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「バチバチにやりあっていた」ドコモとハロサイが提携 共に目指す未来

ドコモ・バイクシェアとOpenStreetが業務提携に合意

ドコモ・バイクシェアとOpenStreet(HELLO CYCLING)が、7月10日に共同会見を行ない、事業提携を発表した。両社はシェアサイクルを中心としたシェアモビリティの事業者で、ドコモ・バイクシェアはその名の通りNTTドコモの、OpenStreetはソフトバンクやLINEヤフーなどが中心となって出資しており、親会社の携帯電話事業と同様に直接的に競合する関係にある。

ドコモ・バイクシェアはシェアサイクルの利用回数で、OpenStreetはステーション数でそれぞれ国内No.1の事業者だ。これまでは「バチバチにやりあっていた」と言う両社が、事業の要とも言えるポートを共同利用するなどの事業提携の合意に至った理由や、今後の展望をドコモ・バイクシェアの武岡社長とOpenStreetの工藤社長にインタビューした。

OpenStreetの工藤社長(左)とドコモ・バイクシェアの武岡社長(右)

両社は会見で、2025年度を目標にポートの共同利用開始を目指すことを明かした。ユーザーとしては、ドコモ・バイクシェアとOpenStreetが隣接または混在している全ての都市で、ポートを共同利用できるようになる……という、大きな期待も膨らむが、ポートの共同利用は限られたエリアからのスモールスタートとなる。ポートの共同利用が最初にスタートするエリアは、横浜市が有力な候補だ。

ポートの共同利用などの提携、まずは横浜市が候補になる

横浜市では、2014年より臨海部でドコモ・バイクシェアによる「baybikeが」、また2022年6月より市内中部エリア(保土ケ谷区、戸塚区、旭区、緑区、瀬谷区、泉区)でもドコモ・バイクシェアによるシェアサイクルが展開されている。

他方、市内の北部・南部(青葉区、都筑区、港北区、鶴見区、神奈川区、南区、港南区、磯子区、金沢区、栄区)はOpenStreetの連携事業者によるシェアサイクルが展開されている。

このように、現在は同一市内でもエリアごとに異なるシェアサイクル事業者が採択され事業を展開しているが、横浜市の「2025年度以降のシェアサイクル事業実施方針(案)」にて、同市は市内全域を1つの事業エリアとする事業者を公募している。ドコモ・バイクシェアとOpenStreetは、共同提案の形で横浜市の公募に手を挙げるという。

横浜市(中部広域)のドコモ・バイクシェアポート(TSUTAYA BOOKSTORE 弥生台)
市内中部と北部・南部で異なる事業者が展開している(出典:横浜市記者発表資料
共同ポートのイメージ(横浜市)

都心部の新規ポート開拓が難しい

ただ、ドコモ・バイクシェア 武岡社長は、提携に至った直接の理由は、横浜市における事業者公募ではなく、特に都心部において新規ポートの開拓が難しくなってきたことが理由と明かした。

Q.横浜市の公募に手を挙げることがスタートとなり、提携に至ったのでしょうか?

ドコモ・バイクシェア 武岡氏:いいえ。実はもっと前から考えていました。もともとは、ポートの新規開拓が難しくなってきたことが出発点です。

新規開拓する際、「競合の事業者が民有地をシェアサイクルで使う場合の賃料相場はこのぐらいです、ドコモ(バイクシェア)さんはその値段なんですね……。それだとオーナーとして厳しいです」と言われるような事例が増えてきたんです。ポートを設置できる公有地(役所や公園など)も限られている上に、シェアサイクルのポートを道路上に設置するために必要な許可が多く、ポートの開拓に一番苦労しています。

また、自治体との取り組みで、複数のシェアサイクル事業者が同じ場所を分割してポートを設置する例がありますが、これも土地の利用効率が上がるわけではない。これが面的に増えていくと、ユーザーから見ると使いづらい小規模なポートが増えることになりかねません。こうした、ポートを新規で開拓することの難しさが大きなトリガーになっています。

新宿駅近くの小田急サザンタワー、ドコモ・バイクシェア、OpenStreet、LUUPのポートが並列で並ぶ

武岡:これを乗り越える方法は非常にシンプルで、ポートを動的に管理すれば良いんです。ただ、我々が持っている都心部の大きめのポートをOpenStreetさんに開放するだけでは、我々の事業で見ると、ポート内に利用できる自社のスペースが減少するので、ビジネス面でマイナスの影響しかありません。

これが、ビジネス的に両社プラスになって、なおかつ取り組む意義がある内容ってなんだろう? と考えて、ポートを動的に共用しよう、システム面や技術面での共通性を持つ、エリアを補完しようという運びになりました。

連携によって(ドコモ・バイクシェアから見て)郊外に広がるエリアを、従来通りの強みを活かしたオペレーションを維持、さらに効率化できるかどうかも重要です。これらの課題が全て解決して、成功と言えるんだと思います。

ドコモ・バイクシェアの自転車を再配置する車両

OpenStreet 工藤氏:今、武岡さんが仰った点が揃っていない状態だと、我々(OpenStreet)の自転車が郊外から都心部に入っていき、ドコモ・バイクシェアさんの自転車が都心部から郊外に散っていくだけになってしまう。これは、理想的な展開のように思えますが、車両の再配置などを含めて考えると、実はあまり意味がありません。

中心部のオペレーションはドコモ・バイクシェアさんにお任せして、郊外エリアに出てきた自転車はHELLO CYCLING側で対応するなど、お互いの強みをかみ合わせた状態が作れれば、エリア全体としての利用回数が増え、収益も増えていくと予想しています。車両の再配置に関して言えば、OpenStreetはシェアモビリティのプラットフォーマーなので、自社では再配置などは行なっておらず、地場のパートナー企業さんにお願いしています。

HELLO CYCLINGプラットフォームで展開する静岡市のシェアサイクル「パルクル」(TOKAIケーブルネットワークが運営主体)

どのエリアで組むのか? ポートの共同利用に必要な条件

Q.横浜市は地区ごとに事業者が分かれていますが、東京都心部など両社のエリアが混在している都市でも、ポートの共同利用は進むのでしょうか?

武岡:前提として、対象となるのはドコモ・バイクシェアの直営エリアになると思っています。具体的にはこれから検討を行ない議論をしていきますが、そういった都市でも上手に連携ができないと、提携の効果がマイナスに出てしまうことを危惧しています。

というのも、バランスの良いオペレーションを作り上げないと効率が悪化してしまい、結果的に採算性が悪化するリスクがあります。

ドコモ・バイクシェアは東京や大阪などのエリアを自社で直営。札幌市(ポロクル)、名古屋(カリテコバイク)などはASP展開している

工藤:東京都内で言えば、例えば練馬区ではドコモ・バイクシェアさんと我々が混在している状況です。一方で、都内でも東部には明確な境目があるエリアもあります。東京に近い状況の都市としては、大阪市があります。

大阪市は現在、行政がシェアサイクルを積極的に支援する動きは強くないので、例えば2社で連携することで、支援をしていただきやすくなる…ということがあれば嬉しいですね。横浜市や大阪市でオペレーションを確立させて、それを東京でもできれば、かなり大規模な連携が実現する…という絵を描いています。

東京都練馬区のサイクルポート、公用地ではOpenStreetとドコモ・バイクシェアが並列している場所が多い

Q.提携するエリアは、全てのポートを共用するのでしょうか?

武岡:段階をおって共用ポートを増やしていくイメージです。最初からエリア内の全ポートを共用してしまうと、再配置などのオペレーションが破綻する可能性が高いので、少しずつ広げていくことをイメージしています。我々が困ってしまうのは、飛び地に自転車が行ってしまい、その飛び地のためにオペレーションの効率性が下がってしまうことが心配です。

契約上の話をすると、民有地も公有地も、我々の自転車だけでなくOpenStreetさんの自転車も停めるようになります。という契約への変更が必要になるので、相談して合意を得る必要はあります。ポートの共用によって利便性が上がると、地主さんへお支払いする賃料も増えますので、基本的にご迷惑をおかけすることは無いと考えています。

地主さんとの契約主体ももともとの事業者から変わらず、連絡先についてもこれまで通りの事業者が対応を行ないます。その上で、我々とOpenStreetさんで必要なお金をやりとりするイメージです。

「エリアだけ」でない提携の価値と狙い

Q.他のシェアサイクル事業者が提携に加わることはあるのでしょうか?

武岡:まず、今回の提携は、エクスクルーシブ(排他)ではありません。ただし、基本的にエリア補完性がないと意味がないと思っています。特に、地方都市などそれほど大規模でないエリアにおいては、提携して展開するよりも単独で運営した方が効率も高いですし、しっかり1社で責任が取れるという意味でも、単体での展開にメリットがあります。ですので、連携については主要都市が当面のターゲットとなりますし、今後の展開するエリアを全部2社で提携してやっていく、という話ではありません。

エリアの補完性の面で言えば、弊社とOpenStreetさんではエリアが補完関係にある都市がいくつかあります。そうした都市については、今回の提携の中で、次はどこにしましょうか? という具合に展開を加速させていきたいと思っています。ただ、ドコモ・バイクシェアとしてもOpenStreetとしても排他ではありませんので、他社との提携の可能性が全く無いわけではありません。

ですが、エリアの補完性に加えて、オペレーション面での連携も非常に重要です。弊社とOpenStreetさんの自転車は、パナソニックさんとヤマハさんを主に採用しています。これらの車両は、アシストのバッテリーが共通です。バッテリーが共通化されていれば、車体の形状や区分が多少違っていても、オペレーションが効率化できます。今回の取り組みは、効率性を下げずにエリアを広げる手段として、1社ではできないことを協力してやりましょう。という形です。

瀬戸内海の小豆島、シェアサイクルは「HELLO CYCLING」が独占状態

工藤:我々の立場からエリアの補完性という面で見ると、中心部に展開するドコモ・バイクシェアと、LUUPさんはある意味で似たような見え方です。ただし、バッテリーや乗りものが共通化されていないので、現状でLUUPさんと同じことをやろうとしても、単純なポートの共用だけになります。

過去に、さいたま市で弊社(OpenStreet)とLUUPさんが割譲型で同じポートを使う例があったんですが、連携の効果は顕著とは言えませんでした。オペレーション面を含めて考えると、ドコモ・バイクシェアさんと話を進めるのが、必然の流れだったのかなと思います。弊社とドコモ・バイクシェアさんが同じバッテリーを使っているのは、もとから提携などを意図していたわけではありませんが、国内メーカーの車体を選んだ両社の合理性が、提携に結び着いたとも言えます。

HELLO CYCLINGでは、Eバイクタイプの「KUROAD」や、「KUROAD Lite」も展開していますが、このうち街中でも見られる「KUROAD Lite」については、パナソニックさんのバッテリーを搭載していますので、実はオペレーション連携が可能です。

Q.今後、自転車を共同調達することもあり得るのでしょうか?

武岡・工藤:会見でお話した共同調達は、どちらかと言えばポートに使うラックや看板、ポートに設置するビーコン、自転車のバッテリーなどの部品をイメージしています。こうした備品類は、共通で使っているものが多くなっているためです。一方で、自転車はかなりハードルが高いと思います。我々が自転車を共同調達したとしても、自転車メーカーからみると取引の規模が大きいとは言えず、スケールメリットがあまり無いんです。それに、乗りものを共有したらほぼ共通サービスになってしまいます(笑)。車両やアプリの使い勝手などの顧客接点については、今後とも競争を続けていくでしょう。

Q.今後、お互いの会社に期待することを教えてください

武岡:OpenStreetさんはプラットフォームを展開し、水平分業で多数の事業者さんと連携して運営されているので、今回の提携で難易度が高いのはオペレーション側と認識しています。我々とOpenStreetさんの間では方向性をすりあわせができていますが、ネットワーク事業者も含めて、エリア全体をより便利にするという方向性を共有できるように、チームを意思統一して欲しいなと思います。やはり、スタート後は現場が一番苦労すると思いますので。

工藤:我々は、ドコモ・バイクシェアさんの後発の2016年にシェアサイクル事業をスタートしました。ですので、スタート時点で都心部にいるドコモさんを、いかに攻略するか?というスタンスだったんです。ただ、ここまで事業を展開するなかで、攻略ではなく一緒にシェアサイクルを普及させる時間軸を5年、10年早める取り組みを進めましょう、という方針に転換しています。提携によって、オペレーションの課題も出てくることは予測できますが、可能な限り全体で連携をして、ユーザーの利便性を広げていくところまで取り組んでいきたいと思っています。

武岡:シェアサイクルは、運転者=利用者の「1人1台」なので、当然限界はあるんですが、日本の社会課題や交通課題が悪化していく中で、今回のような取り組みで、持続性を持てるようになれば、よりお役に立てるんじゃないかと思っています。

工藤:そうですね、多分もう(用地の)取り合いは終わりかなという、潮目がここで大きく変わるんじゃないかと思っています。ユーザーさんとしては、ドコモさんのポートがHELLO CYCLINGに変わっても嬉しくないじゃないですか、逆も同じですけど(笑)。これは、ポートの共用でしか解決できないと思うんです。

武岡・工藤:携帯電話のMNP合戦と同じですけど、賃料合戦のようになってしまい、コストが高くなってしまうと、事業者の体力を奪うだけになります。それよりは、相互利用によって価値を生み出していけるほうが、コスト効率が良いですよね。過当競争で場所代が高くなる、そしてユーザーを奪い合って利用料金を下げるようになってしまうと、マーケットとしては広がらないので、そうはならないように目指していきます。

島田 純