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ブレンディのパウダー飲料「マイボトルスティック」に活かされたコーヒーの技術

梅雨があけてからは連日の猛暑で、ニュースなどでも「こまめに水分補給をしましょう」というフレーズを耳にしない日はありません。通勤や買い物など、少しの外出でも飲み物が欠かせない、という方も多いのではないでしょうか。

外出のたびにペットボトル飲料を買うのは金銭的にもったいないですし、エコの観点からも気になります。かといって、マイボトルを持参するとなると、飲み物を自分で作るのが面倒でなかなか続かなかったり、いつも同じ水やお茶ばかりで飲み飽きてしまったり、ということも少なくありません。

そんな困りごとを解決してくれるのが、自分で水やお湯に溶かして作るスティックタイプのパウダードリンクです。この市場に、味の素AGFが「ブレンディ」ブランドで参入し、「ブレンディ マイボトルスティック」を3月に発売しました。その誕生の背景について、開発・販売元である味の素AGFにお話をうかがってきました。

味の素AGF コンシューマービジネス部 中村厳海さん(左)と増田修さん(右)

マイボトル市場は着実に拡大している

味の素AGFといえば、コーヒーやお茶のイメージがあるかもしれませんが、実は同社はそれだけにとどまらない総合嗜好飲料メーカーです。日常の中にある、ありとあらゆる「飲む」シーンに注目しており、人が1日の中でどのようなシチュエーションで、どのような飲み物を、どれくらい飲むのかといったデータを細かく調査しています。

その中でも、「マイボトル」に着目したのはなぜだったのでしょうか? マイボトルスティックの企画開発を担当された、同社のコンシューマービジネス部 ニューフィールドグループの増田修さんいわく、「マイボトルの飲用杯数は全体の割合からするとまだそこまで多くはないかもしれませんが、着実に伸びている市場です」とのこと。

増田修さん

味の素AGFの調査(2023年10月、n=10,000)によると、マイボトルの保有率は約70%で、保有本数は約1.1億本。1年以内の使用率は約57%と推計されており、マイボトルでの飲用杯数は前年比で見ても毎年10%程度の伸びがあることから、今後も拡大が見込めます。そこで、増田さんは「このマイボトルをひとつのハードとしてとらえた時に、その中身であるソフトを供給することで、世の中や生活者に貢献できないか」と考えたのだそう。

筆者はなんとなく、マイボトルの使用者は女性が多いというイメージを持っていたのですが、調査によると女性ユーザーは6割弱で、実際には老若男女を問わず幅広い層がマイボトルを使用しています。中に入れる飲料は水やお茶などで、朝に家で作って職場などに持っていくパターンが多いとのこと。水分補給の意味合いもありますが、オンタイム中の休憩やリフレッシュも兼ねて少しずつ飲まれる、というのがよくある利用シーンです。

スティック1本で楽しめる手軽なパウダードリンク

そんな背景から生まれたのが、ブレンディ マイボトルスティックです。最大の特徴は、「スティック1本で350〜500mlのドリンクを作れる」とあるように、溶かすための水の量に幅を持たせたこと。増田さんによると「調査では使用されているマイボトルの容量は350mlから500mlの構成比が高かった」ため、その範囲をしっかりカバーしたい、というのが当初からのコンセプトだったんだとか。

もうひとつの特徴は、「サッと溶けること」です。パウダーをマイボトルに入れ、水やお湯を注ぎ、5秒ほど軽く振るだけですっかり溶けてしまいます。ティーバッグや茶葉と比べると、抽出を待たなくていいというのは、“タイパ”が気になる朝の忙しい時間には特に嬉しいポイントです。また、オフィスでは濡れたティーバッグなどの処分に困ることがありますが、片付けが楽な点も助かります。

パウダーを入れて
水を注いで
5秒ほど軽く振るだけで完全に溶ける!

“コスパ”の観点から見ても、6本入り300円前後(編集部調べ)なので、1杯あたりのコストは約50円と、自動販売機やコンビニなどでペットボトル飲料を購入するよりもかなり経済的。手間をかけず、リーズナブルにマイボトルライフを楽しめます。

フレーバーのラインアップは、マイボトル利用者に人気の飲料から選ばれました。甘みのないお茶系のフレーバーが4種に、甘味料を加えて水分補給シーンでの飲用も意識したレモン、アセロラの2種を加えた全6種がそろいます。6種のうち4種がノンカフェインというのも、水分摂取量が増える今の季節にはありがたいなと感じました。

マイボトル利用者のニーズに合わせた全6種のフレーバー。コンセプトとして「リラックス」「リセット」「リフレッシュ」の3つに分けられている

よりパーソナルな飲用シーンに着目

実は、マイボトルスティックには前身となる商品、「ブレンディ ザリットル」があります。こちらも水に溶かして作るパウダードリンクですが、名前の通り1本で1Lのドリンクが出来上がります。

ザリットルも発売直後から好評で反響も大きかったそうですが、やはり1Lという容量はどうしても家庭向けです。「ザリットルもファミリー飲料としてはいいんですが、マイボトルにもその考え方を適用できないかなと考えました。よりパーソナルなタイプで、色んな味のものをその都度飲めるように、1人用のサイズで、この入り数(1箱当たり6本)になりました」(増田さん)

たしかに、仕事中の飲み物はリフレッシュの意味合いもありますので、その日の気分によって様々な種類を味わえるというのはありがたいなと感じました。

「容量に幅を持たせる」ことの難しさ

それにしても、1本のスティックで350mlでも500mlでも美味しく飲めるようにというのは、素人からみても実現が難しいコンセプトであるように思います。その常識はずれな命題をどのように克服したのか? マイボトルスティックの研究開発に携わった、コンシューマービジネス部 ニューフィールドグループの中村厳海さんにうかがいました。

「たしかに、水を多く入れると固形分としては薄くなります。でも、薄くはなるんですけど、飲んだ時の人の感じ方として薄く感じさせないように、香料をはじめとする様々な成分の配合を調節しています」(中村さん)

中村厳海さん

それには、ブレンディシリーズ全体で培ってきた技術も活かされているのだそう。「ブレンディの従来のスティックにしても、やはり“180mlで”と指定しているとはいえ、お客様は実際には200mlや220mlで飲まれていることがあります。それでも満足できるようにと追求してきた中で分かったノウハウや技術を横展開しているところもあるので、まったくのゼロベースではありません」(中村さん)

なので、「容量に幅を持たせたい」という一見すると無茶ぶりのようなリクエストに対しても、「まあ、そりゃそうだよね」というスタンスで対応できたのだそう。

とはいっても、やはり350mlでも500mlでも美味しく、というのは容易なことではありません。香りの成分など様々な調節を行なう必要があったため、ひとつのフレーバーを決めるのにも試作は100種類以上にもなったんだとか。

水にもお湯にもサッと溶けるというこだわり

また、ブレンディシリーズを冠するからには、水にもサッと溶けなければいけないという高い社内基準もありました。マイボトルは、季節を問わず年間を通して使用されるものです。夏は冷たいもの、冬は温かいものを入れますし、最近では常温で、というパターンもあります。しかしパウダードリンクは、お湯はともかく、水でもサッと溶けるように作るのは非常に難しいのだそう。

ここでも、同社がこれまでインスタントコーヒーを製造する中で培ってきた、冷水可溶造粒の技術(マイボトルスティックで同技術を使用しているのは、ジャスミンティーとグリーンティーの2品種)が活かされています。

コーヒーやお茶の液体を乾燥させていくと、通常は粒の中に空気を抱き込んだような状態になってしまいます。こうなると、粒は水に浮いてしまって、なかなか溶けません。

空気を含んだパウダーは水に溶けにくい

そこで、粒をいったん砕き、改めて粒として成型(=造粒)します。造粒することで粒子自体が多孔性になり、毛細管現象で水を吸い込み溶けやすくなるのだそう。

粒をいったん砕き、改めて造粒する

ホット専用の商品(冷水可溶造粒ではない)と、冷水可溶造粒の商品を水に溶かして比べてみると、その差はまさに一目瞭然です。

インスタントコーヒーの冷水可溶造粒の商品(左)とホット専用の商品(右)で比較。水に入れた後、ホット専用は溶けずに浮いている
「ブレンディ」インスタントコーヒーの溶けやすさ比較

また先ほどのお話にもあった、容量に幅を持たせるために加えるフレーバーも、ものによっては水に溶けにくいことがあります。少ない使用量でもしっかり効果が発揮されるように、成分自体を改良したり、入れる量やバランスを細かく調整したりすることで、溶けやすさを実現しました。この圧倒的な技術とノウハウの蓄積が、他社の追随を許さない同社の強みになっています。

試作や試飲のために研究所にあるマイボトルは、100本以上にもなるのだそう。ボトルごとの素材の違い、容量の違い、飲み口の口径の違いなどによって、それぞれの溶け方や口に含んだ時、飲み込んだ時の味わいの違いを確かめながら、ようやくレシピが完成します。

パッケージには様々な種類のマイボトルに対応することを記している

マイボトルスティックを「飲み物」の新しい選択肢に

ブレンディ マイボトルスティックは、3月1日の発売から5カ月弱が経過しました。増田さんによると、売上は「前身であるザリットルを上回るレベルで好調に推移しています」とのこと。

興味深いのは、マイボトルスティックはお店によって売り場がバラバラなこと。コーヒーの棚だったり、お茶の棚だったり、パウダータイプのスポーツドリンクの棚だったりと、色々な場所に並んでいます。新しいジャンルの商品なので、最適な売り場をお得意先様と一緒に検証させていただいているのだそう。

また、新しいジャンルということで、コーヒーなど従来の飲料とは飲むシーンがかぶらない、というのも面白いところです。

「コーヒーと比較すると、マイボトルスティックのようなお茶系の飲料の方が、飲まれる方の年齢層が少し若いです。それに、マイボトルとカップでは飲むシーンも違いますし、飲んでいる時の気分も違います。この商品でなければアプローチできないお客様もいらっしゃいますので、コーヒーとニーズを奪い合うというよりは、従来のブレンディシリーズとも相乗効果の中でやっていけると考えています」(増田さん)

かくいう筆者も、取材をきっかけにマイボトルスティックの愛用者になりました。朝、ボトルで作って冷蔵庫に入れて、日中は在宅ワークの気分転換に飲んだり、買い物の時はそのまま持ち出したりと、すっかり生活のルーティーンに溶け込んでいます。お茶系のフレーバーは、ティーバッグでいれたものと比べてもなんら遜色のない味わいで驚きました。中村さんよると「新たなフレーバーも研究中」とのことなので、今後の展開がますます楽しみです。

ペットボトルの消費が気になる、でもマイボトルってなんだか面倒くさそう、と二の足を踏んでいる方は、この夏ブレンディ マイボトルスティックで、マイボトルデビューをしてみてはいかがでしょうか。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。