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ソニーのスマートウォッチ「wena」が目指す時計の自由。Suicaとアナログの価値

「ソニーのスマートウォッチ」として独自の道を歩んでいる「wena」(ウェナ)シリーズ。11月27日には第3世代モデル「wena 3」が発売される。

従来は腕時計のバンド部分にスマートウォッチの機能を分散して搭載していたが、wena 3は、“バックル”部分に機能を集約し、デザインの自由度を飛躍的に高めたのが特徴。Suicaへの対応を果たしたほか、時計メーカーへの提供といった新たな展開も明らかにされている。

wenaの開発責任者である、ソニー Business Acceleration部 wena事業室 統括課長の對馬哲平氏に話を聞いた。

ソニー Business Acceleration部 wena事業室 統括課長の對馬哲平氏

時計とスマートウォッチ、双方の価値を高めていく試み

wena 3はバックル部分だけにスマートウォッチ機能を集約し、バンドと組み合わせて利用するほか、必要に応じて別売のヘッド(時計部分)を組み合わせて腕時計になるという仕組み。wena 3のバンド素材はメタル、レザー、シリコンの3種類で5モデルを用意し、店頭予想価格は27,000円~35,000円前後。

なぜ、wena 3ではバックルにスマートウォッチ機能を集約という形を取ったのだろうか?

對馬氏:まず、「腕時計とスマートウォッチをひとつにしたい」という思いから、wenaを作りました。wenaでは、「身につける喜び」=アナログ時計としての価値をどうやって高めていくのかということと、「利便性」=スマートウォッチとしての価値をいかに高めていくのかの2つが大事だと考えています。

wena 3はさらに多機能を目指しスマートウォッチとしての価値を高めた一方で、アナログ時計としての価値も高めて、大きく成長をしたい。

そのためバックル部分にすべての機能を搭載しました。今まではバンドのコマの中にもモジュールを入れていたので、薄くはできても、バンドのデザインを変えられないという課題がありました。時計メーカーとのコラボでは、時計メーカーは文字盤など時計部分しかデザインできないため、オリジナリティを出しづらい状況でした。

wena 3では、時計メーカーがバンド部分もデザインできるようになるのが大きな違いです。

さらにバックル部分をBtoBの形で提供し、時計メーカーが簡単にスマートウォッチを作れるような世界にできればと考えています。ただ提供するだけでなく、必要なアプリ、サーバー、カスタマーサポートもwena側が提供しますので、時計メーカーはバックル部分を採用するだけで済みます。

wena 3で時計メーカーとの“協業”を強調する對馬氏。wenaでは、これまでもブランドやセレクトショップなどとのコラボモデルを多数発売してきたが、wena 3でもインダストリアルデザイナーの山中俊治氏や、カーデザイナーのファブリツィオ・ジウジアーロ氏、さらにシチズンやセイコー メカニカルなどのコラボモデルを展開する。

ジウジアーロコラボモデル(左)と山中俊治コラボモデル(右)

これらの“コラボ”だけでなく、より踏み込んだ協業を時計メーカーと協力して展開。セイコーから「wiredwena」という新ブランドが立ち上がり、wena 3を採用した新製品が2021年1月15日に発売される。時計部分もBluetoothに対応し、時計とバンド(wena 3)が連動するなど、機能面にも踏み込んだ形になる。

wiredwena

また、シチズンとは「Riiiver」(リーバー)というIoTプラットフォームと連携できるパートナーシップ契約を締結し、2021年の夏から対応を開始。シチズンからもwena 3のバックルを採用したモデルが発売されるほか、シチズンがムーヴメントをOEM供給するほかのメーカーに対してもwena 3を提供できるようになる。

これまでの“コラボ“と、これからの“協業”の違いはどこにあるのだろうか?

對馬:これまでも、wenaブランドでコラボモデルやオリジナルモデルを提供してきましたが、弊社だけでできるデザインやバリエーションは限られます。

餅は餅屋ということで、時計メーカーのブランドやクオリティ、バリエーションをwenaの世界に取り込むには、wenaを時計メーカーに提供していくのがいいだろうという考えです。

wena 3は「便利を、自由に。」というコンセプトです。スマートウォッチは徐々にユーザーにも受け入れられているとは思いますが、例えば「毎日充電が必要」とか、「服にあわせてデザインが選べない」とか、便利だけど不自由になっていることもあると思っています。wena 3では、機能、バッテリー持ち、身につける喜びも、全部自由に選択できるようにしたいと考えています。

「wena 3」の利用イメージ

wena 3の5つの特徴

「wena 3」の特徴は大きく5つ。Suica対応、タッチ操作ディスプレイ、活動ログ、Alexa搭載、選べる3種類のバンドとなる。

Suicaは、ただ対応するだけでなく予備電力を搭載している。元々バッテリー持ちは1週間だが、それが切れても24時間以内ならSuicaを利用できる。例えば電車に乗っている最中にバッテリーが切れても、普通に改札から出ることができるという。

Apple PayやGarmin Payはカードを切り替えて使う必要があり、Apple Payのエクスプレスカードに登録できるのは1種類だけ。「wenaの場合は、切り替えることなくかざすだけで利用できる」(對馬氏)。

タッチ操作の有機ELディスプレイは、スワイプ操作で上下左右に移動でき、下に活動ログ、左に通知履歴、右にスケジュール、上に各種ツールの画面という配置。ワンアクションですぐにアクセスできる、シンプルなUIとした。照度センサーを搭載しているため、周囲の明るさに応じて自動的に画面の輝度を調整できる。また、右手に装着する人向けに、表示の上下を反転させることも可能となっている。

有機ELディスプレイ。表面にはGorilla Glassを使用している
上下左右にスワイプすることで各機能にアクセスできる

活動ログ機能は、歩数、心拍、睡眠、VO2 Max、ストレス&リカバリーのBody Energyという5種類に対応。Body Energyは自分のエネルギー残量がどれくらいなのか分かる機能。また、心拍センサーはソニー独自のアルゴリズムを使い、デュアル光学式センサーでモニタリングすることで高精度になっているという。

Alexaにも対応し、外出先で簡単にAlexaを利用できる。スマートフォンの場合は、ロックを解除して、Alexaを立ち上げる必要があるが、wena 3であればワンアクションですぐに起動できる点が特徴となる。

バンドはメタル、レザー、ラバーの3種類。「ラバーバンドは、時計部分(ヘッド)だけ簡単に取り外せるので、そのまま『スマートバンド』として運動や睡眠時に使ってもらうこともできます」(對馬氏)。

また、対応する時計のバリエーションが増えることもwena 3の特徴。

對馬:これまで、既存の時計に取り付けるためのエンドピースについては、対応できるラグ幅が18mm、20mm、22mmの3種類だけで、市場の時計の半分ぐらいをカバーしていました。今回は18mm~24mmまで、1mmごとに7種類のエンドピースを用意しました。これで市場の時計の72%ぐらいまでカバーできるようになりました。

また、ラグ幅が19.8mmといった時計は、従来は20mmのエンドピースが装着できなかったのですが、今回は19mmのエンドピースで対応できることになります。

さらに、スマートロック対応も強化。「Qrio」に対応し、スマートフォンを取り出さなくてもQrio Lockを取り付けた鍵の開閉ができるようになるため、「鍵も財布もwena 3に入るため、ポケットの中はかなり楽になります」(對馬氏)。

また、紛失防止タグの「MAMORIO」に対応し、スマートフォンからwena 3の場所をさがせるようにした。wena 3からスマートフォンを探すこともでき、双方でセキュリティが向上するという。

JR東日本のオープン戦略で実現したSuicaへの対応

wena 3の最大のトピックといえる「Suica」対応。以前から対応を望む声も大きかったと思うが、なぜ“いま“Suica対応が実現できたのだろうか?

對馬:これまでは、JR東日本さん側でも開発が必要になる部分があり、そのあたり対応が難しい面がありました。

しかし最近は、Suicaのプラットフォームをオープンにされており、例えば銀行系では「Mizuho Suica」などが提供されていますよね。そうした動きの一環で、「wena 3」がSuicaに対応できることになりました。

定められた試験があり、それに合格すればハードウェア的には問題ありません。今回、プラットフォーム側の準備が整ったため、Suica対応が実現できました。

ただし、Suica定期券に対応しないなど一部機能は非対応となっている。これもSuicaのプラットフォーム側の仕様の制限によるものだろうか?

對馬:そうです。Mizuho Suicaなども定期券には対応していませんが、同じ仕様のプラットフォームのため、定期券には対応できません。wenaでの利用にあたっては、「wena 3」アプリで新しくSuicaを発券する形になります。

wenaのSuica対応について、発表後の記事への反応を見ると「ついに」「いよいよ」といったものが多かった。Suicaのニーズについては、どのように分析していたのだろうか?

對馬:電子マネーの利用者数でいうと、これまでwenaが対応していた電子マネーなどと比べてSuicaは倍ぐらいの規模があります。注目度は高いと予想していましたし、ニーズがあることは認識していました。本当はwenaの第1世代モデルから対応したかったのですが、やっとSuicaに対応できました。

PASMOについては、PASMOの定期券に対応できないのであれば、Suicaの電子マネーと同じなのかなと(注:SuicaとPASMOなど交通系ICの電子マネーは相互乗り入れしている)。そういう意味では、今回Suicaに対応したことで、「交通系ICの電子マネーに対応した」という形になります。

なお、楽天Edyなど“Suica以外”のFeliCaを利用した電子マネーの利用には、初回にiOS端末のアプリによる認証作業が必要になる。この方法、Androidユーザーには不評だが、解決は難しいのだろうか?

對馬:wenaに搭載しているFeliCaチップは、フェリカネットワークスが提供する「おサイフリンク」という、iOS端末向けアプリを使って初回の認証を行なう仕組みです。これは楽天Edy、iD、QUICPayの初期設定で必要になります。iDとQUICPayに関してはポストペイ型なので最初に設定すればあとは不要です。楽天Edyについては、初期設定をこのアプリで済ませれば、あとはAndroidのEdyのアプリを使いタッチしてチャージができます。

実はこの部分は、かなり悩みました。SuicaはAndroidとiOSの両方の「wena 3」アプリで設定できるのに、そのほかの電子マネーはiOS端末の「おサイフリンク」アプリがないと設定できないというのは、ややこしく、混乱します。

コストの問題もありますし、いっそのことSuica以外は無くしてしまおうかという案もありました。

しかし、今までのwenaで楽天EdyやiDを使っている方もいらっしゃいます。そういう方に向けてダウングレードしたものを提供するのも良くないと考え、継続して搭載することにしました。

Suica対応を果たす前から、wenaの「重要な機能」と位置づけていた電子マネーだが、これまでの実際の利用動向はどうなっていたのだろうか?

對馬:圧倒的に楽天Edyが多いですね。Apple Watchやガーミンも楽天Edyには対応していないので、ウェアラブル端末で楽天Edyが使える唯一の製品という点もあります。

――(Edy利用が多い)沖縄や宮崎でwenaがたくさん売れたのでしょうか?

對馬:沖縄でEdyが強いという話は噂には聞きますが、wenaの売れ行きにそうした傾向はありませんでした(笑)。

小型化されたwena 3本体

今回のモデルから、必要なパーツはぐっと凝縮され、すべてバックル部分に搭載されるようになった。技術的に難しかったポイントはどこだろうか?

對馬:使用している部品ですが、(湾曲した)カーブドバッテリー、カーブドディスプレイ(フレキシブルディスプレイ)、カーブドガラスなどを使っています。特にカーブドガラスは、平たいガラスを高温で徐々に、20工程ぐらいかけて曲げていくという製造方法で、かなりコストがかかっています。手首のカーブに沿ってできるだけ高密度に実装できるよう、このような曲がった部品を採用しています。

搭載する基板のサイズも、今回のモデルからかなり小さくなっています。前モデルの半分ぐらいのサイズです。8層基板を使って、できるだけ小さくなるよう、部品配置もパズルのように緻密に重なり合うように配置しました。

また、これも効果が大きいのですが、基本的にすべて金属の部品を使っています。樹脂だと厚みが0.6~0.7mm必要になってきますが、これが金属だと0.3mmでも剛性を確保できます。こうした金属部品で覆ったことも、かなり小さくできた理由です。

金属部品で覆うと、通常はBluetoothの電波を飛ばせませんが、金属部品自体をアンテナとして使うことで電波を飛ばしています。Xperiaのメタルアンテナなどと似た技術ですね。なのでBluetoothモジュールは使わずディスクリート構成で、アンテナから設計しました。FeliCaのアンテナについては、ディスプレイの裏側に搭載しています。

バックル部分に集約された「wena 3」の構造

對馬:重量は、バンド込みで、ラバーバンドのモデルが約32g、メタルバンドのモデルは約80gです。前モデルはメタルバンドで100g以上だったので、軽くなっていますね。バックル部分のモジュールの厚みは、前モデルから2.5mm薄くなり、6.9mmです。

――開発時にターゲットとしたサイズ感は?

對馬:厚みは、薄ければ薄いほどいいですよね。(一般的に)9mmぐらいのバックルはあるのですが、7mmは切りたいと思っていました。

あとはバックルの長さもポイントです。バックルの二つ折りのパーツが短すぎると、バックルを外しても手が通らないのです。一方で、心拍センサーは手首に接するように露出していないといけないので、バックルはギリギリの長さになっています。

バックルを外し二つ折りのパーツを開いたところ
二つ折りパーツの隣に心拍センサー

バンド部分はメタル、レザー、ラバーと3種類用意されているが、いわゆるNATOストラップ(ナイロン製バンド)も、手頃なカスタム方法として人気がある。ナイロン製バンドは難しいのだろうか?

對馬:嬉しい質問ですね(笑)。ただ、製品化については、要望をみながら検討していきたいという段階です。

NATOバンドを自身で使う場合、wenaのレザーバンドと近い構造になりますが、加工してバックルを通す穴を自分で空ければ、装着できます。ただwenaのバンドのバックル側の幅は18mmで固定です。途中で幅が広くなっているNATOバンドはあまりないと思うので、時計側のラグ幅が18mmなら付けられる、ということになるでしょうか。

売れ筋のバンドは、メタルですね。一番安価なラバーバンドがもっと売れると思っていたのですが(笑)。

メタルバンド
レザーバンド。ムーブメントの下を引いて通すタイプ
ラバーバンドはヘッドを簡単に取り外せる

――ほかのスマートウォッチにwenaを付けるといった使い方は“アリ”ですか? ナンセンスかもしれませんが、例えばApple Watchのバンドとしてwenaを取り付けるとかは?

對馬:ぜんぜんオッケーです(笑)。ユーザーの中にもたまにいらっしゃいます。Apple WatchはiPhoneと連携させて、バンドのwenaは会社支給のAndroidスマートフォンに連携させるという使い方とかですね。「最強のスマートウォッチできた」と写真を送ってくれる人もいます。

wena 3では、スマートウォッチ機能をバックル部分に集約した。これは時計メーカーとの協業のためなのだろうか? また、この構想はいつから考えていたことなのだろうか?

對馬:アナログ時計としての価値を高めていくには、デザインの自由度を向上させなければいけないと考えていました。バックル部分に集約させると、バンド部分を自由にデザインできます。

バックルに集約というのは、wenaを第1世代、第2世代と作っていく中で、決まっていったコンセプトです。ただ、アナログ時計としての価値とスマートウォッチとしての価値の両方を上げていくというコンセプトは当初からのものですし、ようやくそれを解決できる技術的な進歩が追いついてきたという感じです。

技術的な進歩というのは、具体的にはCPUです。CPUの省電力化がかなり進み、前モデルの半分ぐらいの省電力になっています。そのため電池サイズも小さくすることができ、今回の本体の小ささを実現できました。

一般的なスマートウォッチは電池容量が大きくなったことをアピールすることも多いが、wenaはその逆で、「容量の小ささ」がポイントだという。

對馬:バッテリー容量は公表していませんが、かなり小さいです。普通(200mAh程度)の半分ぐらいです。

一般的なスマートウォッチは高機能化していて、滑らかな表示が重要だったり、さまざまなアプリを立ち上げたりしますよね。スマートウォッチ向けのSnapdragonを搭載していると、少し前のスマートフォンに近い処理能力もあります。そうしたモデルはどうしても省電力化が難しい面があります。wenaは省電力のCPUを使用し、機能も絞っているので、バッテリーサイズも小さくできます。

高機能なスマートウォッチと競争軸や考え方が違うというwena。では、wenaにとって、必要な機能というのは何だろうか?

對馬:例えば、ここ(手首)で電卓を使うというのは、なんか違う気がしていて。スマートウォッチで本当に必要なのか? と疑問を感じたものは、できるだけ入れないようにしました。

スマートウォッチの役割は、スマートフォンを取り出して何か操作をするということの、手間を省くために使うものだと思います。スケジュールの確認や着信の通知とかが基本的にスマートウォッチに求められるものだと思います。

一方で、ポケットの中に入っている財布や鍵は、ずっと入れておくのはイヤですし、ポケットを空にできたらいいなという思いがあったので、そういう機能もスマートウォッチにあったらいいなと思いました。

ハイブリッド型スマートウォッチからスマートウォッチに

なお、店頭での売り場は、主に「時計売り場」を想定しているという。家電量販店では、スマートフォン売り場などでも置かれているが、「腕時計」「スマートウォッチ」として販売していく考えという。

對馬:スマートウォッチと腕時計の売り場は同じところが多いですね。wenaも時計売り場に置かれています。

今まで、wenaを「ハイブリッド型スマートウォッチ」と呼んでいたのですが、今回から「スマートウォッチ」に変えています。

理由は、「スマートウォッチ」のほうが一般的によく使われる言葉であるのと、「wena 3」からは機能もかなりアップグレードされて、一般的なスマートウォッチを使っている人にも遜色のない機能を提供できると考えたからです。

そういう意味では、「腕時計」をすごく意識しているというより、スマートウォッチに興味のある人に見てもらいたいと思っています。

なお、ヘッド(ノーマルな時計部分)をセットにした販売と、wenaのバンド部分だけの販売の割合は、「6:4ぐらい」とのこと。

對馬:基本的には、時計を付けて使用されています。(wenaのバンド部分だけ購入し)自分の時計に付けるのが6割ぐらい、ヘッドとセットで購入されているのが4割ぐらいです。

販売台数は、数字は公表していませんが、第1世代から第2世代で2.7倍ぐらいに拡大しました。第3世代でもそれぐらい拡大させたいとは思っています。

市販の時計と組み合わせたイメージ。ヘッドは對馬氏の私物

時計メーカーと“協業”

wena 3で強化された時計メーカーとの協業。これらは、ソニーから提案する形だったのだろうか?

對馬:これまでのコラボモデルについては、時計メーカーにお願いに行き、OKが出たものをソニーが買い入れ、コラボモデルとして製品にして販売する形でした。wenaのバンド部分を時計メーカーに提供するパターンもありましたが、数百台限定とかの小規模な形でした。

今回、wena 3で発表しているセイコー(wiredwena)、シチズン(Riiiver)との協業は、どちらも時計メーカー側のレギュラーモデルとして採用してもらうもので、今までとはかなり違う規模の台数になります。

この協業も、私から相談に行きました。この3年ぐらいで時計業界の環境も大きく変わりました。AppleがApple Watchで世界一の「時計メーカー」になるといった話題は、時計メーカーのスマートウォッチに対する考え方にも大きく影響したようで、以前からの付き合いの中でも、そうした変化を感じることがありました。

セイコーの「wiredwena」では、時計部分もBluetoothに対応し、時計とバンド(wena 3)が連動する。例えばwenaの歩数の達成率やBody Energyのエネルギー残量を文字盤の針で表示したり、Suicaの残高を表示できる。また、時計のボタンも、ショートカットとしてAlexaの起動やQrioの動作に割り当てできるなど、機能のかなり深くまで連携している。

――wiredwenaのような協業だと、開発にかなりの時間が必要なはず。どれくらい前から取り組んでいたのですか?

對馬:2年ぐらい前ですね。第2世代モデルを出した後、第3世代モデルの企画を始めた段階で時計メーカーにも提案に行きました。

セイコーさんはこの頃、Bluetoothと連携して針が動かせるムーヴメントをちょうど開発していて、「面白いことをしたいね」と話が進みました。

なお、wiredwenaのバックル部分には、「wena 3」と同じものが搭載されるという。

對馬:wena 3と同じものです。ただファームウェアについては、時計本体との連動機能があるので、共同開発した特別なものになります。スマートフォン側のアプリは、「wena 3アプリ」で共通です。

「wiredwena」のバックル部分に「wena」のロゴが入っている。今後のモデルでも必ずwenaのロゴが入るのだろうか? それとも時計メーカーのデザイン次第では入らないこともある?

對馬:このロゴについては、あってもなくてもどちらでもいいと考えていたのですが(笑)、「wenaが入っているんだな」と分かったほうが良いと判断されたようです。セイコーさんからは、共同開発感も出るのでロゴを入れたいとお話がありました。

外観や素材のカスタマイズについては、アンテナ特性が変わるので、別の金属に変えるといったことは簡単には対応しづらいですね。電波関連の認証も取り直しになりますので、かなりの数が見込めないと厳しいです。

色については、例えばブラックはイオンプレーティング(IP)で着色しているのですが、IPで付けられる色なら何でも対応できます。ピンクゴールド、イエローゴールドなども対応できます。

ヘアライン、鏡面仕上げ、サンドブラストなどの表面の仕上げもデザインに合わせて変更できます。

シチズンとの協業は、IoTプラットフォームの「Riiiver」(リーバー)への対応を含めたものということで、また毛色の異なるものになっている。

對馬:シチズンの「Riiiver」は、「IFTTT」のような機能を提供できるプラットフォームです。wenaのボタン操作やタッチ操作といったイベントが「Riiiver」の「Piece」(ピース)として対応できるようになります。例えば、wenaの電子マネーのタッチ操作のイベントを取得して、改札にタッチしたらスマートフォンで位置情報を取得し、自宅の最寄り駅だったら家のエアコンをオンにする、といった連携ができる可能性があります。

また、インプットだけでなく、wenaのディスプレイを使い、気になる試合の結果を表示するといったアウトプットの使い方もできるかもしれません。

なお、シチズンからもバンド部分にwenaを搭載したモデルが出る予定という。

對馬:時計部分に「Riiiver」対応のムーブメントを採用し、バンドの「wena 3」も「Riiiver」対応というパターンなら、時計のボタンを押すとwenaの機能が動作するといったことが可能です。時計部分は通常のモデルで、バンドの「wena 3」が「Riiiver」対応というパターンもあると思います。

さらに注目したい点が、シチズンのOEM供給のモデルにwenaを採用するということ。つまり、シチズンのOEM先にもwena 3を販売し、それらのブランドのスマートウォッチにwenaの機能が入っていくことになる。

對馬:時計メーカー一社一社に対して販路を開拓していくのはかなり大変で、古くからある業界ですし、取引先にも信用や実績を重視します。サプライヤーも長く付き合いのあるところが中心です。シチズンさんはそうしたメーカーへ供給も行なっているので、シチズンさんからwenaを提供してもらえれば、すごくよいビジネスになると思っています。

シチズンのOEM先メーカーには小さい時計メーカーもある。こうした時計においても、wena部分のユーザーサポートはソニー側が行なっていくという。

對馬:(サポートは)そうしようと考えています。時計メーカーにヒアリングすると、スマートウォッチのカスタマーサポートが参入の障壁になっていると感じます。Bluetoothの操作といった部分までカバーするとなると、今まで取り組んだことがないメーカーには大変な部分です。これを引き受けるwenaのサポート体制は、問い合わせ件数に応じて柔軟に拡充していきます。また、海外展開もシチズンさんと一緒にやっていけたらと考えています。

時計メーカーと一緒に「第三の選択肢」

ソニーが販売するwenaに加え、これからはwenaが搭載された時計が増えていくことになる。今後、wenaはどちらのビジネスに軸を据えていくのだろうか?

對馬:wenaを搭載した(他社の)時計のほうが、市場としては大きくなると思います。いきなり時計メーカーが大量に採用してくれるということはないでしょうが、ゆくゆくは、BtoBの事業が主軸になればいいなと思っています。

高級時計に向けた展開は、あまり考えていません。高級な時計はどうしても生産数が限られますので、そこに向けて少量を作っても、難しいものがあります。今wenaを提供している価格帯も少し高いと考えているので、wena込みで、腕時計のボリュームゾーンである3万円台になるようなものを提供していければいいなと思っています。

BtoBを拡大させていく上で、wenaの「時計ブランド」としての展開はどうなるのだろうか? テクノロジー寄りの時計ブランドとしての認知を目指すのだろうか?

對馬:今はwenaブランドで自社モデルやコラボモデルなどを展開していますが、今後、時計メーカーがすべてやってくれるということになるなら、その時は自社でwenaブランドの時計を展開しなくてもいいとも考えています。インテルのように、「wenaが入っている」というテック系ブランドになってもいいと思います。

我々は、時計メーカーと一緒に、第三の選択肢を提供していきたい。スマートウォッチか腕時計かの二択ではなく、wenaを加えた三択になれば嬉しいです。

腕時計の文化は昔からあり、好きな文化です。身につけるものですから、1社が独占的なシェアを取れるものでもありません。そういうとき、いろんな選択肢のひとつとして、時計メーカーと一緒に選択肢を提供していけたらいいと思っています。