石野純也のモバイル通信SE

第67回

ソフトバンクのGalaxyついに復活 3度目は三顧の礼「フルパワー」

サムスン電子が発表したGalaxy S25シリーズ。左の「Galaxy S25+」は日本未発売。右の2機種が販売される

サムスン電子は、1月22日(現地時間)に米カリフォルニア州サンノゼで、「Galaxy S25」シリーズを発表した。昨年発売された「Galaxy Z Fold6」「Galaxy Z Flip6」から海外との“時差”はなくなっており、国内向けのオープンマーケット版(SIMフリー版)も同時刻に解禁となったほか、発表会開始の6時間後にはキャリア各社からも導入の予定が明かされている。

ついにソフトバンクからGalaxy登場

Galaxy AIが進化し、Geminiが複数アプリを連携させるようにふるまえるようになったことや、画面内に表示されるコンテンツをAIが判断して最適な選択肢を出せる「AIセレクト」に対応したことなどが、主なアップデートの内容だ。

AIの中でも“次のトレンド”として注目される「AIエージェント」的な機能を、いち早くスマホに取り込み話題を集めた。これを支えるチップセットも、「Snapdragon 8 Elite for Galaxy」に刷新されており、処理能力が大きく向上している。

ネットで調べた情報をメッセージで送ったり、Samsung Notesに登録したりといった操作をGeminiに任せることが可能だ
画面に写ったコンテンツに応じて、最適な機能やアプリを提案する「AIセレクト」

一方で、日本向けのトピックとしてもっとも大きかったのは、約10年ぶりにソフトバンクがGalaxyを販売することだろう。同社は2015年の「Galaxy S6 edge」を最後に、Galaxyシリーズの販売を見送らざるをえなくなっていた。

販売が低迷していたことに加え、その扱いに不信感を持ったサムスン電子側も導入に二の足を踏んでいたとみられる。

“雪解け”には、10年の歳月が必要だった。

15年に発売されたソフトバンク版のGalaxy S6 edge。これが同社にとって、最初で最後のGalaxyになっていた

ソフトバンクがサムスン電子の端末を取り扱うのは、3回目のこと。元々サムスンの携帯電話端末を日本市場に上陸させたのは、ほかでもないソフトバンクの前身であるVodafone日本法人だった。初代モデルは「もっとも薄い3Gケータイ」をうたう「804SS」。Vodafone買収後もラインナップは引き継ぎ、ソフトバンク時代にも「スリムケータイ=ソフトバンクを目指す」として、「XS 707SC」などの機種を複数導入していた。

フィーチャーフォン時代にサムスン電子を日本に上陸させたのは、ソフトバンクの前身であるVodafoneだった。写真は707SC発表時のもの

スマホも、Windows Mobileを搭載した「OMNIA」シリーズを扱ってきたソフトバンクだが、ドコモが「Galaxy S」シリーズを独占販売したのを機に、Androidではサムスン電子製の端末を取り扱っていなかった。

この方針を転換し、サムスン電子との付き合いを再開したのが先に挙げたGalaxy S6 edgeだった。つまり、Galaxy S25はソフトバンクにとって、サムスン端末への挑戦は3回目ということになる。

3度目サムスンは1年で36円の「フルパワー」

三度目の正直は、どう実現させるのか?

ソフトバンク専務執行役員でコンシューマ事業推進統括を務める寺尾洋幸氏は、「新しいメーカーとして、セールススタッフからプロモーションまで、フルパワーでいこうと思っている」と語る。実際、ソフトバンクは「ノーマルモデル(Galaxy S25)は1年で36円からスタートする」といい、他社よりも安いインパクトある価格を打ち出した。

ソフトバンクの寺尾氏は、フルパワーを発揮したいと意気込みを語った

この36円は、1年で端末を下取りに出した際に残債が免除される「新トクするサポート(プレミアム)」を利用した場合の金額で、実際に特典を受ける際には22,000円の「早トクオプション利用料」がかかるが、それでも実質価格は1年22,036円。ハイエンドモデル、それも発売直後の端末としては破格の値付けと言っていい。

最上位モデルの「Galaxy S25 Ultra」も、同じ枠組みが適用され、1年間の支払いは23,760円で済む。早トクオプション利用料を足しても、49,060円しかかからない。価格設定を見るに、ソフトバンクの“推し端末”の1つになっていることは間違いない。店頭でも、早々に2機種がアピールされていた。

ノーマルモデルのGalaxy S25は、月3円の支払いで済む

電気通信事業法で定められるガイドラインが改正されたのは、24年12月のこと。下取り価格の基準が厳密に定められ、中古買い取り店の出す平均値を参照する仕組みになった。一部端末は残価を盛りすぎていたため、値上げを余儀なくされている。

これに対し、Galaxyはグローバルで販売されて、流通台数も多いだけに、買い取り価格が高止まりする傾向がある。Galaxyの残価を高めに設定できるのは、そのためだ。

寺尾氏も、「グローバルで売れているもののリセールバリューが上がるのは、自明のこと」と語る。ソフトバンクにとっても、価格を下げやすいのはメリットと言えるだろう。他のAndroidスマホが値上げになってしまった中、Galaxy S25シリーズは“総務省対策”の切り札になっていることがうかがえる。

また、寺尾氏が「端末はサムスンさんを入れ、iPhone、Pixelとともに大きなラインナップになる」と語っていたように、今回のGalaxy S25シリーズは、ソフトバンクのサイトでも、その他のAndroidスマホとは分ける形で「Galaxy」のカテゴリーに収められている。

これは、Androidではなく、Galaxyとして導入したということを意味する。iPhone、Pixelと同じ“特別扱い”の端末として、まさに三顧の礼で迎え入れられたというわけだ。

ソフトバンクのラインナップでは、iPhoneやPixelと並ぶGalaxyにカテゴライズされており、Androidスマホとしてひとくくりにされなかった

ソフトバンクとしては、ドコモやauが多数抱えるGalaxyユーザーを獲得するための“武器”と考えているようだ。

一方で、Galaxyはソフトバンクのユーザーにとっては未知の端末に近い。同じブランドに乗り換え続ける人が多い事情を踏まえると、どこまで販売を伸ばせるかには未知数な部分もある。ドコモやKDDIが対抗値下げに出て、価格競争が過熱する可能性もある。

サムスン電子はソフトバンク抜きでも、国内シェア4位につけており、グローバルではトップシェアのメーカー。端末のクオリティは折り紙つきだ。ソフトバンクでの販売が再開されることで、シェアをより上げることができるはずだ。

ソフトバンクのつけた価格には大きなインパクトがあるだけに、その点をユーザーにどう伝えていくかが今後の趨勢を決めるカギになりそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya