西田宗千佳のイマトミライ
第138回
デザインから予測する「PlayStation VR2」の方向性
2022年2月28日 08:15
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、2月22日深夜、「PlayStation VR2」(PS VR2)のデザインを発表した。
SIEはPS VR2の情報を小出しにする形で発表してきたが、これで残るは価格と発売時期、ソフトウェアの情報というところになった。
今回のデザイン公開で、PS VR2のハードウェア的な概要はほぼ明らかになったといっていい。PS VR2がどんなものになるのか。現時点でわかっているところから解説してみたい。
「ケーブル1本で接続」が示すもの
PS VR2の最大の特徴は「PlayStation 5と接続して使うVR用HMDである」という点だ。なにを当たり前のことを……と思うかもしれないが、そこを抜きにして、PS VR2の特徴を予測することはできない。
接続が複雑だったPS VRに対し、PS VR2はUSB Type-Cケーブル1本で本体と接続するシンプルさをウリにしている。デザインを見る限り、ケーブルはPS VR2本体の左側から出ている。そして、PS VR2公式ページによれば「PlayStation 5本体の前面にあるUSB端子にケーブル1本で簡単に接続できます」とされている。
本体には4つのカメラがあり、これで周囲の状況を把握し、位置とコントローラーの認識を行なう。いわゆる「インサイド・アウト」方式で、Meta(Oculus) Quest2などと同じだ。
この時点で、PS5本体とPS VR2がやりとりする情報は、PS VR時代とはかなり異なっていることがわかる。
PS VRはHDMIとUSBケーブルでPS4とプロセッサーユニットにつなぎ、そこからHMDをつないでいた。また、カメラをPS4につなぎ、カメラで認識したLEDライトの光で位置認識を行なっていた。PS4からの映像系とデータ型は分かれていたわけで、結果として接続が複雑になった。ただ、PS4の性能で快適なVRを実現するにはそうした仕組みが必要だった、という側面も忘れることはできない。
PS VR2は映像とデータ系を1本で伝送する。USB Type-CのAltモードを使って映像(HDMIなのかDisplay Portなのかはわからない)とUSB 3.1の信号を同時に流すやり方もあるし、映像そのものをデータストリームとして流し、PS VR2で処理して表示する方法もあるだろう。
この辺の仕様は公開されていないので、どちらが正しいかは現状わからない。
ただ筆者は、データストリームをPS VR2が内部で処理するのではないか……という気もしている。
理由は、PS VR2では「フォビエートレンダリング」が採用されているからだ。フォビエートレンダリングとは、目は中心視野と周辺視野では感じられる解像度が異なる、という仕組みを利用したものだ。
通常ゲームでは、映像をすべて同じ解像度でレンダリングする。だがフォビエートレンダリングでは、中心視野に近い部分だけ高い解像度を使い、周辺視野については解像度を落とす。すると、画面全体での演算量を減らすことができるわけだ。
VRにおいては、通常のゲーム以上に安定した高いフレームレートが重要になる。画質の劣化を感じることなく演算量を減らせれば、フレームレート維持がしやすくなって結果的に画質が向上する。
一般的なVR機器では、画面の中央=視野の中央と固定してフォビエートレンダリングを使っている。だがPS VR2は内部に視線トラッキングのためのセンサーを搭載しており、HMD内で視線を動かしてもそれに合わせて視野中央の位置を補正できるので、画質はさらに落ちづらくなる。
なお、PS VR2の視線トラッキングについては、視線トラッキング技術大手のTobiiが、同社の技術をPS VR2に搭載することについてSIEと交渉していることを公表している。
この辺の処理と、首を動かす方向を予測して画面位置をずらすことでVRの快適さを高める「リプロジェクション処理」が、HMD内部での表示時には行なわれるだろう。PS VRでは外付けのプロセッサーユニットでやっていたが、それをPS5本体でやるのか、それともPS VR2側で行なうのか。その辺がカギなのだが、まあ、ユーザーにはあまり関係ない。
ユーザー的には「ケーブル1本」であることがなによりも重要なのだ。
ただ、ケーブルがあるということは「部屋の中をガンガン歩き回る」ことを前提とした作りではない、という予想がつく。PS VRは「テレビ前のソファに座る」前提だったが、PS VR2もそうなるだろう。
ただし、制約はほぼケーブルの長さなので、自由度はもう少し高くなるだろう。なにより、位置認識用のカメラの画角に左右されなくなるのが大きい。
機能向上にもかかわらず軽量化、秘密は「レンズ」か
HMDがいかに快適か。VRにはそれが重要である。
デザインを見る限り、PS VRとPS VR2のHMDはそこまでサイズが変わっていないように見える。頭を保持するための機構も、額部分のパッドと後ろのバンドで止める、同じやり方である。
初代PS VRのHMD重量は約610g。現在のHMDと比較した場合、決して軽くはない。ただ、頭への保持バランスは良く、他機種に比べ重さを感じにくいのが利点ではあった。
PS VR2の重量は公表されていないが、公式ブログには「よりスマートなデザインにしたことで、若干の軽量化も実現しています」との表記がある。おそらく、数十グラムの範囲内で軽くなっている、というところだろうか。
PS VR2には視線センサーの他、頭部に振動をフィードバックする機構が搭載されている。PS VRからはLEDがなくなり、その代わりに4つのカメラが搭載された。これらの機構を搭載したことを考えると、重量が減ったのは確かに立派だと思う。
そもそも、ケーブル接続が前提でバッテリーを搭載しないHMDはその分軽くしやすく、Quest 2のような「単体型」に比べ有利ではあるのだが、新機構の搭載や装着バランスの維持を考え、軽くすることだけを狙った訳でもないのだろう、とは予想する。
内側のレンズが見えている写真や、サイズと重量を考えると、使っているディスプレイの面積はPS VR同様大きめで、レンズも径が大きめだと予測できる。
PS VRでは1枚の有機ELパネルの役割を左右に分け、それぞれをレンズから見る形を使っていた。PS VR2のディスプレイは「片目あたり2,000×2,040の解像度をもつ有機EL」とのみ公開されていて、構造はわからない。
ただ、レンズの構造は変わっていると予測している。
PS VRでは周辺で色収差が出るのを防ぐため、立体構造のプラスチックレンズを使っていた。だがPS VR2については、公式サイトに「軽量でバランスのとれたフレネルレンズ」という表記がある。フレネルレンズとは、同心円状に分割した構造のレンズ。他機種で言えば、Quest2も採用しているものだ。
フレネルレンズは厚みと重量を減らせるのが特徴であり、PS VR 2の軽量化とボディサイズ維持はレンズによる部分が大きいのではないか、と考えている。機能が増えたということは処理系基板も増えるということであり、それを前面に収納する必要もあり、重量だけでなく厚みの削減も重要だ。
ただ、フレネルレンズには周辺で像が滲みやすいという欠点がある。そのトレードオフが、解像度や発色の向上でどうカバーされているのかは、実機で確認する他あるまい。
レンズ調整や「通気」改善でより快適に?
ただ、PS VR2はレンズ周りの調整はしやすくなっているようなので、画質面での快適さは上がっていることだろう。
PS VRでは両目の間隔(IPD)の調整幅が狭く、レンズを内側からずらず形だった。だがPS VR2では、本体横にあるレンズ調整ダイヤルで両目の間隔を調整するようになった。レンズを触らなくていいので、皮脂の汚れや傷がつきにくくなっていることも期待できる。
PS VRは、2012年以降に登場したHMDの中でも初期のモデルに属する。快適さを維持するためになにが重要か、というノウハウが欠けていた部分がある。
今回はデザイン・機構面で、PS VRからの教訓がかなり生かされているようだ。本体の上部には、内部との通気性を高めるためのスリットが作られている。デザインを見るとけっこう大きめであり、HMD内がくもらないよう、気をつかっているのがわかる。
HMDにおけるエアフローは意外と大変だ。ファンを搭載するとうるさくなる一方で、ディスプレイも処理系も馬鹿にできない熱を発する。長時間使っているとそれが不快に感じることも多い。
長く快適にPS VR2を使ってもらうために、快適さ重視の設計が徹底されていそうなことは予想できる。
残る課題は「ソフト」。こればかりは本当にまだわからない。特に大きいのは、PS VRの時代以上に「ソーシャルVR」の流れが大きいことだ。いわゆるメタバースにつながるサービスをどう取り込むか、という点も考える必要が出てくる。
ゲーム機はオープンアーキテクチャではない。自由で速度重視のソフト開発には向かない。Questも初期にはゲーム機と同じビジネスモデルだったが、結局アプリのサイドロード(アプリストア以外での配布)を許し、オープンアーキテクチャとのバランスをとる流れに変わった。
「あくまでゲームだから」ということでゲーム機的モデルを貫くのか、それともそこに変化が生まれるのか。
仮にそこに新しいビジネスモデルが導入されることになれば、それはVRのみならず、「コンソール(ゲーム機)ビジネス」そのものの変化につながりかねないものとなる。
だから筆者は、あまり大きな変化はないのでは、と予想しているのだが。