西田宗千佳のイマトミライ

第32回

Xbox Series Xと持続的進化へ向かうゲーム業界。“発表”が変わる第9世代

Xbox Series X

12月13日(現地時間)、米マイクロソフトは、「Project Scarlett」として開発意向表明をしていた次世代Xboxの名称が「Xbox Series X」に決定。2020年のホリデーシーズンに発売し、性能がXbox One Xの4倍に達することなどを発表している。

新ゲーム機「Xbox Series X」発表。「処理能力はXbox One Xの4倍」

ソニー・インタラクティブエンタテインメントも、2020年ホリデーシーズンに次世代機「PlayStation 5(PS5)」を発売予定で、2020年は久々に新型ゲーム機で盛り上がる年になりそうだ。

一方、新型機の発表の仕方は従来とは変わって来ている、と感じる人が多いのではないだろうか。華々しい発表会で出すのではなく、情報が小出しになっている。それはなぜなのか、そして「次のゲーム機」はどんな意味を持っているかを考察してみたい。

Xbox Series X - World Premiere - 4K Trailer

リークを防げない時代には「先回りして出す」ことでコントロール

「家庭用ゲーム機の立ち上げは、その時のマーケティング技術の最高峰である」

筆者は過去の経験から、そんな風に思っている。もちろん、別の最高峰もある(飲料など)のだが、コンテンツが関係するものとしては、関わる費用も人の数も、もっとも多いもののひとつだろう。そして、家庭用ゲーム機ほど、「初期の印象を普及につなげないと、その後数年のビジネスが大変なことになる」ビジネスもない、と思っている。

その関係から、過去のゲーム機立ち上げは「マスマーケティングで盛り上げに盛り上げる」のが基本だった。しかし、どうも2020年に発売される「第九世代」と呼ばれるプラットフォームは、ちょっと様相が変わってきている。もちろん、発売が近づくと大規模宣伝で盛り上げるだろうが、「秘密にしてある日に内容を一気に紹介して火を付ける」という、よくあるパターンではなくなっているのだ。

そもそもPS5にしろXbox Series Xにしろ、その存在はずいぶん前からほのめかされていた。そして、その性能などについても、大規模な発表会という形を経て発表されたものではない。PS5は米Wired誌への独占リーク、という形を採っているし、Xbox Series Xは、今回のような「サプライズ発表」の形である。

どちらにしろ、マスを巻き込むという意味では、過去とは違う発表の仕方が採られている。

これは、筆者にとって意外に感じると同時に「そういう時代だな」と思うものでもある。

ひとつめに、「コントロールできないリークを先回りする必要がある」ということがある。現在のハードウェアビジネスに「情報リーク」はつきものだ。多数の企業が関わる巨大プロジェクトで、情報を守るのはきわめて難しい。真偽が確かでないものも含め、多数の情報が世に出回るのを止めるのはもはや難しい。その中で、「どこにも情報が出ていない」形で新鮮な驚きを維持するにもコストがかかる。

なにより問題なのは、「そこで情報が出ていない」ことにどれだけ価値があるのか、ということだ。

映画のシナリオなら話は別だ。誰もがネタバレはされたくない。しかしゲーム機の性能などは、「知って驚く」人と「そうでない」人がいることがポイントだ。ファンは驚くが、マスはそうでもない。

だとするならどうするべきなのか?

問題は「コントロールできるかどうか」であって、「情報が一切最後まで出ない」ことではないのだ。

漏れ始める時期を意識した上で、コントロールしつつ情報を出していけば、それなりに戦略は立てられる。最終的に盛り上げるべき時期と、ファンに対してコントロールされた情報を先回りして出していく時期を分けることで、「リークによって意図しない形で期待値が破壊される」ことを避ける方が重要なのだ。

これは、ブログとSNSがあたりまえになって10年が経過した、今にあったマーケティング施策といえる。ゲーム機のように、ファンとそうでない人で注目度が大きく異なる上に、両方がそれぞれ重要なジャンルでは、「期待値コントロール」こそがポイントになる。

「持続的変化」に変わる第九世代、だからこそ「グラフィック以外」が重要に

そして、さらに重要な点がもうひとつある。

それは、現在の「第八世代」(PlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switchの世代)から、家庭用ゲーム機の価値はさらに大きく変わっている。

あまり言葉を選ばずに書くが、第八世代がスタートする2013年頃、「家庭用ゲーム機やPCゲームがふたたび大きな産業として成功する」と思っていた人は少なかったのではないか。もはや斜陽であり、今後はスマホゲームが主流。家庭用ゲーム機としても、スマホのアーキテクチャを応用した低コストなものにマイクロペイメント型のモデルを組み合わせたゲームが主軸になるのでは……。そんな見方が少なくなかった。

「コントローラーを握ってボタンを押すゲームは、あってもマスではなくなり、ニッチなビジネスになる」

そう言い切る人を何人も見てきた。

実のところ、プラットフォーマー自体、第八世代が過去以上の成功を収める結果になると確信してはいなかったろう、と思っている。実際、そういう声を聞いたこともある。

だが結果的に、第八世代ゲーム機、特にPS4は空前の成功を収めた。PCゲームも大きく成長している。

そこで軸になったのは、「コアなゲーマーは我々が思っている以上にいたし、消費意欲を持っていた」ということだ。ファンがゲームを楽しめる環境を整備し、そこからより広い層に「手軽なだけじゃないゲームには価値がある」ことが広がった結果が、現在のゲーム市場の隆盛を築いている。

しかも、その軸になっているのは「ネットワークサービス」「ダウンロード型販売」である。過去と違い、もはやそのファンの土台をプラットフォームの変化で分断することは許されない。持続的な進化とし、「第八世代と第九世代が地続きなビジネスである」ことが求められている。第八世代の中で「PS4 Pro」や「Xbox One X」のような中間世代が出たことからもわかる。

持続的でなだらかな変化だとするならば、第九世代の内容を隠す必要は減る。プラットフォームとしての「新しさ」がないと買ってもらえないのは事実だが、グラフィックなど、ファンが重視する要素はどうせ技術から予想が付くのだから、先に発表しても影響は小さい。

逆にいえば、「最後まで隠している要素がなんなのか」(もっと極端にいえば、それはあるのかどうか)が、第九世代の一般層への訴求度を決める。グラフィックしか変化がないなら、マスは安くなった第八世代を買ってしまうからだ。

ロード時間の短縮は、現在すでにわかっている「第九世代の大きな変化」のひとつだ。それ以外になにがあるのか? そこを、2020年は楽しみに待つことになりそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41