鈴木淳也のPay Attention

第129回

いま話題の「SWIFT(スウィフト)」を理解する

ドイツのフランクフルトにある、旧ECB(欧州中央銀行)前に設置されているユーロのサイン

いま「SWIFT」というキーワードに注目が集まっている。SWIFTとは「Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication」の略で、ベルギーにおいて1973年に設立された銀行間の国際金融取引を仲介する共同組合(民間企業)の名称だ。日本語では「国際銀行間通信協会」とも呼ばれ、日本を含む200以上の国と地域が相互に接続され、1万1,000以上の金融機関の間でのやり取りが可能になっている。

複数の報道によれば、ウクライナがロシアの侵攻を受けて両国が交戦状態に突入したことを受け、ロシアへの制裁の一環としてSWIFTによる送金システムから同国を排除し、実質的に同システムを介した送金を困難にする案が取り沙汰されている。また、Wall Street Journalなどの報道によれば、米国が敵対国と見なしているイランと北朝鮮はすでにSWIFTの仕組みから除外されているという。

今回はSWIFTとは何か、その基本的な仕組みや最新動向を追いつつ、西側諸国によるロシアのSWIFTからの除外での狙いと、実際の効果について整理してみたい。

SWIFTの現状を示す基礎データ

SWIFTは「メッセージ」を交換する仕組み

「SWIFTからの除外で国際送金できなくなる」という話が出ているため、SWIFTを一種の「送金ネットワーク」のように考える方もいるかもしれないが、実際には「電文」と呼ばれる「メッセージ」をやり取りするための仕組みだ。

例えばある銀行の口座保持者が別の国にある銀行の誰々の口座に送金したいと考えた場合、「○○銀行の△△の口座に□□ドルを送金する」というメッセージを送信し、SWIFTは「SWIFTNet」と呼ばれるメッセージをやり取りするためのネットワークを通じ、金融機関の間のメッセージ中継を行なう。このメッセージを受け取った送金指示先の銀行は、当該の口座に指定金額を振り込むことで対応する。

「これだと送金指示を受けた銀行が振り込み金額ぶんだけ損をするんじゃないの」と考えるかもしれない。実際には、このような細かい送金指示が短い時間に大量に飛び交っており、送金元と送金先の銀行の間では一種の「債権」のようなものが発生している。「送金先の○○銀行に対し、送金元の◎◎銀行から□□ドルを支払う」といった請求書のようなものが蓄積していくので、これをあるタイミングで精算しなければいけない。

こうした精算処理はクリアリングと呼ばれ、複数の銀行間で定期的に行なうことで金額の過不足が調整される。クリアリングを逐次やっていては手間だけが増えるので、ある程度まとまった段階で互いの送金金額を相殺して最小限にとどめる方が効率がいいという考えだからだ。このメッセージ交換の仕組みを「割符」に例えるケースがあるが、そのやり取りを安全に行なう仕組み(SWIFTNet)を提供するのがSWIFTの役割だ。

もう1つ、SWIFTのメッセージ中継で重要な概念が「コルレス銀行(Correspondent Bank)」だ。

SWIFTは多くの金融機関が接続しているが、一方ですべての銀行が前述のようなクリアリング処理が可能な“直接接続”がなされているわけではない。この場合、直接接続可能な銀行を介して送金指示を出し、“中継”を行なって送金先の銀行までを接続してもらう。以前TransferWise(現Wise)の回でも触れたが、この中継を行なう銀行を「コルレス銀行」と呼ぶ。

1回の中継で済む場合もあれば、送金先によっては複数のコルレス銀行が介在する場合もある。以上を踏まえたSWIFTの仕組みをまとめたのが次の図だ。

SWIFTを通じて国際銀行間送金が行なわれる仕組み

SWIFTの課題を解決する最新技術トレンド

ある報告によれば、このSWIFTのネットワークを介して世界の高額送金の半分以上が処理されているということで、その重要性が分かるだろう。一方で、すでに稼働から50年近くが経過していることもあり、複数の課題が指摘されている。特に問題とされているのが「送信可能な“メッセージ”の制限」「コルレス銀行を利用することによる中間コストの高さや所要時間の長さ」などで、近年これらを解決する仕組みが登場しつつある。

まず最初のメッセージに関する制限だが、これはSWIFT以前の送金指示のやり取りが「テレックス(Telex)」で行なわれていたことに起因する。

テレックスは国際的な通信回線を介して文字をやり取りする仕組みだが、通信コストの高さから送信文字数に制限があり、送金リクエストにおいても最低限の情報を盛り込んだ形に成形する必要があった。SWIFTにおいてもこの制限を引きずっており、この定型フォーマットは「(SWIFT)MT」と呼ばれている。データの格納形式が“リッチ”なテキストファイルではなく、昔の低性能なパソコンであったような「バイト単位で情報が詰め込まれたデータの塊」のようなものだ。実際、SWIFTNetにおける「FIN」というメッセージ交換サービスでは、このMTのメッセージがいまだ大量にやり取りされている。

MTの難点はいろいろあるが、特に「拡張性」という部分に乏しい点が難点であり、50年前に決定した送金指示フォーマットを使い続けている状況だ。ゆえに時代の趨勢に合わせてメッセージを“モダン化”する試みが行なわれており、それがISO20022に準拠した「MX」という新しいフォーマットだ。MXはXMLで記述されており、タグを見れば一発でデータの内容が判別できるため、MTのような構文解析処理も必要ない。

野村総研のレポートでも触れられているが、STP(Straight Through Processing)という発注から売買成立、決済に至る一連の処理を自動化する仕組みの推進に期待が寄せられているほか、ISO20022のもともとの登場経緯が金融分野でバラバラに存在していたメッセージのフォーマットを統一することを目的としていたこともあり、今後順次MTの取引をMXへと切り替えていくことでインフラの発展につながっていくという考えだ。

そして課題の2つめの「コルレス銀行を介した取引による弊害」の部分だが、特に問題とされているのが「送金にかかる時間や手数料などのコストが送金(メッセージ中継)の最終段階まで分からない」「全体に割高」「送金に長いときで数日から1週間程度かかることがある」「SWIFTコードの設定ミスなどで送金処理途中で失敗が判明することがある」といった事象で、これを解決すべくブロックチェーン技術などを活用した「安全で高速な送金手段の提供」が試みられてきたのは先ほどの記事で解説した通りだ。この問題に対するSWIFTの回答の1つが「SWIFT gpi」となる。

「gpi」とは「Global Payment Initiative」の略で、シンプルにいえば既存のSWIFTを拡張し、それに対応した金融機関同士を接続して従来のSWIFTの弱点だった「送金スピード」「コスト」「トレーサビリティ(Traceability)」問題を一挙に解決する新しいサービスだ。2017年にスタートし、現在4,000以上の金融機関が接続され、50種類以上の通貨をサポートする。

その効果だが、コスト面で従来の半額以下、送金時間については約半数の取引が30分以内に完了するなど、非常に劇的なものとなっている。SWIFTにおけるgpiの取り扱いボリュームも増加しており、昨年に出たデータで3-4割程度がgpiベースのものになってるようだ。

SWIFT gpiについて解説する同社アジア太平洋地域担当ヘッドのMichael Moon氏(当時)。2018年3月にシンガポールで開催されたMoney20/20 Asiaにて撮影
2018年時点でのSWIFT gpiのトランザクションでの送金処理時間の集計。同時点で30分以内が46%だったが、現在では49%まで上昇している

SWIFT除外の効果はあるのか

そして話題は冒頭の制裁(Sanction)のトピックに戻る。国際送金ができなければ売買や投資などが行なえないため、ロシアがSWIFTから除外されれば当然同国をターゲットにした貿易や投資を行なうのは難しくなる。

もっとも、これまでに触れたように、国際送金のすべてがSWIFTを介しているわけではなく、あくまで「大部分」ということになる。ゆえに、SWIFTからの除外はロシアを封じ込めるためではなく、送金ルートを絞り込むことで「経済的に困窮させる」ことがその目的といえる。そうでなければ、すでに除外されているイランや北朝鮮は現在も国として存続している可能性は低いことになるからだ。

SWIFTが利用できないことは中長期的に経済的ダメージが広がっていくことを意味する。一方で、先に紹介したWSJの記事でも触れているが、この制裁は“諸刃の剣”でもある。

金融取引の中心が西側諸国にあり、米ドルを中心とした経済圏を築けているからこそSWIFT遮断による金融制裁が効果を発揮するが、もし今後ドル経済の外側で金融取引が活発化すれば、米ドルによる経済覇権の地位が揺らぐ可能性がある。例えばWSJによれば、ロシアがSWIFTの代替となる決済システムを用意しているが、そこに接続されている国外銀行は23行に留まっている。1万以上の金融機関が接続されているSWIFTとは比べものにならない。だが今後もしSWIFTを除外されたロシアとの取引を望む国が増え、接続する国外銀行の数が増えれば情勢は変わってくるかもしれない。また、ロシア同様に米ドル経済圏からの脱却を試みる国に中国があり、これを機会に人民元の地位向上を狙ってくる可能性が高い。

また、今回のSWIFTを使った制裁がEU諸国で足並みが揃っていないという問題もある。現在のところ、ロシア国内のすべての銀行が制裁の対象というわけではなく、ブラックリストを作成して徐々に対象を拡大していく方策で進んでいる。そのため、制裁対象となっていない銀行の口座を指定した迂回送金が可能だ。

実際、より厳しい措置として(ロシアとともにウクライナの攻撃に参加しているとみられる)ベラルーシも対象とした金融制裁を求めるポーランドら東欧諸国に対し、ガスパイプラインやその他の取引の道筋を残すために主要行との取引継続を希望するドイツといった具合に、ブラックリストの作成が難航している。制裁対象となる大手銀行としてVTB Bank、Bank Rossiya、Bank Otkritieといった名前が挙がっているのに対し、ロシア最大手のSberbankの名前が入っていないなど、非常にアンバランスだ。そのSberbank自体も情勢を見越して欧州でのビジネス撤退を決めるなど影響とは無関係ではないが、全体として情勢が見えてくるのはもう少しだけ先のことになりそうだ。

ロシアのモスクワ郊外にあるシェレメチェボ空港内の店舗

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)