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フィルムカメラの使い方 いろいろと考えて操作する楽しさ
2024年8月13日 08:30
「カメラ」と言えばスマホの時代ですが、ここ数年来「フィルムカメラ」が特に若い人の間で流行っているようです。昭和・平成のレトロブームも相まって、フィルムカメラの写りが“エモい”ということで受け入れられているという報道をちらほら見るようになりました。
筆者は昭和生まれで、フィルムカメラはリアル世代です。とはいえ、ここ十数年はデジタルカメラやスマホばかりでフィルムカメラはほぼ使っていませんでした。しかし、今の時代にフィルムカメラ「PENTAX 17」が発売されて話題になったことも手伝い、「ちょうどフィルムカメラも家にあるし、たまには使ってみようか」ということになり、久々にフィルムでの撮影に挑戦しました。
フィルムが現役だった頃と今ではフィルムカメラや写真を取り巻く環境は大きく変わっており、驚くこともしばしばです。
デジカメとの違いとフィルムカメラの魅力
スマホやデジカメは、なんと言っても撮影してすぐに見られるのが最大の利点。黎明期には撮った写真をその場で見せるコミュニケーションツールとしても活躍しました。
フィルム代や現像代が不要なコストパフォーマンスの良さもあり、パソコンとともに90年代後半から2000年代前半にかけて急速に普及しました。撮影した画像をパソコンに取り込んで加工し、メールで送ったりWebサイトの素材にするなどパソコンとの相性が良かったためです。
一方のフィルムカメラ(「銀塩カメラ」や「アナログカメラ」とも)は撮ったその場で見る事はできませんから、ちゃんと写っているのかもわかりません。当時はフィルムのセットや撮影設定を間違えていて、現像したら何も写っていないという失敗談もよく耳にしました。デジカメではこういうことは起きないでしょう。
そして、いまフィルムで撮影することはかなりお金のかかる行為になっています。フィルムはデジカメ普及以前に比べると大幅に値上がりしており、36枚撮りのネガフィルムが1本1,500円~2,000円ほどになっています。現像代なども含めるとフィルム1本撮るために5,000円程度の出費ということです。
それでもフィルムカメラが支持されるのは、現代から見れば独特といえるフィルムならではの写りでしょう。なんともレトロ感のある色調は現代の画像処理技術でもなかなか得がたいものとなっています。
さらにフィルムカメラでの撮影を魅力的にしているのが、カメラ自体が持つモノとしての存在感でしょう。昔作られた「一眼レフカメラ」を中古品として買うこともできますが、これなどは金属のかたまりというイメージで重厚感があります。
また、新品であれば比較的低価格の「コンパクトカメラ」が数多く出ています。これらはチープな作りなのですが、そこにもまた高級品とは違った可愛らしい魅力があります。
フィルムカメラでは、「写ルンです」のように最初からフィルムが詰まっているタイプも人気です。カメラ本体を用意しなくて良いので、気軽にフィルム撮影を体験できます。
フィルムの選び方
量販店やECサイトでは様々なフィルムが売られています。フィルムカメラブームもあって、海外メーカーからは新製品が毎年のように登場しています。
どんなフィルムを選べば良いのか迷うところですが、今回は35mmカメラを前提に、初心者が入手しやすいフィルムを挙げたいと思います。
フィルムを選ぶポイントは以下になります。一つずつ見ていきましょう。
- フィルムサイズ
- カラーかモノクロか?
- ネガかリバーサルか?
- 撮影可能コマ数
- デーライトかタングステンか?
- 感度
- フィルムブランド
フィルムサイズ
今回は35mmカメラを使うので、35mmフィルムを選びます。このサイズは「135フィルム」とも呼ばれているので、いずれかの表記のあるものにします。
カラーかモノクロか?
これは撮影目的に応じて好きな方を選びます。フィルム写真の雰囲気を味わうならまずはカラーがおすすめです。価格が安めのフィルムはモノクロタイプが多いので、カラーで撮りたいのにうっかりモノクロフィルムを買ってしまったということの無いようにしましょう。
一方のモノクロフィルムも人気は高く、フィルムの銘柄としてはカラーよりも多くなっています。いずれモノクロに挑戦してみるのも面白いと思います。
ネガかリバーサルか?
写真フィルムには「ネガフィルム」と「リバーサルフィルム」(ポジフィルム)の2種類があります。リバーサルフィルムは、色が反転せずそのまま記録される方式で、画質に優れるほかスライドプロジェクターで投影できるメリットがあります。しかし、リバーサルフィルムは高価な上に、露出設定がシビアなためプロや上級者向けとなっています。
ネガフィルムは明るさや色が反転して写るタイプで、フィルム自体を鑑賞できませんが、多少露出が外れていてもプリント時に補正できる範囲が広く使いやすいタイプです。今回はこのネガフィルムを使いました。
撮影可能コマ数
1本のフィルムで撮影できるコマ数のことです。35mmフィルムでは「36枚撮り」が昔からスタンダードな枚数となっています。ほかには「24枚撮り」というタイプが多く、価格が36枚撮りに比べて安くなっています。ただ、同じ銘柄だと1コマあたりの金額は36枚撮りの方が安くなります。また少数ですが「27枚撮り」のフィルムもあります。
デーライトかタングステンか?
デジカメで言う「ホワイトバランス」に相当する部分です。基本的にフィルムカメラはデジカメのようにカメラでホワイトバランスは変えられません。フィルム自体が特定のホワイトバランスにセットされて作られているということです。
フィルムでは2種類あり、「デーライト」タイプは太陽光下で、「タングステン」タイプは電球の光でそれぞれ正確な色になるようになっています。一般的な用途ではデーライトタイプが使いやすく、今回はこちらを選びました。
ちなみに、デーライトタイプを電球照明で使うと赤っぽい発色になります。一方タングステンタイプを太陽光下で使うと、とても青っぽく写ります。
感度
「ISO感度」とも呼ばれ、「ISO ○○」のようにISOの後に数字で表示されています。数字が大きいほど感度が良く、暗い場所でも速いシャッター速度が切れるので、ブレにくいメリットがあります。
昔はISO 100が標準的に使われていましたが、スマホやデジカメが高感度化した現代ではどちらかというと低い感度になりました。晴天の日中であればISO 100のフィルムで問題ありませんが、薄暗い場所や室内ではもう少し感度の高いフィルムが使いやすいと思います。そこで今回はISO 400を選んでいます。
フィルムは高感度になるほど粒子が粗くなりザラザラした写りになるので、画質の点からは低感度フィルムが好まれます。他方で、粒子が粗いほうががスマホの写真との違いが出るのでフィルムの妙味とする考え方もあるでしょう。価格面では、一般的に高感度になるほど高くなる傾向があります。
なお、現在ラインナップされている唯一の「写ルンです」である「写ルンです シンプルエース」は汎用性からかISO 400が採用されています。
フィルムブランド
フィルムにはたくさんのブランドがありますが、なんと言っても富士フイルムとコダックの2つが有名。入手性が良いのに加え、一般的な写真店であれば、まず現像を受け付けてもらえます。これからフィルムカメラを始めるならこの2ブランドでスタートするのが良いでしょう。
今回使用したのはニコン「New FM2」
今回使ったカメラはニコンの「New FM2」という1984年に発売された一眼レフカメラです。20数年前、学生の時に購入してよく使っていました。
New FM2といえばフルマニュアル操作が特徴で、さらに機械式シャッターを搭載していることから「電池が無くなっても撮れる」という質実剛健さが売りでした。久々に手にしてみると露出計やシャッターも問題無く動いていました。
このカメラは自動露出機能がありませんので、絞り値とシャッター速度は自分で露出計の表示を見ながらセットします。オートフォーカスもありませんので、ピント合わせもレンズのリングを回して調整します。さらにフィルムの巻き上げや巻き戻しも手動という大変スローなカメラですが、そこが魅力でもあります。
まずフィルムのセットですが、屋外で詰める場合は日陰に入るか、自分の体で日陰を作ってセットします。35mmフィルムは缶(パトローネ)に入っていますが、明るい光を受けるとわずかに感光してしまう可能性があるためです。
フィルム感度は自動設定されるカメラも多いのですが、このカメラは自分でセットしなくてはなりません。シャッター速度ダイヤルを持ち上げて回し、ISO 400に合わせます。
フィルムカウンターが1になるまで空シャッターを切ったら、撮影の準備は完了。あとは、「ピント合わせ→露出設定→シャッターボタンを押す→巻き上げる」を繰り返すだけです。シンプルなカメラなので、使い方はすぐに思い出すことができました。
注意したいのは、フィルムを撮りきって巻き上げるまでは裏蓋は開けてはいけないと言うこと。感光して写真がダメになってしまいます。フィルムは現像するまで像は出ませんから、裏蓋を開けてフィルムを直接見ても画像は確認できません。
フィルムを撮りきったら、巻き戻クランクを回してフィルムをまた缶に戻します。これでフィルムを取り出すことができます。この後は、写真店に持ち込んで現像を依頼します。
お店で現像+画像データ化+プリント
今回は「カメラのキタムラ」で現像することにしました。店舗によっては「最短1時間仕上げ」も可能だそうです。今回はその中から「新宿・北村写真機店」を選びました。
35mmカラーネガフィルムの現像は950円です。現像しただけでは写真として利用できないので、今回はデジタルデータとしてダウンロードできる「スマホ転送」サービスを利用しました。
スマホ転送は880円ですが、さらに画質の良い「スマホ転送 高画質」というメニューがあります。こちらは1,980円なのですが、カメラのキタムラのWebサイトで両者のサンプルを見ると、結構画質に違いがあるようです。
スマホ転送は約250万画素なのに対して、スマホ転送 高画質は約1,300万画素。データを元にプリントしたりと今後の活用を考えると高画質タイプが有利だと思い、今回はそちらにしました。
デジタルデータだけでも良いのですが、紙焼きも見てみたいので同時プリントもお願いしました。価格はLサイズが1枚58円で、36コマプリントすると2,088円となります。ところが、カメラのキタムラでは「得プリパック」というサービスがあり、現像とデータ保存をセット注文すると36枚撮りのプリントが800円になります。
ということで現像、デジタルデータ、プリントで支払った金額は、ネガカラーフィルム現像:950円+スマホ転送高画質:1,980円+得プリパック:800円で、合計3,730円となりました。
デジタル化サービスは、以前はCDに記録というお店が多かったと思いますが、ダウンロード方式になってスマホでも扱いやすくなりました。今回は現像に出したその日にダウンロードできるようになっていたので、SNSにもすぐにアップロードできます。今はCDドライブを持っていない人も多いでしょうから、助かるサービスです。
写真はスマホとは異なる仕上がり
「スマホ転送 高画質」でダウンロードした写真の一部をリサイズして掲載します。元画像は4,192×2,881ピクセルのJPEGデータでした。スキャンの際に多少補正が入っているかも知れませんが、全体的にフィルムらしい色味といえるでしょう。
デジタルデータ、紙焼きともフィルムの記録エリアからは一回りトリミングされていました。撮影の際は少し広めに撮っておくのも手でしょう。
見下ろした交差点ですが、色味やコントラストなど一見してスマホとは異なる写り方です。植物のグリーンも落ち着いた色になっています。
こちらもフィルムらしい落ち着いた空の青色になりました。逆光ですが嫌な白トビの仕方では無く、空にグラデーションが残っていました。
歩いていると、今風のメッセージが書かれた服が目に止まりました。黒い部分に僅かに緑色が乗っているのもフィルムらしいところ。
ネガフィルムはダイナミックレンジ(記録できる明るさの幅)が広いので、車内と車外という輝度差の大きいシーンでも破綻なく収めてくれます。
ぬいぐるみがたくさん飾られた壁を発見。全体的にやさしく懐かしさのある描写になりました。同じ場所をスマホでも撮りましたが、もっとパキッとした描写でした。
夕方の空を撮ったものですが、こうした何でも無いようなものも絵になるのがフィルムの良いところ。空の色の微妙な変化も再現できていました。
夕やけも綺麗な色で写すことができました。デジカメのようにオートホワイトバランスで補正されないので、夕陽はより赤っぽく写ります。
ISO 400の高感度フィルムを使ったので、日が落ちてからの手持ち撮影もブレずに撮れました。夜も撮るならISO 400以上がおすすめです。
レンズ交換式カメラは、コンパクトカメラに比べて大きなボケを使った表現ができるのも強み。ここでは、ショーウィンドウに写り込んだ街並みにピントを合わせてみました。
ホワイトバランスが固定なので、暖かみのある環境光がほぼそのままの色で写ったと思います。これはこれで良い雰囲気です。
フィルムカメラでデジタルデトックス
フィルム撮影のコストは1コマ100円以上ということで、1枚1枚を慎重に撮ってしまうのはデジカメとの大きな違いでしょうか。多くのシーンをフィルム1本で撮りたかったので、同じシーンで何枚も撮らず、よく考えて基本的に1枚で押さえるようにしました。
散歩をしながら半日ほどで36枚を撮りましたが、どんな風に撮れているのかがわからないのはやはり不安な点。ですが、プリントを受け取るとしっかり写っていて安心しました。フィルムでの撮影は概念がわかってしまえば難しいことはなく、やってみたら思いのほか簡単だったと感じることでしょう。
自分でいろいろと考えて操作するプロセスは、すっかり“全自動AIマシン”となっている現代のデジカメやスマホでは味わえない楽しい部分。デジタルデトックスにもなりそうなフィルムカメラに一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。