鈴木淳也のPay Attention
第145回
最新決済トレンドを詰め込んだパナソニック新決済端末「JT-VT10」
2022年8月2日 08:20
パナソニック コネクト(旧パナソニック モバイルコミュニケーションズ)は2022年1月10日、据置型決済端末の「JT-VT10/JT-VC10」を発表した。オープン価格で、6月末以降に申し込みを開始し、パートナーを通じて順次展開される。
前世代にあたる「JT-C31シリーズ」が登場したのが2017年なので、およそ5年で刷新された形になる。今後数年を通じて順次店舗の端末が切り替わっていくことになるが、最新世代における特徴や開発背景について、パナソニック コネクトの担当者の方々に話を聴く機会を得たので紹介したい。
コンパクトさと見やすさ、操作しやすさにこだわり
「JT-VT10/JT-VC10」の特徴としては大きく2点ある。1つは従業員側の操作端末である「JT-VT10」にAndroid 10を搭載し、7インチの比較的大型のタッチディスプレイを採用したことだ。店舗における決済やポイントカードなどを含む機能は、Androidアプリで供給され、操作しやすくなるよう画面サイズを拡大した形だ。
今回はデモンストレーション用サンプルとしてハンバーガー店の商品選択と決済が行なえるアプリが登録されていたが、例えば中小店舗であればPOSに接続せずともJT-VT10側の操作だけで決済のみならず、各種機能を呼び出すことが容易だ。
一方のJT-VC10の特徴として、完全オールインワンを実現した点が挙げられる。
従来は、ICチップ付きカードの通信とPIN入力のためのキーパッドに加え、非接触カードや電子マネー対応のための専用リーダーを別構成で必要としていた。磁気カードについては、「店員に渡して、読み取ってもらう」ため、従業員側の操作端末にカード読み取り用の“溝”が用意されていた。さらにJT-C31シリーズ登場以降、QRコードやバーコードで読み取る決済サービスやポイントカードが増えたことから、デンソーウェーブのQRコード読み取り装置や、赤外線スキャナを追加で用意する必要があり、レジまわりが“ごちゃごちゃ”になりやすいという課題があった。
JT-VC10ではこれら4種類の支払い手段をすべて1つの端末に凝縮し、すべての操作はユーザー自身が行なう形へと変更されている。
結果として、個々の端末の基本的な設置面積は変化していないものの、トータルでは23%ほど設置面積縮小に寄与しているという。JT-VT10にはオートカッター機能付きのサーマルプリンタも搭載され、レシートやクーポン印刷のために別途プリンタを用意する必要はない。
オペレーションにおいては、店員はJT-VT10を操作して決済金額を確定させる。
今回のデモ環境のハンバーガー店のサンプルアプリでは、商品選択を順番に行ない、確定することで支払いへと移る。JT-VT10側では確定時にいくつかの決済方法が表示され、“カード”決済を選択するとユーザー操作端末であるJT-VC10側にガイダンスが表示され、3面待ちへと移行する。
*3面待ち:決済端末での決済方法選択時に、磁気カード、接触ICカード、タッチ決済を「クレジットボタン」一つで処理を行なうこと
この際、JT-VT10でコード決済を選択すると、JT-VT10側にコード決済用のガイダンスが表示され、カメラが起動して待機状態に入る。デンソーウェーブの端末や赤外線スキャナの場合は割とコード表示面に接触させる必要があったが、JT-VC10では15cm程度話した状態で1秒ほど停止させることが推奨となっている。目安としてはカメラから指の長さより少しほど離れた位置となるが、設置店舗が増えて試す機会が増えることで慣れていくだろう。
ソフトウェアPINパッドを採用した初の端末
今回、JT-VC10のもう1つの特徴と呼べるのが「ソフトウェアPINパッド」の採用だ。従来はEMVCoのルールもあり、PINパッドには物理的なボタンの搭載が必須だったが、近年のルール緩和でSquare Terminalなどタッチパネル上から入力が可能な「ソフトウェアPINパッド」を採用する例が増えてきた。
Squareの決済端末の場合、従来のルール上ではICチップで決済を行なった場合でもPIN入力ではなくサインの扱いだったが、今後は磁気カードの受け入れ縮小と合わせ、ICチップ利用時においてもPIN入力方式へとシフトしていくと思われる。決済端末ではパナソニックのライバルにあたる東芝テックでも「CT-6100」の発売をアナウンスしており、2023年以降に新規設置/リプレイスされる決済端末については、この「ソフトウェアPINパッド」方式が主流になっていくとみられる。
このソフトウェアPINパッドだが、数字の配置は毎回ランダム表示となる。同様の仕組みは同じくパナソニック製の「stera」端末でも採用されていたが、筆者はsteraのPINパッドの数字が非常に見づらいうえ、毎回配置が替わるのでイライラした記憶がある。
日本の場合、1万円以下のほとんどのIC決済はPIN入力を追加で求められない「PINスルー」のため、steraでソフトウェアPINパッドを体験したことある人は少ないかもしれないが、見づらさは非常に気になっていた。今回のJT-VC10ではボタンの表示濃度を、JT-VT10の操作で3段階で変更できるようになっており、「見づらい」と感じたら店員に伝えることで変更してもらえる。
わざと見づらい状態になっている理由は、パナソニックによれば「覗き見防止」にあるとのことで、少しでも角度がある位置から画面を覗いても、ボタンの濃度を一番“濃い”状態にしていれば数字の判別がつかないという。外国人が日本を訪問したときのジョークとして「カード決済でPIN入力するときに店員が『私は見ていません』のポーズをするので面白い」という話があるが、そういった文化を反映したものかもしれない。
とはいえ、視力に比較的問題がない人間が見ても見づらいうえ、配置は毎回ランダムで替わるため、視覚に問題を抱える人にとっても、より使いにくい仕組みになったともいえる。
決済方法にJ-Debitを選んだときのみの対応となるが、PIN入力時にJT-VC10にシリコン製の物理PINパッドを装着することで、物理キーでのPIN入力を可能にする仕組みも提供される。この場合、JT-VT10の操作で物理PINパッドの利用を選ぶとスクリーン上のボタンが従来の配列に固定され、ボタンが見えない状態でも数字の入力が物理キーの押し込みで行なえるようになる(「5」の位置に中心であることを示す突起がある)。
EMVCoのルールに縛られる国際カードブランドの決済に比べ、国内規格であるJ-Debitではそういった面で融通が利くため、交渉の末に採用に至ったとパナソニックでは説明する。
ニーズに応じて今後もラインナップを拡大
JT-VT10/JT-VC10のソフトウェアまわりについて、もう少しだけ補足していく。Android 10をベースにしているが、センター接続された端末について、パナソニック側で定期的にセキュリティアップデートを配信していく仕組みが構築される。また、各種アプリについてはパートナー企業が開発したものが利用でき、パナソニックが用意するストアを通じて配信される。野良アプリを入れて運用するケースはないため、合わせてセキュリティ上のリスクは低いということになる。
またハードウェアの展開だが、基本的にはCARDNETのような事業者を通じて展開されるため、現時点で個別の提供の計画はない。もし今後、POSにJT-VC10を直接続して利用したい、あるいはモバイル用の端末がほしいといったニーズがあれば、順次ラインナップの拡充も検討していくという。カラーバリエーションも現在は白色のみだが、こちらも要望があれば拡充させていく計画だ。なお、既存のJT-C31シリーズについては、JT-VT10/JT-VC10の提供開始に合わせ、ラインナップとしてはディスコンの扱いとなる。
2022年に登場したパナソニックの新しい世代の決済端末だが、この世代では現時点での最新トレンドをほぼすべて盛り込む形で発展したモデルとなった。店頭では今後7-10年単位で現役の決済端末として見かけることになるが、その間に店舗での決済やニーズがどのように変化して、JT-VT10/JT-VC10はうまくそれを吸収していけるのだろうか。非常に楽しみだといえる。