小寺信良のくらしDX
第23回
Temuなどの中国系ECサイトとどう付き合うべきか
2025年1月31日 08:20
昨今の物価上昇により、我々の生活も徐々に厳しいものになり始めている。一部には賃金上昇の動きもあるが、まだ全体としては追いついていないのが実情だ。そんな中、少しでも安い商品を求めて、中国系ECサイトに興味を持つ人も多い事だろう。
中国系ECサイトの大手「Temu(テム)」は昨今テレビでもCMが始まっており、ネットでも利用報告は多い。ただその一方で、詐欺と思われる商品の分解記事なども掲載されている。すでに便利に使っている人もいるだろうし、まだ使ったことないという人もいるだろう。こうした中国系ECサイトとどう付き合うのが妥当なのか、考えてみた。
並行輸入のリスク
日本で展開しているECサイトには、Amazonや楽天、ヨドバシドットコムなどがよく知られているところだが、これらのサービスは日本法人があり、国内で在庫しているものを日本の流通に乗せて販売している。
ただAmazonの場合は元々米国のサービスであり、国/地域を変更することで、米国サイトの商品も買うことができる。ただそれは、並行輸入ということになる。
Temuの場合、アプリの言語は完全に日本語化されてはいるものの、基本的には米国Amazonからモノを買う状況と変わりない。つまり、諸外国向けに流通している商品を、並行輸入で買うという扱いになるわけだ。
あんまり変わらないじゃないかと思われるかもしれないが、こうした商品は日本向けにカスタマイズされたものではない。つまり、日本の法律に適合しないものでも買えてしまうところは、注意が必要である。実際に米国では24年7月に、中国からの並行輸入品の子供用パジャマ4万5千セット以上が、火傷の危険性と連邦可燃性基準違反でリコールとなった例がある。
バッテリーや電気製品の場合には、日本のPSE法に適合しているかどうか、商品の画像や説明書きからはわからない。またタブレットやパソコンといったWi-Fi内蔵のもの、ワイヤレスイヤホンなどBluetooth対応の電波を発するものは、日本の技術基準適合証明を受けていないものも、直接買えてしまう。
一般的に日本法人の正規輸入代理店などを経由して日本に入ってくる商品は、これらの必要な認可を受けて、マークなどを表示して販売されている。だから海外製造品でも、日本国内で安心して使えるわけである。
中にはマークだけ真似して勝手に表示している製品もあるんじゃないか、という指摘もあるだろう。確かにそうした商品は、ゼロではないかもしれない。だがその違反が発覚した際の罰則や後処理の負担が重いので、そうした一か八かのリスクを犯すより、ちゃんと申請したほうが全然安いという立て付けによって、うまく回るような仕組みになっている。
Temuからやってくる商品のほとんどは、こうした処理を何もしていないので、マークの表示等がない場合、使用すると使用者が罰則を受ける。一方で、販売者は罪に問われない。使用するのがダメなのであって、電源を入れずに流通させるだけなら、罪には問えないのである。
またガジェット系では、偽物も横行している。例えばSDカードやSSDといったものは、ノーブランド、あるいは無名ブランドの格安商品が多数出品されている。日本のYouTuberがSDカードをランダムに購入して調べてみたところ、7割が容量偽装していたという検証結果もある(【激安通販”Temu”の闇】謎の「激安microSDカード」を一斉調査で”まさかの実態”が判明…これマジでヤバいぞ…|ずんだもんと学ぶ「激安商品」の実態 No.73)。
日本のユーザーは、あえて偽物とわかってして購入し、ネタにしているフシもあるが、返品や返金処理は行なっていないだろう。それが結果的には、偽物製造業者の利益になってしまっている。
EUではこうした偽造品が横行する状況を鑑みて、24年6月にTemuをデジタルサービス法の規制対象に指定した(朝日新聞:EU、Temuを規制対象に指定 偽造品などで対策を義務づけ)。
利用するなら、こうしたリスクがあるということを理解しておくべきだろう。
景品表示法上の疑念
実際に一度買い物してみないとわからないことも多い。今回実際にTemuアプリをインストールして買い物してみたが、よくわからないのがクーポンの扱いだ。
新規ユーザーにクーポンを進呈するというのはECサイトに限らずどんなサービスでもよくある手法だが、Temuの場合はルーレットを回して、いかにも偶然当たったように演出されている。
ルーレット画面の下には、「ホイールは説明目的のみであり、誰でも最良の結果を得ることができます。」と説明されている。つまり、偶然当たったように見えるが、実際には誰でも当たるというわけだ。
またクーポンを利用するためには、指定された商品を何点か購入しなければならない。ここでは定価として表示されている金額と、割引されている価格が表示されているが、その乖離が非常に大きい。
筆者は電動の小型ブロアーが欲しいなと思っていたのだが、Amazonでは5,000〜9,000円ぐらいが相場のようだ。一方Temuではだいたい3,000円〜6,000円ぐらいであり、かなり安い。とはいえ、4,000円程度の商品の元値が56,223円となっており、値引率が90%を超えるような事態となっている。そもそも元値の妥当性もよくわからない。
またこのクーポンを利用しようとすると、さらに商品を追加購入することを条件に、さらに上の金額のクーポンへ誘導される。前の金額のクーポンへ戻ろうとすると、前の金額のクーポンもキャンセルされてしまう。つまりクーポンに目がくらむと、それほど必要ではないものをどんどん追加で買わされてしまうという仕組みになっている。
クーポンの意味も、この金額の商品が無料になるというわけではなく、割引額としての金額なので、いくばくかの金額は支払う事になる。そもそも定価設定が怪しいのだから、このクーポンによる割引額に意味があるとは言えない。
こうした、値引きに見せかける手法は消費者保護違反であるとして、EUでは昨年11月に法令遵守指示が出されている。改善策が不十分であれば、制裁金を科される可能性がある(産経新聞:中国通販「Temu」が消費者保護違反 値引きみせかけなど EU、法令順守を指示)。
EUのこうした動きによって、Temuが健全化していく、と考えるべきではない。これはEUのレギュレーションに合わないから改善せよといっているだけで、日本への輸出はまた別問題である。
日本の法律で該当するものと言えば、景品表示法がある。景表法は日本国内の事業者にしか適用されないと思っている人も多いが、消費者庁のQAによれば、
外国の事業者であっても、日本国内の一般消費者向けに商品又はサービスを提供している場合には、景品表示法の適用対象となります。外国の事業者が日本法人を有しているかどうかは関係ありません。
とある。
日本からもやがて、EUのような警告の動きが出てくる可能性はある。
返品・返金対応するから大丈夫!?
最初から偽物だとわかっていて購入するなら別だが、本物だと思って偽物が届いたり、あるいは故障していたりした場合、返品や返金対応することになる。
Temuでは返品や返金に対するポリシーを明示している。ネットでユースケースを調べた限り、返金には問題なく応じているようだ。返品しなくても返金するケースもある。品質が悪い、サイズが違う、数が違うといったトラブルはあるが、多くの人は安いからという理由で諦めることも多いように見える。
つまり絶対に間違いなくキッチリ物流をやるためのコストより、多少間違いがあっても返金処理したほうが安いという考え方である。
個人的には、こうした海外ECサイトの支払いはクレジットカードを直接登録するのではなく、間にPayPalなどの支払い業者をはさんだほうが無難だろうと思う。筆者は別の中国系ECサイトで、カメラ三脚の偽物を掴まされたことがある。返金を迫ると「モノは返さなくていいから30%返金する」など、のらりくらりと逃げられた。
購入したいモノとは似ても似つかないシロモノだったので、PayPalに交渉を依頼して100%返金を勝ち取ることができた。モノを返送することが条件だったので、PayPalが突き止めた相手先の住所に国際郵便で返送したが、該当住所に受取人なしということで、そのまま戻ってきた。
日本国内では激安の中国系ECサイトから買うことがライフハックのように言われはじめているが、少なくとも並行輸入サイトからは、バッテリーや大電力を使う電気製品、無線技術を使う製品は敬遠した方がいいだろう。
また不自然に安いメモリーカードやSSDも、かなりの確率で偽物である。医薬品や食料品など口に入れるものも、やめておいたほうがいいだろう。法律違反の前に、健康を害してしまったら、取り返しが付かない。
眺めているとおもしろいものがいろいろ見つかるのも事実だが、案外そうしたものは日本のECサイトからでも買えるものである。無理に並行輸入で購入する必要性は、あまり高くない。もしこうしたサービスを利用する場合には、適切な距離感を保って付き合うべきだろうと思う。