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海外渡航のいま(隔離編)。14日→10日間への自主隔離短縮とその実際
2021年11月19日 08:20
前回、無事帰国して14日間の自主隔離生活に入ったが、ワクチン接種が完了している状態であればそれを「10日間」へと短縮することが可能だ。今回は10日間への短縮にまつわる作業ステップを順番に紹介していく。
第1回:海外渡航のいま(出国編)。事前準備は入念に。ワクチン前提の行動規制
第2回:海外渡航のいま(帰国編)。時間も費用負担もきつくて公共交通NG
隔離9日目に通知がやってくる
隔離期間中は出国前にストックしていた食料に加え、デリバリーサービスをほぼ毎日活用していたため、食糧事情はそれほど悪くなかった。複数試したデリバリーサービスは各社各様で、普段あまり利用しないこともあり、改めていろいろな気付きがあって勉強になった。
例えばコンビニ配送はUber Eatsを活用したが、選択可能な商品点数が店頭のものに比べて圧倒的に少なく(おそらく100点前後)、選べる商品の傾向も出来合いのすぐに食べられるものが中心だった。また、一通り商品を注文し終わった後にチェックアウトしようとすると、先方都合なのか発注が強制キャンセルされるケースもあり、思ったように注文できないこともあった。
このほか、イオンネットスーパーなども試したが、商品が欠品で届かないというケースも見受けられた。Uber Eatsでも経験したが、実際の店頭ストックとネットでの在庫情報がリアルタイム連動していないという事情も垣間見え、興味深い。
さて、こうした隔離期間も9日目に突入すると、入国者健康確認センターとの連絡窓口となる「MySOS」アプリに「待機緩和」のお知らせがやってくる。翌日以降、つまり隔離10日目に政府指定の検査機関で陰性証明を得られれば、11日目以降の自由行動が可能になるというものだ。
指定検査機関はアプリ上(正確には外部の検査機関検索サイト)で探せるが、政府が求める「人との接触を避けて公共交通機関を利用しない」というガイドラインに沿った形で移動可能な徒歩圏内の施設が選べる人は“まれ”だろう。
筆者の場合、徒歩40分の場所に指定検査機関があるが、検査結果が出るまでの時間がかかり、かつ料金もそれほど安くないため、今回の選択肢からは除外している。これでも施策が発表された直後に比べると指定検査機関の数はかなり増加しているのだが、利便性の面では追いついていないのが実情だ。
今回選んだのは、現状で最も安価(証明書込みで1,900円)で検査結果が出るのが早いとされている「木下グループ 新型コロナPCR検査センター羽田空港第1ターミナル店」を選ぶことにした。
政府指定の検査方法はPCR検査と定量抗原検査の2種類があるが、前者は一般的に検査結果が出るまで最低でも4時間はかかり、Rapid Testと呼ばれる抗原検査の20-30分と比較して結果待ち時間が長い。また対面検査でないと、検体を郵送で送る時間のラグもあるため、待機解除の時間が1日以上遅れる可能性がある。
その点で前出の新型コロナPCR検査センター羽田空港第1ターミナル店は店頭検査から30分で結果と陰性証明書が得られ、さらに開店時間が朝7時と他所と比べて最速となっている。
調べてみると分かるが、政府の指定機関で定量抗原検査ができる場所は非常に限られており、東京だけをみても実質的に3カ所しか存在しない。実際、私と同日に欧州から帰国して隔離に入った方がいたが、「最短3時間」をうたったPCR検査を朝10時に受けて、実際に結果が戻ってきたのが夜8時だったために、政府が検査結果を受け付けている午後6時には間に合わず、翌日以降の処理に回されたという。このように、隔離解除において検査機関選びは割と重要だ。
ただ、さすがに羽田空港まで家から徒歩で移動するわけにはいかないため、現地には車で移動し、商業施設内の店舗には可能な限り寄らず、検査だけ受けてすぐに戻ってくることにした。
MySOSアプリで結果を報告、そして隔離解除
このまますぐに帰宅してもいいのだが、できるだけ早めのタイミングで陰性証明書を提出しておけば、それだけ解除通知が早く行なわれることになる。証明書を受け取ってすぐに作業を開始した。
陰性証明書の提出方法については厚生労働省のサイトに説明書きがあるが、設定メニューに「特別な状況の届出(健康確認センターのサイトに移動)」という項目があり、これを選択すると証明書アップロード用のサイトへと遷移する。指示に従って「待機緩和のための陰性証明」を選びつつ、陰性証明書を撮影した写真をアップロードし、必要項目を入力し終えると、約2時間40分後に翌日からの解除通知がやってきた。
この通知が出ると、前回のMySOS画面に表示されていた「11月16日」という待機最終日の日付が、「11月12日」へと4日ほど短くなっているのが確認できる。つまり、検査日翌日から自由行動が可能になるわけで、10日間への隔離期間短縮に成功した。
余談だが、先ほどの検査のための羽田空港移動中も位置情報確認や通話要求は容赦なくやってきており、それに正直に答えると「契約書違反の疑いがある」と警告してくる。規定に沿って行動しているのに違反もないわけで、余計なお世話だというのが正直なところだ。
また、隔離解除が完了してアプリの設定リセットが行なわれたのが隔離11日目にあたる11月13日の朝8時半ごろだが、その直前にも位置情報確認の通知がやってきた。MySOSアプリが諸処の事情を考慮して設計されていないことが改めて分かる。
3日間隔離短縮の実際と、14日間隔離に対する見解
前回も少しだけ触れた「3日間への隔離期間短縮」について、改めて言及したい。他誌でもレポートしたが、一連の施策について外務省と経済産業省に確認を取りつつ、複数の関係者へのヒアリングを行なった結果、いろいろなものが見えてきた。
「『3日間短縮』は制度の建て付けとして14日間隔離の延長線上にあり、あくまで『監督省庁の許可の下に申請企業が当該帰国者の行動をすべて面倒みることを条件に3日間のみの隔離で留める』という位置付け」という点に変化はないものの、細かい運用は監督省庁の担当者次第であり、その管理を行なうのは帰国者を受け入れる「受入責任者」にすべて任される。この制度を利用した場合、4日目以降は検査機関でのPCR検査または定量抗原検査のいずれかの陰性結果をもって検査時点から72時間の「事前に申請した行動計画書に沿った行動が可能になる」が、監督省庁はこの期間の管理にタッチしない。
基本的に事前提出の行動計画書の申請を受理した時点で、管理責任は“企業”の受入責任者にある。また申請受理までに「1カ月から1カ月半程度」と前回は報告したが、後に監督省庁の1つである経済産業省の担当者に確認したところ、「基本的には3週間を返答しているが、それよりも短かったり、逆により時間がかかるケースがある」と回答している。
忙しいビジネスマンが3週間以上先の予定をすべて決めたうえで申請を出すというのは「無理筋」に近いが、実際に急な出張でこの制度の適用のために経済産業省に掛け合ったところ「回答に3週間」と言われて利用を断念していたところ、出張中に先方の急遽態度が軟化して「出張中の申請受理」が行なわれ、本稿執筆現在「3日間短縮」に入った事例がある。
つまりガチガチのルールというよりは、現場レベルの判断で決定が行なわれ、適用は流動的という状態だ。事前申請が必須という点は変わりないが、「問題行動を止めつつ、記録だけは残しておく」という部分に重点が置かれている。
また制度発表時に問題となった「フリーランスや小規模な企業など、受入責任者を別途用意して張り付けられないケース」について外務省に確認したところ「個別の事例は監督省庁が判断する」という回答だったため、参考例として経済産業省にその旨を確認したところ「例えば、フリーランス自身が受入責任者を兼任しても問題ない」という回答だった。実際に許可を出すかは担当者しだいだと思われるが、「当該の人物に問題がないか」「きちんと活動履歴を残しているか」という部分さえクリアしていれば、それほどうるさくないという見解だと思われる。
また「3日間短縮」という制度自体が現状で特殊なものなのか、4日目以降の「特定行動期間」に突入した際の陰性結果報告について、現状ではMySOSアプリでは対応していないようだ。先ほどの行動計画申請が認められて「3日間短縮」に突入した方に確認したところ、「4日目に突入する直前でメールが届いて、メールにて検査結果の報告を行なえばいいことが伝えられた」ということだった。現状で利用者がまだほとんどいないため(おそらくこの方が最初の適用ケースだとみられる)、システム対応が進んでいない印象で、今後MySOSに新たに機能が追加されるのが先か、あるいはルールがさらに改定されるのが先かは分からないが、めまぐるしく変化する事情に現場スタッフが奔走してなんとか追従しているという状況なのだろう。
まとめると、検疫に関してはルールこそいろいろ追加されているものの、実際の対応は現場レベルのスタッフの奮闘にかかっており、あまりシステマチックでもなく、基本は人海戦術で物事に当たっているという姿が見えてくる。
厳密なロックダウンや隔離なども徹底されていない一方で、裁量がある程度現場や当事者の判断に委ねられており“柔軟”、悪い言葉でいえば“緩い”のが日本の現状だ。
「ルール破り」に対して“緩い”のは事実で、MySOSによる応答を完全無視した場合にのみ厚生労働省のサイトに「カタカナでの氏名」だけが数週間さらされる程度だ。ゆえに「公共交通機関を利用しない」といった厳しいルールについても、現状できちんと守られているとは言い難く、「正直者が馬鹿を見る」という状態になっている。
これは非常にまずい傾向で、これが常態化するのであればルールを守るのが馬鹿らしくなり、政府への信頼低下やモラル崩壊へとつながる。厳しいルールを規定する法律がないという現状ならば、おそらくだが、きちんとルールを守る相手に対しては隔離期間の短縮や免除など何らかのインセンティブを与えるべきではないかと思う。
省庁や関係者取材を続けるなかで見えてきたのは、コロコロ変化する制度や上からの命令で疲弊する現場の姿だ。いくら現場が奮闘しようと、仮にこれで感染拡大などの被害が報告されれば、責められるのはその現場や担当省庁だ。その意味で厚生労働省が守りに入ってしまうのは「しょうがない」と理解できる面もある。
そうした事情もあり、今回の「3日間短縮」は複数の省庁に権限や責任を分散させる措置が採られた。問題の一端は、国の方向性を決める政治家が現状を把握していない、あるいは間違った指示を出しているという部分にある。
ソーシャルネットワークなどを見ていると、旅行以外で海外渡航とは縁の薄い多くの国民は検疫の緩和に反対するだろう。政治家としてもその意見を見ていれば、緩和に舵を切るのはためらうはずだ。いま重要なのは、この緩和と経済再開のバランスを考慮しつつ、きちんと方向性を定めて決断できるトップの存在だと筆者は考える。リーダーシップ不在というのが現状の政権に対する筆者の感想だ。
第1回:海外渡航のいま(出国編)。事前準備は入念に。ワクチン前提の行動規制
第2回:海外渡航のいま(帰国編)。時間も費用負担もきつくて公共交通NG
第3回:海外渡航のいま(隔離編)。14日→10日間への隔離期間短縮、その実際