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Visaのタッチ決済で高野山にいってきた。南海電鉄の自動改札実験
2021年4月8日 08:15
南海電鉄、三井住友カード、QUADRAC、ビザ・ワールドワイド・ジャパンは、4月3日より南海電鉄の一部の駅で、「Visaのタッチ決済」「QRコード」による入出場の実証実験を開始した。今回、実際にVisaのタッチ決済に対応したクレジットカードを使って南海電鉄を利用してきたので、その様子を紹介する。
全16駅に2種類の専用自動改札機を設置
今回の実証実験は、南海電鉄16駅にVisaのタッチ決済およびQRコードを利用する「南海デジタルチケット」に対応した専用の自動改札機を設置し、4月3日から12月12日(予定)の期間で行なわれる。専用自動改札機が設置される駅は、難波駅、関西空港駅、和歌山市駅、高野山駅など16駅。具体的な実証実験の内容は、別記事のとおりだ。
日本初、Visaのタッチ決済で改札入退場。南海電鉄の難波など16駅
実証実験に利用される専用の自動改札機は2種類用意される。
1つは、既存の自動改札機の手前にVisaのタッチ決済用のICカードリーダーとQRコードリーダーを取り付けたポールを設置するもの。Visaのタッチ決済対応カードなどはポール上部の左側面に設置されているICカードリーダーに、南海デジタルチケットは手前側面のQRコードリーダーにそれぞれかざして入出場が行なえる。また、既存の自動改札機を活用しているため、自動改札機のICカードリーダーを利用することで交通系ICカードでの入出場も可能となっている。
もう1つは、Visaのタッチ決済と南海デジタルチケットのみに対応するものだ。こちらは、主にオフィスビルの入館ゲートなどに利用されている、高見沢サイバネティックス製のセキュリティゲートを応用したものとなる。既存の自動改札機同様に、進入口側にICカードリーダーとQRコードリーダーを備えるため、Visaのタッチ決済や南海デジタルチケットで入出場する場合でも、既存の自動改札機とほぼ同じ動作で入出場が可能。ただし、ICカードリーダーはVisaのタッチ決済にのみ対応しているため、交通系電子マネーでの入出場は行なえない。
Visaのタッチ決済は事前登録不要で誰でも利用可能
Visaのタッチ決済で入出場する場合には、Visaのタッチ決済に対応するクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードを利用する。また、AndroidスマートフォンやウェアラブルデバイスでVisaのタッチ決済が利用可能となっている場合には、そちらでも入出場が可能だ。
カードの発行国は日本だけでなく、海外発行のカードも利用可能。加えて、利用時の事前登録は不要で、Visaのタッチ決済対応カードなどを持っていれば誰でも利用できる。
今回の実証実験は、関西空港駅の乗車券販売ブースで常に発生していた訪日外国人観光客の長い列を解消し、利便性を高める意図から計画されたもの。その意味からも登録不要で利用できることを重視した。
実証実験では、Visaのタッチ決済を利用した入出場において、入場時にサーバーに入場の記録を保存し、出場時に運賃を精算する都度利用となる。この流れは交通系ICカードとほぼ同じだが、Visaのタッチ決済を利用する場合には交通系ICカードのように事前にチャージの必要がない。もちろん、残金不足で出場できない、ということも発生しないため、スムーズに入出場が行なえる。
カードへの料金計上は出場時に即座というわけではなく、1日分の利用料金をまとめて、その日の夜以降に計上される。例えば、1日のうちに2回利用して、それぞれ運賃が150円、200円だった場合には、カードには350円の料金が計上されることになる。実際に筆者が利用したカード「三井住友カード ナンバーレス(NL)」では、4月4日に利用した全料金の合計が、「交通利用」という名目で4月5日の早朝に計上された。
ただ、カードの明細からは、いつ、どこの区間を乗車した料金なのか、細かい利用履歴が分からない。
そこで利用したいのが、QUADRAC社が提供する「Q-move」サイトだ。Q-moveでは、利用するカードのカード番号を登録するなどの会員登録作業が必要となるが、どの駅からいつ入場し、どの駅でいつ出場したのか、運賃がいくらだったのか、といった利用履歴を細かく確認できる。実際にチェックしてみたが、Q-moveでは利用状況が即時に反映されるようなので、細かな利用状況を確認はQ-moveが便利だ。
Visaのタッチ決済での入出場は「遅くはない」
では、実際に実証実験が開始となった4月3日に、Visaのタッチ決済で自動改札を通過して南海電鉄を利用してきたので、その様子を紹介しよう。
実際に利用した区間は、高野山駅から難波駅の間だ。
実証実験は、訪日外国人観光客を中心とした観光客の利用を想定していることもあるため、南海電鉄沿線の観光地の中でも、世界遺産に登録され世界的に認知度の高い高野山への観光を想定して、高野山観光からの戻りにVisaのタッチ決済で南海電鉄を利用する、という設定で体験してきた。
高野山駅では、入場用と出場用にそれぞれ2レーンずつの自動改札機が設置されており、それら4レーン全てがVisaのタッチ決済および南海デジタルチケットに対応。形状は既存の自動改札機に独自ポールを加えたものとなっている。
入場時の動作は、ポール側面に設置されているICカードリーダーにクレジットカードをタッチするという、通常の交通系ICカードとは異なる動作となるため、利用する場面では少々違和感があった。また、タッチの動作を開始してカードの情報が読み取られ、自動改札機のバーが開くまでの速度についても、交通系ICカードに比べてワンテンポ遅いという印象だった。
なぜVisaのタッチ決済では反応速度が遅いのか。その原因は、鈴木淳也氏の記事で詳しく解説されているとおりだ。また、南海電鉄の担当者も、Visaのタッチ決済が交通系ICカードよりも速度が遅いと認めており、今回の実証実験ではその影響も検証されることになっている。
Suica」と「Visaのタッチ決済」、改札での速度差の秘密
それでも、実際に使ってみて、致命的に遅くはないと感じた。下に掲載している動画では、撮影しながらということで比較的ゆっくりとタッチして入場しているが、他の駅で、交通系ICカードと同じように歩きながらタッチしてみても、問題なく入場が可能だった。
しかも、Visaのタッチ決済対応クレジットカードを使う場合であれば、チャージ不要で利用できる。
交通系ICカードを使う場合に、出場時に残高不足でバーが開かず流れを妨げてしまう、という場面をよく見かけるが、Visaのタッチ決済対応クレジットカードではそういったことは発生しない。交通系ICカードでオートチャージを設定しているのが少数派ということからも、この点はクレジットカード利用の優位点となりそうだ。
ただ、実証実験開始前日の4月2日に行なわれた報道公開の場では、カードをかざす場所や向きなどによって正常に読み取れない場面が見られたのも事実。
そのため、Visaのタッチ決済利用時には、カードをカードリーダーの中心付近にしっかりタッチする、といった意識は必要そうだ。
なお、入場時には、カードをタッチするとカードリーダーのディスプレイに「○ PASS」と表示される。正常に読み取られるとピッっと音が鳴り自動改札機のバーが開くため、ディスプレイを見ることはないと思うが、ディスプレイでも正常に読み取られ、入場できることを確認可能だ。
高野山駅に入場し、高野山ケーブルカーで極楽橋駅に。そして極楽橋駅では高野線各駅停車橋本駅行きに乗り換え、九度山駅で下車した。
九度山駅もVisaのタッチ決済対応自動改札機が設置されている駅だ。九度山駅周辺には真田幸村ゆかりの観光地があるためか、当日も歴史好きの観光客の姿が見られた。ただ、高野山駅などに比べると乗降客は圧倒的に少なく、無人駅となっている。無人駅での検証という意味合いで設置されているのだろう。
こちらに設置されている自動改札機も、高野山駅同様に既存自動改札機に独自ポールを追加したもので、2レーンある自動改札機のうち1レーンのみの対応となっている。入場と同じようにポールのICカードリーダーにクレジットカードをタッチすると、カードが読み取られて運賃が精算された後、自動改札機のバーが開いて問題なく出場できた。こちらも交通系ICカードよりも一瞬遅いと感じたものの、大きな問題はないという印象だった。
なお、今回の動画ではうまく撮影できていないが、出場時にはタッチしたのちにICカードリーダー部のディスプレイに運賃が表示される。どういった形で表示されるかは、他の駅で試したものを掲載するが、通常はあまり認識することなく通過してしまうだろう。そのため、できれば自動改札機の本体側ディスプレイに運賃を表示してもらいたいと感じた。
九度山駅では周辺を散策して昼食をとった後、再度入場して難波駅へ向かった。まず橋本駅行きの各駅停車に乗車し、橋本駅で難波駅行きの急行列車に乗り換え。そして難波駅では3階北改札口に設置されているVisaのタッチ決済対応自動改札機を利用した。こちらはセキュリティゲートを応用したもので、2レーン用意。この自動改札機では交通系ICカードが利用できないことと、乗降客の多い難波駅ということもあってか、床に大きくVisaのロゴが付いた誘導サインが貼られている点がかなり目に付いた。
こちらの自動改札機は、既存の自動改札機と同じように、自動改札機の手前上部にカードリーダーが配置されているため、使い勝手は交通系ICカードを利用する場合と同じだ。通過時の速度も、専用ポールを追加したものと変わらず、交通系ICカードよりわずかに遅いものの、致命的に遅いとは感じなかった。
ただし、カードリーダーの手前に南海デジタルチケット用のQRコードリーダーが設置されているので、そちらにタッチしてしまう人もいそうだ。この形状のありかたについても実証実験での検証項目となっているそうだが、混乱しないようにカードリーダーとQRコードリーダーは一体化すべきと感じる。
利便性の高さを十分に実感できた
このように、南海電鉄で始まったVisaのタッチ決済を利用した入出場の実証実験を体験してきたが、交通系ICカードと比べて致命的に遅くはないと実感できた。
朝のラッシュ時などにVisaのタッチ決済を利用する客が混ざった場合にどういった動きになるのか、といった部分などは、実証実験を通して十分に検証する必要があるだろう。とはいえ、先に紹介しているように、クレジットカードを利用する場合には事前のチャージが不要で、出場時に残高不足のため流れを止めることがなくなることから、トータルでは入出乗客の流れを妨げることにはならないはずだ。
実証実験では、運賃設定が大人運賃のみで、定期券を設定できないなどの制限はある。入出場や運賃計算などはクラウドサーバーで行なう仕様のため、やろうと思えば様々な運賃体系に対応は可能だろう。ただ、南海電鉄としても交通系ICカードを置き換えるものではなく、訪日外国人観光客などの利用をメインと考えているため、運賃体系が豊富ではなくても大きな問題とはならないはずだ。そして、実証実験を通して問題なく運用できるかどうかをしっかり確認し、新たな運賃支払い手段として早期に正式導入されることを期待したい。
なお、今回は協力企業の関係もあり、Visaのタッチ決済対応カードのみが利用可能となっているが、他のカードブランドへの対応も難しくないはず。その点も今後検証を進めてもらいたい。合わせて、今回はタイミング的に提供開始前だったため南海デジタルチケットの利用は体験できなかったので、機会があれば実際に試してみたいと思う。