小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第34回

「街」というシナリオ。人影まばらな繁華街

宮崎県内の感染者数

8月中旬のお盆休み直後から全国的に発生したコロナ感染第5波は、ここ宮崎県でも大きな波が観測された。これまでも宮崎県では県独自の緊急事態宣言を発令して凌いできたが、感染者数の増加に歯止めがかからないとして、8月18日に「まん延防止等重点措置」の適用を国に申請した。だが実際に適用を受けたのは8月27日。実に申請から10日も経った後であった。

感染者数の推移を見てみると、「まん延防止等重点措置」の適用は完全にピークを過ぎて、収束に向かっているタイミングである。感染者の最高を記録したのが8月21日で、要請のタイミングとしては妥当だった。申請の3日後あたりから適用を受けていればタイミング的にはピッタリで、効果はもちろん、行政に対する信頼度も上がったと思われるが、ピークを過ぎてからのまん延防止等重点措置適用では、「なんで今頃」という感が強い。

まん延防止等重点措置は、当初の予定では9月12日までのはずだったが、同日、9月30日までの延長が決定した。12日時点での新規感染者は、17人まで減少している。この時点でさらに18日間も延長するという判断は、妥当だっただろうか。

Agoopが公開する「新型コロナウイルス拡散における人流変化の解析」というデータで宮崎駅周辺の人の動きを見てみると、まん延防止等重点措置が発令された8月27日以降も、人流はほとんど変化がない。県独自の緊急事態宣言より重い国の措置の適用を受けたことを考えれば、反応はかなり鈍いと言える。

JR宮崎駅周辺の人流変化(データ提供:株式会社Agoop)

まん延防止等重点措置とは、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」という法律で規定されている。この第三十一条の六により、飲食店に対しては、20時までの短縮営業等を要請できるが、要請に応じない飲食店に対しては、短縮営業の命令および公開ができる事になっている。

宮崎県では、9月17日と22日の2回、合計13の飲食店等に対し、命令および店名の公開を行なった。

宮崎県が命令を行なった13店舗のリスト

命令に伴う店名公開は、社会罰という側面が強い。法の執行としては正しい手続きではあり、公平性を担保する必要性も理解するところだが、17日の新規感染者は17人、22日の新規感染者は5人である。

そもそも措置の発動まで10日もかかり、辞めどきは地方の判断で決められず、一度決まった延長の見直しも利かないという仕組みは、果たして妥当なのだろうか。

「街」というシナリオ

上記13施設はすべて宮崎市内の繁華街である「ニシタチ」界隈にある。宮崎県は人口10万人あたりのスナックの数が日本一多い県で、特に「ニシタチ」には飲食店が約1,500店舗もひしめいている。この中で要請に従わない店が13件しかないということは、割合にして99.1%の店は要請に従っているということになる。これは立派な数値だろう。

元々「ニシタチ」とは、宮崎市のメインストリートである「橘通り」の西側という意味だが、その橘通り自体もデパートの撤退などが進み、どことなく衰退感がある場所になりつつある。それに加えて県内最大の繁華街が営業自粛を1カ月以上も続けていると、ますます人の流れが変わってくる。

以前もこの連載の中でお話したが、このメインストリートから700mほど東へ行った宮崎駅前に、大型商業施設「アミュプラザ」が昨年11月にオープンしている。

シルバーウィーク初日の9月23日、アミュプラザ周辺を歩いてみたが、祭日だというのに道ゆく人がほとんどおらず、施設内も開店直後のようにがらんとしていた。時間は14時半ごろである。オープニング当初からコロナ禍の影響著しい様子だったが、そもそも地元の人は鉄道を利用しないので、メインストリートの橘通りからここまで人が流れてこない限り、駅からは人が来ない。その橘通りに人がいないとあっては、ますます人が来ないわけだ。

祭日の14時半ごろ。アミュプラザが面する駅前広場は閑散としていた
店舗規模の割には、人が入っていないように見える

一方同日、市中心部から海側へ4kmほど離れたイオンモール宮崎を訪れたが、まだまん延防止等重点措置中とは思えぬ人出で驚いた。流石にマスクなしでいる人はいないが、コロナ前の賑わいとあまり変わらないように見える。

明らかに人出が多いイオンモール店内

遊びやショッピングに出かける場所として、すでに市の中心部は「街としてのシナリオ」を失っているのではないだろうか。それに比べて、ショッピングから飲食、スポーツジム、子供の遊び場からおかずの買い出しまで一カ所で完結するイオンモールのほうが、シナリオ感がある。

イオンモール宮崎は2018年に増床してはいるが、元々は2005年に開業した施設で、それほど新しいわけではない。新しいから人が集まるのは最初のうちだけで、やはり街に人が居着くには、シナリオが必要なのだ。

市内中心部の空洞化、もっと具体的に言えば鳴り物入りで誘致したばかりの「アミュプラザ」が閑古鳥という状況に危機感を覚えた県と市では、市の中心部と駅前を結ぶ「高千穂通り」の再整備を行ない、市民の回遊性を促すという社会実験を始めるという。

再整備が始まる高千穂通り

この高千穂通りも大きな道で、車は片側2車線、歩道幅は最大11mもある。数年前に歩道を整備し、モニュメントや噴水などを設置したが、現在は清掃も滞り、放置状態だ。

歩道は広いが、歩行者は少ない
水を貯めていたと思われるモニュメントも放置状態
水飲み場も排水が詰まり、水が腐っている

道がきれいになれば人が来る、という考えかもしれないが、人は道を歩くために出かけるわけではない。その方向へ行く用がなければ、道はいらないのである。再整備する道沿いは、ほぼ金融・証券・生保・不動産ビルが立ち並ぶオフィス街で、通りがかりに「おっ、開いてる開いてる」と入るような店舗などない。

歩道を行く人といえば車を持たない中高生ぐらいだが、アミュプラザ内のテナントは高級店舗ばかりで、中高生の小遣いで買える商品もなければ、安い飲食店もない。昔は自転車で行き来する人も多かったが、景観のために歩道への駐輪を厳しく規制したため、多くの人は自転車の利用をやめて、自動車移動になってしまった。

歩道を行くのはほぼ中高生ばかりだが…

コロナさえなければ、という声も聞かれるところだが、そうでなくても遅かれ早かれ、市の中心地の空洞化は起こっただろう。そこを頼りに生活している人には気の毒だが、どこが中心かは人の流れで決まる。行政が音頭を取って人の流れを変えるというが、所詮やれることといえば土木工事である。

笛吹けど踊らず、は、コロナ禍によってますます顕著なものとなった。「作り捨て」となった多数のモニュメントが示すように、常に人の手が入らなければ、寂れた街は元には戻らない。最終的にこうした作り物に頼ってしまう行政の弱さもまた、地方特有のものなのだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。