トピック
BEVスポーツカー大豊作 スポーツカー好きが歩く「モビリティショー2023」
2023年10月28日 20:00
10月25日より「東京モーターショー」が……いや、名前を「ジャパンモビリティショー」に変えて4年ぶりの開幕となった。
前回開催はコロナ禍前の2019年。翌年にオリンピック「東京2020」を控えての開催となった「東京モーターショー2019」は、オリンピック関連施設の準備が進められていたこともあり、会場の東京ビッグサイトの全ホールが使えず、ブース展開は「有明エリア」と「青海エリア」に分けて開催された。両エリア間の移動には無料シャトルバスを利用するシステムとなっていたが、混雑などの課題もあった。
そして、翌年2020年の東京オリンピックはコロナ禍の影響で1年延期となり、1年おきに開催の東京モーターショーも、コロナ禍が終わらず2021年は開催できず。
その意味では、今年はコロナ禍を抜けてから初、そして4年ぶりの平常の開催となった。「東京モーターショー」から「ジャパンモビリティショー」へと名前が変更されて初めての開催でもある。
筆者も胸を躍らせながら、メディアデーの10月25日に東京ビッグサイトへと向かい、朝8時の開場とともに、東京ビッグサイトの中に足を踏み入れたのであった。
というわけで、筆者、西川善司によるジャパンモビリティショー2023探訪記をお届けすることにしたい。
なお、筆者の現在の愛車は「S660」と「GT-R NISMO Special Edition」。スポーツカーと、映像技術(現在の愛機はDLA-V90R)が大好きなジャーナリストなので、かなりマニアックな探訪記となっていることをあらかじめお断りしておく。
会期:2023年10月26日~11月5日
入場料:3,000円(高校生以下無料)
会場:東京ビッグサイト
2025-2026年 岐路に立たされるスポーツカーたち
「ガソリンエンジン(内燃機関)のみを動力源としていたスポーツカーが終焉を迎えそうだ」という話を耳にしたことがある人はいるだろうか?
これは、国連欧州経済委員会自動車基準世界フォーラムにおいて、地球環境保全と二酸化炭素排出量の削減を目的として提言された「UN-ECE R51-03」(R51-03)に大きく関係している。この提言に対しては、SDGsに高い関心を示している日本も、当然のごとく賛同の姿勢を示している。
ざっくりとした説明になるが、R51-03とは主に「時速50km走行時の騒音規制」になる。この規制が厄介なのは、車検時などに測定されるマフラーの近接排気音だけではなく、タイヤが発する音や、エンジンの稼働音など、「自動車が発するあらゆる騒音全体に対する規制」であるため、かなり厳しい規制なのだ。
このR51-03の騒音規制は、突然厳しくなっても自動車メーカーが対応できないことから、施行猶予期間のような仕組みが設けられており、具体的には、フェーズ1、2、3と年を経るごとに厳しさを増すようになっている。
新型車については既にフェーズ2が2020年より施行開始済みだが、既存車種の継続生産車については、フェーズ2が'22年秋より施行が開始された。
さらに厳しさを増すフェーズ3は、新型車については2024年から、継続生産車については2026年から適用が始まる。
「純ガソリンエンジン搭載のスポーツカーが全滅する日」は、2022年秋と目されていたが、日産GT-Rのように、新技術導入で、2022年秋のフェーズ2規制のデッドラインを生き延びたモデルもいくつか存在する。
続いてやってくるさらに厳しいフェーズ3規制は、2024年(新型車)、2026年(継続生産車)にやってくる。さらに厳しい純ガソリンエンジン搭載のスポーツカーのデッドラインは、歩みを緩めず、ゆっくりと近くまでやってきているという状況だ。
なお、2026年の継続生産車に対するフェーズ3規制の前に、スポーツカー達には、2025年12月に大きな壁が立ちはだかる。
それは、国土交通省が定めた「継続生産車に対する自動ブレーキ(衝突軽減ブレーキ)の搭載義務化」だ。新型車は2021年11月から義務化がスタートしているが、既存車種に対しても2025年12月から義務化される。もちろん軽自動車も。
多くの既存スポーツカーは、自動ブレーキを搭載しておらず、継続生産するためには、この関門を抜けなければならない。トヨタのGR86、スバルのBRZ、マツダのロードスターは、2023年のマイナーチェンジでマニュアル車にまで自動ブレーキを搭載したため、2025年自動ブレーキ義務化をパスできる。前出の日産GT-Rが、仮に2025年/2026年モデルを出すのであれば、自動ブレーキまでを搭載しないといけない。
もともと、スポーツカーは趣味性の高い車種なので、その車種専用仕立てのメカニクスが多く、量産性もそれほどよくない。そこにきて様々な規制への対応が加わるため、スポーツカーは、たとえ入門クラスのモデルでも、一層、高価なモノになっていくことだろう。
もちろん、それでもスポーツカーを楽しみたいファンは世界中に居続けることは間違いなく、自動車メーカーも、その声をキャッチしてはいるので、多くのメーカーは、そうした規制をパスしうる、電動技術を採用した新しいスポーツカーの開発に着手してきている。
さらにいえば欧州連合(EU)は、これまで「2035年までにガソリンエンジン搭載車の新車販売を全面禁止としていた方針」の緩和を今年(2023年)に発表したのだ。
具体的には、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原材料として製造する合成燃料「e-fuel」(イーフュエル)が利用出来るエンジンであれば2035年以降も搭載車両の新車販売を認めることとしたのだ。これはe-fuelが、名目上は、従来の化石燃料と違い大気中の二酸化炭素を増やすことがないカーボンニュートラルな燃料だから「よしとしましょう」としたのだ。
e-fuelが利用出来るエンジンとは、ほぼガソリンエンジンのことなので、事実上、ガソリンエンジン搭載車の延命が決まったことになる。
ただ、前述のフェーズ3騒音規制は生きているので、大排気量のガゾリンエンジン搭載スポーツカーは2026年のデッドラインをこえることは難しいだろう。しかし、逆に言えば中排気量までの純ガソリンエンジン搭載スポーツカーや、中排気量のガソリンエンジンと電動技術を組み合わせたハイブリッドスポーツカーなどは2026年も新型車として発売される見込みが立ってきたということだ。
モビリティショーを席巻した魅惑のEVスポーツカーたち
今回のジャパンモビリティショーに出展されたスポーツカーで目立っていたのは、やはり、「BEV(バッテリーEV)」スポーツカーだ。いわゆる完全電気自動車タイプのスポーツカーだ。
すぐ発売できそう? トヨタ「FT-Se」
トヨタは「FT-Se」という名前のスポーツコンセプトカーを展示。
コンセプトカーではあるが、近々発売してもおかしくない、現実味を感じる「無理していないデザイン」が魅力的であった。横からのフォルムを見ると、前輪と後輪、そしてコクピットの位置関係はミッドシップレイアウトを彷彿させるデザインであることにも気付く。
今回はBEVとして発表されてはいるが、前述した「e-fuel容認」動向を踏まえれば、ミッドシップのハイブリッドカーの可能性もあるかもしれない。トヨタのミッドシップといえば往年の名車「MR2」(とMR-S)を思い出す人も多いはず。是非とも、MR2をハイブリッドカーで蘇らせてほしいものだ。
ロータリーエンジン搭載のEV「MAZDA ICONIC SP」
マツダは「MAZDA ICONIC SP」という名のスポーツカーのコンセプトモデルを展示。
見た目は、かなり現行型のNDロードスターに近いイメージを宿しているが、この車、なんとロータリーエンジン搭載車なのだという。筆者も10年間、ロータリーエンジン搭載車の最終型6型RX-7(GF-FD3S)を乗っていたのでなんとも感慨深い。
ロータリーエンジンとは、三角形の回転子(ローター)を燃料の爆発によって偏心回転させ駆動力を得る内燃機関で、世界でもマツダのみしか実用化を実現できなかった特異なエンジンだ。「発進トルクが細い」「燃費が芳しくない」「偏心回転するがゆえに寿命が短め」(ローターの頂点部分のシール材の摩耗が激しい)といった潜在的な弱点はあったが、「エンジンが軽量コンパクト」「振動が少ない」といった美点が筆者を含むファンを虜にした。
「MAZDA ICONIC SP」に搭載されるのは2ローター型の最大出力370馬力のロータリーエンジンだとのことだが、その用途は発電用に限定される。燃料は、前述したe-fuel、ガソリンなどが想定されるが、ロータリーエンジンはソフトウェア的な制御を変えるだけで、同一エンジンで水素燃料を燃焼して回すこともできるので、水素燃料に対応させることも視野に入っているという。
スバルは「SUBARU SPORT MOBILITY Concept」
スバルは、空飛ぶ自動車として「SUBARU AIR MOBILITY」を発表。といっても、コンセプトモデルであり、直近で実用化が予定されているものではない。
この空飛ぶ車の下には、地上を走るスポーツカーのコンセプトモデルを展示。スポーツカーとは言っても、華奢なイメージのものではなく、今にも悪路をハイスピードで駆け抜けていきそうな、スバルらしいワイルドな出で立ちが目を惹く。
「SUBARU SPORT MOBILITY Concept」と名付けられた、この車は、コンセプトカーということで、直近の発売の予定はないものの、今後、登場するかもしれない、バッテリー電気自動車(BEV)時代の四輪駆動スポーツカーをイメージしたものだという。力強いフェンダーの張り出しからは現行スバルのイメージをダイレクトに感じるが、フロントやリアのデザインは、これまでのスバル車のデザイン言語とは大きく違うニュアンスを醸し出している。
ブースにいた担当者に、「デザイン面でこの車のスバルらしいところってどこにありますか」と聞いてみたところ、「ボディにはスバルのアイデンティティの6つ星からインスパイアされた"6"に関連したデザインモチーフがちりばめられています。是非見つけてみてください」とのことであった。
でっかくなったホンダ「プレリュード」の帰還
ホンダブースでは、新型プレリュードのコンセプトカーが展示。筆者は、大学生時代の愛車が4世代目のBB1型プレリュードだったので、この展示には大興奮してしまった。
プレリュードは、二世代目(1982年)と三世代目(1987年)がバブル期を代表するデートカーとして人気を博したが、筆者の愛車だった四世代目(1991年)からは200馬力の2.2LのVTECエンジンを搭載してインテグラの兄貴分FFスポーツとして様変わりしたものの人気は低迷。ラグジュアリー色を強めてイメチェンを図った五世代目(1996年)も鳴かず飛ばず2001年に生産を終了した。その後、後継車は出ず。その意味では、今回のコンセプトカーは20年以上の時を超えての復活と言うことになる。
日本では「不人気でフェードアウト」だったプレリュードが復活したところで、どの程度、喜ばれるのかは未知数だ。しかし、海外では4代目以降もそれなりに人気があったようだし、20年も出ていなかったシリーズは実質、新シリーズのようなものなので、ホンダとしては、有名ブランドの復活で十分に話題にはなると踏んでいるのかもしれない。
フロントデザイン、特にフロント先端中央からヘッドライトへ繋がる斜面の感じは筆者が所有していた4代目のモチーフを強く感じる。車名ロゴも、3代目までのブロック体大文字「PRELUDE」を使わず、あえて4代目プレリュードで初採用となった筆記体での「Prelude」ロゴを流用していることからも、4代目に対するリスペクトを感じる。
ちなみに、サイドフォルムは、フロントエンジン・フロントドライブの典型的なFFクーペスタイルとなっていて、ここもプレリュード的だ。しかし、ボディサイズは、かつてのプレリュードと比較するとかなり大きく、実際、ホイールは20インチサイズを履いていた。目測だが、全長も4.6mはありそうで、車幅も1.9m近いと感じた。
でっかくなって帰ってきたプレリュード。最終的にどんなモノになるか、楽しみだ。
次期型GT-R? 日産「HYPER FORCE」
日産は、BEVスポーツのコンセプトカーとして「HYPER FORCE」をサプライズで発表。
このコンセプトカーは、日産社内でも限られた関係者にしか、その発表が知らされていなかったようで、ブース内の物販コーナーでも、ブース内に展示された次世代ミニバンのコンセプトカー「ハイパーツアラー」や、次世代SUV「ハイパーパンク」のグッズはあっても、この「HYPER FORCE」のグッズだけは置いてないのだ。
物販コーナーのスタッフに「HYPER FORCEのグッズはなぜないのですか」と聞いてみたところ、「こんなコンセプトカーが出ることは我々も知らされていなかった」と証言していたので、かなり秘密裏に開発されていたモノなのだろう。
このHYPER FORCEは、電動の四輪駆動システム「e-4ORCE」(Eフォース)を搭載した、4WDスポーツカーのコンセプトカーで、丸目4灯のテールランプからも分かるように、次期型R36 GT-Rを想起させるように作られたことは疑いようがない。
フロント中央には、モザイクのような白と赤の立方体の小さなオブジェが光りながら鎮座しており、これが、遠目から見ると「GT-R」エンブレムのように見えるから心憎い。
筆者は最初、このエンブレムが赤く光る「一つ目」のように見えてしまい、アニメ「機動戦士ガンダム」に出てくるジオン軍のモビルスツールのモノアイに見えてしまった。そう思ってみると、突き出た口のようなフロント下側の大きなインテークと、相まって、HYPER FORCEはゲルググに見えるではないか。
R36 GT-Rは「ジオン軍、脅威のメカニズム」で出来ているのかも知れない。
ブースでは、日産が誇る「e-4ORCE」を体感出来るシミュレータが楽しめるようになっているので、時間があれば是非挑戦してみよう。
アトラクションとしては、いわゆるドライビングシミュレータで、氷雪路、積雪路、砂漠道などの悪路走行をe-4ORCEオフとオンによる乗り比べが楽しめるのがウリ。ブレーキが効にくい悪路も、e-4ORCEを有効化すれば、コンピュータ制御による4輪個別駆動で、難なく曲がっていける体験が実感できるのだ。
筆者は、この体験をなぜやりたくなってしまったかというと、このシミュレータの映像はプロジェクタからの投射映像ではなく、40インチオーバーの大画面モニターを15画面分、縦配置で円弧状に配置した、直視型モニターの多画面環境だったから! 筆者宅は6画面環境を構築しているが、さすがにこの15画面環境には恐れ入る。シミュレータを楽しんだ後、両手を合わせて拝んできました。ありがたや。
大注目のダイハツ「ビジョン コペン」
今回のモビリティショーにおけるスポーツカー関連で、個人的に一番、ビッグなネタと感じたのは、ダイハツブースの新型コペンのコンセプトカー「ビジョン コペン」だった。
コペン(COPEN)は、元々は「軽(K)自動車のオープン(OPEN)カー」という日本語を縮めた「KOPEN」が当初の名前だったが、最終的には「COPEN」となった経緯がある。デビューした2002年当時は「軽スポーツ」というジャンルが消滅寸前だったこともあり、デビューする否や唯一無二の人気車となる。
その後、コペンは2世代目が2014年にデビュー。2015年にはスズキから「アルト・ワークス」、ホンダから「S660」がデビュー。2019年にはトヨタチューンドの「GRコペン」も発売されたりして、2010年代はそこそこの「軽スポーツ」充実時代を迎える。
ブースには、2002年に発売された初代コペンも展示されていたが、この初代コペンと今回発表の「ビジョン コペン」を比べると「似ているところはしっかり似ている」が「要所要所で全然違う」ところも見つかるのが楽しい。スルメのように咬めば咬むほど味わい深いデザインとなっていて、近寄ったら最後、いつまでも見入ってしまいそう。
まずフロント周り。初代から継承された愛嬌のある顔だが、初代コペンと比較すると、目に見える丸い左右のヘッドライトが、「ビジョン コペン」の方が離れていることに気が付くだろう。そして、ボンネットが相対的に低く見えるかもしれない。
実は、「ビジョン コペン」は、車幅が1,695mmで、軽自動車ではなくなっているのだ。全幅1,695mmといえば、5ナンバー普通自動車の最大幅だ。横幅か広がって、目玉ライトが互いに離れたこともあって、全体的にロー&ワイドに見えるわけである。
続いて、サイドビュー。筆者は、ホンダブースでプレリュードのコンセプトカーを見たばかりだったこともあり、「あれ!?」と声を上げてしまう。そう、そうなのだ。ロングノーズで、前輪とAピラーとの距離が長く、もう、これはフロントエンジン、リアドライブのFRプロポーションなのである。やられた、そう来たか。
ということで近くにいらっしゃった担当者に「コレ、発売するんですか?」と聞いてみると「初代のコペンも最初はコンセプトカーでしたけど発売されましたよね」……とニヤリ。詳しく聞いてみると、初代コペンの時と同じく、ブース来場者の生の声を聞いて最終判断をするつもりなのだとか。ブースに行ったら、ダイハツのバッジをぶら下げた人に「欲しい!」と言ってあげよう。筆者も言っておきました(笑)。
ホイールベースは2,415mmだそうで、FD型のRX-7(2,425mm)とほぼ同じ。全長は3,835mmで、GRヤリス(3,995mm)よりちょっと小さいくらい。サイズ感はND型のマツダ・ロードスターに近いが、全幅・全長は「ビジョン コペン」の方が小さく、ホイールベースはロードスターの方が短い。
搭載エンジンは1,300ccを想定。過給器や気筒数の存在は不明だが、FRということで当然縦置きレイアウトとなる。「価格はマツダ・ロードスターよりは安価な設定としたい」とのことなので、ノンターボの3気筒の可能性が高いか。「気が早いですがGRコペンも出ます?」とダメ元で聞いてみると「これがうちから出たら、トヨタさんは出すんじゃないですか」とのこと。
苦笑いする担当者に向けて「(発表すれど発売されなかった)トヨタのS-FRみたいにならないですかね?」と聞いたところ、「大丈夫だと思います。全方位に気を配って開発しています」とのお答え。
「ビジョン コペンは、安全基準はもちろん、e-fuelにも対応させる準備と、電動化にも対応させる準備も行なっています。我々は本気ですよ!」と頼もしい一言を頂けた。
こうしたコンセプトカーの前ではメーカー担当者達は普通「今は何も言えませんね」とつれない受け答えが多いものなのだが、この「ビジョン コペン」前の関係者達は目がギラギラしていて頼もしかった。
みんなで貯金をして待ちたい!
ヤマハのバイクは倒れない 運転しながらスマホもOK!
スポーツカーにしか関心がない筆者ではあるが、ヤマハブースで見かけた凄い二輪技術は、新しいテクノロジー好きの筆者を虜にしてくれたので、是非本稿でも紹介したいと思う。
ヤマハは、かつての東京モータショー2017で、自律走行可能なオートバイ専用の自動運転ロボット「モトボット」を発表していた。
ただ走るだけでなくトップレーサーに肉迫するラップタイムを実現することを目的として開発が進められていたこの「モトボット」。わざわざ人型にしているのはあらゆる人間用オートバイを乗りこなせるように開発が進められていたため。
そして、ヤマハは、モトボットを最速のAIレーサーとして開発するだけでなく、人間のテストライダーでは危険すぎる状況下でのテスト運転を代行できるAIテストドライバーとしても開発していたのだった。
その後、ヤマハはモトボットの機能をオートバイに一体化した「モトロイド」を開発。
オートバイの自動運転機構をロボットの形態としてではなく、オートバイそのものに内蔵してしまったのが「モトロイド」だ。まるで「ターミネーター4」に出てきた「モト・ターミネーター」のようだ(笑)
今回のモビリティショー ヤマハブースでは、そのモトロイドの最新版がお披露目となっているのだ。
まだ開発段階だが、最終的な完成モデルでは、人間がオートバイとしてまたがれば自動運転で目的地にまで連れて行ってくれるし、あるいはモトロイドのサポート付きのオートバイとして自由かつ安全に乗ることもできるようになる。さらに、スマートフォンなどで呼べば、愛犬のようにオーナーの元に自律走行で走り寄ってくるというから愛らしい。
ブースでぜひご覧頂きたいのが、このモトロイドの姿勢維持機能。二輪なのに倒れず立ち続けられるのだ。グイっと押して倒そうとすると、下部にあるカウンターウェイトが転回して能動的にバランスを取る!
まるで「機動戦士Zガンダム」に出てくる百式のウイング・バインダーのようだ。モトロイドのその驚きの姿勢制御を見た筆者は思わず、ヤマハの担当者に「モビルスーツのAMBAC(Active Mass Balance Auto Control)制御じゃないですか!?」と言ったところ、「そうなんですよ!」とガンダム用語が通じ合ってしまい思わず笑い合ってしまった。
ちなみに、このモトロイドの開発過程で誕生した「倒れない姿勢制御」である二輪車安定化支援システム「AMSAS」を搭載した電動スクーター「ELOVE」も、今回のヤマハブースに展示されている。
将来的には、こうした一般ユーザー向けの電動バイクにもフルのモトロイド機構が内蔵されれば、スマートフォンを見ながらのバイクによる通学通勤が可能になるかもしれない。
ホンダジェットに乗れる おもしろ展示いろいろ
最後は、思わず立ち止まって話を聞いてしまった興味深い展示達を、順不同で紹介していこう。
ホンダブースには、あのホンダが開発して実際に富裕層に向けて販売されているプライベートジェット機「HondaJet」の実物大モックが展示されているので、是非チェックしたい。
モックとは言っても、おそらく、実際に購入を検討されている顧客へのモデルルーム的なものなので、中は実機とほぼ同じ。会期中は、この実物大HondaJetモックに乗り込めるので、貴重なこの機械を逃さぬよう。
トヨタブースでは、ひっそりと「KINETIC SEAT」なるモノが展示されている。こちら、自動車への搭載を想定して開発されている次世代シート(椅子)なのだが、なんと、クルマが揺れても、その衝撃や揺れをシート自体が吸収することができるのだ。
具体的には、ユーザーの両肩部、背面部、座面部を支える三分割構造になっていて、クルマからやってくる衝撃や揺れをシートが受け止めて、ユーザーの首が大きく振られないようにしてくれる。人間は、二足歩行を獲得してからの進化の過程で、自らの脚で歩いた際に、なるべく首が揺れないように、自身の骨格の動きで衝撃を吸収している。このメカニズムを簡略化して実装したモノが「KINETIC SEAT」なのだそう。
製造コストは相応に高くなるため、当面は、身体に障害を持たれている方の姿勢支援シートとしての訴求をしていくとのことだが、一般車に搭載すれば「乗り物酔い」の軽減が、スポーツカーに搭載すれば過酷なドライビング状況の中で疲れにくさを実現できる見通しがあるとのこと。
トヨタブースにひっそりと展示されているので見逃しに要注意!
3Dプリンター住宅事業を手掛けるセレンディクスのブースでは、いくつかの関連企業が合同で展示を行なっている。筆者が惹かれたのはスープスタジオが手掛ける段ボール製ドームスクリーン「PAPER DOME」にパノラマ映像を投射するデモ。
段ボール製のペーパースクリーンはドーム半径とドーム視野角に応じて価格は変わり、約8万円~15万円前後。パノラマ映像を投射していたプロジェクターは、KDSが開発した「Reve360」が使われていた。プロジェクタのコア部は4K解像度の単板式DLPレーザープロジェクタで、輝度は3,200ルーメン。投射画角は非公開とのことだが、見た感じでは上下左右ほぼ180°(実際には170°台?)であった。価格は440万円。ブースは西棟1FのStartup Street内。
ドーム型投影といえば、ワンダービジョンテクノラボラトリーも可動筐体付きのド派手なものを展示していた。
ワンダービジョンのドーム型スクリーン「WV Sphere5.2」は横幅5.2m、高さ3.4m、奥行き2.6mと巨大だが、それでいて表示面は非常に滑らかな曲面となっているのが特長。これは、樹脂製フレームに布製のスクリーンをしっかりと貼り込んでいるため。なお、横幅2.9mのスモールバージョン「WV Sphere 2.9」もある。
極めつけはこのドーム型スクリーンのために専用独自開発した超高精度の曲面ミラー。WV Shpereへの映像投射を行なう場合、プロジェクタは魚眼レンズを搭載しなくて良いのだ。その美点は何かといえば、ミラーによる反射光学系は色収差が起きないのだ!
魚眼レンズ方式のドーム投影は、投射映像光線のレンズに対する屈折角度がきつくなる外周に行けば行くほど赤緑青の3原色の波長の違いに伴った色ズレが起きてしまう。WV Sphereはミラーを使って映像をドーム投影するので色収差が原理上でないのである。
この曲面ミラーは、とんでもなく高度な技術を用いられて作られているのだが、なんと開発は日本の町工場によるものだという。WV Shereシステムは、スクリーン共々日本のもの作りの賜というわけである。
ブースでは、WV Sphereによる臨場感たっぷりの映像体験はもちろんだが、「WV Sphere自体の見学」もしっかりと楽しみたい。ブースは西棟1Fの「Tokyo Future Tour」内。
トヨタ自動車とバンダイナムコがタッグを組んで実現した複合現実(MR:Mixed Reality)型のドライビング・アトラクション「Funve×PAC-MAN」も絶対に体験して欲しい展示だ。
体験内容は、誰もが知っているレジェンド級のビデオゲーム「パックマン」の世界を、電動カートに乗って一人称視点のMRで楽しめるというものだ。
電動カート部は、三重トヨタが独自開発した「Funve」というもので、既存のカートを改造したものではなく、MRコンテンツに適合させるために完全新規に設計・開発したもの。
屋内利用を想定したカート特有のユニークなサスペンション構造など、注目ポイントはいくつもあるが、特にユニークな技術ポイントを紹介すると、このカート、MRコンテンツの内容に応じて、ハンドルを回したり、ジョイスティックを倒したりして操縦するのだが、操舵輪は真っ直ぐ固定されたままで傾かないのだ。
「わかった! 曲がるときは戦車みたいに、駆動輪を逆転させるんでしょ!」と思った人。惜しい、ちょっと違う。
Funveの駆動輪は、工場で働く産業用ロボットや無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)などに採用されているメカナムホイール(Mecanum Wheel)を採用しているのだ。
メカナムホイールとは、ホイール本体の駆動回転と、ホイールの外周上に斜め45°に傾けて実装したバレル(樽型ローラー)を組み合わせたユニークな車輪だ。方向転換機能のない車輪にもかかわらず、左右の操舵、戦車のような「その場での左右回転」のみならず、「車体の向きを変えずに左右への平行移動」までが実現できるのが最大の特徴。
もう一つの注目ポイントは、2軸アクチュエーター付きのシートで、前後ピッチング方向と、左右ロール方向の傾き演出が可能なのだ。
AGV的な駆動方式のFunveの速度は時速4km程度。なのでとてもゆっくりだ。しかし、MRゲームなどにおいては派手なアクション演出があるため、リアル世界では極めて安全なドライビング状況であっても、搭乗者には危険なスリル感を与えたい。そこでシートの揺れを強調するべく稼動するのである。
パックマンのコンテンツ部は、バンダイナムコ自身が制作したもので、内容も品質もお墨付き。そして、今回のFunveの操縦系はハンドルではなく、あえて2本のジョイスティックを使って操作するようになっている。ナムコ時代の名作ゲーム「アサルト」の操作系を移植しているのだ。コアなゲームファンにしか伝わらないかもしれないが、現実世界で、アサルトの戦車の操作系で乗り物を操縦できるのは、我々おっさんゲーマーにはたまらない体験となるはず! 見逃すな! ブースは西棟1Fの「Tokyo Future Tour」内だ。
風力を使った帆船型水上ドローンの開発のeverblue Technologiesは、これまでと異なるタイプの自立型ドローンを展示。それはなんと、雪国で大活躍間違いなしの除雪ドローン!
小型サイズで複数同時に自律充電・自律除雪が可能な特徴を活かし、積雪する前に除雪してしまう、ことが可能らしい。ブースは西棟1F Startup Street内。
南棟ホール3の一般社団法人「日本スーパーカー協会」ブースも要チェックだ。
ツバメインダストリが手掛ける全長4.5m、重量3.5tのロボット「ARCHAX」(アーカックス)が展示されている。
まるでゲーム「アーマードコア」から飛び出して来たようなかっこよさげな機体だが、実際にコクピットに乗り込んで操縦、あるいはリモート操縦が可能で、時速10kmでの走行、腕や指が動かすことができる。
価格は参考価格は4億円。最初は「動かせるホビーロボット」のようなエンターテインメント志向な製品として展開されるが、いずれは産業用、災害救援用への応用も考えているとのこと。