トピック
Apple Vision Proを体験してきた
2024年6月28日 08:00
「Apple Vision Pro」が6月28日から日本で発売した。アップルによるARヘッドマウントディスプレイで、現実とデジタル世界を結ぶ「空間コンピューター」として開発されたものだ。
価格は599,800円からとなかなかに高額で、Meta Questなどの他のVRヘッドマウントディスプレイとはやや異なるカテゴリの製品といえる。アップルによる「空間コンピューター」はそれらと何が違うのか? 45分程度と短時間ながら体験してきた。
筆者の場合、4年ほど前まではVRヘッドマウントディスプレイや3Dテレビなどの多くの製品を体験してきたが、最近は個人でじっくり使うことはほとんどなくなっている。Meta Questシリーズは新製品が出るたびに体験はしているが、1時間程度のデモやゲームプレイ程度で、VR系コンテンツを大量に体験しているわけではない。そんな筆者にとっても、Apple Vision Proはユニークで新しい体験と感じられ、エンターテインメントやコンピュータの近未来に触れたような感触があった。
被ってみる。「視線で操作」はすぐに慣れる
デモの前にフィッティングを行なう。ヘッドバンドとして「ソロループ」と「デュアルループ」の2種類が用意されており、格好いいのは断然ソロループだと思うが、デュアルループのほうが安定して装着できる印象だ。いずれにしろ自分からは見えないので、一人で家で使うならデュアルループで良いと感じた。
Apple Vision Proでは「視線」(アイトラッキング)と「指のタップ」で操作を行なうため、ユーザーごとに視線入力の最適化が必要となる。この最適化は、空中に浮いた円の上下左右を目線で追うことで調整される。この作業自体は数分で終わるが、ユーザーごとに調整が必要なため、Apple Vision ProではApple Storeにおけるフィッティングとデモの予約が必須となっている。
また、視力矯正の必要がある場合には、レンズメーターを使って度数を測定。視力のニーズに合った「ZEISS Optical Inserts」(16,800円)が必要となる。
Apple Vision Proをかぶると、自分がいる部屋の周囲が透けて見える。カメラによるビデオシースルーにより、装着していても自分のいまの環境がわかるようになっている。自然に外が見え、よく見ると周囲は少し歪んでいるものの、視界上の“被っている感”はほとんどない。ただし、本体自体の重量はそれなりにある(600〜650g)ため、重さという“被っている感”は存在する。
本体右上の「デジタルクラウン」を押すと、空間にアプリアイコンが表示され、現実空間とVison Proが融合して見える。アイコンを“視線”で選んでタップ(2本の指を挟む)と「決定」となる。文字で書くとわかりにくいのだが、アイコンを見て、親指と人差し指を繋ぐだけなので、2-3分も操作すれば慣れるはずだ。
視線だけでアイコン等を選択できるため、指の位置を動かす必要はなく、膝の上に手をおいて指をタップしても、決定にできる。ただ、他のVR HMDの操作のイメージが残っているのか、慣れるまではアイコンを手で追ってしまう。このあたりは慣れの問題だろう。
視界は、現実空間だけでなくイマーシブな360度画像にも変更できる。デジタルクラウンを回して、山の風景の中でVisin Proを体験したが、家ではない非現実の環境でWebを見たり、メッセージを交わしたりといったことも可能になる。
高品質な3D・映画体験
Apple Vision Proでは、映画やテレビ番組、スポーツを大画面で見ながら、空間オーディオで楽しむなどのエンターテインメントや、大人数でのビデオ会議などに対応する。
まずはApple TV+で映画「アバター」の3D映像を見たが、眼の前に広がる巨大スクリーンで映画体験が可能だ。映像のドット感などは感じられず、色鮮やかで画質は非常に良い。特筆すべきは3Dの表示品質で、色を損なわずに立体感が感じられ、Apple Vision Proならではの体験といえる。音も良く、エンターテインメントディスプレイとしての実力は傑出している。映画やドラマを最高画質で楽しみたい、という人にとっては、間違いなく魅力的な体験になるはずだ。
ユニークなのは、「映画館」的な背景を選び、前列や後列などの視聴位置による体験変化まで設定できること。これはテレビやプロジェクターでは実現できない価値がある。
「迫力」という点では、Apple TVアプリから利用できる「Apple Immersive Video」は試しておきたい。180度の視野角と空間オーディオによる3Dの8Kビデオで、非日常体験ができるもので、崖の間に張られたロープを渡る映像では、息遣いや風の感覚、“落ちたら終わり”な高さなどから、通常のビデオでは得られないような緊張感が“部屋の中”で体験できてしまう。
ユーザーの動きに応じて恐竜が反応するインタラクティブ「恐竜たちとの遭遇」も体験した。襲いかかってきそうな恐竜が、手をかざすと“撫で”を要求するようにスリスリしてくれるなど奇妙な体験が味わえた。
今後の可能性という点では「NBA」のアプリが面白い。マルチビューを使って、スペース内で5つの試合を視聴できるというもので、「中継ルーム」のような体験が得られる。例えば、マルチカメラで様々な視点で試合を見る、といったスポーツ中継スタイルも、Apple Vision Proの登場により増えていくのかもしれない。
“空間”の可能性。意外にパノラマ写真も面白い
エンタメだけでなく、「コンピュータ」としてのApple Vision Pro利用では、Webブラウズなどに対応する。Vision Proの体験を開始して10分後ぐらいに操作したが、SafariでWeb検索し、Impress Watchを開いて、スクロールして記事を選択、選んだ記事を読むまで、特に戸惑うことなく実行できた。
また、Webブラウザやアプリの位置を自由にレイアウトできるのが面白い。複数のウィンドウを好きな場所に配置した多画面体験にも大いに可能性があると感じた。
「写真」を開き、写真を選ぶと部屋が暗くなり、じっくり確認できるようになる。予想外によかったのが「パノラマ写真」で、現場にいるかのような感覚。iPhoneのパノラマ写真をしっかり撮影したくなる。
Apple Vision Proならではの特徴では「空間写真」と「空間ビデオ」に対応。Apple Vision Proのカメラでは空間写真を撮影可能で、立体感・現実感のある写真・ビデオを単体で撮影できる。今回は事前に用意された空間写真を見たが、普通の写真とは別の感覚や雰囲気があり、いろいろな写真を見てみたくなる。
空間ビデオは、母と娘が外でシャボン玉を飛ばしているビデオを視聴した。ストローから膨らむシャボン玉の大きさ感や破れそうな緊張感、背景の木々の奥行きなど、こちらも2Dとは異なる実在感がある。空間ビデオはiPhone 15 Pro/Pro Maxで撮影可能だが、今後のトレンドになりそうなポテンシャルを感じた。
なお、視線とジェスチャーだけでなく、Siriによる操作も可能。「Siri、Apple TVを開いて」でApple TVを呼び出せるなどシンプルな使い方が可能なので、普段使うサービスなどはSiriを積極的に活用するもの実用的と感じた。
空間コンピューティングの未来
Apple Vision Proを外側から見ると没入時には色が付いて目の表情は見えなくなるが、ビデオシースルーで外部が見えている場合や、人が近づいたときなどは、視線や瞬きが見える状態になる。外側を向いたディスプレイの「Eyesight」の機能だ。ざっくり、「目が見えているときは話しかけやすい」というサインになるため、現実とデジタル世界を分断しすぎない、ユニークな仕組みになっている。
28日から日本で発売開始するApple Vision Proだが、アプリはまだ充実しているとは言いづらい。例えば、エンタメ関連ではNetflixやYouTubeなどのアプリがなく、日本の電子書籍やマンガアプリなども対応は少ない。Vision Pro専用アプリでなくてもiPadアプリでもアプリ提供者が許可すれば、Vision Proで利用可能となるはずなので、このあたりの充実には期待したい。
また、日経新聞やLIXIL、ZOZOなども日本発売にあわせて独自のアプリを提供開始している。各社が参入することで新たな使い方や可能性が広がっていきそうだ。
短時間の体験だが、印象的だったのは専用コンテンツのクオリティのほか、SafariでのWebブラウズをはじめ、コンピューターの使い方は「(平面の)画面とキーボード」以外に大いに可能性がありそうということ。具体的にどうなるかを予想はできないが、Apple Vision Proのプラットフォームの進化はこれからと感じる。今秋のVision OS 2では、Macからの2台の4Kモニター対応なども予定されており、今後の展開には期待できそうだ。
個人で買えるか? と問われると60万円はさすがに厳しいものの、個人でじっくり使っていみたいとも感じた。空間ビデオ・写真は、自分で撮影したコンテンツでも試してみたいし、普段の生活の中にApple Vision Proがどう馴染むかは探っていきたい。
いろいろ書いては見たものの、Apple Vision Proの体験をテキストで表現するのはなかなか難しい。発売にあわせて、実店舗のApple Storeでは、Apple Vision Proの体験が可能となった。興味がある人は是非試してほしい。事前にオンラインでの予約が必要だが、無料で40分程度の体験が可能になっている。筆者が体験したものとほぼ同じはずなので、まずはこうした機会でその可能性に触れてほしい。体験すると、アップルが提案する「空間コンピューティング」のイメージが見えてくるはずだ。