ミニレビュー

ミズノの最新ドライビングシューズを試す 本革の質感と履き心地を両立

私事で大変恐縮ですが、筆者は30歳を過ぎてからクルマがある生活を始めました。もともと家にクルマがなかったので「クルマがあれば行動範囲が広がるよ!」と言われてもピンと来ず。しかし5年ほど前に知人から「脱ペーパードライバーしようよ(面白そうだから)」と誘われ、同乗してもらいレンタカーを運転してみることに。時期を同じくして自動車ジャーナリストのYouTubeで“ドライブライブ”なども見るようになり、運転熱が高まって2020年春からクルマ生活を始めました。

といっても何をすればいいのかわからないので、首都高をいろんなルートで走ったり、ハードオフやワークマンを巡ってみたり(筆者は自転車にも乗れない)、スーパー銭湯へ行く楽しみを覚えたり。そうこうしているうちに運転を楽しむ方面で欲が出てきて、2年半ぐらい経ったところでマニュアル車に手を出しました。

“クルマ”な気分を上げたくて買った

その時に買ったのがミズノの「ベアクラッチ」というドライビングシューズでして、マニュアル車に乗るという“やってる感”を味わいたくて買った部分も大きいです。いまさら器用に運転できるほど上達するとも思えませんから、せめて道具を使って万難排したいわけです。その後、ベアクラッチを気に入っているという話を本誌記事に書いたことがありました。

これをキッカケに本誌編集部から「新しく出たベアクラッチLが借りられますが、試してみますか?」とメールが届き、二つ返事で飛びついたのが今回のいきさつです。家に届いたサンプルは鮮やかな「レッド」でした。

ベアクラッチL(レッド)。このほかにドレスネイビーとブラックもあります
せっかくのレッドが目立たないクルマで申し訳ございません

この「ベアクラッチL」は、先に発売された「ベアクラッチ」のアッパー部分に本革を採用したラグジュアリーモデル。デザインも一新され、従来よりもさらに革靴っぽい質感になっています。価格はベアクラッチLが19,800円、従来のベアクラッチが17,380円(ともに直販サイト価格)と思ったより差が小さいので、お買い得感があるとも言えそうです。

つま先部分がグラデーションぽくなっています。凝ってます
レッドにシルバーのライン。イタリーのスーパーカーかと思いました
ミズノロゴのエンボス。カカト部分の形状が魅力です(後述します)
ベアクラッチL(左)と、従来モデルのベアクラッチ(右)。右は筆者が2年ほど履いている私物
ベアクラッチはスポーツシューズと革靴のハイブリッドという印象ですが、ベアクラッチLはより“革靴”然としています

そもそもドライビングシューズとは?

クルマ用の靴というと、モータースポーツ用のレーシングシューズが有名です。これは薄いソールでペダルの感覚を伝えることにフォーカスしていますが、ソールが薄いだけに耐久性やクッション性の面から街歩きには適さないようです。

対するドライビングシューズは日常性がポイント。クルマを降りて街を歩いたり、服装に馴染むファッション性も大事にされている点で、スポーツ用シューズとは別ジャンルと言えます。

その中でベアクラッチの最大の個性は、MIZUNO COB(COBとはCenter of Balanceの略だそうです)というソールを採用していることでしょう。もともとミズノのトレーニング用シューズに採用されていたらしく、ソールに多少の厚さ(耐久性とクッション性)を持たせつつ、その形状の工夫により足裏の情報を解像度高く伝えます。運転中に足がペダルにどう接しているのか感じ取りやすいため、運転歴の浅い人間としては普通のスニーカーを履くより心強さがあります。

ソールのMIZUNO COB。歩行時のクッション性と素足的な情報量を両立しています

本革になって、柔らかさはどうか?

アッパーが人工皮革から天然皮革になったということで、履き心地の違いが気になっていました。見た目もしっかりしていて、以前より履き心地が硬いのではないか? 足に馴染みにくいのではないか? といった先入観です。しかし実際に履いて運転してみると、10分もしないうちに新しい靴であることは忘れていました。

運転席の足下。スリムな靴なので、ペダルレイアウトのキビシイ車種にも合いそうです

素材の違いから、多少なりとも履き心地が硬くなっているとは思うのですが、筆者にその違いは感じ取れませんでした。クルマを降りるときに鮮烈な赤い靴が目に入り、「そうだ、新しいやつだった」と思い出すぐらいの違和感の少なさだったとご報告します。ペダルを踏んだり戻したりするときの足先を反るような動きや、歩行時の柔らかさにも影響ナシです。スポーツ用品メーカーの底力を再確認しました。

柔らかく曲がります

唯一違いを感じるといえば、履き口の柔らかさでしょうか。全体が革なので、靴べらを使わずにカカトをねじ込もうとするのは気が引けます。せっかくオトナな雰囲気になったことですし、落ち着いて履き口をしっかり広げて履きましょう。

紐の素材と通し方、シュータンのデザインも変わりました

美点:カカトが丸くて疲れない

筆者の一番のお気に入りポイントは、カカトの部分が丸く、ソールが後ろまで巻き上がっているところ。いわゆるドライビングシューズらしい構造です。カカト部分が直角なスニーカーだと床との接地面積が小さいですが、ここが丸められているとカカトを転がしやすく、ペダルの踏み替えを繰り返しても疲れにくいです。

カカトが支点になるような運転ポジションだと、疲れにくさを実感しやすいでしょう

これはベアクラッチを履いて快適に感じるというより、たまに普通のスニーカーを履いて長時間運転したときに、「アレ? なんか疲れるかも」という感じで気付きました。

普段履いているスニーカーよりソールが薄めなのも、ハンドルが遠くならず好都合です

納得のクオリティ。さらなるモデル展開にも期待

「従来のベアクラッチと遜色ない履き心地」。これが、ベアクラッチLへの賛辞です。本革採用と聞いて想像していたネガな部分……硬くて足の動きの自由度が下がるとか、革靴みたいに擦れて痛いようなことは一切ありませんでした。ベアクラッチとベアクラッチLは、完全に見た目の好みで選んでOKと言えます。

筆者がベアクラッチを愛用している理由として、「ドライブとカメラ趣味の両立」があります。目的地までマニュアル車の運転を楽しんで、現地に着いたらカメラを手に被写体を探して歩き回る。帰りはまた、渋滞でもなるべく疲れずに運転する。そういう意味でピッタリな靴なのです。メーカーがミズノというのも、日頃から「ブレスサーモ」のあったかインナーに大変お世話になっているので、その技術力に対して信頼感がありました。

価格も納得感があります。ハイテクスニーカーは2万円~3万円が当たり前、ドライビングシューズもファッショナブルなものは3万円を超えるものがほとんどという印象ですから、2万円弱で高機能というのは意外に穴場でした。ベアクラッチLには鮮やかな「レッド」だけでなく「ドレスネイビー」と「ブラック」もあるので、革靴でクルマを運転する仕事の方にも良い選択肢だと思います。ミズノのWebサイトではライフスタイルシューズにカテゴライズされていますが、この作り込みには“プロの道具”という意識もきっとあると思うのです。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」