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太陽光発電はお得なのか? 酷暑の中、新居の稼働実績から考えた【オタク家を買う】
2023年8月4日 08:20
筆者宅はガスを使わないオール電化にしている。キッチンのコンロはIHで、給湯器はエコキュートだ。都市ガスのエリア内だが(郊外だと都市ガス・下水のない住宅街も少なくない)、ガスは引いていない。
電力関連では、太陽光発電パネル、蓄電池、それらを制御するパワコンを設置していて、合わせて270万円くらいかかっている。一方、断熱性能を高めたことと、たくさん太陽光パネルを搭載したことで、経産省と環境省のゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の基準を満たし、補助金も100万円ほどもらっている。
創エネ・省エネにかけたコストは、元は取れない可能性もあるとは思っている。しかし快適性を考えると、やって良かったんじゃないか、というのが今のところの感想だ。カーボンニュートラルとか環境負荷的な面は、よくわからないのでおいておくとしても、実際に住む家を快適にする方法として、太陽光発電、なかなかイイと感じている。
注文住宅を作るための苦闘を記録していく連載です。家は完成すれど、いろいろ出費はかさむ……
そもそも電力の単位や価格がどんなもんかと言うと……
基礎知識としてW(ワット)やWh(ワットアワー)といった単位についても簡単に解説しておこう。
Wは電力、大雑把に言えばパワーの大きさだ。たとえばLED電球は12Wくらい、家庭用電子レンジは600Wくらい、我が家のエアコンはピーク時に2,000W以上の電力を消費する。家全体の電力を考えるときは、1,000W=1kW単位が使われる。
Wがパワーだとすると、Whはエネルギーの量だ。1Wのパワーを1時間発揮すると、1Whのエネルギーを使うことになる。こちらも家全体を考えるときは1,000Wh=1kWhを単位とする。電力会社から買うときの単位も、家庭用蓄電池の容量も、単位はkWhが使われる。
電力の単価は契約次第だが、たとえば筆者が契約している東京電力のオール電化向け「スマートライフL」プランの2023年7月改訂の単価だと、昼間が35.96円/kWh、深夜が28.06円/kWhで、これに燃料調整額(-11.21円)と再エネ発電賦課金(1.4円)が加わる。が、これらの金額はしょっちゅう改定され、適用タイミングもズレたりするのでわかりにくい。わかりにくいが、大雑把にまとめると以下のようになる。表内の単位はすべて円/kWhだ。
7月に買電単価が値上げされたが、燃料調整額が大きくマイナスになったので、実質的には値下げされ続けている。ちなみに8月は燃料調整額が-12.22円となり、さらに下がる見込みだ。しかしこれらの価格は「激変緩和対策事業」により、7円/kWhの補助金値引きが入っているのだが、9月からは補助金が3.5円/kWhに減額される予定なので、燃料価格が下がらないと、電気料金は3.5円ほど値上がりする可能性が高い。
電気料金には月額の基本料金も加わる。オール電化の筆者宅は15kVAというドデカ契約なので、月額4,428円と月によっては電気料金の半分以上を占める……本稿執筆のために電気料金や消費電力を見直したのだが、我が家は瞬間最大でも6kW=6kVAくらいしか使わないから、10kVAくらいに変更するかな、とか思っている。月1,500円くらいの節約になる。
太陽光で発電した電力は自己消費もするが、余った電力は電力会社に買い取ってもらう。このときの買取単価は、発電開始から10年間だけ固定価格で買い取る「FIT」という制度があり、2022年度に発電開始した我が家だと17円/kWhとなる。
で、実際の電気代はというと
太陽光発電が稼働開始したのは3月11日で、原稿執筆の8月1日まで、4カ月ほど運用した。この期間の運用実績を表にまとめると以下のようになる。表内の単位は¥表記がなければkWhだ。
「宅内コントローラ値」は自宅に設置されたコントローラーが測定した値、「買電(東電)」と「売電(東電)」は東京電力と売買した電力量と金額だ。
買電は東京電力エナジーパートナー、売電は東京電力パワーグリッドだが、ともに集計期間は毎月2日〜翌1日で、コントローラーとは若干ズレがある。なお、2月は発電システムが稼働しておらず(送電網接続許可が出るのに時間がかかる)、3月の宅内コントローラー値は発電開始した11日からの参考値で、7月分は東京電力から明細が出てないので推定値である。
「売買収支」は電気を売り買いして出た利益の金額だ。4〜6月はプラス、つまり儲かっている。やったぜ。
「推定料金」は「太陽光発電をしていなかった場合の電気料金」だ。宅内コントローラの「発電量」と「売電量」の差を「自家消費した電力量」すなわち「太陽光発電がなければ追加で買電していたであろう電力量」と推定し、そこに前述の昼間の実質電力単価をかけ、それを買電金額に足している。
最後の「効果」は、「推定料金」と「売買収支」の差だ。太陽光発電でこれだけ節約効果があった、というような推定金額となる。
太陽光発電はどのくらいコスト効果があったのか?
筆者宅に導入した太陽光パネルのスペック上の合計出力は8.16kW。初期コストとしては太陽光発電パネルに約200万円、蓄電池が約55万円、パワコン(蓄電池兼用)が約15万円。補助金を得るため増やしたので一般家庭としては出力が大きめだ。というか鉄骨造で平屋や陸屋根じゃないとここまで積めないかも。
我が家は窓が多く、表面積も大きい形状で、さらに全館空調を24時間稼働させているので、とにかくエアコンの電力消費が大きい。エアコンのコントローラーによると7月の消費電力の合計は約400kWhとなっているが、もっと多い気もする。
太陽光の発電量は、理論的には昼間が最も長い夏至(2023年は6月21日)ごろがピークと思うが、6月は梅雨で晴天の日が少なく、発電量は減っている。しかし4月5月7月は1メガワットアワーを超えた。このおかげで、フルで発電を開始した4月以降は、毎月2万円以上の節約効果が生じている。
この7月は記録的な暑さもあり、電力消費は960kWとヤバめの数値になっているが、そのほとんど(推定733kWh、約2万円分)を太陽光発電でまかない、買電をかなり減らした。一方で600kWh以上を売電できている。収支自体は-2,000円くらいになる見込みだが(原稿執筆時点では未集計)、太陽光発電がなかった場合の推定料金が約3.1万円なので、3万円近い節約効果が生じている。デカい。
まだ冬期の稼働実績はないが、冬期は発電量が減り、発電できない夜間の暖房が必要なので、節約効果は大幅に下がると予想される。それを踏まえた上で、年間の節約効果は大雑把な推定で合計20〜25万円くらいでは、と予想している。
太陽光発電とパワコンなどには総額で約210万円かかっている。ZEH補助金の100万円を引いた110万円とすれば、5年くらいで元が取れる。このほかに60万円ほどの蓄電池も入れているが、蓄電池を合わせても元を取るのに10年かからない。ただし、10年くらいでパワコンや蓄電池は劣化して交換が必要になってくるし、パネルの発電効率も落ちる。早いサイクルで修理交換が発生すると元を取るのは難しい、というイメージだろう。
蓄電池はコスト効果より防災効果
蓄電池のコスト効果は果てしなく小さい。設置した蓄電池は容量4.2kWhと小さめで、停電時に一部のコンセントにしか電力を供給できない「特定負荷型」と呼ばれるタイプになる。家全体に供給できる大容量の全負荷型は150万円から、みたいな世界だった。大容量が欲しいならV2HとバッテリEVを使った方が良いかも、と思う。
蓄電池にはいくつかの運用モードがあるが、筆者は「太陽光発電の余剰電力で充電し、日没後に出力することで買電を減らす」というモードで使っている。
停電時に備えて1割くらい残すので、毎日充放電する電力量を大雑把に3.7kWhと仮定する。昼間の買電の代わりに自家消費すると、10円/1kWhくらいの節約になるので、1日約37円/kWhの節約効果だ。10年でも10万円ちょっとなので、60万円くらいの初期投資に対してコスト効果は誤差レベルだ。しかも毎日充放電するので劣化は早い。
しかし家庭用蓄電池は防災の意味合いが強い。夜間も停電時に備えて0.4kWhくらいは残るので、スマホなどの通信機器は充電できるし、夜明けまで扇風機や電気毛布を使うくらいなら十分だ。夜が明けて太陽光発電が開始されれば、蓄電池に充電もされる。
蓄電池は災害対策としてはかなり心強いが、建物の立地と構造が災害時の避難所より安全でなければ、あまり意味がない。被災後、電力供給ができていても、家自体が壊れたり荒れたりして、復旧するまで避難所に行った方がマシとなれば、蓄電池も役立たずだ。導入するのであれば、そのあたりも総合的に考えよう。
儲けが出るほど太陽光発電を積むのは損?
太陽光発電パネルを増やせば増やすほど節約効果は高まるが、その分、初期コストがかかるので、増やせば良いとは限らない。
太陽光発電で使い切れなかった電力は売電するしかないわけだが、買電単価(昼間は27円/kWhくらい)に比べると売電単価(筆者契約で17円/kWh)は安いので、「買電を減らす」ことは重要だが、「売電を増やす」ためにコストをかけるのは効率が悪い、とも言える。
しかしこのバランスはかなり難しい。
筆者宅の太陽光発電システムは、天気が良く、くっきりと影ができる程度に日が照ると、10〜14時台あたりは6kWくらい出力される。ちなみに南向きだけでなく西向きの屋根にもパネルを載せているので、午後の方が発電しやすい。
一方、家全体の通常の電力消費は、エアコンがほどほどに動いていても1〜2kWくらいだ。2023年7月にしばしばあったようなヤバい暑さだと、エアコンしか動いてなくても3kWに達する。これにIH(最大2kWくらい)、洗濯機の乾燥機能(1kWくらい)、EVの充電(最大3kW)などが加わる。
EV充電中は家全体の消費電力が5kWを超えることがあるが、EVの消費電力は充電タイマーで時間帯を設定したり、太陽光発電と連動する充電機器を使ったりすることで、安い深夜電力を使ったり、余剰電力以上を消費しないようにコントロールできる。
あとは洗濯や調理をエアコンのピークとずらすようにすれば、我が家の消費電力は多くても3kWくらいに抑えられる。となると、正午前後に6kWとかを出力する我が家の太陽光発電は、ちょっと過剰とも言える。
たとえば太陽光発電パネルを半分にするとなると、パネルのコストの約200万円が半分になり、蓄電池を入れなければ総額110万円くらいになるだろう。
太陽光発電パネルが半分になれば、売電収入は減るし、朝夕や曇天時、冬期の買電が増える。その場合のコストがどうなるかを試算するにはデータが足りないが、買電は最大限に減らせるので、節約効果が半分になるわけでもないだろう。
しかしこのあたりのバランスはケースバイケースでもあり、考え方も試算もさまざまなので難しいところだ。
太陽光発電のコスパのカギは補助金制度
筆者宅は断熱性能的に不利な工法・形状・間取り・広さで、かつ省エネ性能の高くない全館空調を入れているので、経産省と環境省による戸建ZEH補助事業で補助金をもらうために、かなり大きめの太陽光発電が必要になった。
太陽光発電パネルとパワコンは合計で約210万円かかっている。補助金は100万円なので、実質110万円で毎年20〜25万円の節約効果が出るのはコスパが良い。しかし補助金が出なかったら、かなりコスパが悪い。
例えば一般的な住宅、普通の窓の量・ツーバイフォー・正六面体に近い形状・省エネ性能の高いルームエアコンを使うなら、筆者宅ほど大出力の太陽光発電パネルを入れなくてもZEH補助金が得られるだろう。断熱性能次第だが、100万円規模の太陽光発電で100万円の補助金が得られるだろうから、実質ゼロ円に近くなる。さらに地域によっては地方自治体も補助金を出している。
それでいてZEHを満たすような断熱性能・省エネ性能・創エネ性能であれば、エアコンの電気代も少なく、かなりの節約効果が得られるハズだ。これならば太陽光発電を入れない手はない、というレベルだ。
しかし行政による補助金制度は、スケジュールが一致しないと使えないので、難易度はそこそこ高い。たいてい、申請が認可される前は工事を開始することができず、申請タイミングは決められていて、指定された期日までに完成させて実績報告が必要で、年度跨ぎはできず、年度後半は工期が短めじゃないと間に合わない。
たとえば筆者のケースだと、雨などで「棟上げ」が延期されたらアウト、半導体不足で住宅設備の納期が遅れてもアウト、内装工事なども1週間遅延したらキケン、というスケジュールだった。これに100万円を賭けたのは、我ながらガッツがあったと思っている。
この手の補助金制度は、利用者ではなく運用者の都合で設計されているので、利用者視点だと意地悪に見える面が多い。コストをかけてZEH仕様にしても、何かの不運があるとZEH補助金が出ない、ということもありうる。制度を利用した筆者としても、こりゃ普及しないな、と思った次第だ。
太陽光発電は導入するべきか
筆者はテクノロジーオタクだし災害には備えておきたいタチなので、大きめの太陽光発電も小さな蓄電池も設置して良かったと思っている。ほかの人にオススメできるかというと、蓄電池は微妙だが、太陽光発電は悪くないと思っている。
太陽光発電はコスト面で考えると、「賭け」のような面もある。補助金が出て、故障や事故がなく標準的な耐用年数を使えて、最終的な処分やリサイクルのコストが法外なものにならない、という前提の上でも、どれだけ節約になるかは、今後の燃料価格の相場次第、という面がある。
原油などの燃料価格が下がって電気代が下がれば、太陽光発電のメリットも下がり、損をする可能性が出てくる。逆に燃料価格が上がれば、太陽光発電のメリットは向上する。
筆者個人としては、太陽光発電が大損となるくらい燃料価格が下がる可能性は低く、むしろ戦争の拡大リスク、カーボンニュートラルや脱原発など、燃料価格を押し上げる要因の方が強いと考えている。
しかし太陽光発電のポイントは、「補助金さえ出れば現状でも元が取れる可能性が高い」というところだ。太陽光発電は「賭け」かもしれないが、現状では賭け金が戻ってくる可能性が高く、賭けとしてのリスクは小さい。その一方で燃料価格が上がったときにリターンを得られる。
そして何より、電気代が上がっても節電を気にしないで良い生活というのは、やってみるとわかるが、なかなかに快適だ。太陽光発電はあとで導入するのはかなり難しいので、これから家を建てる人は、導入を積極的に検討されてはいかがだろうか。