キャッシュレス百景

第17回

松屋を攻略せよ。会社を辞めて変わったキャッシュレス生活 by 太田 亮三

「PASMO電子マネー」から「d払い」へ

筆者は長くPASMOの定期券を使っていたため、昔から電子マネーといえばPASMOの電子マネーを利用していた。またオートチャージも設定していたので、2,000~3,000円が常にチャージされており、食事やコンビニで重宝していた。しかしながら、キャッシュレス生活はこのICカードのPASMO定期券に縛られていたと言うこともでき、スマートフォンでの電子マネー利用に移行できないでいた。

会社を退職し、通勤のために電車に乗らなくなると、PASMOの利用機会は激減。駅の改札を通らないためオートチャージもされず、PASMOのICカードの電子マネーは、自分の中では普通のチャージ式プリペイドカードぐらいの存在になってしまった。

そうした中、スマホで使えるキャッシュレスとして使い始めたのが、NTTドコモの「d払い」だ。筆者はMVNOでドコモ回線を利用しているが、NTTドコモと契約した回線を持っているわけではない。また、持っているスマートフォンが日本のおサイフケータイに対応していないため、画面にQRコードやバーコードを表示させるコード決済を中心に利用している。

なぜ「d払い」なのかというと、還元率やキャンペーンとかの研ぎ澄ました理由ではなく、筆者がずっとアニメ配信サービスの「dアニメストア」を利用しており、dポイントの利用者だったからだ。

dアニメだけの利用ではdポイントの貯まる速度はしれているが、マクドナルドが全国でポイントカードとしてdポイントを採用した(2017年)ことから、マクドナルドの店頭でアプリ版のdポイントカードを提示する機会が増え、dポイントを貯めたり使ったりする事が増えていた。こうしたdポイントを利用する下地が整っていたことから、dポイント経済圏の「d払い」を選んだというわけだ。

もちろん、近年のキャッシュレス推進施策により、支払い環境が大きく変わった点も大きい。ただ、筆者としては、週末だけ訪れる店舗や観光地がキャッシュレスに対応しても、あまり身近なこととして感じられなかった。やはりコンビニやスーパー、ファーストフード店、それも自分が頻繁に利用する範囲で環境が整わないと、自分ごととしてのモチベーションは湧きにくい。

松屋を攻略せよ

ところで、日々の買い物や食事時の動線を考え、「あ~この店がキャッシュレスに対応すれば、あとは完璧なのに」と思うことはないだろうか? 一店だけ現金の店が混じっていると、そのために現金の入った財布を持ち出さなければいけないし、お金が入っていなければATMで下ろさなければいけない。

筆者の日々の動線の中で、長らく現金のみだったのは、牛丼チェーンの「松屋」だった。同チェーンではかなり前から画面付きの券売機が導入されているが、この機械が現金のみの対応で、SuicaやPASMOなどの電子マネー、QRコード決済へ対応したのは比較的最近だ。また運が悪いことに、筆者が最も頻繁に利用する店舗は、他の松屋の店舗と比べても券売機の刷新が遅かったため、店舗の利用自体が疎遠になってしまったこともあった。

しかし最近ではスマートフォンで「松券セレクト」のサービスも併用、自宅で牛丼などのメニューを決めてQRコードを発行し(割引クーポンもQRコードで発行できる)、店舗を訪れて券売機にQRコードをかざし即座に注文、券売機の画面が切り替わっている間にスマホをd払いに切り替え、またすぐにかざすという、QRコードづくしの利用になっている。

「松券セレクト」は店舗外でゆっくりメニューを選べるし、注文しなくても新メニューのチェックに便利。サイドメニューをじっくり眺めれば「コレって単品で注文できるんだ」という新たな発見もある。テイクアウト用のQRコードも発行できる。

こうしたサービスやQRコードを駆使すれば、当然ながら券売機に並ぶ後ろの人を待たせないですむ。d払いを使った際の処理速度も早く、交通系電子マネーと比べて特段待たされるということもない。昨今の「密」を避ける観点でも有用だろう。

自分と周囲の環境の組み合わせで最適なサービスを

今では、筆者が近所で頻繁に利用する店として、大手コンビニ、松屋、松のや、サミット(スーパー)でd払いを利用している。一方で、筆者宅の近所に限っていえば、QRコード決済を利用できる店舗より、交通系電子マネーを利用できる店舗のほうが多い。例えば「ぎょうざの満洲」(中華・定食)、「まいばすけっと」(スーパー)は、クレジットカードと交通系電子マネーに対応しているが、QRコード決済には対応していない。そしてどちらも結構、利用する。

このようにすべてをQRコード決済でまかなうことは難しいため、キャッシュレスを徹底するなら、クレジットカードなども併用する形になる。ただ、dポイントでの還元といった独自の施策を考えると、なるべくd払いにまとめたいところだ。

店舗など、キャッシュレスの環境は大きく整いつつある一方で、筆者が「dアニメ」からスタートしているように、決済サービスを選ぶ上で、ユーザーそれぞれのお気に入りや重視するポイントは異なるだろう。QRコード決済もさまざまな種類が定着している。大型の還元キャンペーンもいいが、迷っているなら、「自分にとって身近なサービス」を起点に考えてみるのもいいのではないだろうか。

太田 亮三