西田宗千佳のイマトミライ

第283回

Skypeついにサービス終了 その歴史と「Teams」の課題

Skypeは5月5日でサービスを終了、Microsoft Teamsへ移行する

2月28日、米マイクロソフトは通話/チャットサービスの「Skype(スカイプ)」を、5月5日で停止すると発表した。今後は同社の「Microsoft Teams」へと集約する。

Skypeはサービス開始から20年を超え、オンラインチャットの代名詞ともいえるサービスだった。

それが2011年にマイクロソフトへ買収されてからは、なかなかに大変な道のりをたどっている。

その流れを振り返り、「PCにおけるメッセージングとはどういう存在なのか」を考えてみたい。

「禁断のアプリ」とも言われたP2P通話サービス

Skypeは2003年に生まれた。開発したのは、ニクラス・ゼンストロームとヤヌス・フリス。ファイル共有ソフトである「Kazaa」の開発者でもあり、技術的にも「P2Pをベースとしている」という共通項があった。

P2P(ピア・トゥ・ピア)とは、コンピュータ同士が対等に通信をする分散型ネットワークのこと。サーバーに集約する形ではないので混雑に強い、という特徴がある。

通話・メッセージングを行なうサービスはSkype以前にもあったが、Skypeの特徴は暗号化を伴うP2Pネットワークである、という点にあった。

20年以上前はネットワークの帯域も狭く、安定性も利用者の環境によってばらつきが大きかった。また、企業を含めたファイアウォールの中と外では、安全性を保ったまま通話をするのが難しい事情もあった。

そこで登場したSkypeは、回線事情にあまり左右されることなく、安定的に音声・ビデオ通話が実現できていた。

WindowsにMac、Linuxと複数のOS向けにソフトが用意されていたほか、のちにはゲーム機や携帯電話向けにもアプリが用意された。

サービスは基本的に無料。一般の電話回線への通話・着信には料金が必要だったが、インターネット接続さえ用意できれば「従量制の通話料金」はかからない。

携帯電話事業者はまだ通話料金収入に頼っていたので、ネット通信料はかかっても通話料金はかからないSkypeは、ビジネスモデル的に衝突する存在でも合った。

そのため、2010年にKDDIがスマホ向けに「Skype au」を提供する際には、KDDI 代表取締役執行役員専務(当時)の田中孝司氏が「禁断のアプリ」と表現したくらいだったのだ。

Android au、「IS03」発表会で見せたauの本気(2010年10月)

2000年代後半にSkypeは急速に普及し、国際通話やビデオ会議を置き換えていった。チャットなどに使う人も多く、この種のメッセージングサービスのスタンダードを構築した、といってもいいだろう。

筆者も海外通話には相当利用したし、一時はPCに常駐するアプリの1つだった。ある時期までは、自分の名刺にも、Skypeに一般電話から通話する「Skype-In」の番号を書いていた。

新しいサービスに役割を奪われる

だが、2010年代半ば以降、Skypeの存在感は急速に薄れていく。

理由は複数あるだろうが、なにより、メッセージングサービスとして「Skypeを使わなければならない」理由が減っていったことは大きい。

LINEやFacebook Messenger、アップル製品向けのFaceTimeにGoogle Meet、海外ではWeChatなど、スマホで広く使われるメッセージングサービスが定着すると、メッセージを送り合うのにSkypeを使う必然性はなくなった。また、それらのサービスは音声・ビデオでの通話機能を備えており、その点でも、Skypeを利用する意味は減った。

メッセージングサービスは、使う相手が多いほど有利になる。

SkypeがPCで広く使われていたといっても、それはPCにくわしい人が使うもの……という印象が強かった。

だがスマホの上で新たに定着したサービスは、そのまま新しい世代のコミュニケーションを完全に支配した。PCでのコミュニケーションをスマホに持ち込む人より、スマホでのコミュニケーションをPCに持ち込む人の方が多く、スマホでしか使わない人はもっと多かった。

同じようなことができる以上、過去の構造を引きずっていて複雑な印象があるSkypeより、新しいサービスを使う人の方が多い時代になっていった。

その頃には通話料金も定額化が進み、いわゆるIP通話は「禁断」の存在ではなくなり、あたりまえのものになっている。

2020年にコロナ禍が始まると、ビデオ会議などのニーズは劇的に増えて行く。だが、そこでSkypeを使う例は少なく、新しいサービスが選ばれた。ZoomやGoogle Meet、Microsoft Teamsが主軸である。

だとすると、Skypeを維持する理由はさらに減っていく。

筆者はオンラインでのミーティングや取材をする機会は多いが、最後にSkypeで通話して取材したのがいつか、すでに思い出せない。安価に長時間通話するアプリとしてはつかっていたのだが、それも数カ月に一度あるかないか……といったところだ。

筆者のSkypeアプリの履歴。最近の履歴はほとんどが「通話」だ

マイクロソフトの戦略は正しかったのか

冒頭で伸べたように、マイクロソフトは2011年にSkypeを買収している。当時の発想でいえば、通話を備えたメッセージングサービスとして強いサービスを買収することで時間を買う……という感じだったのだろう。

マイクロソフトはコンシューマ向けに「MSNメッセンジャー」を持っていたが、2010年代に入るとかなり古くなっていた。

2011年にはまだビデオ通話利用量も少なかった。Skypeを買収し、それを主たるメッセージングサービスに据え、さらに幅広く利用を拡大していくことは、PCの利用拡大にも、スマホ市場でのマイクロソフトの認知拡大にも重要……と考えたのだろう。

だが、その戦略はうまくいかなかった。

実のところ、2011年にはSkypeの価値は急落していた……というのが筆者の見立てだ。

Skypeは2005年にはeBayに事業を売却している。さらに2009年11月に投資グループのSilver Lakeへ売却され、そこから2011年にマイクロソフトへ売却された。資産価値は大きくなっていたものの、eBayはなんども売却先を探しており、Silver Lakeへの売却後も、なんどか売却話があった。マイクロソフトへの売却当時、ニュースには驚いたものの「その価値はあるのか」と疑問に感じたのを覚えている。

Skypeのもっていた「P2Pだから」というメリットも、すでに失われている。むしろ、複数のデバイスでメッセージを同期して使うとなると、P2Pモデルよりもクラウドの方が有利だ。

マイクロソフトが欲しかったのは技術ではなく、利用者やブランド名の方だろう。

2012年からはマイクロソフトのクラウドであるAzureへの依存度が高まって行き、いくつかの資料によれば、2017年にはクラウドへの完全移行が完了したようだ。

そもそも、マイクロソフトの戦略も一貫性に欠けていた。

マイクロソフトは複数のメッセージング技術を持っていた。前掲のMSNメッセンジャーもそうだし、企業向けには2005年に「Microsoft Office Communicator」を開発していた。

マイクロソフト社内では、MSNを軸としたポータル事業とMicrosoft Officeを軸とした企業向け事業、Windowsを軸としたOS事業は別々の事業部になっていた。技術的な共通項はあってもサービスは別ブランド、という流れが分かりづらかった。

Microsoft Office Communicatorは2011年に「Microsoft Lync」になった。Lyncは2013年から消費者向けブランドとなっていたSkypeと統合を開始し、「Skype for Business」となった。

2年単位でコロコロとブランド名が変わり、非常にわかりにくい。他社がスマホを軸にしたサービスで利用を広げていく中で、Skypeは苦戦し続けていた。

そこにさらに、新しい変化がやってくる。Slackの普及をきっかけとした「ビジネスチャット」の拡大だ。

コミュニケーションサービスでの戦略がふらつくマイクロソフトは、この流れにも乗れていなかった。一時は、マイクロソフトがSlackの買収を検討するくらい、同社にとっては深刻な課題になっていた。2015年頃、マイクロソフトのビジネスチャットはSkype for Businessだった。だがSlackとは位置付けが異なり、大幅な改善を必要としていた。

そこで産まれたのが「Microsoft Teams」だ。2017年にTeamsが発表されると、企業向けの利用は急速にTeamsを中心とした戦略に傾いていく。Skype for BusinessもすでにTeamsへ移行済みだ。

コロナ禍でビデオ会議向けにTeamsを推したのも、Slack対抗として作ったシステムをZoom対抗としてもアピールする、という考え方に基づいている。

Microsoft Teamsへ移行

Teamsの開発にはSkypeのノウハウも使われているが、最初からクラウドネイティブなサービスとして作られているので、マイクロソフトとしてはTeamsを推したい理由もよく分かる。

他方で、この戦略自体にもふらつきがあった。

Windows 10まで、OSに統合されているメッセージングサービスはあくまで「Skype」だった。

それがTeams主軸に変わったのは、2021年に「Windows 11」が登場した時だった。早いタイミングでTeams推しを決めていたのに、内部ではSkypeを使う流れが生きていた。この辺の不統一感が、マイクロソフトの姿勢をわかりにくいものにしていた。

Team移行の難点は「わかりにくさ」

Skypeが終了するに伴い、Skypeの担っていた機能はほとんどがTeamsに引き継がれる。

2月28日には発表とともにSkypeからの移行情報が出ている

マイクロソフトの動画は英語だが、内容はシンプルなのでわかりやすいだろう。

The Next Chapter: From Skype to Teams

Skypeでチャットや通話をしていた人は、そのままそれをTeamsに移行できる。直前までSkypeでチャットしていたとしても、Teamsに移行すればそのまま再開できるくらい……であるようだ。

ただ、Skypeには電話を着信する「Skype電話番号(旧Skype-In)」があり、電話番号に通話するサービスがある。どちらも有料だが、これらはTeamsではサポートされない。有料クレジットがある分は使えるが、追加はできないし基本には使えなくなる。

提供されない機能を含めた詳細はウェブに情報がまとめられている

ビジネス向けにはTeamsから電話番号向けに通話するサービスが存在するので、それらを組み合わせることはできる。だが個人向けには代替策がない。

とはいえ、IP電話を使うサービスは他にもいろいろあるので、Skypeに頼る必然性はないだろう。

チャットと音声・ビデオ通話サービスとしてTeamsがある以上、これまでのコンタクトリストなどが移行できれば、さほど問題は起きないだろう。

ただ、個人的に危惧するのは、Teamsが非常にわかりにくいソフトである、ということだ。筆者もビデオ会議で日々使っているが、それ以外の機能は「あるのは知っているがちゃんと使えない」のが実情だ。企業で導入しておりワークフローが定まっていれば話は違ってくると思うが、個人がチャットツール的に使うには複雑すぎるように思う。

今日の時点でSkypeを熱心に使っている人がいて、そこからTeamsに移行した時の最大の課題は、操作方法がまったく異なることだろう。

OSとメッセージングサービスの統合は重要だ。今後生成AIを活用する時代が来ると、メッセージングの中にAIエージェントが入ってくるので、メッセージングサービスの重要性は高まる。

そこでTeamsの存在は重要だが、よりシンプルでわかりやすい操作性に整理することも必須ではないだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41