キャッシュレス百景
第19回
激変のキャッシュレス生活。次の戦場は「入金」? by 石川温
2019年6月28日 08:15
激変のキャッシュレス。「送金」という価値に気づく
仕事柄、かなり前から「キャッシュレス生活」をしていたように思うが、この1年で環境は激変したように思う。
1年前までは、Suicaが使える場所ではApple PayでSuicaを使いつつ、クリーニング店などクレカが使えるところでは、au WALLET プリペイドカードを多用。家電量販店など決済額が大きいところでは、ANA系クレジットカードで支払うことでANAマイレージを貯めていた。
それが、昨今のQRコード決済キャンペーン祭で状況が一変する。
とにかくいまは、その時、「キャンペーンを実施している決済サービスを集中的に使う」という考えに変わってしまった。
現在、よく使っているのが、PayPay、LINE Pay、Origami、d払い、au Pay、メルペイといったあたりだ。
今年のゴールデンウィークは10連休だったが、各決済事業者が大盤振る舞いのキャンペーンを展開していたこともあり、「QRコード決済しなくては」と決済に追われた連休だったように思う。あまり、決済しまくったので、連休明けはキャンペーンが終わってしまった「虚無感」にさいなまれてしまったほどだ。
QRコード決済アプリが普及したことで「便利だな」と感じているのが、知り合いとのお金のやりとりだ。
ライター仲間で飲みにいった時には代表者がお店にQRコードで支払いつつ、割り勘をPayPayやLINE Payで支払うということにしている。
さらに「便利だ」と感じたのが海外出張中だ。
先日、アメリカ・サンノゼ出張があった際には、ライター仲間で、現地でお世話になっている方のホームパーティにお呼ばれしたことがあった。
その際、シェアライドのLyftに乗って行ったのだが、乗車代は自分がすべて建て替えつつ、割り勘にして、ほかの人からはPayPayで日本円で代金を送ってもらったりもした。また、ホームパーティの割り勘も、自分が手元にドル紙幣がほとんどなかったため、別の人に払ってもらいつつ、その人にはPayPayで日本円を送るということをしたのだった。
確かに、お金の価値をアプリを経由して手数料なく送れるというのはかなり便利だと実感した。「あとで現金で返す」だと、「忘れないようにしないと」と心配になってくるが、スマホが手元にあれば、その場でお金のやりとりを完結できる。
こうした利便性は、これまで「じぶん銀行」だけが提供していた。相手の電話番号がわかれば、その場で振り込めるのはかなり便利だったのだが、ただ「じぶん銀行を使っている人が限られる」というのが最大の弱点であった。
その点、PayPayやLINE Payは使っている人が多いだけに、今後も継続的に利用するがありそうだ。
結局Suica回帰……。最終的には「入金」が戦場?
この数カ月、キャンペーンに踊らされ、QRコード決済を使っているが、やはりFelicaのかざすだけで決済が完了する使い勝手には敵わないと思っている。キャンペーンが終われば、送金以外の店舗での支払いはすんなりとSuicaがメインな生活に戻ってしまうことだろう。
そう考えると、JR東日本には、もっとSuicaが広まるような環境づくりを整備する必要があるだろうし、提携した楽天にも頑張ってもらいたいところだ。
今後の日本におけるキャッシュレスの普及を考えた時に、やはり「キャンペーン頼み」では、早晩、限界が来るだろう。中国・上海でキャッシュレスユーザーに取材したことがあるが、単に「決済」としてだけ使っているのではなく、もはやAlipayやWeChatPayが生活に根ざしているのがよくわかった。
ゲームアプリでは、友達と賭けができるのだが、それもWeChatPayでの価値がやりとりされている。それを使って、店頭での支払いだけでなく、飛行機のチケットやオンラインショッピングも決済しているのだ。
日本では、ここ最近、キャッシュレスアプリが花盛りだが、それらのサービスが生き残っていくには、当然のことながら「使える場所」が多いかが重要だろう。
さらにもう一つ、サービス提供事業者が生き残るためには「勝手にお金が貯まっている」という仕組みが備わっているかが鍵になるだろう。
やはり、いちいち残高を気にしながら、チャージするというのは面倒くさい。そうした煩わしさから解放されるのは「売上がある」「友達から送金されてくる」とか「ポイントが残高に変わる」というものが必要だ。その点、送金機能が充実しているサービスや、メルペイのようにメルカリの売上金を使えるもの、さらには、支払った通信料金で毎月、ポイントが付与されるキャリア系サービスは強いだろう。
さらに、最終的には「毎月、給料やギャラが振り込まれる」という仕組みがないことには、継続的に使ってはもらえないのではないか。
法改正でもそうした準備が進んでいるようだが、将来的に給料やギャラ、税金の還付金が、キャッシュレス決済のプラットフォームに振り込まれるようになることで、ようやく継続的に使われる決済サービスになるような気がしてならない。
決済サービスが生き残るには入金サービスの拡充が不可欠なのではないか。