中小店舗のキャッシュレス対応
第22回
ついに50%超えも 紀の善閉店までのキャッシュレス4年弱の取り組み
2022年10月25日 08:20
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、筆者の家族が経営する店「紀の善」は、2022年9月末をもって閉店いたしました。店主にかわりまして、これまで店に足をお運びいただいた全てのお客様に感謝いたします。長い間、ありがとうございました。
この連載は、筆者が手伝って店にmPOSレジやキャッシュレス決済を導入したのがきっかけで始まりました。それから4年弱、店は閉店してしまいましたが、その間に店にどのような変化があったのか、まとめてみたいと思います。
キャッシュレス導入は、消費増税と軽減税率対応がきっかけ
そもそも紀の善でmPOSやキャッシュレス決済を導入するきっかけとなったのは、連載の初回で説明したとおり、2019年10月1日から実施された消費税の増税や軽減税率制度への対応、増税に合わせて実施されたポイント還元策「キャッシュレス・消費者還元事業」などに対応するためでした。
2018年秋頃から、使い勝手やコスト、キャッシュレス対応などについて検討し、最終的に「Airレジ」と「Airペイ」の組み合わせに落ち着きました。
その後、2019年2月よりAirレジを、同年3月よりAirペイの運用を開始。そして、'19年4月上旬にはAirペイQRの運用も開始して、本格的なキャッシュレス運用が実現したのでした。
AirレジやAirペイ導入直後は、それまでのレジから、タブレットを使ったmPOSへの変更ということで、特にタブレットなどの操作に不慣れな比較的高齢の店員が戸惑わないか、という点が心配でした。
しかし、実際にはどの店員も数日で慣れ、それまでのレジと変わらないスピードで対応できるようになりました。
その後、消費増税と軽減税率制度が導入される2019年10月が到来。
とはいえ、Airレジには軽減税率制度に対応する機能があらかじめ用意されていました。連載第6回で紹介しているように、イートインメニューとテイクアウトメニューそれぞれに、あらかじめ10月1日以降の消費税率と価格を設定しておけば、10月1日に自動的に切り替わるようになっていましたので、当日も混乱することなく移行できました。
その後は、AirペイQRへのPayPay追加や、クレジットカードのタッチ決済対応などの変化がありました。その間に細かなトラブルはありましたが、概ね大きな問題が発生することなく閉店まで運用できました。
キャッシュレス比率は右肩上がり。9月は50%以上に
このようにAirレジ、Airペイ導入後は、比較的大きな問題なく運用でき、キャッシュレス比率も順調に伸びていきました。連載第8回で紹介しているように、Airペイ導入から1年が経過した2020年2月には、キャッシュレス比率が36%に達しました。
その当時政府は、「2025年(令和7年)6月末までにキャッシュレス決済比率を倍増し4割程度とすることを目指し、キャッシュレス化推進を図る」としていました。しかし紀の善では、それを待たずして2020年初頭には4割近くにまでキャッシュレス比率が高まったのでした。
その後も、多少の上下はありましたが、基本的にはキャッシュレス比率は伸び続けました。2020年6月には40%をはじめて突破、2021年に入ると安定して40%を上回るようになり、2021年8月には45%を超え、2022年1月にはじめて50%を突破しました。そして、営業最終月となった2022年9月には52.9%と過去最大となったのでした。
途中、何度か比率が大きく高まっている部分があるのは、新宿区によるキャッシュレス決済還元が行なわれたことが大きく影響してのものでした。とはいえ、ここまで安定してキャッシュレス決済が伸び、短期間でキャッシュレス比率がここまで高まるとは、当初想定していませんでした。経済産業省による2021年の国内キャッシュレス比率は32.5%となっていますので、そちらと比べても圧倒的に高くなっています。
なぜ紀の善でここまでキャッシュレス比率が高まったのか、その理由は今でもよくわかりません。店頭でキャッシュレス決済をそこまで強く押してはいませんでしたし、キャッシュレス利用による特定のポイント還元やクーポン発行なども行なっていませんでした。
また、Airペイは楽天Edyやnanaco、WAONなどの流通系電子マネーに対応していませんでした。店舗の立地的が東京の都心ということや、お客様の平均年齢がやや高いということが影響していたのかもしれません。それにしても、国内の平均と比べてここまで上回っている説明にはならないでしょう。
とはいえ、少なくとも筆者が手伝ってキャッシュレス決済を導入したことを考えると、これだけ多くのお客様に使っていただけたのは、非常にありがたいと思っています。
レジの回転率が大きく高まった点が店員からも好評
では、AirレジとAirペイを導入したことで、店にどういった影響があったのでしょうか。このあたりを店員に聞いてみたところ、とにかくレジの回転率を大きく高められたのが良かった、という声が非常に大きかったのが印象的でした。
お店にお越しいただいた方ならおわかりかもしれませんが、紀の善ではイートインだけでなく、店頭でテイクアウトの商品も扱っていました。そのため、レジではイートインのお客様とテイクアウトのお客様の決済を行なう必要があります。ただ、Airレジとキャッシュレス決済を導入する以前は、通常のレジ1台のみの現金決済でしたので、どうしても決済でお客様をお待たせすることが多かったのです。
そこで、AirレジとAirペイを導入すると決めた時から、2台体勢での運用を考えていました。そして、店員がある程度AirレジとAirペイの操作に慣れた段階で2台目のセットを導入しました。このあたりは連載第4回で詳しく紹介しています。
その思惑はうまくはまり、通常はメインの端末で決済を行ないつつ、お客様が多くなりレジ待ちが長くなりそうになったらサブ端末も活用し、レジの回転率を大きく高めることができたのです。もちろんこれは、お客様をお待たたせする時間が減ることになりますので、この点でも非常に効果があったと感じています。
AirレジとAirペイが1台体制での導入だとしたら、それ以前と比べてレジの回転率が高まることはほとんどなかったでしょう。このあたりは、AirレジやAiペイが基本無料で利用できる(Airペイは2台目以降の契約は決済端末の料金がかかります)ということや、汎用のタブレットであるiPadを利用するため導入コストも安価にすむ、という点も後押しになりました。そういった意味でも、AirレジとAirペイを選んで正解だったと思っています。
経営側の視点では、やはり毎日の売上計算や現金の扱いが楽になった、という点が大きい部分でした。以前のレジでは、レシートに当日の全売上を印字して保存したり、それを見ながら帳簿を付け、現金を数えて照らし合わせる、といった作業を毎日行なう必要がありましたので、それが大きな負担となっていました。
しかしAirレジでは会計ソフトと連携でき、クラウドから売上データを取り込むだけですむようになりましたので、その部分で大幅な省力化が実現できました。現金の扱いも、現金決済の割合が減ったことで、釣銭の用意に銀行へ両替に行く頻度が大幅に減って、かなり楽になったとのことでした。
やはりコロナの影響は大きかった
AirレジとAirペイを導入して以降の最大のトピックは、やはり新型コロナの感染拡大でしょう。2020年に入って徐々に事態が深刻となっていき、2020年4月に緊急事態宣言が発令されるまでになりました。紀の善でも、2020年4月は2階のイートインスペースを閉鎖したり、営業時間を短縮するなどして対応したことで、売上は前年比約65%減と大幅な売上減となりました。その後緊急事態宣言が解除され、徐々にお客様も戻ってきていただきましたので、その後はコロナ前に近い賑わいを取り戻すことができました。
そして、Go To トラベルやGo To Eatなどの施策を活用して、多くのお客様が訪れてくださったのも非常にありがたかったです。Go Toの施策には現在でも賛否両論あると思いますが、店にとってはありがたい施策だったことは間違いありません。
次回、キャッシュレスの動向をふり返る
今回は、紀の善でAirレジとAirペイを導入して以降の変化をまとめてみました。個人的には、AirレジやAirペイに細かなトラブルはありましたが、おおむね問題なく運用できましたし、店員の評判も悪くなかったのは、今ふり返っても良かったと思っています。
本来なら、この記事で連載のまとめにしようと思っていましたが、書いているうちに、連載の趣旨であるキャッシュレスについて、もう少し細かくふり返ってみたくなりました。
そこで、次回Airペイ導入から閉店までのキャッシュレスの動向をふり返り、最終回にしようと思います。