鈴木淳也のPay Attention
第76回
サイバーマンデーからブラックフライデー。2020年冬商戦 6つのトレンド
2020年12月15日 08:15
以前のレポートでも触れたが、2020年のホリデーシーズン商戦が大きく変化している。セール開始時期の前倒し、Black Friday以降の日程での営業時間短縮、オンライン誘導や入店なしでのピックアップ手段拡充など、「盛り上げてナンボ」という従来の雰囲気は大きく覆された印象だ。
実際、冒頭の写真を送ってもらった米カリフォルニア州サンフランシスコ在住の友人は「(現地の高級住宅街で知られる)パシフィックハイツでさえ、クリスマスの装飾は慎ましやかなもの」とコメントしている。本来であれば、この時期はクリスマス装飾真っ盛りであるはずのダウンタウンも同様と思われ、新型コロナウイルスの影響が非常に大きかったようだ。
同様に、サンフランシスコのあるベイエリアの南側エリアに在住のkikidiary氏にも今年のショッピング事情をうかがってみた。
同氏は11月後半にCostcoなどをまわっていたようだが、TVを含めセール品がBlack Fridayより前から値下げされているのを確認している。一方で、今年2020年はすでにWebでほとんど買い物を済ませており、このように店頭を回ってもすでにほしいものがない状態だったとも語っている。恒例のショッピングシーズンにおけるオンラインシフトが顕著だという典型例かもしれない。
今日のCostco、LGが大攻勢。LCD TV, 65インチで499.99USD、これは安いなあ。pic.twitter.com/ifPbfthrJm
— kikidiary (@kikidiary)November 22, 2020
今年はオンラインのみで買い物を済ませる利用者が半数に
kikidiary氏の発言を物語るデータがある。例えば調査会社のNPDは「How COVID-19 is Impacting Consumer Spending: Holiday Special Coverage」というレポートの中で今年のホリデーシーズン商戦の分析を行なっているが、それによれば米国人の同シーズン中での2020年の予算は昨年2019年比では減少しているものの、2018年並みだとしている。
またオンラインで買い物すると回答している人の比率は48%で、これは昨年の41%から大きく上昇している。NPDではPOSの売上集計を基に、昨年比での商品販売額の増減を週単位で集計しているが、Black Fridayの週の集計では昨年比2割減の水準まで落ち込んだ後、12月5日の週でマイナス3%となっている。
一方で、Black Friday突入直前の週の集計では前年比16%の増加であり、それより前の週においても全体にプラスとなっている。これから読み取れるのは、全体の消費金額が下がっているにもかかわらず11月半ばまではプラス水準で推移しているということからセールの前倒しで買い物時期が全体に分散しているということであり、その結果Black Fridayのようなイベントでは逆に売上が昨年比で大きく落ち込んだということだろう。
同じ分析を別のデータで見てみる。全米小売協会(NRF)は「Holiday Shoppers Take Advantage of Early, Thanksgiving Weekend Deals」と「Thanksgiving weekend shopping 2020」という2つの分析レポートを出しているが、こちらによれば「買い物をオンラインだけで済ます」という回答者が44%存在している。また、予算傾向もNPDのアンケートに近く、米国でのおおよそのボーダーラインが600ドル台にあると考えていいだろう。
そして注目なのがショッピング先に挙げた複数回答で、オンラインを除くほぼすべてのカテゴリで前年比マイナスとなっており、特に百貨店やディスカウントストアの落ち込みが顕著だ。昨今、米国で地方を中心に百貨店やディスカウントストアのモール型店舗の撤退が相次いでいるが、こうしたデータはこの傾向にさらに拍車をかける可能性があると筆者は考える。
今後の小売店に求められる6つの要素
今年のホリデーシーズン事情についてもう少しだけ分析していく。こちらは前2者と違って感謝祭(Thanksgiving)の1カ月前の10月末にAdobeがWebサイト分析を基に出した「2020 Holiday Predictions」というレポートだが、このポイントを要約したBlog投稿の英語版と日本語版が公開されている。
米Adobeのマーケティング&カスタマーインサイト担当バイスプレジデントのJohn Copeland氏は「今年のホリデーショッピングシーズンは例年より早くスタートしており、COVID-19(新型コロナウイルス)にまつわる不確実性からリアル店舗での買い物を避け、オンラインへのシフトが進んでいる」と分析している。
ただ、このレポートで重要なのは、前倒しされた2020年の商戦より前の10月の段階で「小売事業者はこの事態に対応するためにすべきこと」を示唆している点で、2020年のみならず、今後の小売業界にとって押さえておかなければならないポイントが網羅されている点で非常に参考になる。
Copeland氏が示唆するのは、顧客の購買がどの段階にあるのかを個人単位で把握することが重要で、それにより個々にパーソナライズし、その目的に沿った形で顧客体験として提供することが可能になるというもの。
- COVID-19がオンライン利用を促進し、eコマースは前年比33%の成長を達成(これは通常の成長の2年分)
- 配送オプションの提供が鍵であり、特に64%の顧客は配送料を別途払いたくないと回答している
- Black FridayはCyber Mondayに取って代わり、例年のようにリアル店舗に人が集まらない代わりに人々はオンラインで事前に買い物を済ませる
- BOPIS(Buy Online, Pick up In-Store)の利用は続き、今年は(店内に入るためではなく)店頭で商品を受け取るための行列ができる可能性がある
- 自宅でもオンラインショッピングはモバイルで行なわれる
- 検索エンジンの改善がオンライン販売促進につながる
結果論として、これら予測はほぼ今年のホリデーシーズン商戦の実際の状況に合致している。まず前段として、「(感謝祭翌日の)Black Fridayと、(その翌週の)Cyber Monday」が長い間の不文律として存在していたが、今年は商戦が前倒しされたうえ、さらに最初からオンラインセールが展開されていたことで、(引き延ばされた)Black Fridayが実質的にCyber Mondayの役割を担うことになり、両者の明確な境界はなくなったという分析だ。
Copeland氏は「Cyber Month」などと呼んでいるが、最大のポイントはセール期間を平準化して“人が集中しない”ように務めた点にある。
従来であれば、それは「入店制限」のようなものだったのが、現在の米国はほぼ全土でロックダウンが実施されており、リアル店舗での買い物機会は限られている。ここでいう平準化とは「配送網をパンクさせないこと」「ドライブスルーやカーブサイドピックアップ(Curbside Pick-Up)で車による入店行列ができないようにすること」の2点だ。
Copeland氏の分析にもあるが、こうした平準化により配送が当初の予定日を越えて大幅に遅延するような事態も避けられ、ボトルネックを可能な限り解消しつつ、顧客満足度を高める効果が期待できる。
もう1つ、興味深いのはモバイル対応の話題だ。リアル店舗という顧客接点を失ったいま、利用者との窓口はオンラインのみということになる。ユーザーはウィンドウショッピングの過程で検索などの仕組みに頼ることになり、これをいかに最適化するかが売上の向上につながる。
そして、そのオンラインショップへのアクセス手段も現在ではPCではなく、モバイルが中心となりつつある。同氏の分析によれば、スマートフォン上でのショッピングの割合は42%と前年比55%の成長を見せると予測しており、この傾向が来年以降も続くのであれば、おそらくモバイル利用比率は過半数に達するだろう。
オンラインショッピングが世界で最も進んでいると考えられる中国では、独身の日のセールでモバイル利用比率が9割超だったという報告が出ており、ここまで極端ではないものの、米国においても遠からず「オンラインショッピングならモバイル」という日が到来すると思われる。
2020年ホリデーシーズン商戦の実際とこれから
さらに別のデータから、もう少しだけ分析していく。Wall Street Journalで「2020 Holiday Sales: How, Where and When Consumers Are Buying」という記事が公開されているが、他所にはないデータが含まれているので紹介したい。同記事では「Credit Cards」と「Foot Traffic」という項目があり、今年の傾向がさらによく分かるようになっている。
例えばクレジットカードにおいては、決済会社のデータで昨年比同等の消費金額だったが(全体としては昨年より下がっている)、よりオンラインで利用される傾向が強かったという。特に家電量販店では4倍近い伸びが見られたという。これは単純に、既存のリアル店舗でカード決済していたような顧客の一定数が、そのままオンラインにシフトしたと考えると分かりやすいだろう。
同様に、「Foot Traffic」で表される実際の店舗への出足は、10月以降安定して低調であり、特に感謝祭での落ち込みが激しい。これは祝日にもかかわらず店舗を開けていることのあった従来の感謝祭とは異なり、今年は一斉休業になったことが大きい。結果として、WSJの記事のリードでも示されるように、百貨店におけるリアル店舗での売上が16%落ちる一方で、オンラインでの売上は212%の伸びという驚異的な成長率を記録する結果へとつながっている。
こうしたトレンドのなか、家電量販店の米Best Buyが2021年度第3四半期(2020年8-10月期)の決算発表において、前年同期比23%の売上増を達成して話題になっている。WSJでは「Best Buyに一足先にクリスマスがやってきた(Christmas Came Early at Best Buy)」というタイトルで同件を報じているが、同時に別の記事では昨今の状況の不確実性からBest Buyが今後の見通しを示さなかった点に懸念を示しており、このトレンドが継続的なものではないとも報じている。
ロックダウン直後は売上が前年比マイナスに落ち込んだ同社だが、WFH(Work From Home)のトレンドも後押しして急激に業績を回復している。
今四半期の好調さは、前段で触れたオンラインシフトや配送オプションの拡充、在庫の積み増し、セールの拡大などさまざまな要因が合わさったものだが、それでもなお「トレンドの次」を読むのは難しいということなのだろう。
現在は人の移動が制限されたことを受け、その行動パターンを先読みすることで需要を確実につかんだ状態だが、次に待っているのはコロナ禍の煽りを受けて失業者が増加し、社会全体が長期でのリセッションに入る懸念だ。特に家電やデジタル機器は不要不急のものとして、財布の紐を締めた消費者に真っ先にターゲットにされる可能性があり、先細った消費支出を小売各社が奪い合うパターンに遠からずはまると筆者は予想する。これがいつのタイミングでやってくるのかは分からず、それが来年2021年のホリデーシーズンの前なのか、あるいは後なのか、先はより一層不透明となるだろう。