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「ネトフリと同じ土俵で戦う」 U-NEXT堤社長に聞く500万への道・日本の動画配信
2024年1月12日 08:20
日本の映像配信事業者の中で、U-NEXTは大きな存在感をみせている。
特に、2023年7月にTBSなどが出資して運営する動画配信サービス「Paravi」の統合がスタートして以降、その効果で会員数は大きく上昇した。
スポーツにおいても、3月末から「SPOTV NOW」と提携し、MLBやプレミアリーグの視聴も可能になった。
コンテンツ強化によるユーザー定着、と言えばわかりやすいのだが、その背景にはどのようなコンテンツ市場の変化と、消費者動向の変化があったのだろうか? そして、そこで同社はこれからどういう戦略を採ろうとしているのだろうか? U-NEXT代表取締役社長の堤天心氏に聞いた。
課題だった「放送局的コンテンツ」にParaviで対応
'23年4月にも、堤社長には僚誌AV Watchでインタビューをした。この時に堤社長は、「コロナ後になって『レンタルビデオの置き換え』から『有線放送のデジタル化へ』とシフトしてきた」と説明している。
コロナ禍に入って移動が阻害された結果、日本全体でレンタルビデオからオンラインへの移行が本格化した。これによって日本でも映像配信の活用が定着したが、その先の現象として、毎月の固定費として出ていく「有線放送・衛星放送」を、オンデマンドな映像配信に切り替える……という流れということだ。
Paraviを統合したことで、統合前の300万弱から、400万人を超えるレベルにまで拡大。元々のParavi会員数の増加以上に、ユーザー数を伸ばせているのがポイントだ。
では、現状をどう分析しているのだろうか? 特に「必要とされるコンテンツ」という意味で質問すると、次のような答えが返ってきた。
堤社長(以下敬称略):我々はこれまでも、特定のジャンルにフォーカスするよりも幅広く取り揃え、それぞれのジャンルでナンバーワンになるよう、取り組んできました。
従前、その中でも注力してきたのが映画・アニメです。どちらも特に、ローカル(日本向け)コンテンツが重要です。
ただ、放送局で作られるドラマに近いものについては、あえて優先順位を下げてきました。オリジナル作品を作るよりは、放送局のどこかとパートナーシップを組むことを考えてきたわけです。
そこで今回、TBSとパートナーシップ提携し、Paraviを統合するという形になりました。国内ドラマやバラエティの新作ラインナップも増え、ようやくこの分野で競合と勝負ができる状態になったと言えます。
そんな中、Paravi統合直後にTBSドラマ「VIVANT」が大きくヒット、まとめて視聴できるサービスとしてU-NEXTが注目されたこともある。この点については「予測できるものではなく、ある種の偶然です。統合後最初のドラマクールの中でシグネチャーなヒットが出たのは、非常に幸運なことでした」と堤社長も笑う。
U-NEXTが見る「日本の映像配信」
日本の映像配信を俯瞰した場合、もっともシェアが高く、影響力が大きいのはAmazon Prime Videoである。
以下は、インプレス総合研究所が6月に発行した「動画配信ビジネス調査報告書2023」による、日本の映像配信利用シェア(複数回答によるアンケート)のグラフだ。
Paravi統合前の数字なのでその点留意は必要だが、圧倒的にAmazon Prime Video(アマプラ)が強く、Netflix・U-NEXT・Huluと続いているのがわかる。
市場の状況を、堤社長は以下のように分析する。
堤:Amazonはちょっとレイヤーが違うレベルですね。
弊社にとってのネガティブなワードとしては「アマプラで十分」という声があります。そうならないよう、セカンドチョイスとしてのトップにならなくてはいけません。アマプラでは「十分でない」部分、映画・アニメ・スポーツなどの受け皿としてのファーストチョイスとして、カテゴリごとにトップになれるよう努力していきます。
中でも、ドラマに関する競合は非常にコンペティティブな状況です。そこで考えると、Netflixは外せない相手です。そのくらい、Netflixも、ドラマとその話題そのもののエンゲージメントは大きくなっています。
前述の「以前はオリジナルのドラマから一歩引いていた」という堤社長の発言は、そこに直接競合するのは大変……という話でもある。
では、ドラマで競合するとはどういうことなのか? オリジナルのドラマで戦うとはどういうことなのだろうか? もう少し詳しく聞いてみよう。
堤:映画やアニメは見るときに「探す」行為をしていただけます。品揃えを充実させていけば、探して見にきていただけます。
それに対してドラマやバラエティは新作・流行っているものを見る傾向が強い。すなわち、「新作」の価値が高いジャンル、と言えます。一方でアニメは、新作でなくても見ていただける。ドラマは鮮度が重要、というのは、Netflixを見ても同様の傾向があります。
そうすると、新作の量・サイクルの魅力が必要ということになりますが、これはなかなかにカロリーが高い。
ですからいよいよ、TBS・テレビ東京と連携できるParaviの存在が重要になります。テレビ局の色々なリソース・パワーを活用できますので。
そうなると、本来はテレビ局自体がサービスを行なうものも強いのでは……ということになる。堤社長はそれも否定しない。一方で、Paravi時代からの変化については次のようにも話す。
堤:弊社はデジタルマーケティングの経験が豊富です。そうした部分を掛け合わせて、テレビ・リアル・デジタルの連動を細やかにやり切れば、かなり効果が出るのでは……と考えています。
つまり、ネット内でのコンテンツ・サービス認知拡大をParaviコンテンツでも積極的に行なうことで、Paravi単独の時代よりもサービス認知と顧客の定着を狙える、という目論見だ。
価格改定の予定なし 「500万加入」の先にある世界
U-NEXTの特徴として、他社サービスよりも価格が高いことがある。他社が複数の料金プランを用意して価格バリエーションを広げる中、U-NEXTは「税込2,189円」一本。1,200円分のポイントが含まれており、都度課金コンテンツや電子書籍などが見られるため、実質的なコストが高いわけではないのだが、絶対値として「高い」ことに違いはない。
他社は広告モデルの導入も進み、より値下げしていく傾向にもあるが、堤社長は「2,000円強という価格を安くしていく予定は一切ない」と強気だ。逆に「いかにこの価格を維持するか、というのが原則」とも話す。
堤:ドラマの世界でNetflixに近い土俵で、「ドラマのU-NEXT」として戦うには、ユーザー数がまだまだ足りないですし、それに見合った投資規模が必要です。
会員数としては400万加入でも足りず、500万・600万という数が必要です。投資に必要な額として必然的に目指す目標はあり、2,000円×500万加入まではチャレンジが必要と判断しています。その先は慎重に見極めていきたいです。
堤社長が「500万」という数にこだわるにはもちろん理由がある。月額での収入、という部分もあるがそれだけでもないのだ。
堤:コンテンツがどうヒットするかは読みづらいものです。だとするなら、一定以上の質の作品を、一定の数作り続け、「打席に立ち続ける」必要があります。やるなら継続できる構造が必要で、足元ではまだこの構造に至っていないです。
これは私見ですが、500万と600万の間に、その構造に至るラインがある感触があります。その数になると、一定のトレンドができて、新作がちゃんと話題になる。その規模に至った時、(Netflixなどと)同じ土俵で戦うなら、少しリスクはあるものの「張らないと」いけないとは思います。
U-NEXTは’23年9月30日時点で、有料会員が400万を超えたところだ。1つの目標となる500万を超えるにはまだ少しある。
この部分については「市場がどこまで伸びるか不透明な部分がある」としつつも、一定の自信を持っているようだ。それは、有料放送などからの顧客移動が本格化し、映像配信へと顧客を取り込むことが可能、という自信があるからだろう。
IPを軸にサービスを使う「日本の先進性と特殊性」
そんな中で、日本と新規IP(知的財産)の関係はどう見ればいいのだろうか?
堤社長は「IPの組み立てかたという意味で、日本は進んでいるところもある」と話す。
堤:諸外国のことを完全に理解しているわけではないですが、日本の場合には次のようなケースがあります。
1つのモデルとして、まず出版社を源流としてIPが生まれます。すなわち映像ファーストではなく、漫画なり小説なりから生まれて、そのビジネスを加速するために映像があり、さらにそこからグッズがありイベントがあり……という形です。
放送局も今はドラマ発で、自分たちが開発したIPを最大化する方向にあります。
アメリカだとディズニーなどが象徴的に行なっていることではあるのですが、日本の場合、コンテンツを「映像作品」として見るのではなくIPとして捉える考え方が、ナチュラルに存在します。ファンの方々もそこで積極的に活動をされている。
これは、オンラインストアの構造を見てもはっきりとわかる。
日本の場合、映像配信事業者が原作の電子書籍を売ったり、グッズ販売のリンクがあったり、イベントの映像配信につながっていたりする例が多い。U-NEXTもそれに近い構造だ。だが、海外のプラットフォーマーはあまりやらない。「映像の下に原作やグッズが出てくる」構造を採る例は少ないのだ。ただアニメでは、米クランチロール(Crunchyroll)が、似た発想でサービスを構築し始めている。軸はやはりアニメであり、日本からの影響も強いサービスである。
堤:スポーツやアニメではそういう、360度的なプラットフォームの発想があります。
ただ、ドラマに関して言えば、海外含めてちょっと弱いかもですね。効率も含めてスピードが優先されているので、ドラマの寿命が短くなっていることは、ある面で危惧しています。IPを育てるには逆風です。
もちろん、今後ネットから「ロングセラー」「エバーグリーン」な作品が出てくれば……とは思います。そういうものを生み出してきたのがハリウッドではありますが。
「技術的に言えば映像が一番大変なので、電子書籍などを展開するのは難しくない」と堤社長はいう。
だが、コンテンツの親和性が高いことは明白だ。同社も映像からスタートしつつ、サービスを拡張していく中で、書籍や音楽ライブなどを統合するビジネスロジックが育っていった。
堤:当初から、映像を軸にピラミッドを作っていけるだろうとは想像していました。
ただサービスを開始した当初は、「アプリはシングルパーパース(単独用途)であるべきで、映像と書籍が同居しているのはナンセンス、というトレンドがありました。自分の中では、ワンアプリ・ワンプラットフォームで摩擦なく使えるアプリであれば支持されるのでは……とは思います。「同じIP」を軸にすればシンプルに統合できるという考え方ですね。
確かに機能というより「IP」「コンテンツ」で見た方が、利用者にとっても理解しやすい。「IP軸モデル」はU-NEXTだけでなくFOD(フジテレビオンデマンド)なども仕掛ける方法論ではあるが、非常に「日本的」かつ「システマチック」なやり方と言えるのではないだろうか。