中小店舗のキャッシュレス対応
第10回
電子マネーとコード決済が急伸。新型コロナでお客様も“接触低減”重視?
2020年6月2日 08:30
前回紹介したように、筆者の家族が経営する店「紀の善」では、新型コロナウイルス感染拡大以降、いくつかの対策を施して営業しています。そういった中、接触低減の観点からキャッシュレス決済への注目度が高まっています。今回は、新型コロナウイルス感染拡大以降、店でキャッシュレス決済がどう推移しているのか見ていきたいと思います。
”接触の低減”で電子マネーやコード決済の注目度が上昇
新型コロナウイルスは、皮膚に付着しただけでは感染することはなく、粘膜や口などから体内に入ることで感染すると言われています。例えば、感染者のくしゃみなどで飛んでくる飛沫が口や目に入ったり、ウイルスの付いた手で目や口を触ることで感染します。5月25日に緊急事態宣言は全面解除となりましたが、今後も感染防止対策として外出時のマスク着用、帰宅後の入念な手洗いや手の消毒、うがいなどが推奨されていますし、いわゆる”3密”の状態が発生する場所に行かない、なるべく人との接触を避けるために距離を開ける、といった対策が求められます。
そういった中、現在営業している多くの店舗が、店員がマスクを装着したり、飛沫防止用のビニールシートを張るなど、様々な対策を取り入れて営業を行なっています。そして、現金の取り扱いについてもいろいろと議論されています。
会計時のお客様と店員の間でのやりとりでは、お客様から現金を受け取ったり、お客様にお釣りをお渡しするなど、どうしても接触が発生しやすくなります。また、その時にやりとりする現金にウイルスが付着している可能性もゼロではありませんので、間接的に現金がウイルスを媒介することになるかもしれません。
キャッシュレス決済でも、クレジットカード決済時にお客様との接触が発生します。店では、ICクレジットカードの場合はお客様からカードを受け取って決済端末に挿入後、決済端末をお客様にお渡ししてPINを入力してもらっています。また磁気クレジットカードはお客様からカードを受け取って決済端末でスワイプし、タブレットでサインをしてもらっています。そのため、お客様と店員の間でカード、決済端末、タブレットの接触が発生することになりますが、いずれかにウイルスが付着している可能性も無いとは言い切れません。
そこまで気にする必要があるのか、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、いずれもお客様と店員が触れるものですし、お客様はもちろん、店員も不安に感じるはずです。当然、不安は極力減らす必要があります。
そこで、現金決済の場合には、可能な限り現金はトレーに置いてもらい、お釣りもトレーに置いてお渡しすることにしました。また、店員が現金の会計処理を行なった後などに、こまめに手を消毒するようにしています。クレジットカード決済の場合は、さすがにお客様のカードを消毒するわけにもいきませんので、決済後に決済端末やタブレットをこまめに消毒するようにしています。
このように、現金およびクレジットカードでの決済はどうしても接触が発生しやすいのですが、接触がほとんど発生しない決済手段もあります。それは、電子マネーやコード決済です。
電子マネーは決済時にお客様が決済端末にカードやスマートフォンをかざすだけで決済できます。またコード決済は、紀の善では店側がコードを読み取る方式を採っていますので、お客様のスマートフォンに表示されるバーコードをバーコードリーダーで読み取ります。つまり、いずれも決済時にほぼ接触が起こりません。そのため、キャッシュレス決済の中でも、特に電子マネーやコード決済が注目されているというわけです。
2月以降は電子マネーやコード決済が大きく伸びている
では、実際に店で新型コロナウイルス感染拡大以降にキャッシュレス決済がどのように推移したのか見ていきましょう。
下に示したグラフは、2020年1月以降のキャッシュレス決済比率の推移をまとめたものです。これを見るとわかるように、1月に比べて2月、3月とキャッシュレス決済比率が伸びています。2月が前月比2.7ポイント増、3月が前月比2.5ポイント増となっています。
伸び率自体はそれほど大きいものではないかもしれません。また、店では2月からPayPayが利用できるようになりましたので、それによってキャッシュレス比率が伸びているとも考えられます。しかし、着実にキャッシュレス決済の比率が増えているのは事実です。1月と比較すると3月以降は5ポイント前後の伸びですし、安定して高い比率を維持していますから、新型コロナウイルスの感染拡大によってお客様が積極的にキャッシュレス決済を選択するようになっているのは間違いなさそうです。
また、キャッシュレス決済のうち、クレジットカード決済がどの程度の割合を占めているのかもチェックしてみました。下のグラフがその結果ですが、2月以降はクレジットカードの利用率が8ポイント以上減っていることがわかります。もちろん、逆に電子マネーとコード決済の利用率が増えているわけですが、キャッシュレス・消費者還元事業が始まった2019年10月以降、クレジットカードの利用率は2020年2月まで64%前後でほぼ横ばいでしたので、3月以降のクレジットカード利用率の減り方はかなり極端だと感じます。
店ではクレジットカード利用時に決済端末で暗証番号の入力か、タブレットでのサイン入力が必要となります。ですので、接触をなるべく減らすために、電子マネーやコード決済を利用するお客様が増えたのではないでしょうか。
今後、この傾向がどうなるかはチェックする必要があると思いまが、お客様側での新型コロナウイルス対策として、接触を伴わない電子マネーやコード決済を積極的に利用する人が増えることは、間違いなさそうです。
Airペイにクレジットカードの「NFC Pay」サポートを強く要望
ところで、2020年に入ってから、NFCを搭載し決済端末にタッチするだけで決済が行なえる、いわゆる「タッチ決済(NFC Pay)」に対応するクレジットカードが急速に増えてきています。カードブランドにもよりますが、新規発行や更新で発行されるクレジットカード全てにNFCを標準搭載するところも出てきています。
現時点ではまだ普及率は高くないですが、今後数年以内には、国内で使われるクレジットカードの大半がNFC搭載のものに置き換えられ、ほぼ標準的にNFC Payが利用できるようになるでしょう。この他、Apple Pay対応のiPhoneやAndroidスマートフォンでもNFC Pay対応が進んでいます。
NFC Payは、クレジットカード決済ながら電子マネーと同じように決済端末にカードをかざすだけで決済が行なえるため、クレジットカードの利用でも接触を最小限に抑えられることになります。しかも磁気ストライプや接触ICでのクレジットカード決済時と異なり、比較的少額の決済(1万円以下)であればPIN入力やサインが不要となります。
店の客単価から考えると、大多数のお客様がNFC Pay利用時にPIN入力やサイン不要で決済できることになるので、お客様の利便性も大きく高まるでしょう。
残念なことに店で利用しているキャッシュレス決済サービスの「Airペイ」では、NFC Payに対応していません。しかし、新型コロナウイルスへの対応などの状況を考慮すると、今こそNFC Payへの対応を実現する最良のタイミングだと考えます。ですので、Airペイには早急にNFC Pay対応を実現してもらいたいと思います。
あわせて、NFC Payへの対応を実現する際には、お客様だけでなく、従業員の利便性も損なわないように、決済手段としてクレジットカードを選べば、磁気ストライプ、IC、NFC Pay全てを同時に待ち受けする、いわゆる“3面待ち”を実現してもらいたいです。
多くの人が感じていると思いますが、今後の生活様式が、新型コロナウイルス感染拡大前にそのまま戻ることはおそらくないでしょう(あるとしてもかなり先になるはずです)。今は売上減が非常に厳しい状況ですが、店としても今後の新しい生活様式に合わせた対応が不可欠と考えて、安心してお客様がご来店いただけるように可能な限りの対応を行なっていきたいと思います。