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超大型ロケット「スターシップ」4回目飛行試験の意味 地球への帰還は実現できるか?

@SpaceX

2024年6月6日21時(日本時間)、SpaceXが開発中の超大型宇宙輸送システム「Starship/Super Heavy(スターシップ・スーパーヘビー)」の4回目の飛行試験(FT4)が実施される予定です。3月の3回目の飛行試験を受けて5月に計画されていたものですが、FAA(連邦航空局)の許可を待って6月上旬になりました。これまでの3回の試験でStarshipはどこまで開発が進み、4回目では何を達成する目標なのでしょうか?

これまでのスターシップ飛行試験

スターシップ/スーパーヘビーは、完全再使用型の宇宙船とブースターの組み合わせで構成され、全長121m、直径は9mで100~150トンのペイロードを搭載できる完全再利用型の多目的宇宙輸送システムです。1段ブースターのスーパーヘビーは液体メタン/液体酸素を推進剤とする33基の「Raptor(ラプター)」エンジンを搭載し、2段スターシップは3基のラプターエンジンと3基の真空用ラプターエンジン(ラプター・バキューム:RVAC)、合計6基のエンジンを搭載しています。

2023年からSpaceXはテキサス州のメキシコ湾沿いにある自社の射場「スターベース」でスターシップ/スーパーヘビーの飛行試験を行なっています。スターシップは将来、衛星打ち上げロケット、2地点間輸送機、有人宇宙船といった多様なミッションの実現を目標としており、まずは地球低軌道への到達と飛行、スターシップの地球大気への再突入、ブースターとスターシップ両方の制御された地上への帰還を達成する必要があります。

2023年4月の第1回飛行試験(FT1)では、エンジンの異常のため、打上げから約3分後に機体は自律的に破壊されました。2023年11月の第2回飛行試験(FT2)では、ブースターとスターシップの分離には成功したものの、ブースターはエンジンの異常により破壊され、スターシップは自律的に飛行が中断されてミッションは終了しました。

3回目の飛行試験(FT3)となった2024年3月14日、スターシップはスターベースから打上げられ、スターシップとブースターの分離、ブースターの帰還開始、スターシップの軌道への到達と再突入、地上への帰還開始までを実現しました。この後、打上げからおよそ7分後にブースターはラプターエンジンの不具合のために帰還に失敗、スターシップはミッション開始からおよそ49分後に高度約65kmで機体が分解して地上への帰還に失敗しました。

2024年5月24日にSpaceXはFT3のフライト結果と主な原因を公表しました。スターシップは現地時間の3月14日午前8時25分に打上げられ、ブースターのラプターエンジンは33基がすべて正常に点火し、1段と2段の分離(ホットステージング)にも成功しました。

ホットステージングとは、スターシップのエンジンを点火してから1・2段を分離する方式です。ブースターの先端はスターシップのエンジンから出る高温の噴煙にさらされるというリスクがありますが、上昇のエネルギーを効率よく使うことができ、スターシップのペイロード搭載能力を向上させる効果もあるとされています。FT3で初めて導入された方式で、点火時のラプターエンジンの噴煙を逃がすために1段・2段の間にはスリットの開いた段間部が取り付けられています。

ホットステージングを可能にするスリット入りの段間部。スターシップFT3の映像より

分離後のブースターは着陸に際して13基のラプターエンジンを点火しましたが、うち6基のエンジンが停止してしまいました。

残ったエンジンで着陸に向けた噴射と降下を続けましたが、停止した6基のエンジンの再点火に失敗。着陸に向けた最後のエンジン噴射では、残り7基のエンジン中の点火に成功した2基で、計画よりも大幅にブースターの推力が低い状態で着陸することになりました。最終的に、打上げから7分足らずでメキシコ湾の上空462mで機体からの通信が途絶え、スーパーヘビーブースターは着陸に失敗しました。

ブースター帰還失敗の原因は、エンジンに液体酸素を供給する配管のフィルターが詰まってしまい、酸素ターボポンプの圧力が下がってしまったことだと考えられています。この問題は2回目の発射試験でも発生しており、SpaceXは酸素ターボポンプ周りのハードウェアを改善してきたようですが、完全には機能しませんでした。今回は酸素タンクにさらに追加の改良を行ない、フィルターの性能を向上させることになっています。

一方、スターシップは6基のラプターエンジンがすべて正常に点火し、軌道まで到達することができました。軌道上を飛行中に、衛星を展開する際に使用するペイロードドアの試験、や、機体上部のタンクからメインタンクへ液体酸素を移し替える推進剤移送の実証にも成功しています。

©SpaceX

スターシップはNASAのアルテミス計画において月着陸機「HLS」の役割を果たすことになっていますが、月へ向かうためには地球低軌道上でスターシップからスターシップへ推進剤を補給する必要があります。

宇宙で液体の推進剤はタンクから配管の中で内壁にぶつかって衝撃を生んだり、温度変化で気化したりと環境によって挙動が変わることが知られています。こうした推進剤の状態のデータを取得して、安全に推進剤を移送できるようになることが今後の補給ミッション実現に向けて必要なのです。

軌道上での飛行は予定のコースをたどることができていたとみられますが、慣性飛行を開始してから数分後に、機体はすでに姿勢制御能力を失っていたとSpaceXは述べています。

その後、軌道上で予定されていた1基のラプターエンジンの再点火をスキップし、地球大気への再突入を始めました。姿勢を正しく制御できないまま機体には大きな熱が加わり、高度約65kmで機体が破壊されてミッションは終了しました。

スターシップは直前まで衛星通信のスターリンクを通じてリアルタイムの映像を配信し続け、再突入時の映像を世界に公開したことは驚異的です。姿勢制御ができなくなった原因は、ロール制御を担うバルブが詰まったことだと考えられています。今回は機体の姿勢制御装置を冗長化するために、ロール制御スラスターを追加し、配管の閉塞を防ぐ機能も加えたといいます。

FT4最大の目標は「地球帰還」

現地時間の6月6日午前7時ごろから打上げウインドウ(ロケットを打上げ可能な時間帯)がスタートするFT4では、FT3までの成果を元に、スターシップの軌道への到達、スターシップとスーパーヘビーの帰還と再利用性の実証を行なう予定です。ブースターは着陸時のエンジン噴射を計画通り行ない、メキシコ湾上のプラットフォームへ着水を実行することが目標になっています。

©SpaceX

着陸前のブースターの質量を減らすために、スーパーヘビーからホットステージを投棄するなど、運用の変更が加えられたといい、必要な数のエンジンを正しく制御して着水できるかどうかが焦点となります。

スーパーヘビーブースターの帰還と再利用は、スターシップの高頻度打上げのカギとなります。今後、スターシップは軌道上での推進剤補給のために最低8回(イーロン・マスクCEO発言から)から16回(NASA見解)もの試験ミッションを行なう必要があります。スターリンク衛星の高頻度打上げやアルテミスミッション達成のためにも、ブースターを毎回使い捨てではなく安定して再利用できることが重要なのです。

スターシップは、FT3と同じ軌道を飛行してインド洋に着水する計画です。大気への再突入時に軌道離脱噴射(エンジンを噴射して元の軌道から外れること)が必要でないといい、制御されたスターシップの再突入という主な目的に集中することができるようです。

FT3の振り返りでは、ラプターエンジンの再点火を自動でスキップしたと説明されていました。このエンジンの役割が、軌道離脱のためだったと考えられます。スターシップはまだ目標の全行程を達成していないわけですから、エンジン噴射のステップを減らして飛行計画をシンプル化し、まずは再突入と着水を確実にやりとげることが目的なのでしょう。

制御された再突入はスターシップの機能の最大の目標であり、これが実現しない限り、有人宇宙飛行を実施することができないのです。

SpaceXが公開しているFT4の概要(©SpaceX)

スターシップ/スーパーヘビーの4回目の飛行試験は、SpaceXのWebサイトとXで打上げ30分前(日本時間では6月6日午後8時30分ごろとみられます)からライブ配信が始まる予定です。日本はNASAのアルテミスミッションで最初に国際パートナーとして参加する予定ですから、スターシップは日本人宇宙飛行士が搭乗する可能性のある有人宇宙船です。飛行試験と開発の進展を、ライブ映像とともに見守りましょう。

STARSHIP'S FOURTH FLIGHT TEST

試験飛行の結果を受けてタイトルを修正(6月7日)

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

https://twitter.com/ayano_kova