西田宗千佳のイマトミライ

第135回

ドコモの固定電話「homeでんわ」から考える「通話の変化」

homeでんわ

2月4日、NTTドコモは、同社の携帯電話向けネットワークを利用した固定電話サービス「homeでんわ」を発表した。

ドコモ、モバイル回線の固定電話「homeでんわ」。月550円~

電話といえば携帯電話を指すようになって長いが、固定電話の役割がなくなっているわけではない。ただ、「通話」全体の利用シーンやカルチャーが変わり、そのことが、こうしたサービスの登場の背景にある。

今回は改めて「通話」について考えてみよう。

携帯電話回線を「固定電話」にする「homeでんわ」

「homeでんわ」は、固定電話用の電話機を繋いで使う通信専用モジュール。固定電話サービスではあるが、いわゆる「家庭の固定電話回線」は利用しない。回線としてはNTTドコモの通信網(4G)を利用する。だから、homeでんわ専用端末の中には、NTTドコモ回線用のSIMカードが入っている。

homeでんわの仕組み。電話機に端末をつなぐが、その先には電話回線もLANもつながない。通話は4G回線経由

だが、電話番号として割り振られるのは、携帯電話向けの「070」「080」「090」ではなく、「03」などから始まる固定電話と同じものになる。ただし、110番・119番などの緊急番号にかけた場合には、SIMカードに記載された「070」「080」「090」の番号になるという。

どうにもめんどくさい仕組みにも思えるが、ポイントはあくまで「固定電話と同じ番号」という点であり、自宅にある「固定電話に着信する」ということだ。

シーンは減ってきているものの、緊急連絡や各種契約などのために、携帯電話番号でなく固定電話番号が必要とされる場合はある。特に、固定回線を自宅にひいていない若年層はそこで苦労する。また、携帯電話を教えたくないシーンで固定電話を教える……ということもあるようだ。

そのため、自宅向けの「固定ネット回線」を志向している5Gサービスである「home 5G」とのセットを前提に、「home 5Gでネット回線を入れたなら、homeでんわを組み合わせると固定電話もついてきますよ」という売り方を前提にしているのだ。だから、homeでんわのデザインも、home 5Gのルーターに合わせている。

ドコモが5Gホームルーター「home 5G」 工事不要で月4950円

料金プランもhome 5Gとのセット割引が前面に押し出されている。homeでんわのみだと、月額1,078円の「homeでんわ ライト」もしくは同2,178円の「homeでんわ ベーシック」になるが、home 5Gとセットにした場合は月額料金が528円割引され、550円からになる。

ソフトバンクも「ネットとセット」で訴求

携帯電話系の回線で固定電話を、という発想は珍しいものではない。2011年にはウィルコムがPHS回線を使った「イエデンワ」を展開している。

乾電池でも駆動する据置型PHS「イエデンワ」

前述のように、ポイントは「固定電話と同じ番号で受信する」点にある。あくまで「固定回線として着信する」ことがまず重要で、その先に「固定回線として通話する」という部分があるわけだ。

homeでんわは、直接的にはソフトバンクのサービスである「おうちのでんわ」の競合と言える。ソフトバンクの無線ブロードバンドサービス「SoftBank Air」とのセットを強く訴求している点も似ている。

ソフトバンク、LTEを使った月980円の固定電話サービス「おうちのでんわ」

ドコモがこの時期に発表したのも春の新生活シーズンを想定したものだが、ネット回線の新設も必要な、独り立ちする若年層を想定した部分がありそうだ。

通話の常識が違う「LINE通話が当たり前」世代

実際のところ、「固定電話から通話する」頻度はどのくらいあるだろうか? 若年層はほどんと利用していない。だから「homeでんわ」や「おうちのでんわ」のようなサービスが成り立つのだ。

homeでんわと歩調を合わせたわけではないだろうが、NTTドコモ モバイル社会研究所が「10~20代の約9割が音声通話にLINEを利用」というリリースを出している。

10~20代ではLINE通話利用率は9割近くに

全世代を通じ77%以上が携帯電話の通話機能を使っており、さらに、LINE通話の利用率も高い。10代では89%が、20代では86.4%がLINE通話を使っている。

固定電話まで行って通話する意味が失われているだけでなく、通話にコストがほとんどかからないLINE電話を利用する例は圧倒的に増えた。

特に10代・20代であれば、物心ついた頃からLINEがあるのが当たり前。そうすると、通話時間の感覚も大きく変わってくる。

LINEはリサーチサービス「LINEリサーチ」のレポートとして、高校生の生活にフォーカスを当てた「イマドキJKDK事情」という記事を定期的に掲載しているが、その中で、通話時間に注目した以下のようなレポートを、昨年5月に公開している。

【高校生の通話事情】音声通話やビデオ通話、どのくらいしてる?

このレポートによれば、高校生の9割以上が「音声で通話をしている」と答え、さらに、一回の通話が30分以上である、と答えた層は5割近くになる。

高校生の9割以上が「音声で通話をしている」と答えている(出典:LINEリサーチ)
「一回の通話が30分以上」というグリーンの割合が男女とも半分近くになっている点に注目(出典:LINEリサーチ)

用途を見ると「一緒にゲームをする」「一緒に勉強する」「とりあえずつなぎっぱなし」など、自分の電話があり、さらには通話コストがほとんどかからなくなったことを前提とした使い方が当たり前になっているのがわかる。

男女ともに「つなぎっぱなし」「料金が変わらない」ことを前提とした使い方が広がっている(出典:LINEリサーチ)

そうなると、本来は固定電話をわざわざ引いても使わない……というのはよくわかるのだが、現実問題として、新生活にあわせて「どうしても必要なので、着信用として」というケースもでてくる。「homeでんわ」はそういうニッチを狙っている、ということがよくわかる。

問題は、いつまで「固定電話がないといけない」という観念が続くのだろうか、という点だ。ある種の「証明」として固定電話が必要、というのも変な話で、もう成立するものでもない。

インフラとしての固定電話もIP化している今、「固定電話の番号である」ことにこだわる意味は薄いようにも思う。店舗や事業所などではもちろん「番号」が必要だが、それも安定して使えるIPベースのPBXであればいい。

NTT東日本・西日本の固定電話網のIP化は、2024年1月からスタートする。消費者からは大きな変化が見えないように実装されているので、それがなにかのきっかけになることはないだろうが、固定電話と他のIP電話の差がさらになくなることで、その先で、「固定電話が特別なものである」という意識がゆっくりと消えていくのかもしれない。

「テレホーダイ」終了。固定電話がIP網へ移行

【訂正】
記事初出時に「高校生の9割以上が「毎日音声で通話をしている」」としていましたが、「毎日」ではなく「頻度はそれぞれ」でした。「音声で通話をしている」に修正しました(2月8日追記)。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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