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スキー場で119番通報? iPhoneの「衝突事故検出」で知っておきたいこと

「緊急SOS」(イメージ)

「意図せず、119番に通報してしまう。」ということは、普通に生活している場合はあまり発生しないと思われます。

しかし今冬、スキー場があるエリアの消防機関は「意図しない」多くの119番通報に困惑しているそうです。NHKの報道によれば、長野県の北アルプス広域消防本部では、12月16日から1月10日までにスマートフォンやスマートウォッチからの自動通報が83件も寄せられたそうです。

スキーしていただけなのに…相次ぐ“誤検出”(NHK)

この原因と思われるのが、アップルがiPhoneとApple Watchに搭載した「衝突事故検出」機能です。'22年秋に発売されたiPhone 14/14 Proシリーズと、Apple Watch Ultra/Series 8/SE(第2世代)から搭載された新機能で、自動車事故の衝撃を自動検出して、緊急通報をしやすくします。当事者が通報できない場合、自動で緊急通報サービスにつなぎます。

実際、自動車事故や急な体調不良での転倒を検出して「命が助かった」という事例も国内外で多数報道されています。スマートフォンが「人の生命を助ける」という、とても重要な機能です。

ただし、この機能がこの冬のスキー場という環境においては問題が発生しているようです。ユーザー側でできる対応や注意点をまとめました。

衝突事故検出とは?

iPhoneとApple Watchによる衝突事故検出は、衝突検出のためのセンサーフュージョンアルゴリズムや100万時間を超える衝突データ、実走行、衝突試験を行なうラボを使用し、開発および検証されたもの。乗用車に搭載された数千台のiPhoneとApple Watchの両方でテストし、「誤検知を最小限に抑えながら緊急時に役立つ手助けとなるよう最適化された」とのことです。

iPhoneの加速センサーとジャイロスコープ、GPS、気圧計、マイクからのモーションインプットなどを組み合わせ、激しい衝突を正確に検出します。衝突を検出すると、iPhoneやApple Watchが警告音を発し、画面には警告を表示。画面に「緊急電話」のスライダーを表示して、すぐに緊急電話できるようになります。助けが必要でない事故や誤検知の場合は、緊急サービスへの電話はキャンセルできます。

ただし、ここで「緊急電話」か「キャンセル」を選ばないと、20秒待つとデバイスが自動的に119番で通報してしまいます。iPhoneやApple Watchは「事故」と認識しているため、衝突事故検出機能は利用者の代わりに緊急通報します。

一方、スキーは転倒が当たり前のスポーツで、iPhoneはポケットなどにしまってしまうため、日常生活より触れる機会は少なくなります。そのため、体が無事であれば、(自分のiPhoneが)通報したことに「気づけない」ことが多いようです。

消防機関は、通報が来れば救助の必要があるので折り返しの連絡などを行なうものの、スキー中のユーザーは電話に気づかない。こうした“噛み合わないやりとり”が発生してしまっているというのが、今回の問題です。

衝突事故検出の流れ。折り返し電話は必ず「返事」を

ではユーザーは、どうしたら対策できるのでしょうか? まずは、詳しく流れを把握してきましょう。

激しい衝突が検知されると、iPhoneやApple Watchは警告音を発し、画面には警告が表示されます。

この場合、iPhoneは警告を読み上げながら、画面に「緊急電話」のスライダーを表示します。このスライダを操作して緊急電話できるほか、不要であれば「キャンセル」できます。iPhoneに加えてApple Watchを使っている場合は、Apple Watchが震えながらチャイム音を鳴らしてユーザーに伝えるほか、緊急電話スライダが表示され、電話も通話音声もApple Watch側で再生されます。キャンセルもApple Watchから行なえます。

つまり、衝突検知後に緊急電話が起動した場合、助けが「必要」と判断すればスライドして通話、「不要」であれば「キャンセル」すればいいわけです。

問題はこのあとです。

緊急電話のスライダーに反応しない場合、20秒待つとデバイスが自動的に緊急通報サービスにつなぎます。日本においては「119番で通報する」ということです。つまり、iPhone/Apple Watchの衝突事故検出が行なわれると、ユーザーが明示的に「キャンセル」しないと119番に通報されます。

この緊急通報では、消防機関に対して音声メッセージによる自動通話が行なわれ、iPhoneの位置情報も消防機関に共有されます。

スキー場で起きている“誤通報”現象は、こうしたiPhone/Apple Watchの緊急通報の仕組みによるものです。iPhone 14シリーズなどの対象機種を持っている人は、まずこうした仕様であるということを把握しておきましょう。

その上で、もし意図しない通報となってしまった場合でも、ユーザー側から電話を切ってはいけません。119番を受けた消防職員に「間違いでした、救急車・消防車は必要ありません」と伝える必要があります。

なぜなら、通報を受けた消防機関が通報内容を確認できない場合、確認のために発信元に折り返し電話を行ないます。また、共有される位置情報をもとに発信場所付近の捜索を行なうこともあります。つまり、きちんと連絡できないと消防機関の手間を増やしてしまうのです。

折り返しの電話が来た場合は、必ず電話に出て、救急車などが不要か必要か、きちんと回答することが現場の負荷軽減にもつながるはずです。

消防庁でも告知を出しているので、スキーにいく場合などはこちらも確認しておきましょう。

総務省消防庁 スマートフォンから自動で発信する機能について

なお、iPhoneの「衝突事故検出」では、iPhoneに「緊急連絡先」を追加してある場合は、その人にiPhoneの位置情報と「車で衝突事故に遭った」と知らせるメッセージが送信されます。つまり家族などにも情報共有され、もし対応が不要な場合は無駄な心配をかけることになります。スキーなどでiPhoneを使う場合は、こうしたことを把握しておきましょう。

事故に遭ったときにiPhoneやApple Watchの衝突事故検出で助けを呼ぶ

ユーザー側でできること

iPhoneの衝突事故検出は上記のような仕様なので、スキーの時などは設定を「オフ」にするのも一つの考えではあります。iPhoneの場合は、設定→[緊急 SOS]→[激しい衝突事故発生後に電話]でオフにできるようになっています。Apple Watchでも同様に、iPhoneのApple Watch App→[マイウォッチ]-「緊急 SOS」から[激しい衝突事故発生後に電話]をオフにできます。

ただし、本当に事故にあった場合に動作しないのは本末転倒です。また、オフにした場合、スキー場を離れてから設定を戻し忘れる可能性もあり、その後交通事故時などに影響があるかもしれません。

この問題が難しいのは、特に自動車事故では非常に有意義な機能が、特定のシーン(スキーやスノボ)で想定外の動作になってしまうということです。デバイスの持ち主を「救う」という便利な機能ですが、現時点では使う側の人間や制度を含めて、まだ完璧ではないと言える状況といえると思います。

ユーザーができる対策としては、主に以下が挙げられます。

・自分のスマートフォンやスマートウォッチに通報機能があることを把握する
・衝撃を受けて、音や振動で通知がある場合はデバイスを確認する
・緊急通話が表示された場合は、自身の状況にあわせて判断する
・緊急通報に関する電話は(出られる状況であれば)必ず出て応対する

まずはこうした機能があることを理解し、適切に対応するようにしましょう。そして、仮に救急車などが必要ないのに119番が発信された場合や、折り返し電話があった場合は、「問題ない」としっかり伝えるようにしましょう。

現時点では、ユーザー側の認識・対応が求められますが、アップル側でもこの機能の改善に取り組んでいます。

iOS 16.1.2以降とwatchOS 9.2以降では、衝突事故検出のアルゴリズムの最適化が図られています。また、24日に公開されたiOS 16.3では、緊急SOSで意図しない緊急通報を防ぐために、「サイドボタンと上下どちらかの音量ボタンを長押ししてから放す」という新たな操作も追加されました。

また、今回はiPhoneの新機能が注目されていますが、こうした新たな緊急通報の仕組みによるトラブルはiPhoneに限りません。例えばAndroid 12以降のスマートフォンでは、電源ボタンを5回以上すばやく押して緊急通報できる機能を備えていますが、この機能を使った誤発信が多いとして、1月にケータイキャリアから注意喚起が行なわれています。

「Androidスマホの電源ボタンを連打は緊急通報」 携帯各社が注意呼びかけ

iPhone 14シリーズの発売から初のスキーシーズンということもあり、予想外に衝突事故検出に注目が集まってしまいました。また今後も、春や秋の他のスポーツや利用シーンでも問題が出るかもしれません。

ただし、こうした緊急通報の仕組みは、人の命や健康を守る重要な機能になっていくと思われます。取り組みはまだ始まったばかり。少しでもよいものになるよう、ユーザー側でも注意をしていきましょう。

臼田勤哉