石野純也のモバイル通信SE
第70回
Androidはどこへいくのか AIをUIに組み込み、OSアップデート加速
2025年3月11日 08:20
AI対応を大きくうたう新モデルが多数登場したMWC Barcelona 2025だったが、そのメーカーをプラットフォーマーとして支えているグーグルも、MWCではGeminiの新機能を大々的にアピールしていた。
スマホのカメラが“目”になる ファーストパーティ機能の“次”
MWCに合わせ、3月下旬から「Gemini Live」が「ライブ動画ストリーミング」に対応すると発表。これによって、Gemini Liveがスマホのカメラをあたかも“目”のように使うことが可能になる。
ライブ動画ストリーミングに対応すると、目の前にあるものを認識し、それについての回答を返せるようになる。MWCのグーグルブースでは、Gemini Liveに花瓶の釉薬(うわぐすり)を選んでもらうデモを見ることができた。カメラで写された情報と音声情報の掛け合わせが可能になり、より目の前に人がいるかのようにやり取りできていたのが印象的だった。
GeminiやGemini Liveは、グーグル自身が手掛ける「ファーストパーティ」のユースケース。昨年導入された「かこって検索」などもその一例だ。
一方で、焦点を当てているのは、AIではなく「何ができるか」だという。グーグルでAndroidの開発をリードするAndroid Platform & Pixel Software のバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのシーン・チャウ氏は、「AIをAIと言わない機能の方が、人気を集めている」と語る。
「たとえば、『かこって検索』を語るとき、我々はAIについて語ることをしていません。何がよいのか、何に使うことができるのかについて語ります。かこって検索は、機能的にはGoogle Lensと非常によく似ていますし、同じ結果を得られることが可能ですが、それをはるかに簡単に行なうことができます」
また、Geminiはサムスン電子のGalaxy S25の発売に合わせ、アプリ連携に対応した。「近くの評価の高いレストランの情報を調べて、○○さんにメッセージを送って」というと、Googleマップで調べた情報に基づいてリストを作成し、メッセージ送付の直前まで実行してくれる。
この取り組みはサムスンとの協業に限ったものではなく、「まずOEMアプリから開始し、その後、サードパーティーのエコシステムにも拡大してく」方針。実際、MWCはシャオミが同機能をプリインストールアプリの一部と連携させることを発表した。
かこって検索と同様、最初は少数のメーカーと協業しながら、徐々に標準搭載の機能に広げていくのがグーグルの戦略と言えるだろう。
AIをUIに組み込む OSアップデートも早くなる?
Geminiやかこって検索は、グーグル自身がAndroidに乗るサービスとして提供するものだが、これとは別に、グーグルはAndroidスマホメーカーにもGemini NanoなどのAIモデルを提供し、そのうえで新機能が開発できるようにしており、それが動作するよう、クアルコムやメディアテックといったチップベンダーとも協力しているという。
「OEMパートナー(端末メーカー)と協力して、AIモデルをどのようにユーザーインターフェイスに組み込むかといった高レベルな側面についての連携をしています」
「チップセットは、性能のレベルがまちまちなので、すべてのNPUがグーグルの(Tensorに搭載される)TPUのような機能を持っているとは限りません。ですから、我々はアーキテクチャーとモデルの能力を確認するために、チップセットベンダーと協力しています」
ただし、端末によってはどうしてもAI性能に差が出てきてしまうこともある。チャウ氏は、Pixel 9シリーズがメモリを追加し、40億パラメーターの「Gemini Nano」に移行したことに言及しつつ、「新しいモデルは非常に大きいので、メモリが8GBのデバイス(Pixel 8シリーズ以前の端末)で動作させるのは困難だった」と語る。今後、特にオンデバイスAIでは、ハイエンドモデルの方がより多機能になるといった特徴を設けるメーカーは増えてくることが予想される。
AIの機能は進化が速いこともあり、Android OSそのものの提供ペースにも変更がかかったという。OSそのものより、開発者用のSDKをアップデートすることに重きを置いたというのがその理由だ。
「APIを追加できるようにして、社内の開発者だけでなく、社外のサードパーティ開発者や開発者エコシステムが新しい機能を追加できるようにしたいのです。現在、特にAI機能の進歩は非常に速く、開発者が活用できるような新しいアプリを提供できるようにしたかったのです」
結果として、次期Androidは通常よりも早い第2四半期(4月から6月)に登場することが決まったという。これには、メーカー各社から年内に出すデバイスに最新のAndroidが搭載できないというフィードバックも考慮したという。例えば、現在最新のAndroidはAndroid 15だが、24年末に発売されたXiaomiの「Xiaomi 14T Pro」はAndroid 14のままで、現時点ではアップデートもかかっていない。
同様に、夏に発売された「Galaxy Z Fold6/Flip6」も、予定は表明されているものの、アップデートが未提供だ。これは、「休日の多い年末に近い時期にリリースされるため、何かあったときのことを考え、アップグレードが難しくなっていた」ためだという。
機能追加できるSDKのアップデートをより頻繁にすることで、逆にベースとなるOSはより早期に提供できる形に変更した。
最新モデルの登場とほぼ同タイミングで最新OSが提供され、一斉にアップデートがかかるiOSと比べ、AndroidはPixel以外の対応が翌年まで待たされることがあり、盛り上がりに欠けていた。最新のAIにキャッチアップする副産物としてリリースが早まれば、徐々にこうした問題も解決されていくことになりそうだ。