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JAXAとNEC、衛星間光通信で超大容量データ伝送に成功 世界初
2025年1月24日 08:00
JAXAとNECは、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)と約40,000km離れた静止軌道の「光データ中継衛星」に搭載する光衛星間通信システム(LUCAS:ルーカス)を利用した世界最速の光通信(通信光波長1.5μm帯、通信速度1.8Gbps)に成功。静止衛星経由で観測データを地上局へ初伝送した。
NECが開発したLUCASを搭載した光データ中継衛星は、20年にH-IIAロケットで打上げられた静止軌道衛星。H3ロケットにより24年7月に打上げられた先進レーダ衛星「だいち4号」に、はじめて地球観測衛星用の光ターミナル(OLLCT)を搭載したことで、静止衛星用の光ターミナル(OGLCT)を搭載した光データ中継衛星との通信が可能になったことから実現したもの。
従来、観測衛星が地上に直接データを送信する場合、常に地球を周回する観測衛星から地上にデータを送信できるのは、受信施設のある場所の上空を衛星が通過する限られた時間だけになる。このため、近年大容量化する観測データの送信には衛星からの直接通信での伝送は難しくなっていた。
光データ中継衛星は、日本の上空に静止衛星として配備されており、いつでも地上にデータを伝送できる。このため、光データ中継衛星に観測衛星等からデータを伝送できれば、より広範囲からのデータを地上へ高速伝送可能になる。光データ中継衛星から地上へのデータ伝送は電波で行なわれている。
今回、光データ中継衛星と通信を行なった「だいち4号」は、通信光波長1.5μm帯、通信速度1.8Gbpsでの通信に成功しているが、だいち4号から光データ中継衛星が見える位置であれば通信が可能なため、限られた時間しか通信が行なえない衛星と地上との直接通信に比べて、より高速な通信環境を提供可能になる。
たとえば、地上1局とLEO(低軌道)衛星の直接通信では、衛星が1回通過するごとの可視時間(通信時間)は最大10分程度、1日合計で1時間程度となる。これが、光データ中継衛星にLEO(低軌道)衛星がデータを伝送するケースでは、可視時間は最大40分、1日合計で9時間となり、より長い通信時間を確保できる。
光通信には電波による通信とくらべ、大容量通信が可能な他にもメリットがある。例えば、電波と比べて指向性が高く通信波が広がらないことから、他の通信システムへの干渉が少ないほか、通信を傍受したり妨害することも難しく、秘匿性が高い。電波による通信では、およそ直径60kmの範囲で傍受が可能になるが、光ビームではこれが560m程度まで小さくなる。
ただし、拡散しないということは、衛星同士のより正確な位置を把握して通信を確立する必要があり、広大な宇宙空間で通信を行なう衛星同士では技術的なハードルとなる。NECが開発した光衛星間通信システム(LUCAS)では、衛星同士の位置を特定するため、さまざまな方式で補足・追尾を行なうことで、より素早く正確な通信を可能にしている。NECでは、「高速道路を時速90kmの自動車で移動しながら、東京から富士山頂にある直径1.3mのターゲットを照らし続ける技術」としている。
だいち4号は、1月10日に10m分解能/200km幅での撮影を30分実施。撮影を行ないながら光データ中継衛星に逐次データ伝送を行ない、ほぼ地球全周の約1/3となる13,000kmの大容量データを即時伝送した。公開されたデータでは、北極海の海水やハンガリーの首都ブダペスト、ナイジェリアの自然保護区を10m分解能の高解像度で撮影したことを確認できる。
従来この規模のデータを地上に伝送するには、数周回に分割する必要があり、100分以上の遅延が発生するが、LUCASを活用することで即時的なデータ伝送を可能にした。また、LUCASから衛星に緊急コマンドを送ることも可能で、災害時等の迅速な状況把握を可能にすることが期待されている。
今後は、だいち4号の本格的なデータ伝送サービス開始にむけ、LUCASの技術実証を継続するほか、国際宇宙ステーション「きぼう」との光通信、光地上局の開発、航空機とのデータ中継実験なども行なう予定。