トピック

キッチンと洗面台合体は許されるのか? 都会の居住空間を問い直す「ルーモット」

Roomot MIXINK(ミキシンク)

「自分にあった部屋」を考えるのは楽しいけれど難しい。初めての一人暮らしであればなおさらだし、家族構成や住む地域や場所、商業施設やスーパー、飲食店の数などによって最適解は変わってくるはずだ。

また、家族が増えるなどライフステージの変化やコロナ禍でのテレワーク拡大など社会の変化でも、住まいの選び方は変わってくる。そうした中で目を惹く提案の一つが、三菱地所レジデンスによる住宅設備シリーズ「Roomot(ルーモット)」だ。

同社では、賃貸マンションブランド「ザ・パークハビオ」を展開している。ザ・パークハビオは東京・大阪など大都市圏周辺で展開しており、高付加価値で賃料も高めのブランドでもある。

立地が良いということは土地も高いので、居住空間を広くするのは難しい。そこで、「限られた生活スペースにおける『自分らしい暮らし』」をコンセプトに生まれたのが、「ルーモット」シリーズだ。特徴は、スペースを有効利用するため、従来の賃貸マンションで「当たり前」「必要不可欠」と思われてきた設備を大胆に省いたり、集約したりしていることだ。

ルーモット第1弾として'21年に導入した「Roomot MIXINK(ミキシンク)」は、洗面化粧台にキッチンを合体。第2弾は浴室をなくして生活ペースを創出する全面タイル張りのシャワーユニット「Roomot Luxwer(ラグジャー)」、第3弾は収納にデスク機能を追加した「Roomot Desco(デスコ)」、第4弾は「バスタブ」と「洗い場」を兼用とした省スペースな浴室空間「Roomot BathMor(バスモル)」となる。

化粧台とキッチン、収納とデスクなど、スペースを“合体”してしまえば、確かに居住空間にゆとりはでるはず。しかし、これまで賃貸マンションの「当たり前」だった空間を変えるのは、なかなか難しいはずだ。どのような経緯で、ルーモットは生まれたのだろうか?

今回、ルーモットを導入した「ザ・パークハビオ亀戸」のモデルルームを見学しながら、その狙いなどを三菱地所レジデンスの建築マネジメント部 第二建築マネジメント室第一グループ 統括の近藤都氏と、賃貸住宅開発部 開発第三グループ兼C・DX企画部 CXグループの青山聖弥氏に聞いた。

ザ・パークハビオ亀戸

パークハビオとルーモットってなに?

ザ・パークハビオは、主に単身者をメインターゲットとした賃貸マンションだ。基本的には職住近接、東京23区や神奈川、千葉、大阪、愛知など、大都市圏のエリアに立地しており、広さは25〜35m2の1Kが多く、家賃10〜20万円くらい。広さこそコンパクトだが、住宅設備は上級の高級志向の賃貸マンションでもある。

ルーモットはそのコンパクトな部屋面積を効率的に使うことを目的とした住宅設備シリーズだ。コストを節約するのではなく、むしろコストはかけつつ必要な面積を減らし、居室空間を広くすることに主眼を置いている。

ザ・パークハビオ亀戸の駐輪場。キーがないと入れない自動ドアの中にあるのでセキュリティもバッチシ。共用設備も高級志向

ルーモットシリーズには前述の通り、4種類の住宅設備がラインナップされている。キッチンと洗面台を統合した「Roomot MIXINK」、収納とデスクを集約した「Roomot desko」、浴槽のないシャワーブースのみの「Roomot Luxwer(旧名称はRoomot Shower)」、バスタブしかない洋風シャワーブースの「Roomot BathMor」だ。

これらのルーモットの住宅設備は、ザ・パークハビオの新規物件の全居室に導入するのではなく、物件や間取りごとに適切なものが適切な割合で導入される。たとえば今回取材させていただいたザ・パークハビオ亀戸では、1フロア4戸のうち1戸だけがルーモット仕様となっていた。ほぼ同じくらいの広さの住戸でも、ルーモット仕様と通常仕様があり、通常仕様の方が数が多く、ルーモット仕様の方がやや家賃が高い、という形になっている。

賃貸の選択肢を増やすルーモット 第1弾MIXINKが生まれた理由

なぜ、ルーモットのようなブランドが生まれたのか?

三菱地所レジデンスの建築マネジメント部 第二建築マネジメント室第一グループ 統括の近藤都氏によれば、三菱地所レジデンス社内の「賃貸にいろいろな選択肢を提供しよう」と検討するワーキンググループで発案されたという。

三菱地所レジデンスの近藤氏(右)と青山氏(左)

通常の1K賃貸となると、バス・トイレ別のような差別化はあっても、分譲マンションのように居室の広さや形状を選べるケースは少ない。しかし、「一人暮らしをしていても、使用頻度の低いキッチンより、たとえばマンガを読むスペースが欲しい、という人もいます。生活スタイルにより必要なものは異なるので、居室を広くするために水回りを有効活用する方法を、と2020年ごろに検討を始めました」と近藤氏は説明する。

そうして作られたのがルーモット第1弾となったMIXINK(ミキシンク)だ。キッチンと洗面台を統合することで、居室を広くし、くつろげるスペースを創出している。大雑把に言えばシンクを洗面台としても使えるようなデザインにしつつ、鏡付きの収納棚を付けたキッチンだ。

MIXINK。実際に使うときは山崎実業のマグネット収納を使い、天板に何も置かない方が便利そう

近藤氏も「企画開始したのは約4年前ですが、暮らしの多様化と言われ始めた時に、様々な設備を問い直したのがきっかけです」と語る。「普通はキッチンと洗面台は別々にあり、我々も(賃貸マンションに)絶対不可欠と思っていました。ただ、それはもしかしたらデベロッパーの思い込みかもしれない」。

様々な声を聞く中でも、「キッチンはそれほど使わない」という声は多かったという。

「一人暮らしの方に話を聞くと『キッチンを使ってない』とか、『自炊の方がお金かかる』という声もありました。また、コロナ禍を挟んでデリバリーも広まりました。そうすると、『キッチン使わないかも、それより立派な洗面化粧台が欲しい』というニーズも高まるのではないかと考えました」と説明する。

三菱地所レジデンス 近藤氏

実際、MIXINKは「どちらかというとキッチンより洗面化粧台に寄せている」(近藤氏)という。例えば一般的なキッチンの高さは85cmからだが、MIXINKでは洗面化粧台で一般的な80cmとキッチンとしては低めになっている。「洗面化粧台にキッチンが付いている」という形だ。

MIXINK

一方、シンクは大きく、天板やシンクに人造大理石が使われているなど、見た目も品質も上質で、高耐久かつ掃除しやすい仕様だ。コンロにエレクトロラックス製の2口IHを採用したり、壁面にホーローパネルを採用したりと、使いやすさにも見た目にもコストを惜しんでいないキッチン・洗面台である。キッチンと洗面台を共通化するという事例は他社にもあったが、パークハビオならではの高級感や使いやすさにはこだわっているという。

また、洗面化粧台に寄せながらも、キッチンに求められる機能として、たとえばカップラーメンの汁を流せる排水能力やボウルの形状などには配慮した。キッチンの要素を全部無くしては困るので「最低限の要素をしっかり残す」ことが重要だったという。

シンク手前にも収納があったりと、コンパクトながら使い勝手はかなり良い

キッチンと洗面台を統合する最大のメリットは、なんといっても面積を節約できることにある。25m2の1Kにとって、洗面台がなくなるのは、大きな違いだ。

筆者も約24年間、洗面台がない物件に住んでいたが、キッチンのシンクを洗面台として使うのはとくに不便ではない。むしろ洗濯機や浴室が離れていないなら、水回りが集約されていた方がラクだったり便利なことも多い。

ちなみにMIXINKを作っているのは、住設メーカーのタカラスタンダードだが、同社が一般向けに販売している製品とは商品構成が異なっている。仕様が豪華な上に特注のような面もあるため、通常仕様のキッチンに比べると高コストだが、洗面台を兼ねつつ配管なども1系統で済むので、通常のキッチンと洗面台の両方を設置するのとトータルコストとしては大差ないという。

通常仕様の部屋の洗面室。トイレも兼ねているが、そこまでスペースを詰めてもルーモットの方が1.5倍も居室が広いのがスゴイ

Roomot MIXINKの最大の狙いは省スペース化だが、ザ・パークハビオならではの価値観や立地環境も意識されている。

「開発する上でこだわりたかったのは、単純に『一つにまとめました』で終わりじゃないこと。その住まいに、どう住んで、どういう生活をしてもらいたいかを、考えています。元々ザ・パークハビオは高品質な賃貸マンションとして、設備を重視するお客様も多い。そのブランドのイメージは崩したくありません。また、お客様にどう住んでほしいか? を考えた時に、ザ・パークハビオの物件は“駅近”が多いので、飲食店が周囲に多かったり、持ち帰りやデリバリーが充実しています。その立地を考えると、キッチンよりも洗面が充実しているほうが、需要があると想定しました」(近藤氏)

ワークスペースと収納を共有「Roomot desko」

省スペースという点では第3弾のRoomot deskoにも注目したい、半面が収納、半面が作業デスクに使える備え付け家具だ。

深さがそこそこあるので、片面だけでも収納としては大きいが、もう片面をそこそこサイズのデスクとしても使えるので、リモートワークなどの作業空間を確保しやすい。

Roomot deskoのデスク側。サイドや上部に収納があるのでデスク上が散らかりにくそう
Roomot deskoの収納側。デスクとして使える奥行きがあるので、1Kの収納としてはかなり大きめ

入居者自身がデスクを設置するのに比べると、入居者のコスト的な負担が減るというメリットもあるが、Roomot deskoはデスクの上部にも収納があるなど、立体的に空間を無駄なく使えるのもありがたいポイントでもある。デスクを使わない、あるいは自前のデスクを使うなら、棚板やハンガーパイプを移動することで左右両面を収納として使うこともできる。

Roomot deskoは、コロナ禍が当たり前になった2年ほど前に開発したという。当時はリモートワークが広がり、会社から遠い場所に引っ越す人も多かった。しかしその中でも、「コロナ禍が終わったら、出社を増やす企業も多いはず」と先回りして考えたという。

Roomot deskoの扉を閉めると全部隠せる。椅子は隠せないけど、オットマン付きのゲーミングチェアと組み合わせるのも良さげ

ザ・パークハビオは職住近接で25m2前後、賃料も安くはない。コロナ禍が明ければ、在宅ワークもやるけれど、出社もする、「会社が遠いと不便だけど、自宅にもワークスペースが必要」というパターンが出てくるだろう、と近藤氏らは考えたという。そこで、収納とワークスペースを省スペースにしたdeskoが生まれた、というわけだ。

Roomot deskoであれば、25m2の1Kでも、ワークスペースを確保しつつ、ソファやリクライニングチェアを置くスペースがある。こうした仕様を選択肢として提供したい、というのがルーモットの考えだ。

浴室はないがホテルのような体験を「ルーモットラグジャー」

第2弾のRoomot Luxwer(ラグジャー)は、いわゆるシャワーブースだ。浴槽のある普通のユニットバスに比べると、こちらも大きなスペースの節約になっており、同様に居室を広げるための選択肢といえる。

Roomot Luxwer。床面と壁面の高級感がスゴイ

ネットの反応も様々で、浴槽に「浸かりたい」という意見もあるものの、「これでいい」とか「風呂は外で入るのでシャワーで十分」、あるいは米国在住の人からは「こちらではこれがスタンダード」という声も見られた。地域にもよるが、海外のホテルでも浴室が無いものは一般的で、近藤氏も「いろいろな反応があって面白いと思っています」と語る。

「私も一人暮らししていた頃は、浴槽は1年に1回入るかどうかぐらいでした。周りに聞いてみても、最近はサウナが話題ですし、ジムのお風呂が気に入っているのでそっちで済ませている、みたいな人も多い。であれば、浴室が無いという提案もありかもしれない、と考えました」(近藤氏)

ここでも単に「浴室を省いた」だけではなく、「ホテルライクな仕様」をアピールしている。Roomot Luxwerをよく見ると、MIXINKなどと同様、造りや装備にコストがかけられている。大手住設メーカーの既製品ユニットを使わず、現場で作る在来工法(造作)となっている。床タイルも壁パネルも高級感のある素材が使われているし、シャワー水栓もオーバーヘッドシャワー付きだ。

Roomot Luxwer内。風呂イスを置いて打たせ湯でくつろげる広さがある

広さとしては大雑把に半坪くらいで、浴槽がない分、集合住宅にありがちな1216サイズのユニットバスの洗い場より広いかもしれない。さらに扉はスモークのかかってない透明なガラス戸なので、狭さを感じない。この手のガラス戸はそこそこ高価なので、普通の賃貸ではわりと珍しい。

こちらは通常仕様の部屋のユニットバス。普通の1216サイズのお風呂だ

筆者の現在の家には浴槽はあるが、お湯を張るのは月1回とかだ。コストや時間、手間を考えると、普段はシャワーの方がイイし、だったらボディシャワーなどが充実している方がありがたい。また、電話ボックスサイズのシャワーブースだと手を伸ばせず、しゃがみにくかったりするが、Roomot Luxwerはそこそこ広いので、手足を洗いやすいのがイイと思う。

ザ・パークハビオには、ルーモット以前にもシャワーユニットを導入した実績はある。しかしそれで居室が広くなっても、賃貸としては好調ではなかった。そこで近藤氏は、「好調でないのは、見た目の問題もあるのではないかと。そこで、賃貸でもこんな仕様のシャワーがあるんだ、住んでみたい、と感じてもらえるようにと考えました」と説明する。結果、タイル張りでガラス戸、レインシャワー付きと、機能性も見た目も上質なRoomot Luxwerが完成したというわけだ。

ホテルライクを謳う「Roomot Luxwer」。確かに高級感がある

第4弾のRoomot BathMor(バスモル)もシャワーブースだ。こちらは取材したザ・パークハビオ亀戸には導入されていなかったので、実物を見ることはできなかったが、要するに洗い場全面が浴槽となっているシャワーブースだ。西洋風住宅で採用されることがあるが、これも普通の賃貸では珍しい。

Roomot BathMor(バスモル)

実は筆者は(くどいが)、この形式のバスルームのある物件に約8年ほど住んでいたことがある。いざという時にお湯を張れるという安心感はある……が、正直に言えば数回しかお湯を張らなかった。一方でシャワーを浴びるときも湯船を跨ぐ必要があるので、Roomot Luxwerよりひと手間感はある。バスモルの魅力は、「いざという時」の頻度をどう考えるか次第だろうか。

ルーモットによる面積節約の効果は絶大

今回の取材では、ザ・パークハビオ亀戸でルーモット仕様と通常仕様の両方の住戸を比較できた。どちらがいいかは個人の主観によるが、筆者個人としては、断然ルーモット仕様の方が良い、と感じた。

ルーモット仕様のA1タイプ(25.24m2)の間取り
通常仕様のBタイプ(25.29m2)の間取り。収納も小さい

なんといっても、居室の広さが段違いなのだ。全体としては同じ25m2台でも、通常仕様の居室は7畳だが、ルーモット仕様だと11.5畳にまで広くなる。1.5倍以上になるのだ。

ルーモット仕様の居室。超広角レンズなので広さがわかりにくいが、これだけ家具を置いても窮屈な感じがしない

この差は大きい。通常仕様のモデルルームでは、シングルベッドとちょっとした棚を置いただけで、さらに在宅ワークに使えるようなデスクを置くのは大変かも、という広さになる。しかしルーモット仕様のモデルルームは、セミダブルベッドを置いても余裕があるのに、deskoのおかげで別途デスクを設置する必要がない。モデルルームにはリクライニングチェア、オットマンも置かれていたが、まだまだ余裕があるくらいだった。

同じ広さで通常仕様の居室。超広角レンズで撮っているので広く見れるかもしれないが、ベッドはシングルサイズだ

たとえばリクライニングチェアとしてキャンプ向けの折りたたみのチェアを置けば、必要なときに2.5m四方くらいの空間が作れるので、ちょっとしたエクササイズやストレッチ、VRゲームなどにも利用できる。このように、自分なりに過ごしやすい空間を作れるのは大きな違いだ。

ザ・パークハビオは職住近接型の賃貸マンションなので、どちらかというと在宅時間より通勤時間を重視する人向けとも言えるが、それでも快適に過ごせる空間を自宅に作れることのメリットは大きい。

ライフスタイルを“選ぶ”ルーモット

今回取材したザ・パークハビオは、1フロア4戸中の1戸がルーモット仕様になっている。通常仕様が3に対してルーモット仕様が1という比率だ。これはいままでの賃貸実績を見て決めた比率で、いまのところこのくらいが適正だと判断しているという。

借りる側は、ルーモット仕様を目当てに導入済みのザ・パークハビオを内見に来る、というわけでもなく、内見に来た人に対し、不動産仲介が一緒に紹介し、実物を見てから「いいじゃん」と契約することもあるとのことだ。

実際にどのような人がルーモット仕様の部屋を借りているかというと、特定の傾向はないようだ。

青山氏によると、「作り手の意図としては、男性が多いかと予想していたものの、最初から女性も入り、いまの進捗は半々くらい」だという。この傾向について近藤氏は、「ジェンダーは関係なく、暮らし方が多様化しているのだろうな、と。潜在層に刺さると思って開発しましたが、コロナ禍で生活の多様化が顕著になったこともあり、受け入れられている」と分析する。

ザ・パークハビオ以外のブランドへの展開も視野にあるという。しかし分譲となると、一生の住まいとなるので、家族の成長や家族構成の変化など、長期間でのライフスタイル変化への対応も求められる。一方の賃貸は、住んでいる期間のライフスタイル次第なので、そうした性質の違いから、現状ではルーモットは賃貸事業向けと考えているとのことだ。

ルーモットは万人向けではなく、三菱地所レジデンスも賃貸の全戸に導入するようなことも考えていない。しかし、刺さる人にはガッツリ刺さる仕様でもあり、これが選択肢にあるのは、小さくないアドバンテージだ。

ルーモット仕様の住宅設備は、メーカーと組んで外販する可能性もあるという。他社や個人所有のマンションの新築時やリフォーム時に採用され、認知度が上がって選択肢として広がることも期待したい。

白根 雅彦