石野純也のモバイル通信SE

第55回

2024年のフィーチャーフォン 「アホ携帯」が生きる道

Japan Orbicは、フィーチャーフォンのOrbic JOURNEY Pro 4Gを発売する。写真はMWCで撮影したホワイト。日本で発売されるのは、ブラックのみとなる

Japan Orbic(オルビック)は、SIMフリーのフィーチャーフォンの「Orbic JOURNEY Pro 4G」を7月26日に発売する。大手家電量販店では現在予約を受け付けているほか、MVNOでの販売も予定しているという。同モデルは、2月から3月にかけ、スペイン・バルセロナで開催された「MWC Barcelona」で披露されており、日本での発売も予告されていた。店頭予想価格は19,800円。

1.77型のサブ液晶も備え、閉じたままでも着信などの情報を確認できる

とても小さな日本のフィーチャーフォン市場

JOURNEY Pro 4Gは、テンキーを備えた折りたたみ型の携帯電話。OSには、LinuxベースのKaiOSを採用している。このOSは、かつて日本にも導入されたFirefox OSの後継的な存在で、グーグルやKDDIなども出資。アプリストアも備えており、同モデルにもGoogleマップやYouTubeなどがプリインストールされている。

日本のケータイは、いずれもAndroidをベースにカスタマイズを加えたOSが搭載されているが、KaiOSのようなアプリストアは存在しない。かつてはLINEなどのアプリも提供されていたが、軒並みサービスを終了している。ベースがスマホと共通しているため、裏技的にアプリをインストールする方法がないわけではないものの、手軽にはできない。現状では日本向けのアプリは皆無に等しいが、拡張性の高さではKaiOSに軍配が上がる。

OSには、KaiOSを採用。アプリやアプリストアも利用可能だ

海外では、HMD Globalが販売するNokiaブランドのフィーチャーフォンなどに採用されているKaiOSだが、日本でこのOSを搭載した端末が出るのは初めて。日本語入力に対応しているほか、国内向けのカスタマイズも施されており、4GのBand 19やBand 18、26(いずれも800MHz帯)といったプラチナバンドも利用可能だ。

日本で初めて登場するKaiOS端末だが、日本語入力にも対応する。電話帳の姓名順なども、日本向けにカスタマイズされている

一方で、総務省の「令和6年版 情報通信白書」では、'23年時点でのスマホ普及率は90.6%まで高まっている。モバイル端末全体が97.4%のため、その差分はわずか6.8%。ここは子ども向けや高齢者向けなど、ユーザー層を絞った端末も含まれるため、一般層に向けたフィーチャーフォンの市場はこれよりもさらに小さくなる。では、Orbicがあえてこの端末を日本に投入する狙いはどこにあるのか。

総務省の情報通信白書によると、個人スマホ所有率は90%を超えている

底堅い市場 「最後のフィーチャーフォン」を狙う

1つは、割合としては小さいが、確実な市場があるということだ。仮に全人口の2%だとしても、実数にすれば250万程度の規模にはなる。例えば、ドコモの年度別データを見ると、23年度で3G(FOMA)の契約者数は依然として700万以上残っている。370万あるモジュールを除いても、その数は330万にのぼる。そのすべてがフィーチャーフォンというわけではないものの、こうした端末を使い続けているユーザーは確かに存在する。

調査会社MM総研が2月に発表した国内携帯電話端末の出荷台数調査では、'23年に172.7万台のフィーチャーフォンを出荷していることが分かる。出荷台数自体は全体に引きずられる形で減少しているが、スマホとの割合は変わっていない。縮小傾向にある一方で、底堅い需要があると言えるだろう。

MM総研によると、23年のフィーチャーフォン出荷台数は172.7万台。規模は小さいが、スマホとの比率は22年から変わらず、底堅い需要があることが分かる

また、KDDIとソフトバンクは3Gの停波が終了した一方で、ドコモは'26年3月まで、サービスを継続している。先に挙げたように、現状、モジュールを除いても300万以上のユーザーが残っており、今後、徐々に機種変更のニーズが顕在化する可能性がある。

一方で、キャリア各社が最新のフィーチャーフォンをそろえているかというと、必ずしもそうではない。ドコモの現行モデルは京セラ製の「DIGNOケータイ KY-42C」と、FCNT製の「arrowsケータイ ベーシック F-41C」の2機種。DIGNOは'23年3月、arrowsは'22年5月に発売されたが、以降後継機が登場していない。KDDIも、'21年12月に発売された「G'zOne TYPE-XX」を最後に、一般向けのフィーチャーフォンを発売していない。ソフトバンクは、'22年10月の「AQUOSケータイ4」が最後の端末だ。

音声通話やメッセージが使い方の中心になるため、スマホのように毎年、新モデルが必要になるわけではないものの、需要の大きさほど端末が供給されていなかったと言えるだろう。大手3キャリアはまだ端末を扱っているだけいいが、MVNOに関しては、基本的にスマホが中心。通話料を抑えた料金プランを投入している事業者もあったが、それに対応したスマホ以外の端末は入手がしづらくなっていた。

フィーチャーフォンのラインナップは、各キャリアとも2機種程度。ドコモも、24年は新機種を発売していない

日本メーカー再編と米国の「アホ携帯」

日本では、京セラが個人向け携帯電話端末から'25年3月に撤退。FCNTも'23年に経営破綻し、レノボ傘下で事業を再開している。フィーチャーフォンを開発してきたメーカーは、シャープを除き、軒並み苦しい状況に置かれている。今からKaiOSを採用したフィーチャーフォンを新規で開発するだけの体力があるかというと、そこには疑問符もつく。

需要が残っている一方で供給するメーカーが減りつつあるため、新規参入の余地が広がっていたと言えるだろう。

Orbicが主戦場とする米国では、フィーチャーフォンのニーズが根強く、同社の端末はVerizonなどで取り扱われている。MWCで取材にこたえたJapan Orbicのビジネス・ディベロップメント・マネージャー、島田日登美氏によると、JOURNEY Pro 4Gのような製品は「アメリカでdump phone(アホ携帯)と呼ばれ、今も使っている人がいる。折りたたみケータイもずっと売れていた」という。

Orbicは米国でもフィーチャーフォンを提供しており、大手キャリアのVerizonを通じて端末が販売されている
Orbic JOURNEY Pro 4G

デジタルデトックスの一環としてスマホをやめ、あえてフィーチャーフォンを持つようなトレンドもある。当初はエントリーレベルのスマホやタブレットで日本市場に参入したOrbicだが、むしろ、そちらは中国メーカーなどの競合が多い。フィーチャーフォンこそ、同社が本領を発揮できる分野と言えそうだ。今後の動向にも注目しておきたい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya