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多発する大雨・土砂災害に備える 「防災の日」に考える自然災害対策
2022年9月1日 09:00
毎年9月1日は防災の日です。1923年(大正12年)9月1日に発生した巨大地震を端緒とする「関東大震災」から99年が経過し、来年2023年にはついに100年を迎えます。さらには阪神大震災、東日本大震災などの巨大災害を経て、近年は大雨に伴う洪水被害なども目立っています。防災の日、そして8月30日~9月5日からの「防災週間」をきっかけに、改めて防災・減災について考えたいところです。
そこで今回は、自然災害の中でも特に「大雨」「洪水」「浸水」に焦点をあて、スマホやPCをどう防災対策に活かせるのか、調べてみました。
なにはともあれ、スマホの「緊急速報メール」だけでも設定を
いまやスマートフォンは、老若男女あらゆる世代にとって身近な機器となりました。フィーチャーフォン(ガラケー)と比べて遥かに大画面化し、地図ベースでの情報収集もしやすくなりました。自然災害の危険予測にも大いに活躍してくれます。
国内で販売されるスマートフォンのほとんどには、「緊急速報メール」の受信機能が標準搭載されています。主要4キャリアが取り扱う端末であれば、初期設定時によほどおかしな設定をしない限り、自動で受信してくれます。不安な方は、各キャリアの解説ページを一度チェックしておくといいでしょう。
NTTドコモ 緊急速報「エリアメール」
ソフトバンク 緊急速報メール
楽天モバイル 緊急速報メール
https://network.mobile.rakuten.co.jp/service/emergency-alert-mail/
また、ここ3~4年に発売されたiOS端末/Android端末は、本体設定画面から緊急速報メールの受信可否を設定できるはずです。これらについても上記リンクから確認してみてください。
緊急速報メールは、スマートフォンが存在する場所(エリア)をもとに、災害関連の情報を一斉同報するというのが基本的な機能です。緊急地震速報を筆頭に、津波警報、災害・避難情報、特異な気象現象が予想される場合の特別警報などが設定されており、監督官庁や自治体の判断によって適宜送信されます。
これらの通知を受信すると、通常とは異なる通知音(警告音)で注意が喚起されます。ただし、サービスの性質上、事象が発生する直前に通知が届くのが原則です。例えば「1週間後に巨大台風が上陸しそう」などの情報は、緊急速報メールだけではカバーしきれないでしょう。
大雨災害:「キキクル」で洪水・土砂災害の情報をキャッチ
ここからはもう少し具体的に、大雨災害についてシミュレーションしてみたいと思います。特に今年8月の上旬は青森・秋田・山形・新潟で大雨となった期間が長く、1カ月分に相当する雨量がわずか数日で観測されるという事態が相次ぎました。秋の台風シーズンも控えています。「ひょっとしたら我が家も……」と、心配される方は多いでしょう。
大雨災害に備える上で注目したいのが、気象庁の「キキクル」です。テレビニュース番組における気象報道でも活用されており、ここ1年ほどで見聞きする場面がかなり増えています。ちなみに「キキクル」の名称が使われるようになったのは2021年3月からです。
キキクルとは、気象庁が発表している「危険度分布」情報(と、その掲載サイト)の愛称です。ここでいう危険度分布とは、大雨による災害発生の危険度を示すもの。大雨災害は、直接の降雨による浸水はもちろん、長雨で地面が水分を吸収し切れなくなったときに土砂崩れが起きたり、都市部では排水が処理しきれなくて氾濫する等、多様な面があります。そこでキキクルでは「浸水害」「洪水害」「土砂災害」という3つの切り口で危険度情報を伝えています。
スマートフォンやPCでキキクルのサイトにアクセスすると日本地図が表示されます。あとは目的の地点を選び「浸水害」「洪水害」「土砂災害」の情報を切り替えるだけで、最新現況が確認できます。また、過去約6時間分の変化もチェック可能です。
危険度は5段階に分かれていて「今後の情報に留意」「注意」「警戒」「非常に危険」「極めて危険」の順に高まっていきます。特に最高段階の「極めて危険」が出た段階では、すでに被害が発生していてもおかしくない状況を意味します。
実際のキキクルの使い方としては、自宅や職場の周囲で今まさに大雨が降っている時に、サイトを開いて参照することになるでしょう。高齢者がいる世帯などでは「警戒」が出た段階で避難、それ以外の世帯も「非常に危険」となったら避難とされていますが、周辺の道路状況、家族構成などの事情は皆それぞれ異なります。「避難したくてもできない」事態とならないようにするには、情報を得つつ、(月並みですが)早め早めの自主判断が欠かせないでしょう。
スマホの出番は多い 停電に備えて充電状態のチェック
これまでの大雨被害実態などを考慮すると、停電への備えも必要になってきます。いくらスマートフォンで多彩な情報収集ができるとはいえ、バッテリーが切れればそれまで。もし浸水で身動きがとれなくなった時、110番・119番への緊急電話もできなくなってしまいます。風雨で電線が切れたり、落雷で配電設備が壊れる可能性もあるとの前提で、極力バッテリー残量100%を意識しておいたほうがよいでしょう。
では、もし自宅が停電してしまったら? そんな時はスマートフォンのバッテリー節約機能を試してみましょう。iOS端末では「低電力モード」、Android端末ではメーカーによって多少異なりますが「バッテリーセーバー」「省電力モード」などと呼ばれる機能があります。
これらのモードを有効化すると、画面の低輝度化、不要なアプリの終了、プッシュ通知の制限などを行ない、なるべく長時間に渡ってバッテリー駆動が続くようになります。当然、普段使っている機能を一部制限する訳ですから、使い勝手は落ちます。しかし停電中にドンドンとバッテリーが消費されていく心配を、多少なりとも緩和することはできます。
設定は、iOSの場合は本体設定画面の「バッテリー」を選択し、低電力モードのスイッチをオンにすればOK。なおコントロールセンターからのオン/オフもできます。
Androidの場合も、基本的には本体設定の「バッテリー」「電池」メニュー内に項目が用意されているので、必要な時だけ機能をオンにしましょう。GoogleのPixel 6aの場合は本体設定の「バッテリー」メニュー内に「バッテリーセーバー」の項目があります。平時の帰宅中にバッテリーが切れそうといった場合は、「(通常の)バッテリーセーバー」を選べばいいですが、災害への備えとしてはもう1つの「スーパーバッテリーセーバー」が適しています。「電話」「メッセージ(SMS)」など必須中の必須機能だけを有効化しますが、特定アプリ(例えば連絡のためのLINEだけ等)は例外にするなど、多少の柔軟性もあります。
モバイルバッテリーも有効でしょう。モノにもよりますが、スマートフォンを丸々1~2回分充電できる程度の容量があれば、安心感がかなり変わってくるはず。なお、大容量モバイルバッテリーとなると、スマートフォンに比べてだいぶ充電に時間がかかりますからご注意を。
とはいえ、スマートフォンだけ充電しておけば万事不足なし……という訳にもいきません。夜間となれば、懐中電灯やLEDランタンで灯りを確保しなければなりません。冷蔵庫の食材は腐るし、オール電化の家ではお湯すら沸かせなくなります。マンションならエレベーターは動きませんし、電気で屋上タンクに水を揚げている施設では水が出なくなくかもしれません。そして何より夏季に空調が動かなければ、熱中症の危険も高まります。こうしたことも、避難するかの判断材料になるでしょう。
どうする安否確認 SNSは活用できるのか?
洪水や土砂災害が切迫した状態になると、マスコミ報道は一気に広がります。それを見聞きした人たちの間に「そういえば、友達の○○ちゃんはこの地域に住んでいたのではないか?」といった心配が広がり、それこそ電話やメールが殺到するといった事態が想定されます。しかし、全てに丁寧な応対をしていると、それこそバッテリーを浪費してしまい、停電時に困ることも想定されます。
災害発生時のコミュニケーションを円滑化するための手段として、よく知られているのが「災害用伝言ダイヤル」「災害用伝言板(web171)」です。前者は音声通話、後者はWebサイトへの書き込みを通じて、安否情報を公開できます。
ただ、これらの災害伝言サービスは、震度5強・6弱クラスの巨大地震が発生した場合などに開設されるのが通例のため、極めてピンポイントな洪水災害などでは利用できない可能性もあります。
では、国内で広く利用されているLINEアプリではどうでしょうか? LINEには「LINE安否確認」という機能が用意されており、やはり震度6クラスの大規模災害などが発生した際に有効化されます。前述の災害伝言サービスは、情報の検索に電話番号を用いますが、「LINE安否確認」はアプリ内で知っている“友だち”にのみ情報を共有するという点で、やや用途が異なります。
災害伝言サービス・LINE安否確認が運用されていない状況で、TwitterやInstagramに安否情報を直接投稿してしまっていいのか? これは十分に注意してください。
緊急とはいえ、自宅や勤務先の所在地を広く一般に公開してしまうのとほぼ同義ですし、生活が平常に戻った時の悪影響も懸念されます。SNSでの安否報告は、信頼のおける相手とだけ投稿を共有できる場合のみにしたほうが無難です。
とはいえ、2018年7月の西日本豪雨などに際しては、110番・119番に電話がかからず、やむなくTwitterに救助要請を投稿する例も出ています。Twitter社でもツイートによる救助要請の具体例を示していますので、万一の場合は参考にしてみてください。
Twitterで緊急救助を求める場合には、#救助ハッシュタグとともに要請内容、写真、住所または位置情報など、具体的かつ正確な情報をつけましょう。救助が完了したら、報告ツイートするとともに、救助要請ツイートを削除してください。pic.twitter.com/aHu7WicSpm
— Twitterライフライン (@TwitterLifeline)July 10, 2018
大雨と地震では避難法も違う ~「長靴」は履いていい?
大雨洪水の場合の避難
大雨や洪水で本当に避難するとなった時、まず頼るべきは地元自治体の情報(Webサイト)です。避難場所の開設状況、住所などが公開されるはずですので、それらを参考に行動しましょう。ただ、ここでもやはりアクセス集中でサイトが閲覧できなくなる可能性を踏まえ、前もって情報を収集しておきたいところです。
では、避難所まで移動するとなった時、どんな点に注意すればいいのか? こうしたノウハウは多くのWebサイトで公開されています。
一例として、NHKの常設サイト「災害列島 命を守る情報サイト」では、水害や台風発生時の避難術について、「避難するとき 徒歩や車…ここに注意!」という記事をまとめています。
避難するとき 徒歩や車…ここに注意!(NHK 災害列島 命を守る情報サイト)
こちらでは、最低でも守ってほしいポイントとして3つを挙げています。1つ目が「避難するときは長靴は履かない」、2つ目が「冠水している場所には入らない」、3つ目が「できるだけ2人以上で行動する」です。
道路にまで水が溢れた状況での避難となれば、長靴を履いても良さそうなものです。しかし長靴はいったん水が入ってしまうと極端に動きづらく(歩きづらく)なってしまいます。よって、濡れる心配はあっても、履き慣れたスニーカーで行動すべきとのこと。またサンダル類は脱げやすいため、やはり避けた方がよいとアドバイスしています。
街に溢れている水は、単にそこで溜まっているだけでなく、流れます。そこへ足を踏み入れる以上、足をすくわれたり、転倒する可能性も高まります。記事では深さ50cmを危険度の一つの目安としていますが、周囲の川・用水路の状況によってはそれ以下の水量でも危険性が高まるといいます。ルート上、回り道がどうしても無理という状況は当然あるでしょうが、相当な慎重さが求められます。
地震の場合の避難
一方、地震では避難に対する考え方が全く違います。「Yahoo!天気・災害」が公開している「防災手帳」の記述を見てみましょう。
地震での避難のポイントは、津波の有無、そして火災です。地震で家屋が倒壊し、その場所に留まっていられないというケースがある一方で、津波の到来が予測される場合はとにかく高所に移動しなければなりません。また、阪神大震災・東日本大震災は共に地震発生後に大規模な火災が確認されています。大雨と異なり、地震は予兆なく突然発生しますから、着替え・食料などの避難準備の算段も変わってくるはずです。
大雨と地震だけを比較しても、これだけ避難法には差が出ます。これらの全てを頭にたたき込んでおくのは正直難しいでしょう。その点、大雨災害は発生までに多少の時間的余裕があるのが一般的ですから、普段の天気予報で「台風が来そう」「来週は長雨になりそう」などの情報を見聞きした後から、なるべく早く行動を起こすのが現実的かもしれません。
災害対策は環境によって千差万別 日ごろから意識向上に取り組む
今回の記事では、主に「大雨」にフォーカスをあて、情報の収集法、万一の場合の避難ノウハウなどをまとめました。執筆にあたって色々な情報源をあたる中で、改めて難しさを感じたのは、災害の種類や、地域特性によって、対策は全く変わるという点でした。
すでに述べたように、大雨災害と地震では、発生の突発性が全く異なります。どちらも「自然災害」と一括りにしがちですが、備えられること・備えられないことが微妙に違います。また大雨が発生したのが都市部か農村部かでも、車での避難の切迫度に天地ほどの差が出ます。平野部と山間部でも、意識の向け方は異なるでしょう。
「キキクル」は非常に役立ちますが、それだけですべての防災情報が得られる訳もなく、大地震や津波が発生したら、また別の情報源をチェックせねばなりません。
防災に王道なし。たった1つの冴えた方法を知っていればあらゆる被害ゼロ……なんてことはありえない。だからこそ、家族や身近な人と常日頃から防災について考える・話し合うことが重要なのだと思います。
最後に、定番とされる防災関連のアプリについても簡単にご紹介しておきましょう。梅雨シーズンや防災の日に先駆ける形で新機能の投入なども行なわれています。情報入手手段の多様化、気になる情報の深掘りのために活用してみてください。
Yahoo!防災速報
https://emg.yahoo.co.jp/
緊急地震速報、避難情報などをプッシュ通知してくれるアプリ。現在地以外に3つまで地点情報を登録しておけるので、遠隔地に住む家族に災害危機が迫っていないかなどを把握できます。またユーザー間で状況を共有できる「災害マップ」の機能も搭載しています。
直近7月には、気象庁の「キキクル」との連携を強化しています。大雨危険度のレベルがこれまでの4段階から5段階へと変わったことを受け、大雨特別警報に相当する情報が「災害マップ」で判別しやすくなりました。
NHK ニュース・防災アプリ
https://www3.nhk.or.jp/news/news_bousai_app/
NHKによるニュース・気象情報などがワンストップで確認できるアプリです。文字ベースの記事はもちろん、災害発生時にはテレビ放送の内容がそのままストリーミング配信される例もあります。
6月にはアプリに2つの機能が追加されました。1つは「熱中症警戒アラート」。もう1つが「熱帯低気圧の5日先予報」で、24時間以内に台風に発達しそうな熱帯低気圧が災害情報図に表示されるようになりました。台風の予兆を少しでも早く知る上で、役立ちそうです。
特務機関NERV防災アプリ
現実世界の地震情報・緊急地震速報などの配信を目的とした、極めて実用的なアプリです。ホスティングサービス大手のさくらインターネットのグループ会社が運用しています。
注目は情報の配信速度や頻度。比較的大きな地震が発生した場合のプッシュ通知を実際に受信してみると、その充実ぶりが実感できます。