トピック

新NISAが変えた投資の風景 PayPay証券 急拡大の半年

PayPay証券 番所健児社長

1月にスタートした新NISAをきっかけに投資をはじめる人が急増している。2024年3月末時点のNISA口座数は2,323万口座。昨年3月末の1,874万から約450万増えており、さらに4月以降も新規の口座開設は増えているようだ。

新たに投資を始める人、初心者・入門者が増えている中で、7月に入って日経平均は再び4万円を超えるなど、投資環境もかなり良い状況。そうした中、証券各社は新規顧客獲得にしのぎを削っているが、中でも大きく加入者を伸ばしているのがPayPay証券だ。

口座数は2月末で100万を超え、5月末時点では115万口座、NISA口座も6月に30万口座を突破した。同社は“ネット証券”としては最後発で、前身となるスマホ証券「One Tap BUY」からPayPay証券に社名変更したのはわずか3年前(2021年2月)。そのPayPay証券が、NISAのネット証券における口座数で、楽天証券とSBI証券、マネックス証券に次ぐポジションを取ったという。

なぜ、PayPay証券は新NISAの“波”に乗れたのか? PayPay証券の番所健児社長に聞いた。

300万口座は「時間の問題」

PayPay証券の最大の特徴は、キャッシュレスサービス「PayPay」との連携だ。6,000万ユーザーを誇り、誰もが知るPayPayアプリから使えることもあり、PayPayユーザーを中心に伸ばしている。

番所社長は、この半年の手応えとして、「『はじめての資産運用はPayPay証券』として、未経験者や初心者を開拓して大きく伸ばす。そこは全て達成できたと思っています。オンラインの証券会社としてトップ6入りして、顧客基盤が成長している。政府が『資産運用立国』として力をいれている中、未経験者・初心者にユーザーフレンドリーなサービスとして我々が選ばれている。ここは良かったと思っています」と語る。

新NISAがスタートして半年経過したが、新規口座開設は引き続き順調に伸びているという。短期的な目標は公開していないが、「(PayPay証券が)200万口座とか300万口座の証券会社になるのは時間の問題だと思っています。まずは2024年も昨年と同じ“倍増”を狙っています。高い目標を掲げていくのは、(決済サービスの)PayPayの開始当初と同じですね。PayPay証券の目標としては『新NISAでナンバーワン』です」(番所社長)。

新NISAがスタートしてからの反応としては、「資産運用をはじめたい。これは全世代の課題だと痛感しました。他のネット証券と比べると、買える銘柄は絞っていて、商材も多くはない。それでも95%ぐらいの新規加入者の方は現役世代。(前身の)One Tap Buyの時代は米国株をスマホで買えるサービス的な使われ方でしたが、今はメイン口座。貯蓄から積立の習慣を身に着けようとしている多くの人の支持を感じています」と語る。

PayPayという「わかりやすさ」

証券会社の商品展開としては、競合に負けないよう商品ラインナップを増やし、その充実をアピールするのが一般的だ。ただし、PayPay証券は投資信託や国内・米国株の主要銘柄はカバーしているものの、“数”の面では他証券会社より少なくなっている。この点について、番所社長は「(商品が)全部揃っている、調べればなんでも出てくる、ということが必ずしも正解ではないと感じている」という。

「我々は、投資を始めようとしている人が何を不満に思っているのか。はじめられないのはなぜなのか。なにをわからないと感じているのか。徹底的に議論してました」とし、選びやすさ・わかりやすさを重視した商品展開が支持されていると語る。「わかりやすさ」にこだわったサービス展開は、今後も重視していくという。

前述の「わかりやすさ」は商品の種類だが、もうひとつの「わかりやすさ」が「PayPayであること」だ。

PayPay証券は、基本的にはPayPayのミニアプリ「PayPay資産運用」を立ち上げて、積立等の設定や株式投資を行なう。6,000万人以上が“すでに使っている”PayPay上のサービスのため、資産状況のチェックや設定などもすぐに行なえる。そしてPayPayは決済=「お金」のイメージが定着しているため、お金のサービス=PayPay証券と想起されやすくなっている。

もうひとつのPayPayならではの強みが、PayPayポイントを擬似的に運用できるミニアプリ「PayPayポイント運用」だ。PayPay証券の新規口座開設は、このPayPayポイント運用からの誘導が「80%を超えている」とのことで、PayPay上で新規顧客獲得のためのエコシステムが構築されているわけだ。

PayPayポイント運用は1,700万を超えるユーザーが存在し、ポイントで投資できるサービスだ。ネット証券最大手のSBI証券や楽天証券が1,100~1,200万口座なので、その比較でも1,700万という数の多さは伝わるだろう。相場環境が良いことも手伝って、ポイント運用から興味を持った人が、そのままPayPay証券の口座を開いている。

収益化は「数年内」に

口座数の伸びに対して、気になるのは収益化の進捗だ。

PayPay証券は口座開設数やユーザー数は急拡大はしているが、投資信託やETFの積立投資が主軸となる。こうしたストック型のビジネスでは、預かり資産残高の規模が収益化の鍵を握るが、その数値は非公表だ。

ただし、番所社長によれば「非常に順調」とのこと。「預かり資産はNISA開始前と比べても大きく伸びています。NISAきっかけで、『メイン口座』として使う人が増えて、毎月の積立額も伸びてるほか、小口での株式売買も伸びています。100円から米国株などが買えるので、株式投資する人が増えています」。

黒字化の目処などは、「時期は明確には言えないですが、数年以内としています」と説明。PayPay証券の強みとして、「他の証券会社とコスト構造が違う」点を強調する。

「特に違う点が2つあります。ひとつはマーケティングコストで、入口のマーケティングコストが低い。先程お話したように、ほとんどがPayPayからの送客で、獲得のためのインセンティブの支払いなどがほとんどない。またシステムについても必要なものを厳選していますので、口座あたりのコストも低い」(番所社長)

モバイルとエコシステムの競争

PayPay証券では、4月にiDeCoに対応。今後も中期的には、商品を増やしていく可能性はあるという。「ただ、ブレずにやるのは『はじめての資産運用はPayPay証券』ということです」と強調する。

そのために、まず力をいれていくのは「プロダクトの改善」、そしてPayPayグループとの連携強化とする。新規獲得という点においては、PayPayポイント運用からPayPay資産運用への移行推進を強化していく。

番所社長は「奇策はなく、ユーザーファーストのプロダクト開発を続ける」とするが、「この開発・改善のサイクルを早く回せることがPayPay証券の強みです。証券会社でのパイの奪い合いというよりは、貯蓄率の高さをどうやって下げていくか、貯蓄率と戦っていくイメージ」と語る。

また、番所社長は、昨年のインタビューで「規模の面では『5大ネット証券』に迫り6大ネット証券になった」としながらも、「既存のネット証券と同じくくりになるのも少し抵抗がある」旨を話していた。改めてNISAがスタートしたことで、他社との“違い”をさらに意識するようになったという。

「証券・銀行での競争というより、金融サービス全体でどういったベネフィットが得られるか、という時代になってきています。ドコモがマネックスに出資して、SBI証券が三井住友カードと連携するのもその流れ。楽天ももちろんそうです。エコシステムとサービスシナジーの時代で、我々もPayPayという決済があって、その中での競争になっています。ただし、モバイルに特化してサービスを届けていくことには、我々に相当のアドバンテージがあると思っています」

臼田勤哉