いつモノコト

部屋が狭くても諦めない。最高のパーソナルチェア「ニーチェアエックス」

半年待って届いた

「ニーチェアエックス」

テレビの前でゆったりと座ってくつろげる椅子として、「ニーチェアエックス」(Nychair X)を買ってみた。筆者が利用した通信販売サイトでは36,300円だった。セットでデザインされているオットマンも購入し、こちらは19,800円。送料を含めた合計は59,900円だった。

「ニーチェアエックス」は、1970年に発売された椅子の名作だ。驚くことに現在も変わらず販売されており、2020年で50周年を迎えている。無駄を削ぎ落とした極めてシンプルなデザインながら、座り心地が良く、簡単に折りたたんで家具の隙間に仕舞うことができ、帆布のシートやパーツは交換やメンテナンスが可能、生産や組み立ては日本製(木部の原産国を除く)ながら、高すぎない価格も実現と、多くの要素が高い水準でまとまっているパーソナルチェアの名作中の名作だ。

筆者は2020年の夏に引っ越しを敢行し、機会があれば使ってみたいと思っていた「ニーチェアエックス」を、ついに入手することができた。……のだが、実は注文したのは引っ越し直後の2020年7月。しかし届いたのは、その半年後となる2021年1月中旬になってからだった。

コロナ禍による在宅時間の拡大などで需要が急拡大したことが主な原因で、注文してすぐ後の2020年7月下旬には、メーカーが生産体勢を見直すため出荷を一時停止したことなども納期の遅れに影響した。2021年1月時点でも一部は売り切れが続いている。

引っ越しした後の筆者宅の仕事部屋では、テレビを観たりゲームをプレイしたりする際はオフィスチェアをリクライニングさせて使用していた。体が痛くなるわけではないものの、くつろげるかというと、さすがにちょっと違う感じだった。特に映画やドラマ、音楽鑑賞などで長時間の使用になる度に「ニーチェアエックス、早く届かないかな」と心待ちにしていた。半年かかって納品されたこともあり、新居の当初の構想を完成させる、最後のピースになった。

「ニーチェアエックス」と別売りのオットマンも購入
箱から出した「ニーチェアエックス」。組み立ては、フレームの入っているシート部分と脚部をネジで止めるだけ

とにかく体が「自然」、想像以上の座り心地

「ニーチェアエックス」に座ってみてすぐに感じるのは、シートの帆布が適度に沈み込み、腰やお尻がシートに自然にフィットすること。筆者は身重170cm弱だが、座面の高さも自然で、床に置いた足や太ももに無駄な力が入らない。肘かけの場所や高さも自然で、肘を自然にスッと置くことができる。背もたれの角度やヘッドレストも絶妙で、無理なく自然に肩や頭を預けられる。

外観は不安になるほどシンプルでミニマルなデザインだが、ひとたび座れば、体から無駄な力がス~っと抜けていくのが分かる。とにかく体が「自然」になるのだ。まさに求めていたというか、想像以上の座り心地だ。リラックスした自然な状態でテレビなどのコンテンツを観られるため、それまでよりもっとコンテンツに集中できると感じる。上体が自然なので、読書にも最適だ。

身重170cm弱の筆者が座ったところ

同時に購入したオットマンも、足を置くと少しシートが軽く沈み、ふくらはぎが軽く包まれるような感覚。背中からふくらはぎまで、包まれ方に一体感が出る。椅子の前面とオットマンの高さが揃っているため、足の高さは自然なポジション。足首から先はオットマンに乗せないようにしてブラブラさせておくと、ふくらはぎの脱力感が増し、よりリラックスできる。オットマンは存在が軽視されがちだが、下半身のリラックス度合いが格段に上がるのでおすすめだ。

別売りのオットマン。こちらは組み立て不要
オットマンを利用しているところ。下半身のリラックス度合いが格段に上がるのでおすすめだ

ポジション、メンテナンス性、若干の注意事項

「ニーチェアエックス」は、低くしたオフィスチェアよりもさらに座面が低いため、視点はこれまでよりぐっと下がる。このため筆者宅の環境ではテレビの中心よりも目の位置が下がるのだが、上向きになっている背もたれの角度のおかげで、視線そのものはテレビの中心に向かい、自然な形で観ることができている。

テレビ用も兼ねたスピーカー(Genelec 8330)はスタンドの都合でけっこう上に位置してしまうため、スピーカーを下に向け直した上で、マイクを使ったキャリブレーション(関連記事)をやり直している。スピーカースタンドはもう少し低めのものを探してもいいかもしれない。

シートは非常にしっかりとした帆布製。冬に特別暖かいということはないが、夏は蒸れにくいと予想できる。入浴後の火照った体で座っても蒸れにくい。このシート部分は本体を分解することで外せるようになっており、汚してしまった場合は外してドライクリーニングに出すこともできる。シートを含め本体のパーツはすべてバラ売りされており、必要に応じて入手できる。ちなみに製品は3年保証だ。

背もたれの角度を変えるリクライニング機構はないが、前述のように背もたれの角度は絶妙なので、映画を観る、本を読むといった用途では、今のところリクライニングの必要性は感じていない。

木製の肘かけは綺麗に仕上げられており、肘や腕を置くだけでなく、手で握っても安心感のある太さ。当初は外観デザインからして「肘かけの位置、ちょっと低すぎでは?」と思っていたのだが、実際には腕を自然に置ける絶妙な位置にある。また、椅子の上であぐらをかいてみても、太ももに肘かけが干渉しないことに驚いた。設計時にあぐらのかきやすさを意図していたかどうかはともかく、シンプルに見えているが、角の立たない、相当に考え尽くされたデザインだと感じる。

ステンレス製のパイプフレームは、脚部がヘアライン仕上げで、鈍く光り、思っていたより重厚感がある。パイプフレームは畳が凹んだりフローリングを傷をつけたりする可能性があるため、この点だけは少し気をつける必要がある。筆者はひとまず、トレーニング機器や楽器用として売られている1畳程度の防振マットを下に敷くことにしている。

本体は約6.5kgと軽量で、折りたためば簡単に持ち運べる。届いた時は半完成品のため組み立てる必要があるが、ネジ止めが4カ所だけと簡単だ。オットマンについては組み立ては不要だ。

シートは丈夫な帆布製。控えめなタグが背中側に付いている
木部は適度な太さがあり仕上げも丁寧。格安な家具のような残念感はない
あぐらをかいても肘かけが太ももにほとんど干渉しない
脚部のステンレス製パイプフレームはヘアライン仕上げ

置いてから気づいた「折りたためること」の便利さと大切さ

座り心地以外で重要なポイントは、「ニーチェアエックス」は、肘かけ部分を持ち上げるだけで簡単に折りたためるという点だ。シートは左右のフレームの間に自然と折りたたまれるので、あとは肘かけの後ろに付いているひもをもう一方の肘かけにひっかければ、閉じた状態を保持できる。転倒に注意する必要はあるものの、折りたたんだ状態で自立するほか、幅は約15cmにまで縮まるので、家具の隙間に収納したり部屋の隅に置いたりできる。

折りたたんだ状態。肘かけ部分を持ち上げるだけ
肘かけの後ろにあるひもを反対側にひっかけ、閉じた状態を保持する

筆者はこの折りたためる点について、「たいして使わないだろう」と漫然と考えていたのだが、これは大きな間違いだった。

実際のところ、なんとなく予感していたのだが、5.5畳の仕事部屋にPCデスクやオフィスチェア、テレビなどを詰め込んでいるせいで、十分な幅を持ったパーソナルチェアを出しっぱなしにしておけるほどスペースに余裕はなかったのだ。いや、出しっぱなしにできるのだが、そうすると部屋の出入りや部屋の中の移動がまっすぐできず、けっこう面倒なことになる。届いて組み立てて、ひとしきり座ってみた後にそのことに気づき、冷や汗をかいた。軽視していた折りたたみ機能こそが、この椅子の今後の扱いを決める重要な要素だったのだ。

仕事部屋でテレビの前のベストポジションに置くと、PCデスク用のオフィスチェアとは排他利用になる
折りたためるので、使わない時間は部屋の隅に仕舞っておける

部屋が狭くても「最高のパーソナルチェア」を諦めなくていい

本製品ぐらいのゆったりとしたサイズの椅子で、リラックスしてくつろげる製品は、ほかにもたくさんあると思う。折りたためる椅子というのもまた、世の中にはたくさんある。「ニーチェアエックス」が素直にすごいと思うのは、すぐれたデザイン、丈夫さ、すぐれた座り心地を実現しながら、使わない時は折りたたんで部屋の隅に置いておけるという実用性も備えている点だろう。「ニーチェアエックス」なら、シンプルでかっこよくて座り心地のいい椅子を、部屋のスペースを理由に諦めなくていいのだ。

ソファに座ってくつろぎたいけど、ソファを置く余裕がない……そんな人にもおすすめできるし、正直なところ、下手なソファよりはるかにリラックスできる。ひとたび座れば「もう動きたくない」「仕事したくない」と思えるほど(笑)。もちろんソファのようにごろんと横になることはできないし、革製ソファのような高級感やケレン味は無い。ただ、その華奢な見た目からは想像できないが、少なくとも快適さについては間違いなく主役級の家具であり、筆者が求めるパーソナルチェアとしては文句なしの満足度だ。

「ニーチェアエックス」なら、シンプルでかっこよくて座り心地のいい椅子を、部屋のスペースを理由に諦めなくていい

日本人が日本人と日本の部屋のために作ったといえる「ニーチェアエックス」。筆者が本製品の存在を知ってからすでに30年近く経っているのだが、今になって使ってみても、驚くほど不満がない。発売から50年を経ても高く評価される理由は、置いて、座って、使ってみて、すぐに実感できた。

デザインはシンプルでミニマルとはいえ、周囲に馴染みやすく、普通の部屋に普通の家具として置ける「日常の椅子」としての気楽さがある。デザインした新居猛氏は、「多くの人から愛されるカレーライスのような椅子づくり」を目指したというが、「ニーチェアエックス」を手にした今は、そうしたコンセプトが大いに理解できる。使い心地は特別だが、その佇まい、存在は、決して特別ではないのだ。

体に対して自然になるようデザインされ、機能に対して自然になるようシンプルに設計されており、実際に座れば体は自然とリラックスできる――本製品には、椅子と座る人、双方に「自然であること」が貫かれているように感じられる。その自然さが導き出した普遍性が、50年を経ても魅力が色褪せていない理由ではないだろうか。

50年前の製品とは到底思えない、時を超えた魅力が詰まっている

この椅子を注文した後、実際には納期が未定と知らされ(すでにほとんどのWebサイトで売り切れだったため、やっぱりかと思ったが)、その後さらに、大幅に出荷が遅れると知ったときは、キャンセルしてほかの椅子を買おうか迷ったこともあった。しかし今なら「半年待ってでも、買う価値は十分にある」と言える。

くつろげるパーソナルチェアを探しているなら、そして部屋の狭さを理由にそれを躊躇しているなら、ぜひ選択肢に入れてほしいと思う。

太田 亮三