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地域防災ローソンから「ドローン出動」 警察連携の社会インフラ目指すKDDI

ローソンをドローン拠点として、警察活動に活用する実証実験が行なわれた(写真左から)石川県庁デジタル推進監・成瀬英之氏、石川県警察本部長・大嶌正洋氏、KDDI松田浩路常務、ローソン理事執行役員 中部カンパニープレジデント・片岡淳司氏

KDDIは23日、石川県においてドローンを警察活動に活用する取り組みとして、遠隔ドローンを使った実証実験を行なった。行方不明者の捜索と交通事故の初動対応という2つの状況を想定してドローンの有効性を確認。県とKDDIでは今後も連携した取り組みを継続していく考えだ。

災害だけでなく平常時もドローンを活用

KDDIは2024年10月、石川県と「創造的復興の実現に向けた包括連携協定」を締結している。この協定では、日常と非常時を区別しないフェーズフリーの考え方で、デジタル技術を活用した連携や、衛星通信・ドローンなどを用いての防災DXの実現などに取り組んでいく。

石川県とKDDIは包括連携協定を締結しており、これにともなった取り組みが今回の実験

このフェーズフリーの考え方は、平常時と非常時を区別せず、日常的に使うシステムが非常時にも活躍するというもの。ドローンで言えば、日常では防犯や警備、地域の見守り、インフラ点検などで活用しつつ、台風や地震、大雨洪水といった災害時にも人命捜索などで利用する。

フェーズフリーの考え方で、非常時だけでなく平常時もドローンを活用する

石川県では、能登半島地震や奥能登豪雨と災害が相次いでおり、そうした現場でドローンが活用されてきた。KDDI取締役執行役員常務 COOの松田浩路氏は、「あらゆる支援活動の中でドローンを使ってきた」と説明。橋の点検で活用したり、りんごの出荷支援でドローンを使ったり、石川県の総合防災訓練では捜索活動のデモも行ない、ドローンの有効性を実感しているという。

石川県におけるKDDIのドローン活用事例

ドローン活用で先行する米国では、インフラ設備の点検や災害対応だけでなく、警察による事件の初動対応にも活用され、ニューヨーク市警察では遠隔操作によるドローンのパトロール、オレンジ群保安局では高層ビル室内の犯人の様子を窓からリアルタイム撮影するといった活用がされているという。

米国での先行事例。特に警察の現場では「Drone as a first responder(ドローンは最初の対応者)」と言われ、まずはドローンで駆けつける例が出ているという

こうした先行事例も踏まえつつ、KDDIでは石川県での実証実験を行ない、全国へ展開していきたい考え。KDDIはローソンをドローン拠点とする構想を持っているが、今回の取り組みをドローン拠点の最初の事例としても位置づける。

まずは石川県で取り組み、それを全国に拡大していきたい考え

警察活動でドローン活用 「行方不明者捜索」と「交通事故」に

その最初の取り組みとなるのが石川県警察における実証実験。警察の活動の場合、事件や事故は非日常ではあるが、警察業務にとっては日常であり、そうした領域でのドローン活用の可能性を探った。

実証実験の内容

すでに石川県警では、能登半島地震などでドローンによる現場の状況確認などで活用しているが、今回の実証実験が「将来的な警察におけるドローンの活用、ユースケースの拡大にも繋がる」(石川県警察本部長・大嶌正洋氏)と見ており、「警察力の効率的な、高度な活用にも繋がりうるだろうと大きな期待を寄せている」という。

大嶌正洋・石川県警本部長

実証実験では、行方不明者の捜索と交通事故の初動対応という2つのシチュエーションを想定して行なわれた。これは県警側が日常的に取り扱う業務を提案したそうで、「将来的に警察活動としてありえる場面を想定。石川県警察としても高い関心を持っている」と大嶌氏。

実証実験の行方不明者の捜索では、「通報で行方不明者の目撃情報が得られたので、ドローンが急行して確認する」というシチュエーション。遠隔でドローンを操縦し、警察署の隣にあるローソンから離陸して約1km離れた現場に行き、人物を捜索して確認する、というデモが行なわれた。

まずは通報があり、それを受けて遠隔ドローンを起動する、という実験
実験では警察官の指示でドローン操縦士がコントロールしていた

ドローンは高度50~65mを時速50kmで飛行し、1kmの距離を2~3分で到着できた。到着したあとは、赤外線カメラも駆使して人の捜索を行ない、見つかったらズーム機能を使うなどしてその人物の特徴を捉えていた。

実験のために設置されたローソンの屋上のやぐらからドローンが飛び立ったところ
飛行しているところ。地図とカメラからのリアルタイム映像を見ながら操縦して現場に向かう

人が見つかったら、緯度経度情報などを確認して、実際の警察官が現場に向かうことができるというわけだ。

赤外線カメラも活用できる
「黒色のジャンパー、紺色の長ズボン、白いスニーカー」という情報に合致した人物を見つけることができた。Skydio X10のカメラは、「250m先の車のナンバープレートを読み取れる」という

交通事故の初動対応では、通報を受けてまずドローンが現場に急行する。実験では能登島大橋で事故が発生した想定だが、こうした事故では渋滞が発生してパトカーの現場到着が遅れる可能性がある。そのため、ドローンが空からアプローチしてまず状況を確認することが有効だと考えられた。

次の現場に向かうドローン。海を渡って橋の事故現場に向かう
まずは渋滞状況をチェックするために遠隔から橋を捉える

同様に時速50kmで約5kmの現場まで10分程度で到着。まずは橋上の渋滞状況を確認し、さらに事故現場では事故車の状況を遠隔で確認し、乗っている人がいるか、意識があるか、車の破損状況は、オイル漏れなどが発生していないかといった情報を得ることができていた。

事故現場の例
近くまで寄って車内の様子を探ることもできる

さらに、3Dモデルの作成も可能で、デジタルデータで事故現場を確認できるようになっていた。デモでは道路幅の距離を測定したり、事故状況を確認したり、現地に行く前に事故の情報が得られる様子が示された。

3Dモデル化した事故現場。道幅を測定するといったこともできる

ドローンポートをローソンに設置。課題は制度・マネタイズ

今回の取り組みは、KDDIが出資するSkydioの新型ドローン「Skydio X10」が登場したことで実現した。これはNVIDIAの最新チップを搭載したAIドローンという位置づけで、自律飛行や障害物の自動回避を可能にする6個のビジョンセンサーを搭載といった特徴に加え、モバイル通信に対応した。

大きな役割を果たすのがAIドローンSkydio X10

KDDIのLTE網を活用するため、遠隔から幅広いエリアに飛行できるようになる。さらに今回の実験では目視外飛行におけるレベル3.5飛行となっており、Skydio X10でのレベル3.5飛行は国内初の事例だという。

実験ということで事前に飛行許可を取っているというが、事件・事故における警察活動において毎回許可を取ることは難しい。国や自治体からの要請がある場合に、事故や災害における飛行申請が不要になるという航空法の特例があり、これが行方不明者の捜索や交通事故の初動対応も特例の対象になることを、KDDI側が国土交通省に確認したそうだ。

Skydio X10は周辺機器も用意されており、夜間の視認性を向上させるスポットライト、暗闇での自律飛行も可能にするナイトセンスを利用できる。2025年1月にはスピーカーとマイクを日本でも発売。さらに2025年には日米同時に専用ドローンポートも発売される予定。

様々なアクセサリを活用して機能拡張もできる

このドローンポートはIP55の防水性能やヒーターを備え、ドローンの自動離発着に加えて格納時の自動充電が可能。風速計や固定カメラの設置も可能で、遠隔から周囲の状況を確認しながら離陸させることができる。これを設置すれば、ローソンの屋上などに常時設置して、日常的に活用できるようになることから、KDDIではSkydio X10を全国のローソンなどに設置するためには重要なものと位置づける。

全国展開に向けて専用ドローンポートも発売する
これによって様々な取り組みができるとしている

KDDIの携帯網は全国をカバーしているが、基本的には人の住む場所を想定しているため、国土カバーという意味では穴がある。そのため、将来的にはStarlinkとの直接通信によって、衛星通信を活用する方針。

Starlinkとの直接通信も活用して、全国への展開を目指す

ただし、現状の課題については石川県警もKDDIも制度面を上げる。実証実験では、通信指令室からの入電に対して、警察官がドローンの操縦士に指示を出して捜索や初動対応を行なったが、実際の警察の活動において民間のドローン操縦士と協働できるのか、「整理しなければならない論点も出てくる」と大嶌氏。

さらに人命救助などで申請なしで飛行できる特例も、実際はあとから申請が必要になるとのことで、日常業務として警察が利用した場合、大量の申請が必要になるという懸念もあり、KDDIでは制度面での手当が必要との認識だ。

また、全国にドローン拠点を広げて平時も非常時も活用するためには、平常時のマネタイズも重要。非常時のみ活用するためにドローン拠点を自治体が維持するのは難しいので、インフラの点検など、「地域のマネタイズを模索しないと全国への展開は難しい」とKDDIの松田常務。

KDDIの松田常務

松田常務は「平時と災害時をうまく組み合わせた形で全国に展開していきたい」と話し、石川県との取り組みで得られた知見を元に、ドローン拠点の全国展開を進めていきたい考えだ。