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団塊ジュニアは何を体験してきたか? “超氷河期で悲惨”の刷り込みから離れて
2023年7月15日 09:15
団塊ジュニア世代はロスジェネ、超氷河期、お荷物と言われ続けてきた。長らく悲惨な世代と目されてきた団塊ジュニア世代だが、そうした見方は一面的だと指摘するのが、ライター・評論家の速水健朗さんだ。このほど『1973年に生まれて』という書籍を上梓したが、本書は世間に流布するロスジェネ論から距離を置き、団塊ジュニアがたどってきた体験を論述している。本書を書き終えた速水健朗さんに、話を聞いた。
ロスジェネ、超氷河期、お荷物と言われ続けた団塊ジュニア世代のど真ん中ゾーンも、ついに天命を知る50代に突入。
そんな世代が生きてきた1970年代から2020年代にわたる、日本社会、メディア、生活の変遷を、あるいはこの時代に何が生まれ、何が失われたのか――を、73年生まれの著者が、圧巻の構想力と詳細なディテールで描くノンフィクション年代記。東京書籍 書籍解説より
【更新】記事初出時から一部内容を変更しています(7月16日追記)
「同世代史」としてのロスジェネ
――速水さんにとっては6年ぶりの単著を出すことになりました。本書の副題には「団塊ジュニア世代の半世紀」とあります。団塊ジュニアといえば、ロスジェネ世代とも言われます。そのあたりを意識した内容なのでしょうか?
速水氏:僕は73年生まれですけど、この本は個人史ではなく「同世代史」です。例えば野球選手で言えば、イチロー、石井一久、松中信彦、中村紀洋、ジョニー黒木(知宏)、小笠原道大、中村紀洋、小坂誠らが1973年生まれです。彼らが活躍するようになり、何歳で引退したか。それを追うだけでも、同世代が生きてきた時代と重なる歴史ってありますよね。高校を卒業後にわりと早く活躍した石井一久もいれば、実業団を経て20代後半になって台頭する小笠原や松中もいる。引退のタイミングもバラバラです。
――イチロー世代というのはわかりやすいです。
速水氏:でも、本の中で注目しているのは小坂誠です。彼は、選手としては俊足で守備範囲の広いショートまたは、二塁選手でした。三塁打の数も多くて、通算63(歴代20位タイ)。37歳の年で選手を引退して、楽天のコーチになってすぐに東日本大震災が来るんですね。地元が被災し、仮設住宅に住みながらボランティアに従事する。本に書きたかった「同世代史」って、このように同じ世代の目線でたどった現代史というものです。
ーーなるほど。
速水氏:あとこの年代で注目したのは、大野倫です。彼は沖縄水産のエースで甲子園の決勝で肩を壊して投手としての選手生命を絶たれてしまった存在です。同世代なら記憶しているかなと。
この時の、連投問題はその後の高校野球に一石を投じました。とはいえ佐々木朗希が岩手県大会決勝で登板を回避するといったことが、受け入れられるまではたっぷり「一世代」かかります。
「一世代」というのは、佐々木朗希(千葉ロッテ。21歳)の父親が73年生まれの年代なんですよ。ちなみに佐々木選手は、陸前高田の出身で震災で父親を失っています。
ーー本書の副題には「団塊ジュニア世代の半世紀」とあります。団塊ジュニアといえば、ロスジェネ世代とも言われます。そのあたりをどう意識されたんでしょうか。
速水氏:ネットの匿名ダイアリーなどで団塊ジュニア残酷物語が書かれて、定期的に話題が集まったりしますよね。同世代の共感なんでしょうが、他の世代から冷ややかに見られているのも意識しないといけません。
「ロスジェネ問題」も「就職氷河期世代」も社会問題として特定世代に起きた出来事を捉え直した言葉です。この世代の雇用をめぐる社会問題への注目を集めることになったので、軽視はしてません。
でも紋切り型の世代理解にもつながっている。「あーあの世代ね」というように見られているのも仕方がない。同じことが親世代、団塊世代でも起きました。学生運動世代であることをアピールしすぎて、煙たがられた。そのことの轍を踏んではいけないとは思いました。
――確かにロスジェネ世代と言われると、それ以外のことが吹っ飛んでしまうような印象です。
コードレス電話機という変化
速水氏:代の経験を強固に縛り付けるのは、なるべく避けたい。世代論が煙たがられるのは、自分たちの体験を特別視、特権化するからですよね。あとそもそも、ロスジェネ大変論に飽きてるってのはあります。むしろ、細部を書きたかった。
例えば、僕の世代がその普及時期を経験した重要な家電・テクノロジー商品って、ラジカセでもウォークマンでもCDでもパソコンでもケータイ電話でもなくてコードレス電話だと思います。一家に一台の時代に電話ってリビングに置かれていて、家族の前で友だちや異性の友だちとの電話をするのは照れくさかった。
それがコードレスになって、自分の部屋に持ち込むことができるようになった。それは、みんな電話に夢中になります。それがいつかというと1990年頃。この年の『POPEYE』4/18号の広告ページを見ると、クルマ、タバコ、コードレスホン、オーディオ、ジーンズ、コードレスホン、プッシュホンといった順番なんですよ。コードレスホンの広告ページがとにかく多い。この頃が急速な普及期ですね。73年生まれが高校生だった頃。
ーーデジタル化とはまた別の技術の変化期ですよね。
「ネットバブル」と「マルチメディア」
速水氏:その10年後くらいの話をすると、僕はその頃にパソコン雑誌の記者だったので、2000年直前のネット業界を見てました。当時の「マルチメディア業界」は、渋谷のクラブを借り切って製品発表会をやるし、表参道の銀行が入ったビルの一室にある秘密クラブでパーティーとかもありました。経営していたのは、有名クリエイターでした。
あと六本木ヴェルファーレで開催された参加者2,000人の「Bit Style」という名のパーティが開催。スイスのダボス会議に出席していた孫正義が「3,000万かけてチャーター機でかけつけました」とあいさつして会場を沸かせたのが伝説で、もはやうろ覚えではありますが、僕も現場にいたはずです。ちなみに、これらはバブル時代の話ではなく、とっくにはじけて10年ほど経った時代の話です。
――いわゆるITバブルですよね。けど、その後に崩壊しますよね。
速水氏:この時代は、まだネットバブルと言われていましたね。
「オン・ザ・エッジ」の社長として有名だった堀江貴文が1972年生まれです。1973年生まれには、クレイフィッシュの松島庸がいて、当時、東証マザーズに最年少で株式上場を果たして話題になりました。その記録を直後に、同じ73年生まれのサイバーエージェントの藤田晋が塗り替える。松島も藤田も当時26歳。その後の人生は真逆で、片方は業界から消えて去って、片方はウマ娘ですよね。
あと、グーグルの創業が1998年ですが創業したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは1973年生まれです。2000年のネットバブルは、日米同時の出来事で、不思議な因果関係がある。この頃から、日米の経済も同期するしグローバルな経済が本格化する。ネットバブル崩壊で、世界は一気に冷や水を浴びる。とはいえ、のちのGAFAとなるAmazon、Google、Appleらは、さほどダメージを受けることなく、その後のIT社会を牽引します。残りの一席のフェイスブック、マーク・ザッカーバーグの起業は、少しあとの2004年ですけど。ここになると年下世代ですね。
――団塊ジュニア世代は、デジタル化の最初の世代であると。
速水氏:10歳の頃にファミコンが発売されるファミコン世代でもあるんですが、本の中では、あまり取り上げず、むしろホビーパソコンの話を取り上げてます。よく誤解されますが、決してホビーパソコンユーザーは少数派だったわけではないんです。
もちろん、これは男の子に寄った分野ではありますけど。ホビーパソコンの世界って、規格がばらばらで共有されにくいかもしれません。いわゆる御三家に別れます。NEC、富士通、シャープ。NECユーザーといっても、PC88、80、66、60といろいろ機種があります。性能差と価格差があり、まめに新機種が出るから、何を買うか皆、商品の特性をよく調べてました。当時NECが保守的という意識も、のちのPC-98時代には定着しますが、80年代にはないかな。で、富士通のFM7、New7ユーザーは、やや野暮ったいイメージですか。僕が当時憧れたのはシャープのX-1。グラフィックがきれいで、本体のデザインが都会的だった。
ちなみに新海誠も1973年生まれですが「ホビーパソコン派だったので肩身が狭いですよね」と、とあるインタビューに答えています。彼はシャープのマイナー機種のユーザーです。映画「君の名は。」の作中でX68000をちらっと登場させているので、シャープ製のパソコンへのこだわりがあるのだと思います。その後、ホビーパソコンのゲームメーカー大手の日本ファルコムに就職している。人生の転機でホビーパソコンに惹かれた1人です。
――題名からイメージする団塊ジュニアの世代論とは異なりますね。
速水氏:世代論ではあると思いますが、さっきも言ったように、特別視するのは避けたかった。メディア論、生活のテクノロジー史の側面が強いと思います。とはいえ、まあこのインタビューでは、自分の世代特有の出来事を特権的なものとして語ってしまってますね。すみません。
速水健朗(はやみず・けんろう)
ライター・編集者、ラジオ司会。
1973年石川県生まれ。コンピューター誌編集者を経て、2001年よりフリーランスの編集者、ライターとして活動を始める。音楽、文学、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など幅広い分野で執筆。「NEWS WEB」(NHK総合テレビ)ではネットナビゲーターとして活躍。そのほか、ラジオパーソナリティとして「TIME LINE」(TOKYO FM)や「速水健朗のクロノス・フライデー」(TOKYO FM)などの番組も担当。
主な著書に『1995年』(ちくま新書)、『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21新書)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)、『東京どこに住む』(朝日新書)などがある。