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フリーランス危うし? 「インボイス」制度に向け、適格請求書発行事業者の登録を
2021年9月30日 08:20
ここ最近、「インボイス」という言葉をよく見かけるようになったのではないだろうか。
インボイス制度は、2023年10月1日から導入される消費税の処理・納付にかかわる新たな仕組みで、法人はもちろん個人事業主、いわゆるフリーランスとして活動している人にも関係する重要な制度だ。それに先だって、2021年10月1日からインボイス制度に対応するための「適格請求書発行事業者」の登録申請も始まる。
多様なワークスタイルが広がる昨今の状況で、副業を始めたという人にとっても、この新しい制度がダイレクトに影響する可能性が高い。適格請求書発行事業者となってインボイス制度に対応しておかないと、場合によっては「仕事がなくなる」事態も引き起こしかねないのだ。
どうしてそんなことが起こりうるのか、今回は特に個人事業主として活動している人が最低限知っておくべきインボイス制度の内容について、ざっくりと解説していきたい。
インボイス制度に対応するメリット、対応しないデメリット
インボイス制度は、正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれるもので、簡単に言えば請求書の保存に関する新しい取り決めのこと。物を売ったり買ったりしたときに発生する消費税を、事業者同士、または事業者と個人が書類上で正しくやりとしていることを担保できるようにし、最終的には消費税が正確に納付されるようにすることを目的としている。
それだけ聞くと、すでに消費税を正しく納付している人にとっては、新しい方法に対応するという手間だけが増えてメリットがないと思われそうだ。事実、インボイス制度に対応しても明確なメリットはない。強いて言えば、「対応しないことによって発生するデメリットを避けられる」のがメリットと言える。その「対応しないことによるデメリット」の一番大きなものは、買い手となる企業が仕入税額控除を受けられないことだ。
ちょっと小難しい感じになってきたので、わかりやすくなるよう、ここで1つ例を挙げてみたい。
たとえばインプレスがどこかの企業のタイアップ案件を獲得して、その原稿の執筆を筆者に依頼してきたとしよう。あくまでも例なので金額感は現実とは異なるが、筆者はインプレスから50万円(+消費税5万円)で依頼を受けて納品し、インプレスはできあがったコンテンツを編集して付加価値を加え、企業に対して100万円(+消費税10万円)で売る、という形を考えてみる。
このとき、インボイス制度に対応して適格請求書を発行していれば、インプレスは課税売上100万円に対する消費税10万円と、仕入にかかった(筆者が納付する)消費税5万円を差し引きして国に納付することになる。これが仕入税額控除だ。つまりインプレスは、消費税5万円を納付するだけでよく、利益は「110-5-55=50万円」となる。
ところが、インボイス制度が始まる2023年10月1日以降、反対に筆者がインボイス制度に対応した形で請求書を発行しないと、インプレスは仕入税額控除を受けられなくなる。課税売上100万円に対する消費税10万円をそのまま納付することになるわけだ。利益は「110-10-55=45万円」となるので、インプレスは5万円損をしてしまう。
従来(2023年9月30日まで)は、後述するインボイス制度に必要な手順をとることなく、こうした仕入税額控除を受けられていた。が、2023年10月1日からは、インボイス制度に対応した方法でやりとりを行なわなければ仕入税額控除を受けられない。上記の例で言えば5万円損することになるのだから、インボイス制度に対応しないという選択肢はないだろう。
で、このケースにおいて重要なのは、「筆者が」インボイス制度に対応しているかどうかになる。インボイス制度に対応した形で筆者が請求書を発行していなければ、インプレスが仕入税額控除を受けようと思っても不可能だからだ。
さて、筆者がインボイスに対応していないとなるとインプレスはどう考えるか。インボイス制度に対応していない筆者より、対応している他のライターに仕事を依頼することを考えるだろう。その方が利益が大きくなるという判断がなされる可能性はある。
仕入税額控除の差額分を考えても有り余るほどのメリットが、他のライターより筆者にあるというのなら別だが、少なくともどちらも同じレベルのクオリティが予想されるのであれば、まあ、インボイス制度に対応している他のライターに仕事を振りたくなるに違いない。つまり、筆者の仕事はなくなるわけである。ガーン!
干されたくないなら適格請求書発行事業者になればいい、が……
あるいは、仕入税額控除ができなくなる分、筆者に対して「値引き」という形で減額要請される可能性もあるが、どちらにしろ、そんな風に企業から仕事を依頼されているフリーランスは、いずれ干されて仕事がなくなってしまう恐れがあるわけだ。その前に、さっさとインボイス制度に対応しておいた方がいい、ということになる。
しかし、ここでもう1つ考えておかなければならないことがある。インボイス制度に対応するためには「適格請求書発行事業者」として登録する必要があり、そのためには「消費税課税事業者選択届出書」も提出しなければならないということだ。
つまり、個人事業主としての売上規模に関わらず、消費税課税事業者となり、消費税を必ず納付するという手続きを行なうことになる。税金を納付するのは当たり前のことだが、消費税については一定の条件を満たしていれば免税事業者として認められ、消費税の納付が免除される場合がある、というのが事態をややこしくしている。
免税事業者であっても、他の企業に対して請求するときに、消費税分も合わせて請求することは合法で、モラル的な問題もない。この恩恵にあずかっているフリーランスの人もいるはずだ。そういう人にとっては、適格請求書発行事業者になるために消費税課税事業者になる、というのは抵抗があるかもしれない。
免税事業者の条件は、個人事業主について言うと、原則として事業開始から2年目までの場合、もしくは開始3年目以降で前々年の課税売上高が1,000万円以下の場合、のいずれか。すでに消費税課税事業者となっている場合は、迷うことなく適格請求書発行事業者に登録することになるだろうが、本業とは別の仕事を個人で副業として手がけているような場合は難しい判断になりそうだ(副業でも年間1,000万円以上売り上げていれば話は別だが)。
なお、経過処置として、企業側では、インボイスに対応していない事業者(フリーランス)からの仕入についても、2023年からの3年間は80%、2026年からの3年間は50%の仕入税額控除がそれぞれ受けられるようにもなっているようだ。とはいえ、そのための企業側の処理の手間を考えると、いちフリーランスのためにどれだけ対応してくれるのかは未知数だけれど……。
結局のところ、いずれ仕事がなくなってしまうかも……ということを考えると、インボイス制度には対応しておくべきだろう。納税は国民の義務だが、これまで消費税の納税を免れていた人にとっては、インボイス、適格請求書等保存方式は、ある意味現代の踏み絵のような制度、と言えるかもしれない。
実際にやりとりする「適格請求書」はどんなものに?
インボイス制度に対応するにあたり、まず必要になる「消費税課税事業者選択届出書」については、「原則課税方式」と「簡易課税方式」のように、事業内容に応じていくつか選択しなければならない部分もあるので税理士などに相談したい。
一方、「適格請求書発行事業者」については、e-TAXを利用してオンラインで登録することもできる。詳しくは国税庁の以下の特設サイトを確認してほしい。
気になるのは、実際に取引先とやりとりするときの「適格請求書」がどういうものか、というところだが、ここはさほど難しく考える必要はなさそうだ。既存の請求書の内容に、いくつかの情報を追加するだけでよく、クラウド型の請求書発行サービスでも一部項目についてはすでに対応している場合がある。たとえばインボイス制度に対応した請求書は以下のようなものになるだろう。
肝となる点は、適格請求書発行事業者の登録番号が明記されていること。さらに、税率ごとに区分した適用税率と、税率ごとに区分して合計した額が記載されていることが必要になる(画像内の赤枠部分)。取引年月日や取引内容ももちろん必要だが、これについては既存の請求書でも当然のように記載していたはずだ。
上記の請求書は、あくまでも例なので半ば無理矢理表現しているが、軽減税率が適用されるものについては、各項目のどれが対象であるかをわかるようにしたうえで、別途「8%対象 ●●●●円 消費税 ●●●円」といったように記載することも重要。ちなみに小売やタクシー事業者などが発行する領収書においては、一部の項目を省略できる「適格簡易請求書」も利用可能だ。
実際にインボイス制度がスタートするのは2023年10月1日なので、まだ猶予はある。事業を始めたばかりの人、今のところ売上が年1,000万円以下の人は、それまでは消費税課税事業者としての申請を控えておくのも手かもしれない(2023年10月1日の開始に間に合わせるには、2023年3月31日までに申請する必要があることに注意)。ただ、取引先には、今後も安心して一緒に仕事していけるように、あらかじめ適格請求書発行事業者として登録予定であることを伝えておいた方が良いだろう。
というわけで、筆者の会社ももちろん適格請求書発行事業者として登録予定ですので、なにとぞ2023年10月1日以降もよろしくお願いいたします。