小寺信良のくらしDX

第20回

Apple Watch Series 10の「睡眠時無呼吸」を試す 1カ月間の結果は?

Apple Watch Series 10は睡眠時無呼吸の検出に対応した

Appleは、ほぼ20年前、2006年という早い段階からナイキとコラボして、靴の中にセンサーを仕込んで運動量を測定する「Nike+iPod スポーツキット」を商品化しており、フィットネス関係には知見があった。2015年4月に登場した初代Apple Watchも基本的にはその路線を引き継ぎ、初代からスポーツモデルを展開した。

こうした方向性は他のスマートウォッチにも影響を与えることとなり、特に小型化方向へ進化したスマートバンドは、時計機能はあくまでもオマケで、メインは運動のログを取ることへと進化した。

だがそれは健康管理というよりは、運動を続けるモチベーションを維持するというものである。そうした方向が強化されればされるほど、激しい運動ができない高齢者や、基礎疾患を抱えている人、健康に不安を持つ人たちへのメリットが少ないデバイスになっていくことになる。

一方Apple Watchは、結構早い段階でフィットネス一本槍路線から脱却し、緊急対応や身体の安全を重視する方向へ転換した。2018年のSeries 4から早くも転倒検知機能を搭載し、クラウンの頭に指を当てることで心電図を取る機能も搭載された。こうした機能は健康な人には必要ないものだが、何らかの健康上の問題を抱えている人や、突発的な事故に遭遇した場合などには有用だ。

「デジタルヘルス」は、最初は狭義にフィットネスと捉えられていたが、短期間で生命維持全体の意味へと拡張したのは、Appleの功績だと言える。

こうしたAppleの次の一手が、9月に登場したApple Watch Series 9/10とUltra 2、wachOS 11でサポートされた「睡眠時無呼吸」測定機能である。睡眠時無呼吸症候群については、ちょうどApple Watch発表の直前に、「Sleep Doc」をご紹介したばかりのタイミングだ。

Sleep Docは装置を取り付けて2晩の測定でOKで、筆者は「中リスク」との判定を受けている。あのSleep Docとはどう違うのか、およそ1カ月にわたってApple Watchをお借りして装着し、テストしてみた。

30日間の睡眠測定が必要

Apple WatchはiOSの「ヘルスケア」アプリと連動している。睡眠時無呼吸の測定には、最初にヘルスケアの「概要」から「呼吸の乱れ」を選択し、「睡眠時無呼吸の通知」をONにする必要がある。

「呼吸の乱れ」から設定に入る
通知の仕組みの解説画面

これをONにすると、睡眠中の呼吸のリズムが記録され、一定のパターンから逸脱すると、乱れとしてカウントされる。最終的に睡眠時無呼吸症候群であるという判断は、30日間測定してみなければわからない。なのでこの記事を書くまで、Apple Watch発売から1カ月以上かかっているわけである。

測定は毎日行なわれ、その結果は「高い」、「高くない」の二値で判定され、グラフ化されていく。30日が経過すると、全体の傾向から高いと判定されれば、通知が出るという格好になっている。

専用機のSleep Docは2日間の測定で傾向を判断していたのに対し、Apple Watchはかなり時間をかけて判定しているのがわかる。

さて30日間の測定結果は?

Apple Watchでの睡眠時無呼吸の計測は、30日間で少なくとも10日間、Apple Watchを装着した状態で就寝する必要があり、データは30日ごとに分析される。

今回は9月28日から記録を開始したので、10月28日の測定が完了した時点で問題があれば、通知が発せられるはずである。結果からいえば、これを執筆しているのは10月29日で既に31日が経過しているが、通知は発せられなかった。

30日間測定してみたが、通知は発せられなかった

9月28日から10月28日までのデータで「最もよく起きるレベル」では、「高い」と判定されているものの、高くないという判定の日もそれなりにあり、単純にしきい値で「高い」が多ければ通知を出すというものでもないようだ。

呼吸の乱れは毎日乱高下している
毎日の記録データを個別に参照することもできる

ちなみに10月23日に突出して呼吸の乱れが高くなっているが、ちょうどこの日に風邪をひいてしまい、夜は咳で起きたりしたので、それが呼吸の乱れとして測定されたものだ。こうした突出したデータもありながら通知が出なかったのは、数日間連続して「高い」が測定されなかったからだろう。その点ではSleep Docでの「中リスク」判定とも一致する。

測定結果は、グラフだけでなく毎日の記録として参照することができる。ちなみに風邪をひいた10月23日のデータは以下のようになっていた。

風邪をひいた日のデータ

呼吸の乱れの値が28.2となっているが、毎日のデータを細かく見ていくと、この数値が11以上になると「高い」と判定されるようだ。

もし仮に通知が発せられた場合は、通知が発せられた理由と共に、上記のグラフが出力されるようだ。これを持参して医療機関に相談しに行く、ということになる。

Sleep Docの場合は、計測後にオンラインで専門の看護師さんの問診が受けられる。さらに適切な医療機関に繋いでくれるといったサポートが充実していたが、Apple Watchの場合はそこまでの連携はなく、基本的には自分で医療機関を探して診察してもらうという流れになる。

Sleep Docでも同様の課題として存在したのは、こうした簡易測定機器の存在を医療機関がどれぐらい認知しているか、ということだ。これらのデバイスで測定したデータが、診察や治療に全く利用されないというのは、もったいない話である。しかもApple Watchの場合は30日間も測定しているのに、全く利用されないというのは悲しすぎる。まあ疾患の発見につながったということでは、無意味ではないのだが。

とはいえ、Apple Watchの睡眠時無呼吸測定機能は、単に呼吸のリズムを図ってみました的なライトなものではなく、どのような疾患なのかの解説も充実しており、きちんと日本語化されている。またこの測定が確定的なものではなく、懸念があるなら医療機関で診察や検査を受けるよう指示されている。

この測定は30日で終わりではなく、装着して睡眠を取る限りはずっと計測されてゆく。症状が悪化すれば、どこかの段階で通知が発せられるということだろう。利用者はとりあえず「ずっとON」にしておくべきだろう。

一方で、夜間にずっと装着するということは、夜間に充電はできないということである。Apple Watch Series 10になって、充電時間は高速化したが、バッテリー駆動時間は通常使用時で最大18時時間。そのため、起きている間のどこかで、腕から外して充電しなければならない。

Appleでは、「15分の充電で最大8時間の通常使用が可能、8分の充電で最大8時間の睡眠を記録できる」としているが、このタイミングをライフサイクルの中のどこに設定するかは、大きなポイントになる。試しに起きたら充電というサイクルで運用してみたが、そのまま着けるのを忘れたりして、運動したのに記録されていないということが何度かあった。

そこで夕食時に充電というタイミングに変えてみたが、今度は寝る前に装着するのを忘れてうっかり1時間ぐらい寝てしまい、わざわざ起き出して装着し直すということもあった。丸一日バッテリーが持たないのをどの時間でカバーするのか、運用面で気を使うのは事実だ。

独自OS搭載のスマートウォッチでは、2週間ほど着けっぱなしでバッテリーが持つ製品もある。Apple Watchは極端になんでもできるので単純に比較はできないが、健康維持に機能を絞っても、数日は充電の必要がないとなってはじめて、常時健康を監視するデバイスとしての“安心感”が生まれるのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。