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オリジナルマンガは動画配信の成長に必要? U-NEXTがマンガを作る理由
2022年12月2日 09:57
動画配信/電子書籍サービスのU-NEXTが、オリジナルの“コミック”レーベル「U-NEXT Comic」を立ち上げた。11月1日から5作品をU-NEXTで先行販売開始している。
動画配信サービスでは、オリジナル作品への「投資競争」が進んでおり、各社の重要な差別化戦略になっている。U-NEXTでも、米ワーナーメディア(HBO/HBO Max)作品の独占配信や邦画への投資など、動画領域では独自コンテンツ投資を進めてきた。
そして他の動画配信サービスとU-NEXTの大きな違いとなるのは、自身も大手の電子書籍サービス/ブックストアであるということ。その上で、オリジナル作品/IP投資を進める方針を打ち出してきた。オリジナル作品を作るだけでなく、コミック原作のIP(知的財産)のドラマやアニメ化などの展開を見据えている。
動画・ブック・音楽がオールインワンになったU-NEXTの強みはなにか? なぜいまコミック作品に投資するのか? U-NEXTマンガ編集事業長の松田昌子氏に聞いた。
シェア3位の動画サブスクは日本有数のブックサービス
U-NEXTは、日本における動画配信のシェアでNetflix、Amazon Prime Videoに継ぐ3位(GEM Partners調べ)。有料会員は275万人を抱える。
月額2,189円と他の動画配信サービスと比べると高価だが、1,200ポイントが毎月付与され、このポイントは新作ドラマや映画の購入に使えるだけでなく、コミックや書籍を購入できる。
つまり、動画だけでなく、書籍・コミックが統合された「オールインワン」のサービスというのがU-NEXTの強みだ。また、最大40%のポイント還元など、電子書籍/コミックをオトクに楽しむためのキャンペーンなども随時行なわれている。
U-NEXTブックの利用者数は公開していないが、270万ユーザーの「かなりの割合」とのこと。「U-NEXTは書店という認知が低いかもしれないが、2021年に入社して実際の売上を見て、主要書店にひけを取らない数字に驚いた(松田氏)」という。
U-NEXTのブックサービスの利用の多さは、毎月付与されるポイントが、動画だけでなくコミック・書籍で活用されているから。U-NEXTブックの売上は、直近の3~4年で8倍に成長しており、「動画のおまけではなく、一つの書店としての存在感を発揮してきた」。その規模は「電子書店の中でも無視できない規模になってきている」(松田氏)という。
コミックを中心とした電子書籍の市場は成長を続けているが、「ピッコマ」や「LINEマンガ」などのいわゆる「マンガアプリ」では、その差別化戦略としてオリジナル作品を作るのは一般的になっている。
今回スタートしたU-NEXTのコミックレーベルは、「動画配信と連動する新たなIPを生み出す」という使命もあるが、ブックストアとして「やらなければいけない使命でもある」(松田氏)とも語る。動画でもコミックでも、コンテンツ配信プラットフォームとして「ここにしかない」ものが求められている、ということに変わりはない。
もっともU-NEXTでは、コミック以前に、動画・書籍と独占配信やオリジナル作品を強化する「ONLY ON」戦略を進めてきた。コミックのIP強化もその戦略の延長線上にある。
動画においては、米ワーナーメディア(HBO/HBO Max)、セサミワークショップ、SHOWTIMEなどスタジオや放送局と日本における配信契約を結んでいるほか、映画では映画製作・企画に参画し、劇場公開から連携してきた。具体例としては、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」の独占配信や映画「花束みたいな恋をした」の大ヒットなどが上げられる。
書籍においても、2020年8月から文芸小説を「オリジナル書籍」として配信開始。22名の作家が参加し、短編から⻑編まで33作品を発売している。
オリジナル作品と動画配信の親和性
ただし、書籍とコミックでは同じオリジナル作品といっても、多くの違いがある。
書籍は、誉⽥哲也、町⽥康、藤野千夜など「実績ある作家」の書き下ろし作品が中心だが、コミックは必ずしも作家のネームバリューのみに頼らず、旬の作品をコンスタントに輩出できることを重視し、腰を据えてヒット創出に取り組む形にしているという。
また、既存のU-NEXTユーザーとの親和性を重視しながら、オリジナル作品作りに取り組む点もコミックならではの特徴となる。
11月1日に配信開始した「U-NEXT Comic」では、以下の3レーベル/5作品で展開する。
・ハネコイ:心ハネる恋がいっぱい!
・ゼロスト:強い刺激でストレス発散!
・ゲキヌマ:ちょっと過激で沼落ち注意!
五⼗嵐夫妻は偽装他人(作者:海石ともえ。レーベル:ハネコイ)
人気俳優、中⾝はうちの猫。(和時シキ。ハネコイ)
異世界乙女喫茶(時十葉あい。ハネコイ)
最強世界でよわよわな僕らが救世主かもしれない(音霧爽。ゼロスト)
絶命回廊カグラ(冨田洋⼀郎。ゼロスト)
「ハネコイ」は、20~30代の女性をターゲットにしたラブストーリーのレーベルで、U-NEXTの動画配信で人気の韓国ドラマ、ラブストーリーの視聴層を狙っている。今後のメディアミックス展開のしやすさも意識しているという。
「ゼロスト」は、男性向けの「刺激的」な内容を重視し、デスゲームや異世界系など刺激的で先に進みたくなる作品を意識したという。U-NEXTのコミックの売上実績において、こうした傾向の男性向け作品が読まれており、その層を意識したレーベルとなる。U-NEXTの契約者は6:4で男性が多いが、動画配信の合間にコミックが読まれているとのことで、そうしたユーザーに刺さるコンテンツを企画した。
2023年にスタート予定の「ゲキヌマ」は、不倫などの中毒性の高い題材で、電子書籍のコアなユーザーをターゲットにしているという。
当初はU-NEXTのユーザーとの親和性を重視しながら、作品を順次投入していく。11月1日のスタートから「想定より反応がよく、手応えを感じている」(松田氏)という。なお、U-NEXT Comicは他ストアでも販売。IP化による他ジャンル展開を想定し、完全独占とはしない。
U-NEXTブック 2023年に大規模アップデート
これから作品数を増やしながらヒットを狙うU-NEXT Comicだが、ストアの機能の面でもまだ課題があるという。
現在のU-NEXTブックのオリジナル作品は、基本的に1話ごとの買い切りの形になっている。一方、多くのマンガアプリでは「1日待てば無料」といった機能があり、利用者にも使い方が浸透しているが、現在のU-NEXTにはそうした機能はない。
松田氏もストアの機能として、まだ競合サービスに比して足りない部分はあると認める。そのため、2023年春を目処にU-NEXTブックの機能強化を図っていく。具体的な内容は未定だが、「1日待てば無料」は重視しているようだ。
また、マンガアプリでは一般的になっている縦スクロール型マンガ「Webtoon」についても、来春のブックリニューアルのタイミングで提供開始予定としている。ただし、他のストアで一般的な広告付きのマンガ配信については。「U-NEXTの全体方針として現時点では広告付き配信は検討していない。マンガについても予定はない」(同社)としている。
ストアのアップデートに向けて、U-NEXT Comicを軌道に載せつつ、多くのストアで展開しているような無料化施策なども強化していく方針という。直近の目標としては、「映像化は一つの目標だが、まずはしっかり売れる・読まれるものを出していきたい(松田氏)」とする。
独自IPで300万の壁を超えるか
動画配信サービスにおいては「オリジナル作品」が一層重視され、各サービスの差別化要因になっている。海外勢は、ドラマや映画を、日本勢はバラエティ、音楽、リアリティ・ショーなどに力を入れる傾向がある。
U-NEXTでも「オリジナルを持たないと埋もれる」という危機感を持っていたという。そのため、後発にはなるが「すでにあるものに乗るだけでなく、オリジナル作品だけでなくIP開発を進めたい」と、IP開発を重視していく。日本におけるIP創出ジャンルといえば「コミック」が代表ではあるが、投資が実を結ぶかどうかを見極めるにはまだ時間が必要だろう。
275万ユーザーまで拡大し、国内3位となったU-NEXTだが、300万を超えて上位サービスと戦っていくためには独自の武器が必要となっている。そのために独自IPとブックサービスを連携させていけるのか。競合ひしめくなか、U-NEXTの今後のコンテンツ戦略に注目していきたい。