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地震が起きても大丈夫? 注文住宅の災害対策【オタク家を買う】
2024年2月28日 08:20
災害は、発生後にどうするかより、発生前の備え、災害対策の方が重要である。日本は大きな地震が多いため、命や財産を守るには、とくに住宅の地震対策が重要だ。
地震は地下に溜まり続けるエネルギーが解放されることで発生する。わかりにくく例えるなら天井付きガチャ、それも当たるまで確率が上がっていくボックスガチャを毎月引き続けているようなものだ。いま東名阪エリアや東海エリアに家を建てると、建て替える前に大地震に被災する可能性は高い。こうなると、地震への対策にコストをかける方がコスパが良いし合理的だ。
大地震は対策しても無駄、なんてことはない。注文住宅でイチから対策をすれば、過去最大の計測震度を記録した熊本地震だって、無傷あるいは軽い損傷で済む可能性を高められる。では、そのためにどういったことができるのか。今回のテーマは注文住宅の災害対策だ。
注文住宅を作ったオタクの記録。地震は困る
いちばん重要だけど重視しづらい「立地」
地震などの災害に強い家を建てるのにもっとも重要な要素は、身も蓋もないことを言えば、災害リスクの低い土地に家を建てることだ。幸いなことに、土地を持っていない人が注文住宅を建てる場合、災害リスクの低い土地を選ぶことができる。
とはいえ、地震は日本全国どこでも発生しうるので、揺れることを避けるのは難しい。プレート境界型地震は広範囲に被害をもたらし、活断層はいたるところにあり、想定外の断層がとんでもない地震を引き起こすこともある。どこに家を建てるにしても、「大地震が直撃する」と考えて対策・準備するのが現実的だ。
後述するが、最新の住宅の耐震性能なら、大地震の震源近くでも、地震の揺れ自体で倒壊する可能性は低い。一方、地震によって誘発される「津波」「液状化」「土砂災害」は、建物自体の性能を高めても、無傷でやり過ごすのは難しい。土地選びでは「津波」「液状化」「土砂災害」のリスクを避ける方が重要だ。
土地ごとの津波・液状化・土砂災害などのリスクについては、ハザードマップポータルサイトや地震ハザードステーション、各自治体が情報公開している。土地選びのときにはこれらを大いに参考にするべきだ。
家が建つ土地単体だけでなく、周辺エリアの災害リスクもチェックすると良いかもしれない。たとえば筆者の家があるのは、今世紀に入ってから開発された住宅街なので、現行基準の耐震・耐火性能の建物しか建っておらず、道路は広くてインフラも新しい。災害が発生しても大きな被害になりにくく、復旧もしやすいはずだ。
土地選びでどこまで災害対策を優先できるかは、ケースバイケースだろう。筆者の場合、地縁を無視した上で「山手線駅まで最大1時間程度」という妥協をしているので、災害に比較的強いエリアの広い土地を比較的安価に購入できた。
しかし交通の便が良い住宅地となると、古い住宅が多い低地平野部など、災害リスクの高い土地も少なくない。家自体に災害対策を施しても、液状化や水害、大規模火災に遭うと、家に住めなくなったり、多額の補修費用が必要になったりすることもある。
土地選びにおいて利便性・価格・安全性のバランスをどう取るかは個人の裁量に任されている。が、筆者個人としては、災害リスクの高い土地は避けるべきと思うし、災害リスクの高い土地に家を建てるくらいなら、賃貸に住むべきとも思うところだ。
建てるなら「耐震等級3」にしていかないか?
建物は、法律で規定されている一定の性能が確保されていない限り建築許可が降りない。耐震性能についての法規定は、大きなところでは1981年と2000年に改訂され、厳格化してきている。
1981年以前の基準、いわゆる「旧耐震」では、震度5強くらいまでしか想定していなかった。1981年以後の「新耐震」では、震度6強から震度7でも倒壊しないことを目標としているが、阪神淡路大震災(1995年)でそれでも足りないということになり、2000年以降の現行基準では耐力壁の均等配置や金物の義務化など細かい規定が加わっている。
これらの法律の義務基準は、大きな地震を1回被災しても倒壊しないことで人命を救うことを目的としている。しかしこの義務基準を満たしていても、大きな揺れが連続するとダメージが蓄積し、住めなくなったり倒壊することがある。少ない補修費用で住み続けるには、義務基準以上の性能が必要だ。
そこで2000年には耐震性能に応じてランクを表示する、「耐震等級」という制度も設けられた。設計上の耐震性能を数値で評価し、基準の下限を100とすると、100〜124が耐震等級1、125〜149が耐震等級2、150以上が耐震等級3、というようなイメージだ。
地震保険の保険料は、耐震等級1だと新耐震と同じ10%割引だが、耐震等級3なら50%割引になる。耐震等級3は消防署などに求められるレベルでもある。この耐震等級が全てではないが、重要な客観的基準だ。
耐震性能については、2016年の熊本地震で被害が大きかったエリアを調査した国土交通省の資料が参考になる。熊本地震は震度7の本震の前々日にも震度7の前震が発生し、前震でダメージを負った住宅が本震で多数倒壊した。また、現行基準となった2000年以降に発生した地震なので、現行住宅の耐震性能を知る上では非常にわかりやすいケースでもある。
まずは上記の資料の4ページ目「木造建築物の被害の状況」を開いていただきたい。1981年以前の旧耐震の木造は、45.7%が大破あるいは倒壊している。しかし1981年以後の新耐震では18.4%、2000年以降の現行基準では6%しか大破・倒壊していない。
続いて5ページ目「木造建築物の倒壊の原因分析」を開いていただこう。2000年以降の現行基準の木造のうち、耐震等級3を取得していた家屋は16棟と、サンプル数としては足りていないが、それでもそのうち14棟が無被害で、大破や倒壊はゼロとなっている。
震度7が2連続で襲ってきた熊本地震でも、耐震等級3の木造家屋は致命的な被害を受けていないのである。大地震が起きると、報道では崩壊した家屋ばかりが映されるが、そうした映像に映る倒壊家屋のほとんどは、耐震性能が低い古い家屋、耐震補強が不十分だった家屋、あるいは津波・液状化・土砂災害などに遭った家屋だ。
熊本地震以上の地震が発生する可能性も否定できないし、2024年の能登半島地震でも被害調査が進めば新たな知見も得られるかも知れない。しかし現状想定される範囲の地震であれば、最新の耐震住宅は被害軽減あるいは無被害を期待できる。もちろん100%ではないが、100%ではないことがベターを求めない理由にはならない。命や財産を守る確率を上げるためにコストをかけるのは合理的だし、長い目で見ればコスパが良い。
新築時に耐震等級1を耐震等級3に変更するのにどのくらい追加コストがかかるかは、簡単には言えない。普通の大きさの住宅ではプラス100〜200万円とも言われているが、実際にはケースバイケースだ。例えば低コストな工務店だと、構造計算や耐震等級申請に慣れておらず、外注となるから追加コストが多めになるパターンもある。一方、大手ハウスメーカーでは、耐震等級3が標準で、これを取得しない方が特殊な設計や手続きが必要、というパターンもある。
耐震等級3やそれ以上の災害対策ができるかは、ハウスメーカー選定時にチェックしたいポイントだ。
使うべき工法はケースバイケース
どんな工法や構造でも、設計次第で耐震等級3は取得できる。しかし工法や構造によって耐震等級が高めやすかったり、耐震等級3を取るには設計に制約が生まれる、みたいなこともある。
筆者が建てた家は、鉄骨ラーメン構造の平屋(1階建)だ。住宅に詳しくない人には意味がわからないかもしれないが、住宅に詳しい人にも意味がわからないかもしれない。ラーメン構造は、柱と梁の剛接合を強めることで変形に耐える構造で、主に中高層建築や大型建築、一般住宅では3階建て以上で採用されるが、平屋住宅で積極的に採用される構造ではない。
筆者の家はトヨタホームのユニット工法で建てられている。トレーラーで搬送できるギリギリサイズの立方体ユニットを工場で生産し、それを現場に並べて家を建てるという工法で、トヨタホーム以外ではセキスイハイムなども採用している。ユニットの柱と梁の鋼材は溶接するので、住宅の立体構造としてはかなり頑丈で、工場生産だから精度も安定する、とされている。
トヨタホームのユニット工法がどのくらい頑丈か、筆者も正確にはわからない。しかし建築時、幅2.5m・高さ3m・長さ4.75mのユニットが大型クレーンで吊るされて設置されるのを見学した。各ユニットには工場で壁や窓、床、天井、一部の住宅設備も設置され、それでも余裕があるのか一部の資材も内部に設置されていた。かなりの重量となるはずだが、トレーラで運ばれても、クレーンで吊るされても、構造躯体が変形する心配がないほどの頑丈さがあるわけだ。ちなみにユニット工法では床下に「束」がないが、標準仕様でグランドピアノも設置できる。これだけの強度があれば地震の揺れにも強いだろう、と筆者は考えている。
「どの住宅構造が最強か」の議論は、さまざまな観点や立場があるので、「どのプロ野球チームが最強か」くらい喧嘩になりやすいテーマだ。筆者も鉄骨ラーメンが最強とは思っていない。壁式RC造が最強なことは、「大谷翔平最強」くらいの定説だと思っている(つまり議論の余地は残る)。しかしコストと間取りの自由度を考えた結果、鉄骨ラーメンを選択した。
戸建て建築で一般的な壁式構造や軸組構造(ブレース構造)は、木造・鉄骨造・RC造のいずれでも、構造壁(耐力壁)で地震の揺れに対抗する。筆者は大開口・大空間の家を建てたかったので、壁式や軸組は不利だった。たとえば、眺めや日照の良い方角やLDKに大きな窓を集中させると、壁式や軸組では地震の揺れがそこに集中して危険だ。一方のラーメン構造は、壁の有無は構造強度に関係ないので、好きな位置に好きなだけ窓を設けられる。
万能な構造・工法は存在せず、それぞれに利点と欠点がある。特定の工法は作れるメーカーが限られていたり、土地によって工法が限定されたり、もちろん予算の問題もある。家を建てるときは、ケースバイケースで最適な構造・工法を選択することになるが、耐震等級3が取得できた上で望みの間取りを実現できる構造・工法を選ぼう。
災害に備えた住宅設備や備蓄
地震に被災しても、家の構造にダメージが入らなければ、そのまま寝泊まりできる可能性が高く、住宅設備や備蓄をそのまま使える。ちゃんと備えておけば、被災後にも避難する必要もなく、平時に近い暮らしができる。それらの備えにどれだけ効果があるかは、筆者も実際に被災したことがないのでわからないが、筆者宅の災害への備えを例に解説しよう。
まず給湯器にエコキュートを導入しているので、最大370リットルのお湯がストックされる。食料は25年保存のフリーズドライ缶を60食分備蓄している。1人であればローリングストックの食材と合わせて20日以上はいけるはずだ。災害時用トイレも20日くらい持つような分量を備蓄している。
被災後、20日を耐えることができれば、インフラもある程度は復旧し、物流も再開されるか、そうでなくても遠方へ避難できるようになっていることが期待できる。倒壊しない住宅と20日分の備蓄があれば、1次避難所や救援物資にあまり頼らずに済む、というのが筆者の考えだ。
あと、太陽光発電パネルと蓄電池を導入しているので、それらの設備が無事なら、電力供給が途絶えても一部のコンセントから電気を使える。コタツか扇風機とStarlink(スターリンク)、iPad、Nintendo Switchが使えれば、ゲームをしつつ引きこもれるので、筆者の平均的な週末とだいたい同じように過ごせる。
ちなみに生活インフラの中で復旧が遅めの都市ガスについては、そもそもオール電化なので関係がない。
というのが我が家の住宅設備や備蓄の状況だ。オール電化とエコキュートは、省エネだけでなく防災にも効果があるのが面白いと思っている。エコキュートのタンクは常に満タンなわけではないが(風呂に湯を張った直後は半分くらいになる)、普通は100リットルだって備蓄するのは難しいと考えると、防災設備としての効果は大きい。
太陽光発電と蓄電池は、セットで導入すると防災効果が高いが、蓄電池は高価なのでコスパが悪い。しかも電気は生活インフラの中では復旧が早いので、災害時に役立つ期間も短い。一方の太陽光発電については、普段の節電効果と補助金を考えるとコスパはそこそこで、停電時にも昼間なら非常用コンセントが使えるので、ポータブル電源などと組み合わせるのもオススメだ。
どこまで災害対策するかは施主次第
注文住宅を建てるのに使えるコストや時間などのリソースは限られている。そのリソースをどれだけ災害対策に費やすか、筆者はシンプルに考えることにした。
それは、被災したとき「もっと災害対策しておけばよかった」と後悔しないようにすることだ。言い換えれば、被災して命や財産を失うことになっても、「アレだけ対策してもダメだったらしゃーねーわ」と諦めがつくくらい災害対策することでもある。
そうして災害対策を施した結果として、筆者はもはや災害の心配はしていない。想定される地震であれば大きな被害を受けるとも思えないし、コレでダメなら諦めもつく。
災害対策は基本的に自己責任だ。家は個人の財産なので、コストをかけて災害対策するもしないも個人の自由だが、被災したときの補修や建て替えも個人の負担だ。国や行政は支援金や地震保険などの形で補助をするが、それらだけでは被害はまかなえない。そもそも怪我をしたり命を失ったりするのはお金の問題ではない。被災後の避難や引っ越しに伴う苦痛もプライスレスだ。
そうしたことを考えると、注文住宅を建てるなら、最初から災害対策する方がコスパが良い、と筆者は考えている。津波・液状化・土砂災害や大規模火災の発生しない土地を選び、耐震等級3の家を建てる、最低限でもこの2点だけはやっておくことを強くオススメしたい。