますので、銀行や施工業者などに相談してみると良いでしょう。

このほか、先ほど紹介した通り市区町村による補助金(数万円~十数万円)や、「令和5年度補正 家庭・業務産業用蓄電システム導入支援事業」による補助金(最大60万円)、さらには「子育てエコホーム支援事業」の蓄電池に対する補助金(64,000円/戸)などもあります。もしすべて利用することができれば、ソーラーパネルや蓄電池の導入負担をかなり低減できるでしょう。

最終的な支出は? 「○○○万円の設備が数十万円」は本当か

補助金によって導入コストを「かなり低減できる」と書きましたが、補助金を差し引いた実際の支出は一体どれくらいになるのでしょうか。

これは、導入する設備(発電・蓄電性能)や販売・施工業者などによっても変わってくるため一概には言えません。近頃は「総額○○○万円の設備が補助金により数十万円で導入可能」などとうたうWeb広告も散見されますが、設備はもちろんのこと住宅や屋根の構造によっても、買電(電力会社から電力を買う)を減らしたいのか、売電(電力会社に余った電力を売る)もしたいのか、といったような考え方によっても、支払い総額や補助額は大きく上下します。

SNSで見かける太陽光発電絡みの広告。諸々の条件で金額は大きく変わるため、あまり真に受けないようにしたいものです

ただ、筆者をはじめおそらくは多くの方が考えているだろう「可能な限り自家発電でまかなって、買電を減らして電気代を安くする」ことが主目的なのであれば、補助金をフルに活用しても決して安くない費用がかかってくることを覚悟しなければならない、と個人的には思います。

ひとまず結論を言いましょう。事業者によって設備の仕入れ額や工事費などが異なると思われるため正確な数字は差し控えますが、今回筆者が導入した太陽光発電システムの超アバウトな総コストは500万円ほど。諸々の補助金でその半分以上が戻ってきて、200万円余りが実質の負担ということになっています。

高いか安いかで言えば、金額だけ見れば明らかに高い。500万円丸ごと出費となるのであれば絶対に導入しようとは考えなかったでしょう。ですが、それが最終的に半分以下の出費で済むというのなら、話は変わってきます。

多少の買電はこれからも継続的に発生するとしても、今後10年、20年に渡って今まで通り電気代を支払い続けた場合のトータルコストと比較したときにどちらがトクか。筆者は、導入した方が「おそらく安上がりになる」と判断しました。

もちろん、どこかのタイミングで大地震に見舞われて家ごと倒壊してしまうとか、突如として「天気の子」みたいな大規模な気候変動が起こってほとんど発電しなくなるとか、そういったイレギュラーが発生しない前提ではありますが……。

選定したソーラーパネルの種類、枚数とその理由

では、「おそらく安上がりになる」と判断できた太陽光発電システムとはどういうものなのか、紹介したいと思います。

今回、導入にあたってはとある施工業者に依頼しました。筆者側で準備したのは自宅建築時の設計図のみ。それを元に、屋根の形状や面積、角度などを考慮したうえで、コストパフォーマンスを最大化できそうな機器の組み合わせを提案していただきました。

数多あるメーカーや製品のなかから業者が選び、打ち合わせして最終的に採用したのは、Qcells(ハンファジャパン)のソーラーパネルとオムロンの蓄電池ソリューションです。

Qcellsとオムロンのパンフレット

まずソーラーパネルについて説明すると、Qcellsはもともとドイツ発祥のブランドで、発電性能の高さだけでなく、欧州のように緯度の高い低照度地域(あるいは曇りの天気が多い場合)でもある程度の発電性能を発揮できる、という点にも強みがあるとしています。

今回選んだソーラーパネル(Qcellsのパンフレットより)

また、25年間の製品・出力保証(25年後出力90%以上)というソーラーパネル製品のなかでは長い保証期間が設定されているのも、コスト回収の面で大きなアドバンテージです。

筆者宅では、このソーラーパネルを計13枚(1枚当たり公称最大出力430Wのものと、同285Wのものを)組み合わせて設置することとし、トータルの出力は4.865kWとなりました。

施工業者に作成していただいたソーラーパネルのレイアウト案

通常、ソーラーパネルを設置する場所は、発電効率が高くなるように、太陽光が鉛直に近い角度でパネルに当たりやすい南側屋根にすることが多いと思います。当初、筆者が自力で検討しているときもそれを前提にしており、小さな屋根のためせいぜい2kW台のパネルしか置けない計算になったことから「太陽光発電にするメリットは薄そう」と導入に懐疑的でした。

ところが、北側の屋根にも設置する提案によって、一気に「導入しても良さそうだな」という気持ちに。もちろん北側に設置したパネルは、南側に設置したものより太陽光の入射角が浅くなるため発電量は少なくなります。それでも、21.6~22.0%という高いモジュール変換効率をもつこともあり、多少の損失(と上乗せコスト)はあってもパネル数を増やした方がメリットがある、というのが施工業者の見立てでした。

施工業者がメーカーを通じて得たシミュレーション結果。年間5,000kWh以上の発電が可能という計算

なお、北側の屋根に設置した場合、太陽光が反射しやすくなり周囲の住宅の迷惑になる可能性もあります。ただ、筆者宅の屋根の角度が比較的浅いことと、周囲に高い建物がないこと、そして昨今はパネル表面に防眩加工を施すことによって反射光を低減していることなどから、業者としては問題ないだろうと判断したようです。

近年は小型のパネルや長方形ではない異形のパネルもあり、柔軟な設置が可能になってきています。が、それでも屋根の広さや角度などの構造的な部分が設置性に最も大きく影響することに変わりはありません。その意味では、建築段階でより発電しやすい屋根形状を考慮に入れられる新築住宅は有利と言えるでしょう。

筆者宅はそろそろ築10年目になろうかという既存住宅。建築当時はソーラーパネルの設置は全く想定しておらず、しかも狭小の部類に入る住宅です。しかしながら、偶然にも“太陽光発電向き”な屋根形状になっていることが幸いして、実用的な発電量が見込める(と思われる)ソーラーパネルの導入につながりました。

筆者宅の南側の屋根
北側の屋根は少し狭い

必須ではないが効果的な電力活用につながる蓄電池

一方の蓄電池(と、それと組み合わせる各種ユニット類)には、オムロンの「マルチ蓄電プラットフォーム KPBP-Aシリーズ」の新モデルである「ハイブリッド蓄電システム」(蓄電容量12.7kWh)を選びました。

「マルチ蓄電プラットフォーム KPBP-Aシリーズ」の蓄電池(オムロンのパンフレットより)

Qcellsも蓄電池まわりのシステムをラインアップしていますが、オムロン製にしたのはひとえに寿命の長さです。最近のポータブル電源でも採用され始めている「リン酸鉄系リチウムイオン電池」を採用しており、そうではない従来型の電池採用製品よりも大きな充電サイクル数を誇ります。

製品としての保証期間は標準的な15年ではあるものの、充電サイクル数は1万2,000サイクルが期待値となっており、仮に1日1サイクルだとすれば単純計算で30年以上は高い蓄電容量を維持できることになります。ソーラーパネルの25年保証もそうですが、このあたりはコスト回収を目指すうえで重要なポイントと考えられます。

ちなみに太陽光発電システムの導入にあたっては蓄電池は必須要素ではありません。とりあえずソーラーパネル(とそこから生まれた電力を家庭内で使えるようにするためのパワーコンディショナ)さえあれば太陽光で発電した電力を活用できますし、初期導入コストも抑えられます。

ただ、当然のことながら太陽が出ている間しか発電できないため、買電を抑えられるのは昼間、かつ太陽光が届く天候のときのみです。日没後は確実に買電になるので電気代がかかりますし、日中でも雲で遮られれば満足のいく発電量が得られず買電になる可能性が上がります。

ソーラーパネルのみ設置した場合の発電と電力使用のイメージ

そこで蓄電池を導入すると、発電した電力をもっと有効活用できるようになります。昼間、家庭内で使用する電力以上に発電しているときは余った電力を蓄電池に保存できるので、それを曇りのタイミングや夜間に利用するわけです。蓄電池が一杯になり、それ以上貯められない状況になったときは、電力会社に売電することも可能です。

ソーラーパネルと蓄電池を組み合わせた場合の発電と電力使用のイメージ

蓄電容量が大きければ大きいほど買電を減らせる可能性も高まります。が、容量を大きくしても、設置しているソーラーパネルでその分を発電できなければあまり意味がありません。そもそも蓄電池が高価ですし、さらにその容量に比例して導入コストが上がってしまうからです。

あえて大容量の蓄電池にし、夜間電力が安価になる契約を電力会社と結んで、夜間に買電したものを蓄電することでコストを抑える方法もあるにはあります。とはいえ、時間帯にかかわらず電気代が上がっている昨今は、それも効果的な運用方法とは言えなくなっているように感じます。

ですので、(売電をあまり意識しないのなら)設置するソーラーパネルの出力性能を元に、1日に蓄電できる電力の最大値を想定して蓄電池の容量を決める、といったようにバランスを考えてシステム構成を検討することが大事なのかな、というのが筆者の考えです。

急ぐ必要はないけれど、電気代を減らしたいなら早めに判断を

東京都の補助事業には全体の予算が設定されており、それが消化されてしまうと終了予定の2027年度より前であっても補助が打ち切られます。

2024年8月時点では予算消化率がまだ50%にも届いておらず、今のところは焦らなくても良さそうですが、いずれにしろ電気代は毎月かかってくるもの。今後の電気代を少しでも抑えたいと考えているなら、複数の業者に相見積もりを出してもらうなどして検討を始めてみてはいかがでしょうか。

2024年8月時点の予算消化率は40%を少し超えたあたり。まだまだ余裕はあるので焦る必要はありませんが……

そんなこんなで次回は、太陽光発電システムの設置後、実際にどれだけ発電でき、筆者宅での電気使用量(買電量)がどうなったのか、といったあたりをレポートしたいと思います。

次々と屋根上に運ばれていくソーラーパネル。500万円(200万円)分の効果が得られるのか、乞うご期待!
日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。