鈴木淳也のPay Attention
第234回
RFIDとAIの最新トレンド 当たり前化した小売のAI活用【NRF 2025】
2025年2月13日 08:30
今年も毎年1月に米ニューヨークで開催されるNRF Retail's Big Showのシーズンがやってきた。筆者がNRFを取材するようになって10年近くが経過しているが、当時と今とではテクノロジー視点で見ただけで大きく様変わりしている。
小売業が売上を伸ばし、効率化で利益を最大化させるという目指すゴール自体は変わらないが、社会情勢の変化で販売チャネルは拡大する一方で、人件費高騰と確保の難しさから省力化かつ効率化を同時に目指さなければならないという苦難があり、ソフトウェア面でもハードウェア面でもそうしたギャップを埋めることにまい進してきた10年間だったといえる。近年では特に“AI”活用が一般的になり、従来の防犯カメラの延長のみならず、さまざまな場面で売上増加や効率化の部分で貢献したきたことも大きな変化だ。
そして2025年1月のNRFの感想だが、筆者の参加登録ミスで1日半程度しか会場をまわれなかったこともあるが、テクノロジー面ではやや目新しさが感じられなかったと考えている。
特にハードウェア方面で顕著だが、去年までに見かけた展示と大きな変化が見られなかったこと。そして、NRFの事務局では業界としての最新の取り組みを示すために「Innovators Showcase」という先進的なスタートアップを集めた特設会場を設けているのだが、今年は展示ブースが大幅に縮小してしまっており、その点が残念だったと感じている。
他方で、Startup Hubと呼ばれる飲食関連向けの技術やサービスを集めたコーナーは例年以上に盛り上がっていたり、大手ベンダーのブースで24年まではPoCレベルとされていた技術展示が実際に採用例込みでソリューションとして紹介されていたりと、部分的にではあるが少しずつ進歩が見られた部分もあった。
今回はそんなNRF 2025で見られたリテール店舗向けソリューションの一部を抜粋して紹介する。
RFIDの最新状況はどうなった?
筆者は過去に2回ほどNRFにおけるRFIDの展示について触れているが、「こんな形で一定のポジションを得つつある」という最新アップデートをお届けする。
現在、RFID(NFCタグも含む)は新たな分野としてトレーサビリティでの市場拡大が見込まれつつあるが、一方で一時期検討された「すべての商品にRFIDを取り付ける」という試みはかなり後退しつつあるようで、商品単価にして10米ドル以上など、最終販売商品には比較的高単価なものがターゲットとして絞られつつある。
典型的なものはアパレル商品で、会場で関連ソリューションを扱っていたベンダー複数社に聞く範囲でも、この傾向は以前から変化ないという点が確認できた。
RFIDが強みとしているのは無線通信により離れた場所でもタグの存在を認知できる点で、例えばHoneywellやZebra Technologiesといったメーカーが提供しているバーコード/RFIDスキャナ製品を用いることで、商品を1点1点確認せずとも棚や箱に入った商品群のデータをまとめてスキャンし、一瞬で棚卸しができる。これを在庫管理システムと連携することで、非常にきめ細やかな商品管理が可能になる。
ここまでが従来のRFIDの使われ方だったが、近年変化しているのはRFIDを使った商品の販売方法の部分だ。
RFIDタグの付いた商品を会計用の“くぼみ”に入れれば、まとめて商品情報を読み取ってすぐに会計が行なえる……そんなシステムを商品化して話題になったのは日本のユニクロだ。この仕組みは非常に便利で、ユニクロの持つ商品管理データベースとの連動で同社のサプライチェーンを支えている。このあたりの話は以前にもまとめているが、アパレル商品は形状が一緒でサイズが細かく異なるバリエーションが多数あるため画像認識レジとの相性が悪く、一方で商品単価は高いのでRFIDとの相性はいいという特性もあり、2024年のNRFではNCR Voyixが画像認識とRFIDを組み合わせたハイブリッドなセルフレジのデモンストレーションを行なっていたのが印象に残っている(2025年のNRFでは同種の展示は見られなかった)。
そして今年、RFIDの販売スタイルで注目なのが「スマートフィッティングルーム」と「Just Walk Out」の2つだ。前者はZebraブースでCrave Retailが展示していたもので、フィッティングルーム内のハンガーラックに商品を掛けることで、フィッティングルームに設置されたRFIDスキャナと商品のタグが反応して、商品情報を確認できるというもの。この手の仕組みはフィッティングルームのスマートミラー上に情報を映し出すサービスなどで以前から提供されていたりするが、Craveのシステムでは商品データベースと連動し、現在のサイズごとの在庫情報や他のバリエーションなどが顧客自ら確認できる。
加えて、一連の動きは店舗内で店員が持っているアシスト用端末に情報としてアラートが上がっており、必要に応じてフィッティングルーム内の顧客のニーズを察知して販売機会を増やすなど、RFIDを活用しての顧客と店舗での購買行動を結びつけるツールとして機能している。
注目の2点目が「Just Walk Out」で、昨年のNRFではAWSのブースで展示されていたRFIDを使った商品販売システムが、今年はAvery Dennisonのブースで展示されていた。
もともとシステム自体がAvery DennisonのRFIDタグや関連ソリューションを利用していたものなので、展示する場所を移設しただけともいえるが、逆にAWSでは昨年は縮小展示していた「重量センサーとカメラを使ったJust Walk Out」の紹介コーナーがAmazon Oneの紹介と合わせて大きく復活しており、逆に昨年プッシュしていた「Dash Cart」の展示が消えているなど、ここ1年での方針の変化が面白い。
話を「RFIDタグを用いたJust Walk Out」に戻すと、過去1年ほどの間に採用事例が一気に増えているとのことで、特にスタジアムなどスポーツチームのグッズ販売での躍進が目立つという。
「重量センサーとカメラを使ったJust Walk Out」についても同様に、従来のコンビニやスーパーでの採用よりも、空港や商業施設など“一時的に販売ピークは来るものの人員を割けない”といった場所での“ミニ販売スペース”での活用事例が増えていることから、米国でのこの手の“無人レジ”サービスの方向性が定まりつつあるように思える。
AIとリテール
リテールにとってAIは欠かせないものになりつつある。SCMのようなサプライチェーン/在庫管理のソリューションやCRMなどの顧客管理、HRMのような人事管理まで、バックエンドのソフトウェアでは何らかの形でAIの恩恵に受けていることが多い。そして顧客にも見えるレベルで活躍しているフロントエンドのAIといえば、画像認識やセキュリティの分野だろう。
画像認識レジについては近年急速に普及が進んでいる。空港の売店から食料品スーパーなどでのちょっとした会計まで、米国を移動していると多くの場所で見かけるようになってきた。冒頭で触れたように売場の広さや広がりに対して割ける人員が限られており、それならば販売機会を減らすよりも顧客自身に商品の読み取り作業から会計まで任せてしまおうというわけだ。
あくまで人の目が届く範囲ということが前提だが、バーコードを読み込むタイプのセルフレジに代わり、画像認識レジを採用する事例が増えているのも近年の特徴だ。従来のセルフレジに比べてのメリットとしては、機材がコンパクトで設置が容易なこと。そして、商品をまとめてスキャンできるため、何より顧客側の負担が少ないということがある。
NRFの会場を歩けばどこでも展示が目につくように、無人レジ店舗の仕組みや画像認識のセルフレジは、もはや当たり前の仕組みとなっており、AIがそれだけリテールの世界に浸透しつつあることの証左になっている。一部のブースではこの仕組みに加え、セルフレジにおいて顔認証や手のひら認証など、生体認証を組み合わせてのさらなる素早いチェックアウトを実現するようなデモンストレーションも見られるようになっている。
そして最近のトレンドとしては防犯対策でのAI活用だ。セルフレジが不正利用の温床になっていることは公然の事実ではあるものの、何度も触れたように人員確保と顧客の利便性の両面から採用せざるを得ないというのが小売店舗の実情だ。
ゆえに、可能な範囲で対策を講じていくというのが現在の立ち位置であり、関連ソリューションもまたNRFでは多数紹介されている。とはいえ、不正行為を見つけても実力行使に出られない点は日本も米国も大差はなく、あくまで警告を出すに留まっているのが現状といえる。
セルフレジと同時に、商品棚から商品を持ち出してそのまま会計をせずに退出するような、いわゆる万引き行為(Shoplifting)もまた大きな課題となる。
先日のレポートでAWLの万引き防止ソリューションを紹介したが、同様に過去の行動データを記録し、人物の特徴などを絞り込みつつ店内での行動を追跡してマークできる機能がNRFのQualcommブースで紹介されていた。
FocusAIのサービスだが、監視カメラ映像を使ってQualcommブース内の来訪者を1人ずつマークアップし、服装や所持品などで絞り込みを行ないつつ、店内での実際の行動を細かく時系列で追跡できる仕組みだ。
この仕組みはローカルで画像解析AIとして動作しており、これを動かすためのプラットフォームとしてQualcomm Cloud AI 100 Ultraが紹介されている。最大で70Bのパラメータを持つLLMを動かすだけのパワーを備えており、小売店舗のローカル環境でも問題なく巨大なAIモデルを動かして各種解析を行なうことが可能だと同社では述べている。
AWLもQualcommのAI実行環境を利用したエッジAIの仕組みを採用していたが、今後はセキュリティ方面でこうしたハードウェアの利用が広がっていくのかもしれない。
このほか、AI活用事例としてはソニーセミコンダクタソリューションズがデモしていた視線検知(Gaze Detection)に注目したい。
カメラのCMOSセンサにAIが動作する半導体を結合させたAITRIOSプラットフォーム上で動作する仕組みで、日本国内ではすでにセブン-イレブンの数百の店舗で稼働実績を持つ。
近年デジタルサイネージを導入するコンビニエンスストアが増えているが、その広告効果測定を巡っては据え付けのカメラを使った分析に頼る面が大きいが、この視線検知では実際に対象者がどの画面を眺めているのかを含めて視線を追うため、広告が表示されるその瞬間でのインパクトをより正確に測定できる。
この店舗内サイネージは新たなメディアとして広告枠販売を可能にするツールとなるため、小売店舗の新たな収益源として今後成熟することになるだろう。