西田宗千佳のイマトミライ
第193回
アップルやアマゾンも参入 「縦読みマンガ」のいま
2023年4月17日 08:15
「縦読みマンガ」への参入が相次いでいる。
4月14日、アップルは、同社が展開する電子書籍ストア「Apple Books」にて、「縦読みマンガ」ページを開始した。
3月7日には、Amazonが縦読みマンガ特化の新サービス「Amazon Fliptoon(フリップトゥーン)」を開始している。
ITプラットフォーマーが続々参入……という感じではあるが、彼らはどちらかといえば後発組。日本のマンガアプリや電子書籍ストアはほとんどが展開済みであり、数年前から非常にメジャーなサービス形態、といっても過言ではないだろう。
だが確かに、ここに来て「縦読みマンガ」への注目は高まってきているのも事実。
なぜ注目されているのか、改めて解説してみよう。
なぜ「縦読みマンガ」は普及し始めたのか
縦読みマンガは「Webtoon」とも呼ばれる。ざっくりいえば、デジタル配信前提で作られ、特にスマートフォンでの利用を前提としたサービスになっている。
スマホは「縦」に持つのが基本。大画面化しているとはいえ、紙の書籍や雑誌ほど大きくはない。
そこで、コマやセリフを縦に流れる前提で配置し、縦にスクロールさせる形で読んでいく。ウェブと同じような感覚であり、構成技術もウェブに近いので「Webtoon」、という形だ。コマなどの配置は書く段階で固定されるわけではなく、技術的に再配置可能。スマホの上では縦スクロールで読みやすくし、さらにそれを「紙の本」に再構成することもできる。
デバイスに最適化したコミックの形態を、という発想は珍しいものではない。
フィーチャーフォンの時代から、コマ単位で読んでいくコミックなどはあった。iPhoneやiPadが登場するとすぐ、「コミックはモノクロ・見開きだけではダメなのではないか」という議論も盛んに行なわれていた。
だが、日本においては2010年代後半まで、縦読みマンガはそこまで注目されてこなかった。
その状況が変わったのには、いくつかの複合要因がある。
1つ目は、電子書籍の普及だ。
公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所の調べによれば、2021年度のコミック販売額のうち、約4,000億円が電子書籍。コロナ禍もあって、コミックをスマホで読む行為は完全に定着した。
そこに2つ目が関連してくる。スマホでの電子コミック市場が拡大する中では、紙とは違う売り方・読まれ方が広がっていったのだ。
過去の電子書籍は、雑誌や単行本など紙として販売される書籍をベースに、紙版を作るためのデータからの「派生版」として生まれていた。だから、販売も「雑誌もしくは単行本単位」であることが多い。これは今もそうだ。
だが、デジタルで読ませるなら「本」という単位にこだわる必要はない。少しでも安く、ハードル低く読ませて「続けて読んでもらう」ことが重要になってくる。だから単話で販売したり、一定期間無料公開したりして、柔軟な入り口を用意するようになった。
フィーチャーフォン時代ではまだまだ「紙を超える」ビジネスになりきれなかったが、電子書籍が本当に定着したことで、デジタルネイティブなコミックを売るビジネスが、ようやく花開いたといってもいい。
そうなると、本の形として作る必然性は薄れ、「まずデジタルで作り、その後ヒットしたら紙でも売って利益を最大化する」というアプローチが採れる。結果として、縦読みマンガとしてサービスを展開しやすくなったのだ。
日本では2016年に韓国・カカオがスタートした「ピッコマ」の積極的な展開により認知度が上がり、市場が立ち上がった。日本でも利用者でいえば、ピッコマが大きなシェアをもつ。
韓国で生まれた「Webtoon」、日本型でない
ただしこれだけでは、縦読みマンガ=Webtoonの片側しか説明していない。
イコールでくくっておいてなんだが、ここからはあえて、縦読みマンガとWebtoonを分けて説明したい。縦読みマンガは「ほぼ」Webtoonなのだが、厳密にいえば、「Webtoonでない縦読みマンガもある」といった方がいいだろう。
なぜならWebtoonは、表示方法だけでなく「制作システム」の話でもあるからだ。
そもそもWebtoonは、日本のようなコミック出版のエコシステムを持たない韓国で育ったシステムである。実はWebtoonは、日本国内では韓国NAVERが商標登録している。なので、他のサービスはWebtoonとは呼んでいない。一方、韓国では商標登録されず、一般名詞として「Webtoon」である。
順を追って説明しよう。
日本でコミックは、一般的に「出版社(編集部)と作家のタッグ」で作られる。
コミックは雑誌やネットサービスに掲載されるために作られ、収益は原稿料+単行本化時の印税という形で支払われる。昨今はネット掲載に伴うインセンティブ報酬が出ることもある。
作った作品の権利は作家にあるが、それを商品化する上での作業は出版社が担当する。
コミックの制作に関わるスタッフワーク(いわゆるアシスタント作業)の費用は作家が支払う場合が多い一方、制作に関わる雑事の多くは、商品化と同様出版社がサポートすることが多い。
もちろん、ヒットした作品とそうでない作品では、扱いもいろいろ違う。だが、ヒットした作品をグッズ化・映像化するビジネスアプローチについては、大手出版社がノウハウを持ち、かなり効率的に進められてきた。
一方、韓国にはこうした仕組みがなかった。通貨危機や自国内での規制によって紙のコミック産業は衰退していた。また、1998年に日本大衆文化が段階的に解放されるまで、正当なルートで日本のコミックは販売されていない。
そこで韓国で勃興するIT企業が選んだのは、デジタルネイティブなコミックを、PCやスマホに提供する仕組みである。
出版社+作家という形は、日本の出版社が作り上げたエコシステムだ。それが存在しないなら、別の形を考えればいい。
制作は、原作・デザイン・キャラクター・背景などの分業制。制作費は運営企業側が出すので、権利も基本的には運営企業側になる。作業した作品の権利を買い取る形での契約を結ぶところも多いようだ。
既存出版社とは違う、IT系の企業がコミック参入を考えた際、韓国のWebtoon型で入ってくる例は多数ある。そして、そんな韓国系企業が、日本でのスマホによるコミック定着を見てシェアを拡大し、利用者を増やしているわけだ。
同じコミックではあるが、日本型コミックとWebtoonではかなり権利関係も制作スタイルもかなり違う、と考えていい。その違いから、契約的な摩擦などが起きる例もある。
ただし、現在は日本国内でも「縦読みマンガ」を作るところが増えている。そうした企業の場合、出版社型のところもあれば、韓国型もあり、対応はまちまちだ。
ハリウッドに学んだ韓国に学ぶ日本
Webtoonと日本のコミックの一番の違いは、「マルチメディア戦略」の考え方だ。
前出のように、韓国では日本のような「出版社型コミック市場」が成り立たなかった。
では彼らはどこから学んだか? それはハリウッドだ。コミックを売ることから戦略を派生させるのではなく、ヒット作の種を見つけ、集中的に資本投下して大きなヒットを生み出す、というアプローチを学んでいった。
世界的にヒットしたドラマ「梨泰院クラス」もWebtoon発祥で、特にNetflixは、ヒット作をWebtoonから見つけることに熱心だ。
アニメでいえば、2024年冬から放送予定のアニメ「俺だけレベルアップな件」は、日本ではピッコマで、韓国ではカカオページで連載されたWebtoonが原作。アニメ化はソニー系のA-1 Picturesが担当している。
こうした世界にヒットさせるための手法は、日本の出版社も学びつつある。過去10年に韓国で起きたことを見て、出版社が「コンテンツの総合プロデュース業」を目指すようになってきた。
このように考えると、縦読みマンガの普及と拡大は、日本と韓国をめぐるコンテンツビジネス自体の変化の一端を示す、非常に面白い現象でもある、ということがわかるだろう。