小寺信良のシティ・カントリー・シティ
第42回
どうする? 地方自治体DX時代の市役所新庁舎
2022年5月28日 10:00
現在宮崎市では、市役所建屋の老朽化に伴い、新庁舎の建設へ向けて議論を進めている。宮崎市中央部を流れる大淀川河畔に立てられた現在の本庁舎は、1963年竣工で筆者が生まれた年なので、築58年という事になる。
市ではこれを機に移転も検討しており、年度内を目処に新庁舎の建設場所を決定するとしている。現在候補に上がっているのは3カ所だが、実質的には2カ所3様といった形だ。
第1の候補地は現在地と同じで、要するに建て替えとなる。選定理由としては、元々市有地なので取得手続きが不要であること、市民にとっては慣れ親しんだ場所であること、県庁と近接しており利便性が高いことなどがあげられている。
ただいったん建屋が取り壊しとなるので、取り壊し費用がかかることや、取り壊しから新庁舎建設までの間、市役所の機能をどこに移転するかといった課題がある。敷地内には複数の庁舎があり、駐車場スペースもあるので、一時的に仮庁舎を建ててそこに引っ越すという手もあるが、駐車場スペースがなくなるのは、地方の人の動きから考えれば、かなり大きなマイナスとなる。
市民目線で見た場合、現在の市役所の場所は、慣れたとはいえ必ずしも便利な場所とは言えない。川沿いということで近くに商業施設があるわけでもなく、中心地からはやや離れた位置にある。近くにバス停はあるが、メインの足はやはり車である。
県庁と近いというが、市民としては市役所と県庁両方いっぺんに用事があるケースは、ほとんどない。双方距離にして900m、徒歩9分の距離であるが、田舎の人間は9分歩くぐらいなら車で移動する。近くて便利のメリットを享受できるのは、公務員だけである。
ただ県庁のほうには法務局もあることから、このあたり一体は許認可関係の司法書士事務所や行政書士事務所が沢山ある、いわゆる官公庁許認可街を形成している。市役所がこの場所から離れたら、影響を受ける事業者は多いだろう。
宮崎県最大の飲み屋街である「ニシタチ」は、この市役所の北側に細長く拡がるエリアである。コロナ以前は市役所の用事から流れてきて飲むというルートもあったが、すでにその流れは途絶え、さらに移転すればそうした種類の客足も遠のく。
市の中心部へ?
第2の候補地は、宮崎駅から徒歩5分の距離にある、宮崎市中央公園である。このエリア一帯は「文化の森」とも呼ばれており、広大な敷地内には宮崎科学技術館や宮崎市総合体育館もある。
こんな一等地にこれだけ広大な土地が公園として整備されているのは珍しいと思うが、ここは昭和51年(1976年)まで、宮崎刑務所があった場所だ。現在は国有地と市有地に分割されているが、過去が過去なだけに再利用が難しかったのだろう。だがすでに50年近くが経過し、土地の記憶は忘れ去られようとしている。
この土地で2つのパターンが検討されている。1つはほぼ市有地部分を使い、東西に長い立地とする方法。国有地を少し買い取ることになるが、大半は市有地で賄える事になる。ただ、テニスコートと隣接する駐車場は潰れることになる。
もう1つのパターンは、敷地の半分が国有地からの買収となるが、南北に利用する案だ。敷地の大半が構造物のない広場であり、平日はほとんど利用者もないエリアである。この東側は遊具などがある年少者用の公園となっており、両案ともこの部分はそのまま残すことになっている。
両案に共通するこの場所のメリットは、解体建物がないことや、洪水の浸水想定区域でないことが上げられる。ハザードマップで確認すると、この一角だけ浸水の可能性がないことがわかる。
また道路を挟んで向かいが宮崎市保健所となっており、ウィズコロナ時代の市民サービスの利便性が高まることが想定される。また「アミュプラザ」の誕生により再開発が進んだ宮崎駅前の反対側という立地ゆえに、市街地空洞化の抑制に繋がるといった効果が見込める。
一方デメリットとしては、この土地の南側は道路拡張が進んでおらず、県庁や法務局がある官公庁許認可街からの導線が細いことがあげられる。近隣には私立高校が2つあり、現在でも雨の日の朝夕は送り迎えの車で渋滞する。ここに市役所ができるなら、近隣の道路拡張は必須条件となる。
都市部の人から見れば、駅に近いから便利だろうと思われるかもしれないが、おそらく電車の利用者はほぼ見込めない。宮崎駅は空港との連絡線もある、そこそこ大きなターミナル駅だが、多くの住宅地はJRの駅と無関係に発達しており、市民としては電車に乗るために車で駅まで行くような羽目になる。それなら車でここまで乗り付けた方が早い。
ただ市役所へのアクセスを考えれば、現在地よりも行きやすいことは確かである。用事のついでに繁華街で食事や買い物して帰るといった利便性も上がる。
DX時代にデカい庁舎が必要か?
現在宮崎市役所は、本庁舎だけでは手狭になったため、敷地内に第2庁舎、第3庁舎建てられている。また少し離れたオフィスビルに第4庁舎がある。新庁舎はこれらを全部1つにまとめる事になる。県で最大規模である宮崎市役所の移転はかなり大きな公共工事となるため、市内の景気回復に繋がるのではないかと期待が高まる。
ただ、2020年初頭から始まったコロナ禍を受けて、行政サービスをいつまで紙でやってるんだ、という事になった。地方自治体は、市民サービスの最前線である。その窓口で、いつまで感染リスクの高い対面での紙の手続きやらせるのか、という話なわけである。
国は2020年に河野太郎氏が行政改革担当大臣になって、ものすごい勢いで脱ハンコから始まるデジタル化への道を切り開いた。地方でも脱ハンコの動きはあるが、自治体間で動きはバラバラだ。宮崎市の場合も、窓口で書く書類はだいぶハンコが不要になったが、それでもやっぱりメインは「窓口」で「紙」だ。
だが2021年5月にデジタル改革関連六法が成立し、国だけでなく地方自治体でもDX化が迫られることとなった。これはなにも、感染リスク云々だけの話ではない。団塊ジュニアと言われる世代が高齢者の仲間入りをする2040年以降、面倒を見る高齢者が爆増する一方、行政サービスを担う年齢層の人数は、今の半分ぐらいに減る。
つまり今の仕事量を2倍〜4倍ぐらい効率化していかないと、地方行政は全然回らなくなる。だから今のうちに業務を全部棚卸しして、いらない手続きはどんどんやめてデジタル化していかないと、あと20年ぐらいで地方行政が破綻するわけである。これを「2040年問題」という。
これからは、役所の組織構造もどんどん変えて行かなければならない。同時に建屋の使い方もどんどん変わる。今のように「島」に分かれて窓際が管理職、みたいな大部屋は不要になる一方、リモート会議用の小部屋やブースは山のように必要になる。公務員が出勤すれば、それにぶら下がっている許認可業務関連事業者もお役所詣でしなければならなくなる。どうしても対面でなければならない業務を残して、公務員もリモートになるべきだ。
つまり、今と同じ床面積の庁舎がこれから先本当に必要なのか? という事である。現在の庁舎は60年使った。今度の庁舎も60年ぐらい使う事になる。だがあと20年後には、公務員の数は半分になるのだ。
拠点が1カ所のほうが、災害時の対応がやりやすいという意見もある。だが本当にそうだろうか。2007年の新潟中越沖地震の時に筆者は自分の目で見てきたが、救援物資が市役所などに一点集中してしまい、処理しきれなくなってせっかくの食料を腐らせるという事態に陥った。「災害時に窓口が1つ」は、送る側には楽でいいが、受け取る側はパニックになる。市役所にはそもそも物流倉庫的なスペースも機能もノウハウもないのだ。
こうした事情を考えると、今これからドーンとでっかい庁舎を建てるというのは、ナンセンスなように思える。むしろ拠点を複数カ所に分散して、どこでも同じ業務ができるようにリスク分散しておくべきではないのか。市民としても、巨大化した宮崎市内から1カ所の役所に行くより、地元にある分散拠点で同じサービスが受けられる方が都合がいい。
こうした拠点のサテライト化には、どうしても業務のデジタル化が必要だ。電話連絡してFAXで書類を送り合うようなことは、平成に置いてくるべきだった。宮崎市はDX化と省庁移転が同時にやってきて大変だろうが、20年後に時代遅れにならないよう、今が踏ん張りどころだ。
皆さんの地域でも、役所建屋の老朽化は避けて通れない問題のはずだ。作り直すときがチャンスである。いつまでハコモノ行政やってんだという厳しい目線で、地方行政を見ていく必要がある。