石野純也のモバイル通信SE
第14回
楽天モバイル、プラチナバンド獲得に前進 問われる成長力
2022年11月9日 08:20
11月8日、総務省はプラチナバンドの再割り当てに向けた議論の「報告書(案)」を公表した。これを受け、楽天モバイルが電波のつながりやすいプラチナバンドの獲得を目指す公算が高まった。10月1日に改正された電波法で、すでに利用者のいる周波数帯に競願申請をかけることが可能になったためだ。
再割り当てをするかどうかは、最終的には総務省の電波監理審議会(電監審)が判断する形だが、後発事業者は他社を上回る開設計画を出しやすく、有利になると言われている。
総務省での議論は、その移行期間や費用負担のあり方をめぐり、既存3社と楽天モバイルの意見が平行線をたどってきた。ここでは、改めて各社の主張や争点を振り返りつつ、今後の展開を予測していきたい。
楽天モバイルの主張、他キャリアの主張
楽天モバイルの主張は、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社から5MHzずつ譲ってもらい、1年以内にサービスを開始するというもの。3社に対し、均等に周波数を求めているのは、「特定の1社のユーザーの迷惑(プラチナバンドが使えなくなる)になるのは道理的にどうか」(代表取締役社長 矢澤俊介氏)と思ったからだという。
確かに、5MHzを失うだけなら、通信速度が低下するおそれはあるものの、「既存のユーザーも今まで通りに使える」。その方が、「ほかのキャリアにとってフェア」だというのが楽天モバイルの考えだ。
一方で、既存のキャリアから見ると、楽天モバイルの電波が同じ周波数帯に割り込んでくる形になる。ここで起こる電波干渉の対策として、基地局にフィルターの挿入が必要になるというが、3社の主張だ。また、基地局の電波を増幅するためのレピーターも、交換が必要になってくるという。この工事に時間やお金がかかるため、3社は最長10年の期間が必要だと主張。コストも、後から割り込む側が負担すべきとして、議論は平行線をたどっていた。
対する楽天モバイルは、最長10年という期間に対する妥協案として、エリアを分け、徐々にサービスを開始していく方式を提案。工事が終わった場所から、徐々にプラチナバンドを使っていき、10年かけて全国に広げていくというのが同社のアイディアだ。1年以内にサービスを開始したい楽天モバイルと、最長10年かかるという大手3キャリアの主張の間を取った案と言えるだろう。
期間には歩み寄りを見せた楽天モバイルだが、依然として真っ向から意見が対立しているのが、コスト負担だ。例えば、ドコモはレピーターの交換に150億円、フィルターの交換に500億円、5MHz幅ぶんが減ることでの容量対策に500億円かかると試算。その合計額は1,150億円にものぼる。KDDIは計1,062億円、ソフトバンクは計750億円で、3社の合計額は約3,000億円に迫る。3社ともレピーターの交換やフィルターを挿入する費用は、楽天モバイルが負担すべきとしている。
これまでにも、周波数の移行を円滑に行なうため、移行費用を後発の事業者が負担する制度は活用されてきた。「終了促進措置」がそれだ。
プラチナバンドでは、3社(当時は4社)の700MHz帯や、KDDIの800MHz帯の再編、ソフトバンクの900MHz帯などにこの仕組みが活用されている。早く明け渡してほしいなら、その費用は後から利用する側が負担すべしというのが終了促進措置の趣旨だ。
3社とも、楽天モバイルへのプラチナバンド再割り当ては、これに該当すると見ている。
一方の楽天モバイルは、そもそもとして、フィルターの挿入は不要と主張。「多少の効果はあるが、(改善効果のある)-40dBmが出現する確率は極めてまれ。あくまで自社品質を考えたうえで必要と言うのであれば文句を言う筋合いはないが、終了促進措置にはあたらない(ため、コストを出す必要はない)」との考えを打ち出している。そもそも、周波数の再割り当ては「使用期限が切れたあとにやるもので、コスト負担の必要は法的に見てもない」という。
他キャリアの反応と対応
費用負担のあり方をめぐって平行線をたどってきた格好だが、こうした発言を他社はどう見ていたのか。KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏は「(そもそもが)周波数を有効利用するための再割り当てなので、すでに有効利用中の周波数を再割り当てする場合には慎重な議論が必要になる」と前置きしつつ、次のように語る。
「楽天さんはかなり強気で『フィルターはいらない』『前倒し費用は負担しない』とおっしゃっているが、ちょっと言いすぎなところがある。1年以内の利用開始はさすがに不可能。我々もドコモもソフトバンクも使っている周波数で、その辺は総務省も有識者の方も理解している」
その上で、高橋氏は再割り当てにあたっては、財務基盤も重要視すべきとくぎを刺す。
「開設利用料など、投資もかかるし大変だと思う。彼らの事業基盤や経営基盤の状況もあると思うので、その辺も考慮しながら総務省がご判断されるのではいか」
ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏は、自身の経験を重ね合わせながら楽天モバイルの「気持ちは非常に理解できる」と理解を示しつつも、「キャリア同士、事業をするもの同士、確認し合わなければいけないポイントがたくさんある」と牽制する。
「我々の使っている周波数を渡してとなると、今使っているお客様をどうするか(がある)。900MHzは15MHz幅だが、それが2/3に減ることで使えていたお客様が使えなくなる環境が想像される。仮にお渡しするとしても、相当な準備が必要で、明日すぐにお渡しすることはできない(中略)。我々にも色々な事情があることをご理解いただける会話ができたらいいと思っている」
原則「5年」で移行。楽天モバイル寄りで決着(しそう)
8日に発表された報告書案は、プラチナバンドを守りたい既存キャリアと、攻める楽天モバイル、双方の言い分をくんだものになった。ただし、その中身はどちらかと言えば、楽天モバイル寄りだ。
まず、期間に関しては、原則を「5年」に定めた。これは、割り当てられた電波の有効期限が5年と定められており、再割り当ての保証がないための措置だ。また、フィルター挿入やレピーター交換の必要性は認められた一方で、移行に伴う費用は、5年という期間を前倒ししなければ、終了促進措置を適用する必要はなくなった。5年後に全国区に広げるタイムスパンであれば、フィルター挿入やレピーター交換の費用を支払う必要なく、楽天モバイルがプラチナバンドを使えるようになるということだ。
先に挙げたとおり、楽天モバイルは期間的な歩み寄りをしていたため、それを加味すれば、ほとんどの主張が取り入れられたと言ってもいいだろう。
報告書はあくまで「案」で、修正が入る可能性もあるが、これで大枠はほぼ決まった。あとは、楽天モバイルが競願申請を出し、開設計画で他社を上回る必要がある。ただし、この審査も矢澤氏は、「後発なので(競願になった場合)圧倒的に有利になる」と語る。
「4社体制で事業者間の公正な競争をすることで、(ユーザーへの)利益還元になる。その観点は総務省も持っていると思う。明らかに楽天にアンフェアな配転項目は出ない。後出しじゃんけんで(開設計画を)出せるので、状況的に有利になる」
楽天モバイルがプラチナバンドを獲得する確度は、かなり高まったと見ていいだろう。もっとも、報告書案には、競願を申し出る際には、割り当て済みの周波数や契約者数、トラフィックを勘案し、必要十分な帯域幅とすることとの記載もある。
1GB以下0円を廃止したUN-LIMIT VIIの導入によりユーザー数が減少している楽天モバイルが、本当に15MHz幅もの帯域を獲得する必要があるのかは吟味が必要になりそうだ。制度の詳細がほぼ固まりつつあるなか、楽天モバイルの次の一手に注目が集まる。